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Entry 2018/10/06
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ドキュメンタリー映画『太陽の塔』岡本太郎が2つの代表作品に込めた祈りの表現とは|映画と美流百科12

  • Writer :
  • 篠原愛

連載コラム「映画と美流百科」第12回

1970年の大阪万博のシンボルとして岡本太郎によって作られた≪太陽の塔≫が耐震修復工事を終え、今年2018年3月に約半世紀ぶりにその内部が公開されました。

そして9月15日(土)から11月4日(日)までの間、あべのハルカス美術館にて展覧会「太陽の塔」が開催されています。

さらに9月29日(土)より渋谷・シネクイント、新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田など全国の劇場で、ドキュメンタリー映画『太陽の塔』が公開されています。

今回は映画の製作過程や、タイトルにもなっている巨大モニュメント≪太陽の塔≫に込められた岡本太郎の想いに迫ります。

【連載コラム】『映画と美流百科』記事一覧はこちら

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ドキュメンタリー映画『太陽の塔』のあらすじ


(C)2018 映画「太陽の塔」製作委員会

1970年に「人類の進歩と調和」というテーマで開かれた日本万国博覧会の、テーマ館の一部として芸術家・岡本太郎(1911-1996)が作り上げたのが≪太陽の塔≫でした。

高さ70メートルもある≪太陽の塔≫はひときわ異彩を放ち、万博終了後も大阪のシンボルとして愛され続けています。

本作は全9章で構成され、総勢29人の設計者、学者、批評家、学芸員、冒険家、僧侶、クリエイター、アーティストたちにインタビューし、岡本太郎がこの建造物をどのようなプロセスで作り上げ、どのような想いを込めたのかを検証するドキュメンタリー映画です。

また、同時期に制作された巨大壁画≪明日の神話≫も取り上げ、対になると言われている両作品のテーマも浮き彫りにしています。

関根光才監督と映画『太陽の塔』の特徴


(C)2018 映画「太陽の塔」製作委員会

本作では公募によって選ばれた、関根光才監督がメガホンを取りました。98通の応募があり、第一次選考で6人に絞られ、最終的に関根監督に決まったのです。

決め手となったのは「太陽の塔を通して日本人とアートとの関わり方を描きたい」、「太陽の塔を通して今ある状況、これからの日本を考えるきっかけにしたい」というコンセプトでした。

関根監督はMV(AKB48『恋するフォーチュンクッキー』他)や、数々のCM、短編映画などを手がけてきた映像ディレクターですが、長編映画に取り組んだのは本作が初めて。

既成の枠にとらわれず、非常に挑戦的な手法で、確信に鋭く迫ります。

例えば、本作はインタビューを編集したドキュメンタリーなのですが、ナレーションが一切ありません。

そして架空の“縄文の少女”を登場させたり、≪太陽の塔≫と大島の荒涼とした風景を合成したりと、ドキュメンタリーでありながらフィクションを取り入れています。

「インタビューばかりの映像の中に、アクセントとしてフィクションを入れると、いい意味でリズムを壊し再構築できる」のが狙いだったと関根監督は語っています。

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岡本太郎を語る専門家たちの考察


(C)2018 映画「太陽の塔」製作委員会

関根監督は、登場する人たちにそれぞれ別々に取材をし、46時間にも及ぶ映像を編集してつなぎ合わせました。

驚いたのは、専門分野が違うはずなのに彼らの語る内容にはシンクロする部分が多く、話の途中で別の人物の会話とつなげても、違和感なく話が通じることでした。

時にそのつなぎ方は、センテンスではなくフレーズにまで細分化され、まるでVJを観ているかのように錯覚する瞬間があるほどでした。

その交錯する各人の文脈からは、やがて大きな考察が紡ぎ出されていきます。

教育番組のように感じるほどの内容の濃さですが、ある時は情熱的にある時は冷静に淡々と話す彼らの語り口に引き込まれ、時間が短く感じました。

大阪万博に向けて作られた≪太陽の塔≫


(C)2018 映画「太陽の塔」製作委員会

最後に、映画の中でも取り上げられている岡本太郎の代表作2つが作られた背景をご紹介します。

どちらも巨大な作品で、実物を観るとその大きさに圧倒されるモニュメントと絵画です。

≪太陽の塔≫は、1970年に開催された大阪万博のテーマ・プロデューサーを引き受けた、岡本太郎が作った高さ70メートルの建造物で、大阪北部の万博記念公園の中にあります。

当時の日本は学生運動が盛んで、前年の1969年には東大安田講堂事件が起き、反体制ムードに満ちた時代でした。

万博は国をあげての一大イベントなので、反体制側は標的にし、“ハンパク(反博)”を叫びました。

そんな状況の中、「万博に参加する芸術家など“体制側の手先”である」と太郎のもとには非難の声が相次ぎ、親しい友人などは引き受けるのを止めるよう忠告したといいます。

しかし太郎は「一番のハンパクは≪太陽の塔≫である」と動じず、制作に着手しました。

万博の会場内は、未来志向の建物やテクノロジーであふれ返っていましたが、その真ん中にべらぼうに巨大で根源的な塔を打ち立てたのです。

太郎は確信犯だったようで、次のように語っています。

「オレは進歩と調和なんて大嫌いだ。人類が進歩なんかしているか。原始のもののほうがずっといい。縄文時代やラスコーの壁画を見ろ。あんなの現代の人間につくれるか。ことに近代以降はどんどん落ちているだけだ」

塔の内部には≪生命の樹≫と呼ばれる、単細胞生物から人類が誕生するまでの進化を表現した展示物が置かれていました。

この塔の内部に収められていた仮面などの民族資料は、後に万博記念公園内にある“みんぱく(国立民族学博物館)”に移され、今でも観覧できます。

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メキシコオリンピックに向けて作られた≪明日の神話≫


(C)2018 映画「太陽の塔」製作委員会

現在、渋谷駅から渋谷マークシティ2階への連絡通路に展示されている≪明日の神話≫は、縦5.5メートル、横30メートルの7枚からなる巨大な壁画です。

以前からメキシコの古代文明に強い共感を持っていた太郎は、1967年にメキシコ人実業家からメキシコオリンピックのために建設中の高層ホテルのロビーに掲げる作品を依頼され、快諾します。

帰国後に下絵を完成させ、1968年9月から本格的に現地制作を始めました。

この時期は万博のテーマ館の準備で多忙を極めていたため、太郎はメキシコに長期滞在することができず、日本との間を何度も往復しながら壁画を描きました。

1969年に作品は完成し、工事中のホテルに仮設置されましたが、資金繰りに行き詰ったホテルは建設中止となり、実業家は失意の内に死去。

壁画がロビーに掛けられたままのホテルは、未完のまま人手に渡り、オフィスビルとして生まれ変わりました。

取り外された≪明日の神話≫は行方不明となり“幻の作品”と呼ばれていましたが、現存が絶望視され始めた2003年、メキシコシティ郊外の資材置き場で発見されました。

公私に渡る岡本太郎のパートナーで秘書であった養女・岡本敏子は、長らくこの壁画を探し続けていました。

敏子は、さっそく日本に持ち帰るプロジェクトを立ち上げ、修復・公開を計画します。

2005年3月に1年がかりの交渉の末に壁画を入手、4月に壁画を解体し日本へ移送する手配が進みました。

しかし壁画が日本に到着する直前に、突然の岡本敏子の訃報。彼女は壁画の修復と展示公開を最後まで見届けることができませんでした。

その後、壁画は5月末に神戸港に到着し、7月中旬に愛媛の作業場に搬入、本格的な修復に入りました。

そして2006年6月に修復が完了し、2008年10月から現在の場所へ展示されています。

第五福竜丸が被爆した際の水爆の炸裂の瞬間がモチーフとなっているこの作品は、反核・反戦をテーマとし、原爆の悲劇とそれを乗り越えて生きる人間の逞しい生のエネルギーを表現したものです。

この作品が投げかけるメッセージは、福島第一原子力発電所の事故を経験した現在の日本において、より鮮烈さを増し強烈に突き刺さってきます。

まとめ

参考映像:1981年 CM マクセル ビデオテープ

岡本太郎ほど人生にも、作品制作にも、ドラマチックな軌跡を残した芸術家はいません。

カッと目を見開いて言い放つ「芸術は爆発だ!」「何だ、これは!」など、インパクトのある言動でテレビに出演していた姿をイメージされがちな太郎ですが、ひとたび著書を読めばその知性に裏付けされた論理的で無駄のない文章に舌を巻きます。

本作は単なる作品としての≪太陽の塔≫の紹介にとどまらず、太郎の考え方や生き方を丁寧に掘り下げている、彼の内面を知るきっかけになる映画です。

そしてアートや日本の未来について問いかけ、考えさせる映画でもあります。ぜひご覧ください。

次回の『映画と美流百科』は…

次回は、2018年11月16日から東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほか全国で公開の『バルバラ セーヌの黒いバラ』をご紹介します。

お楽しみに!

【連載コラム】『映画と美流百科』記事一覧はこちら

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