連載コラム「インディーズ映画発見伝」第24回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第24回目では、河内彰監督の映画『光関係』『幸福の目』をご紹介いたします。
河内彰監督の『光関係』『幸福の目』は池袋シネマ・ロサで“次世代日本映画界を担う二人の映画作家”の“まだ、誰も観たことのない映画”特集上映として公開されました。
映画『光関係』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
河内彰
【主題歌】
「よく」いやいやえん(ハリエンタル)
【キャスト】
久野華妃、町田圭佑
【作品概要】
河内彰「Crashi Films(クラッシュアイ フィルムズ)」として映画の制作を行い、2017年に映画『光関係』がCHOFU SHORT FILM COMPETITION 19thにて真理子哲也、瀬々敬久らに選出されグランプリを受賞します。
2019年、池袋シネマ・ロサで“次世代日本映画界を担う二人の映画作家”の“まだ、誰も観たことのない映画”特集上映で『光関係』『幸福の目』が上映されました。
2020年製作の『フィア・オブ・ミッシング・アウト』がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)ほか各映画祭にて上映され、2021年に劇場公開されました。
映画『光関係』のあらすじ
自殺に失敗した少女・木村は電話を盗聴して退屈をしのいでいます。
一方、女性にモテない青年・武富は駅のトイレで自慰をしています。
同級生であった2人は、ある日再会します。何をしているのと聞かれた木村は電話の盗聴と言い、2人で街の灯りを頼りに電話の盗聴をし、誰かの生活の気配に触れていく。
映画『光関係』の感想と評価
映画『光関係』(2019)では、自殺に失敗した少女・木村と女性にモテない青年・武富の2人は何処か孤独、空虚さを感じさせるような登場人物です。
そのような2人が電話を盗聴することで誰かの生活の気配に触れていきます。
恋人たちのくすぐったい会話、部下と後輩らしき人の愚痴、詩の朗読…電話で聞こえる様々な生活の気配は他者の存在を寄せ付けないプライベートな空間です。
プライベートな空間から疎外された2人。盗聴と共に流れる映像はマンションの窓の光や公衆電話、高層ビルと生活を感じさせる誰かの気配と音に溢れています。
疎外された2人とって生活空間から疎外されていると感じていると共に窮屈であったのかもしれません。
屋上で音楽を聴きながら話す2人の間には生活も雑音もなく、2人の世界です。孤独な2人の出会い、そして夜明けと共に2人の気持ちにも変化が現れたような爽やかさを感じさせる短編です。
映画『幸福な目』の感想と評価
同じく河内彰監督の短編『幸福な目』(2019)では、人里離れた田舎で暮らす目が不自由だが、“未来を見ることができる”という瞳を持つ兄とその世話をする弟、そして兄弟の元にやってくる人々を描きます。
兄が見る世界を見ることができない弟。歪な兄弟のパワーバランスは、ある日相談にやってきた少女の存在により変化していきます。
本作で描かれているのは“人が信じるもの”です。そして信じることと未来を切り開くことは必ずしもイコールではありません。相談にきた少女は信じることではなく、自分の気持ちに従い未来を切り開こうとしました。
兄が見た世界とは……見ることができない世界に対する葛藤を抱えながらも弟も兄と離別することで自分の人生を生きていこうとするのです。
『光関係』、『幸福の目』共に、どこか世間とずれがあるような登場人物の心象と映像をリンクさせたような演出が印象的です。
また、どちらも前半は夜の風景であったり、暗い場面が多く、終盤になると明るい朝や日中の風景に変わり、登場人物らの心の変化を感じ取れるようにもなっています。
まとめ
自殺に失敗した少女・木村と女性にモテない青年・武富が電話を盗聴することで誰かの生活の気配に触れていく映画『光関係』、そして“未来を見ることができる”という瞳を持つ兄と弟を描いた映画『幸福の目』の2作を紹介しました。
電話の盗聴、未来が見える目など斬新な設定でありながら登場人物の心象を映像とシンクロさせ印象的に映し出します。
また、日常に対する窮屈さや、悩みを抱え“未来を見ることができる”と噂の兄の元に相談しにやってくる人々など、現代の人々が抱える生きづらさや孤独も描かれています。
夜から夜明け、日中へと場面を移り変えることで孤独や生きづらさを抱えた登場人物らの心情の変化を映し出し、鬱屈した日常からの脱却や、未来への希望が伺える映画になっています。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第25回もおすすめの自主映画をご紹介します。
次回もお楽しみに!