連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第134回
2013年から漫画雑誌『Eleganceイブ』で掲載された、安田弘之による漫画『ちひろさん』。
売れっ子風俗嬢の日常を描いた『ちひろ』の続編である本作は、元風俗嬢のちひろが独特な人生観で関わる人間の人生を少しだけ変えていく物語が人気となりました。
連載開始から10年後の2023年、漫画のサブスクが主流となり、再度人気が高まり始めた本作が「Netflix」によって実写映画化されました。
今回は有村架純が主演を務めた『ちひろさん』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『ちひろさん』の作品情報
【配信】
2023年2月23日(日本映画)
【監督】
今泉力哉
【脚本】
澤井香織、今泉力哉
【キャスト】
有村架純、豊嶋花、嶋田鉄太、van、若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子、鈴木慶一、根岸季衣、平田満、リリー・フランキー、風吹ジュン
【作品概要】
実写化もされ話題となった『ショムニ』などの著作で知られる安田弘之の同名漫画を映像化した作品。
『愛がなんだ』(2019)や『窓辺にて』(2022)を手がけた今泉力哉が監督を務め、『花束みたいな恋をした』(2021)の有村架純が主人公のちひろを演じました。
映画『ちひろさん』のあらすじとネタバレ
弁当屋の「のこのこ」で働く元風俗嬢のちひろは自分の過去を知られることを意に介さず、弁当屋の店員として常連客を持つほどに人気でした。
ある日、ちひろは子どもたちに虐められるホームレスの男に自分の弁当を与えただけでなく風呂を貸し、そのことで一言も発しないホームレスの男はちひろに心を開き始めます。
ちひろはホームレスの男から教わった廃墟の部屋でたびたび男と会っていましたが、男は突然姿を消し、変わりにその場所でホームレスの男を「師匠」と呼ぶ女子高生の千夏(べっちん)と知り合います。
べっちんは部屋にあった漫画「地球へ…」の大ファンであり、2人は漫画の話で盛り上がりました。
家に帰っても家族との会話がない女子高生の久仁子(オカジ)は、公園で子供のように遊ぶちひろを気に入り、無断で写真を撮っていましたが、そのことにはちひろも気づいていました。
ちひろのもとに風俗嬢時代の同僚バジルが現れ、ちひろが突然辞めたことで彼女を探す男がいることや、バジルが開店資金を同僚に奪われ信じられる人間が、ちひろしか居なくなったことを聞かされます。
翌日、公園にいたちひろは小学生のマコトに絡まれ、マコトは勢い余ってちひろの腕を刺してしまいましたが、ちひろはマコトに弁当を食べさせ、男に刺された自分の過去を話し、2人は仲を深めます。
オカジはちひろに接触し、なぜ自分がちひろを追いかけ回しているのかを聞かないのかと尋ねますが、ちひろは風俗嬢だった自分は、相手の素性を知らなくても人のことを信頼できると言いました。
オカジはちひろとの出会いに喜びますが、一方でアニメにのめり込めなくなったことで、同じアニメが趣味で繋がった同級生たちとの間に溝ができ始めました。
町でホームレスの男を探すちひろは、建物の隙間にある小道で男の死体を見つけ、夜間に森の中に男の死体を土中へと埋葬。
その後何事も無かったかのようにバジルと共に祭りに参加したちひろは、金魚すくいの屋台を開く男が、ちひろが働いていた風俗店の店長内海であることに気づきます。
内海は妻と離婚したことで、趣味だった熱帯魚屋を経営しているとのことでした。
オカジは勉強の苦手なマコトに勉強を教える傍ら、マコトと一緒にちひろからご飯を貰います。
オカジは会話のない家族での食卓が苦手とちひろに打ち明けると、ちひろは家族であっても無理に打ち解ける必要はないと言い、オカジに「宝の地図」を渡しました。
弟の圭介からちひろに電話がかかり母親の死を告げられますが、ちひろは母親の葬式に出る気はないと言うと、仕事を理由に電話を切ります。
マコトの母親のヒトミが勝手にご飯をあげていることを理由に弁当屋でちひろ責めますが、夜勤のヒトミはマコトに冷食を用意するだけであり、マコトは毎日1人での食事を強いられていました。
「宝の地図」の場所に向かったオカジはその場所にいるべっちんに出逢います。
べっちんはオカジと同じ高校に通う同級生であり、べっちんは不登校で親に家を追い出されるたびにここにしていると言い、2人は漫画を通して徐々に仲を深めていきます。
映画『ちひろさん』の感想と評価
他人の人生を少しだけ変える物語
元風俗嬢と言う肩書きを隠すことなく、弁当屋の店員として地元で人気を集めるちひろ。
子供にも容赦のない言葉で罵倒し、誰に対しても忖度のしない彼女の行動は周りからは破天荒に見えますが、その行動は関わる人間の悩みの真を突いていくことになります。
しかし、本作は「主人公が他人の悩みを解決していく物語」ではなく、ちひろの言葉や生き方に感化された人間たちが自分の行動で少しだけ人生を変えていく物語。
どんな人にでも自分の思ったことや感じたことを言い放つ、ちひろの生き様と日常に自分自身の生き方を見つめ直したくなるような作品でした。
「孤独」を大事にする生き方
主人公のちひろは独特な感性を持ち、誰に対しても分け隔てなく接する明るさが人を引き付けるため、ちひろの周りには常に多くの人が集まります。
ちひろは相手が悪意を持っていない限りどんな人間でも受け入れ、その人の悩みを聞いたり、弁当の差し入れをしたりと好意的に接します。
しかし、ちひろには時折海の底に沈んでいるような誰にも会いたくない時間があり、その時間はどんなに仲を深めた相手でも決して近寄らせようとしません。
人好き話好きのちひろと孤独を好むちひろ、2つは決して別々のものではなく、「孤独」が決して負のものではないということを教えてくれます。
まとめ
物語が大きく動くことはなく、ちひろの周囲の人間関係が静かに動いていく映画『ちひろさん』。
それぞれの抱える悩みや人間関係は決して改善したとは言えずに物語が幕を降ろしますが、不思議と鑑賞後の心は晴れやかになる本作。
心が強く憔悴している日や何かに悩んでいる時に、物凄く明るい物語ではないからこそ救われるような想いをする本作はオススメです。