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Entry 2021/03/30
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映画『あの娘、早くババアになればいいのに』あらすじ感想と評価解説。中村朝佳がアイドルオタクの父に育てられた娘役を好演|インディーズ映画発見伝3

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第3回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第3回

コラム第3回目では、頃安祐良監督の映画『あの娘、早くババアになればいいのに』をご紹介いたします。

生粋の“アイドルオタク”の平田が血の繋がっていない娘に対し、愛情を注ぐとともに世界一のアイドルに育て上げていきます。

一方で娘も、平田の期待に応えようという気持ちから次第にアイドルになることを夢見て努力し始める……奇妙な父娘の関係を描いたコメディです。

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映画『あの娘、早くババアになればいいのに』の作品情報


(C)「あの娘、早くババアになればいいのに」製作委員会

【公開】
2014年(日本映画)

【監督】
頃安祐良

【脚本】
頃安祐良、寺嶋夏生

【キャスト】
中村朝佳、尾本貴史、結、切田亮介、尾崎愛、高橋卓郎、藤田健彦、信國輝彦

【作品概要】
監督を務めるのは自身もアイドルオタクであることを公言し、アイドルグループ乃木坂46やSKE48のMVや特典映像、ライブ映像などをも手がける頃安祐良。他の監督作に『「トウキョーの夜」の朝』(2015)、『ファーストアルバム』(2017)など。

アンナを演じるのは『キネマ純情』(2016)、『ゴーストスクワッド』(2018)の中村朝佳、平田を演じるのは『シャーリー・テンプル・ジャポン・パートII』(2005)の尾本貴史。

映画『あの娘、早くババアになればいいのに』のあらすじ

(C)「あの娘、早くババアになればいいのに」製作委員会

生粋のアイドルオタクである平田(尾本貴史)は、ひょんなことから高校の同級生の子供・アンナ(中村朝佳)を預かることになります。

血の繋がらないアンナに対し、父として愛情を注ぎつつアンナを理想のアイドルとして育てることに平田は全力を尽くします。そうして育てられたアンナはいつしかアイドルに目指し始めます。

17年後高校生になったアンナは日々平田のレッスンのもと、アイドルになるため親子二人三脚で努力をしています。

アイドルに早くならなくてはと焦るアンナはオーディションに応募したいと言いますが、平田は「まだ早い」と言って許可しません。

ある日、平田が営む書店のアルバイトに元女優だという小西(結)がやってきて、平和だった2人の関係が次第に崩れ始めていき……。

映画『あの娘、早くババアになればいいのに』感想と評価

(C)「あの娘、早くババアになればいいのに」製作委員会

冒頭、平田はアイドルオタクの友人が、アイドルを性の対象として見ていることに対し批判し、「アイドルは娘みたいなものだよ、一緒に成長を見守り、一緒に応援する」と言います。その直後同級生と再開した平田は、子供を預けられます。

その言葉の通り、平田は血の繋がっていない娘であるアンナをアイドルになるべく育てていきます。

毎日ダンスを踊るアンナをビデオカメラで撮影し、声援を送り続けます。しかし、アイドルのオーディションを受けたいというアンナに「まだ早い」と言って受けさせようとしません。

受けさせない理由が分からないアンナはオーディションを受けられないことに不満を感じています。

平田がアイドルのオーディションを受けさせない理由は、平田のアンナを独占したいというエゴイズムからです。

平田は自分の理想のアイドルに仕立て上げたアンナを自分のものだけのアイドルにしておきたいのです。

一方で父親としての愛情もあり、彼女の夢を応援したい気持ちもあるはずです。アイドルは年齢の若い十代が重宝される傾向にあります。17歳のアンナは年齢のこともあり、焦りを感じています。

平和な平田とアンナだけの世界にアンナの同級生である清水(切田亮介)が現れます。アンナに思いを寄せている清水に平田は敵意を剥き出しにします。

一方でアルバイトの面接に来た小西(結)にデレデレになり、彼女の前で格好つけようとします。小西の登場により、アンナは自身が抱いている平田への思いに気づき始めていきます。

平田は娘をアイドルをとして育て上げ、性的な目では見ていないと言ってはいるものの、清水の登場により、アンナの貞操の危機に対し、誰かに取られるなら自分が……という思いを止められません。

本作はまさにアイドルオタクの夢のようなシチュエーションであり、その痛々しさ、平田に対してアンナが抱く感情など理解し難い部分もあるかもしれません。

アイドル文化の礼賛や批判に偏ることなく、実情をコミカルに描くことで単なる“アイドル映画”、“アイドルオタク映画”ではない、近親相姦など現代の問題も内包した映画になっています。

自分にとって“アイドル”とは何なのかを、その歪さも矛盾も全てをありありと映し出した本作は、“アイドルオタク”の枠をこえ様々なものに置き換えて考えることができる問題かもしれません。

まとめ


(C)「あの娘、早くババアになればいいのに」製作委員会

映画『あの娘、早くババアになればいいのに』の演出を務めた頃安祐良監督。

“アイドルオタク”が娘を理想のアイドルに育てる映画『あの娘、早くババアになればいいのに』。

まさにアイドルオタクの夢のようなシチュエーションで描かれた本作は、アイドルオタクを公言している頃安祐良監督だからこそ描けた視点であり、“アイドル”に対する並々ならぬ思いを感じさせる映画になっています。

生粋のアイドルオタクである平田をリアルに演じた尾本貴史さんや、まさにアイドルのように愛らしいアンナを演じた中村朝佳さんの演技も必見です。

頃安祐良Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)studio so-lars.

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第4回は、森田博之監督が初めて長編映画に挑み、田辺・弁慶映画祭で評価を受けた『カラガラ』。

お楽しみに!

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