Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/06/12
Update

蒼井優の日本アカデミー賞2018主演女優スピーチを考える|映画道シカミミ見聞録1

  • Writer :
  • 森田悠介

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第1回

はじめまして。このたび「映画道シカミミ見聞録」というコラムを担当することになりました、“映画随筆家”の森田悠介といいます。

このコラムでは、「映画を書く」というよりも「映画で書く」こと、つまり映画を用いて、それに関係する事物を考えたり、過去や未来をのぞいてみたりと、あちこち散歩するように、自由に連想したことを書き連ねていきたいと思っています。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

「映画を使えばなんでも語れる。」

これから書くものが“映画批評”ではなく“映画エッセイ”である所以。この言葉が自分自身を「映画随筆家」と名乗らせるにいたった理由です。

そしてこれもまた、本サイトが掲げる映画の魅力、「多様性のある価値観」のひとつとして加えていただけたら、なによりの幸いです。

以上をまとめると、こうなります。このコラムは「映画の大学の職員」の手で書かれるもので、どうやら映画“で”多様なネタを扱うらしい。

……ほんのすこしだけでも興味を持っていただけたでしょうか。

このコラムでは映画に関する日々の話題や情報を、比較的はやく、正確に、みなさんにお届けしていきます。

実際に映画“で”語ってみましょう。

日本アカデミー賞の授賞式での蒼井優さんのスピーチ


(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

みなさんは、今年の日本アカデミー賞の授賞式で話題となった、蒼井優さんのスピーチを覚えていますか。

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』は、蒼井優さんにはじめての「最優秀主演女優賞」をもたらしました。蒼井さんはブロンズ像を手に包み、涙ながらに語ります。

これから新学期がはじまりますけど、学校がつらい方、新しい生活どうしようと思っている方は、ぜひ映画館に来て。映画館って、良くないですか?私、本当に好きなんです。みんなで一緒に映画を盛り上げていけたらなと思います。

まさに映画とは、その善し悪しもさることながら、根底には「居場所」の役割があると感じます。

週末のデートを楽しむカップルだけでなく、行き場がないひと、悲しくて涙を流したいひと、ひとりの時間を持て余しているひとなど、多くの事情を抱えたすべての人間を受け入れてくれる場所です。

劇場の暗闇は、よく母胎のそれにも例えられますが、踏み入れる前までつきまとっていたどんな感情も、2時間ばかりは消し去ってくれる空間として、わたしも幾度となく救われてきました。

映画館での体験、映画のイメージは、ともすると物語性以前に、人間の感情を物理的にコントロールする力がどうやらあるようです。(演出とはまさしく感情を巧みに操る技術であるわけですが。)

先述のスピーチのごとく、わたしがいま一応はまっとうに生活し、映画の大学で仕事ができているのも、学生時代によく“逃避”した映画館のおかげだと、振り返ることができます。

思い出の名画座「早稲田松竹」


『カッコーの巣の上で』

隠す必要もないので名前をあげると、スバリ、早稲田松竹。

大学からほど近いこの名画座には、“新生活”に慣れなかったころも、単位がとれなくて苦しんだころも、つまりは4年間(留年したので5年間)通いつづけることになりました。

とくに胸に響いてきたのは、「主人公が戦いの末に敗れ去る」といった形式をもつ“アメリカン・ニューシネマ”の作品群で、『俺たちに明日はない』(1968)『真夜中のカーボーイ』(1973)『カッコーの巣の上で』(1973)と傑作はいろいろとありますが、とにかく自分のままならない青春と鬱屈した気持ちを重ねたかった。

そして彼らが死んで、劇場をでると、不思議なことに気分が軽くなっているんですね。それで、また小さなことですぐに辛くなるものだから、わたしの学生生活は映画館を出たり、入ったりの繰り返しでした。

だから、蒼井さんがいうことはよくわかるし、よく日本アカデミー賞授賞式という晴れの舞台で、影をともなうメッセージを全国に伝えてくれたなと、快哉を叫びました。

死にたい気持ちがあったら、それを映画館の闇に溶けこませ、代わりに映画に死んでもらう。そして自分だけ楽になって出てくればいいんじゃないかと。

もちろん映画(館)は万能薬ではありません。

でも、“こんな症状にはこの薬(作品)”と、そのひとにあう良薬を自分の経験から探しだし、薬局みたいに相談にゆける場所が、本サイトをふくめたレビューの意義のひとつだと思います。

つぎからは、できるかぎり新しい映画を紹介するつもりでいますが、映画“で”語れるものであれば、新旧問わずに引き合いに出すでしょう。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら

筆者HP「森田悠介 “シカミミ” の仕事部屋」http://shikamimi.com/about-me

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』を
U-NEXTで今すぐ無料で見る

関連記事

連載コラム

映画『デヴィッド・リンチ:アートライフ』感想と評価解説。アカデミー名誉賞監督の創造の源とは|だからドキュメンタリー映画は面白い20

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第20回 『イレイザーヘッド』、『ブルーベルベット』を生んだ鬼才の“脳内”を覗いてみよう――。 今回取り上げるのは、2018年公開の『デヴィッド・リンチ …

連載コラム

映画『i-新聞記者ドキュメント』感想とレビュー評価。森達也監督が望月衣塑子を多面的に見つめた眼差し|TIFF2019リポート33

第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ『i-新聞記者ドキュメント-』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火) …

連載コラム

【香取慎吾&白石和彌】『凪待ち』映画ロケ地リポ①。塩釜と石巻で出会った震災の傷痕と縁|凪待つ地をたずね1

連載コラム『凪待つ地をたずね』第1回 監督・白石和彌。俳優・香取慎吾。両雄が初のタッグを組んだ映画にして、震災後の宮城県石巻市を舞台に描かれる重厚なヒューマン・サスペンスドラマ。 それが、2019年6 …

連載コラム

映画『レプリカズ』のクローン技術をめぐる倫理観。類似SF作品の比較から紐解く|SF恐怖映画という名の観覧車48

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile048 1996年、クローン技術により哺乳類初の人工的なクローン羊「ドリー」が生み出されました。 その後もクローンの技術は発展を続け、現在の技術 …

連載コラム

坂本龍一×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし映画『戦場のメリークリスマス』考察。3者の越境で自由と平和を示す|映画道シカミミ見聞録9

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第9回 ©大島渚プロダクション こんにちは。森田です。 今年もまた「8月15日」を迎え、日本の敗戦をふり返り、戦争の理由や平和の意義を改めて探る時期となりました。 映 …

U-NEXT
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
凱里(かいり)ブルース|2020年6月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定!
映画『異端の鳥』TOHOシネマズ シャンテほか近日公開予定
映画『朝が来る』TOHOシネマズ 日比谷ほか近日公開予定
ドラマ『そして、ユリコは一人になった』
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
国内ドラマ情報サイトDRAMAP