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【ネタバレ徹底解説】劇場版ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタルを詳細に読み解く|邦画特撮大全37

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第37章

今回取り上げる作品は2019年3月8日から公開された『ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタル』です。

本作は2018年に放送された特撮テレビドラマ『ウルトラマンR/B』の劇場版。

テレビシリーズから1年後の綾香市を舞台に、湊カツミ・湊イサミの兄弟が変身するウルトラマンロッソとウルトラマンブルの活躍が描かれます。

更に妹アサヒが変身するウルトラウーマングリージョ、『R/B』の前作『ウルトラマンジード』の主人公・朝倉リク/ウルトラマンジード、謎のウルトラマントレギアなど人気キャラクターや新キャラクターが多数登場します。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

『劇場版ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタル』の作品概要


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

【日本公開】
2019年3月8日(日本映画)

【脚本】
中野貴雄

【VFX監督】
神谷誠

【監督】
武居正能

【キャスト】
平田雄也、小池亮介、其原有沙、濱田龍臣、眞鍋かをり、山崎銀之丞、木下彩音、西井幸人、須藤叶希、野口雅弘、原日出子、潘めぐみ(声の出演)、内田雄馬(声の出演)

【登場ウルトラマン】
ウルトラマンロッソ、ウルトラマンブル、ウルトラマンルーブ、ウルトラマンジード、ウルトラウーマングリージョ、ウルトラマングルーブ、ウルトラマントレギア 

【登場怪獣】
奇獣ガンQ、宇宙大怪獣ベムスター、メカロボット怪獣メカゴモラ、友好珍獣ピグモン、邪願獣スネークダークネス

『劇場版ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタル』のあらすじとネタバレ


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

綾香市に平和が訪れてから1年――。

大学生・湊イサミ/ウルトラマンブルは海外への留学を決め、妹・湊アサヒは看護師になるための勉強に励んでいます。

父・ウシオは仕事に精を出し独特なデザインのTシャツを日夜売り、母のミオは綾香市を復興させるため一時的にアイゼンテックの社長となっています。

一方で長男の湊カツミ/ウルトラマンロッソは、自身の将来に悩んでいました。そこでカツミは高校時代の友人・戸井に会いに行きます。

戸井はゲームクリエイターを目指していましたが、現在は仕事を辞めて引きこもりに。そんな友人の姿にカツミはショックを受けてしまいます。

綾香市に奇獣ガンQと宇宙大怪獣ベムスター、2体の怪獣が出現しました。カツミとイサミは偶然出会った少年・朝倉リク/ウルトラマンジードと共に、ウルトラマンに変身して怪獣たちと戦います。

3人は怪獣の中に囚われていたリクの親友・ペガッサ星人ペガを救出し、怪獣を撃破しました。

リクとペガは謎の雷によって別世界から綾香市へやって来たのです。カツミたち湊一家はリクとペガが元いた世界に帰られる方法を考えます。

一方、心を閉ざした戸井に“ウルトラマントレギア”と名乗る謎の存在が接触します。更にトレギアは将来の進路に悩むカツミにも接触。

トレギアはカツミを地球から遠く離れた怪獣が棲む星へ飛ばしてしまいます。リクをこちらの世界に連れてきたのもトレギアの仕業だったのです。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタル』ネタバレ・結末の記載がございます。『ウルトラマンR/B(ルーブ)セレクト!絆のクリスタル』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

カツミはウルトラマンになり、友好珍獣ピグモンを襲う怪獣メカゴモラを倒します。その直後、カツミの前になんと戸井が現れたのです。

ウルトラマンロッソの正体がカツミだと知った戸井は、嫉妬と憎悪の念をカツミに向けます。そして戸井はカツミの目の前で怪獣スネークダークネスとなり、綾香市へ向かうのでした。

綾香市に出現したスネークダークネスに対して、イサミとリクが変身し立ち向かいます。しかしウルトラマントレギアも現れて、強大な力でイサミとリクを圧倒するのでした。

ミオたちはペガが持つ能力“ダーク・ゾーン”とアイゼンテック社の“ハドロン加速器”によって、カツミを遠い異星から地球に帰還させます。

カツミはイサミと2人でウルトラマンルーブに変身。リクが変身するウルトラマンジード、アサヒが変身したウルトラウーマングリージョと協力して、ウルトラマントレギアとスネークダークネスの2体の強敵に挑みます。

戦いの中、戸井の母親が現れました。母親の存在に心が揺らぐ戸井。しかしトレギアは戸井の自我を悪意で覆い、スネークダークネスを暴走させます。

ロッソ、ブル、グリージョの3人のウルトラマンは、マコトクリスタルの力で“ウルトラマングルーブ”に融合変身!!

ウルトラマングルーブとウルトランジードは協力して、トレギアとスネークダークネスを打ち破りました。

怪獣の姿から元に戻った戸井。カツミはかつて戸井から貰った“夢”と書かれたボールを彼に渡します。

そして戸井は母親の元へ駆け寄り、リクとペガは元いた世界へと帰っていきました。

4人のウルトラマンの活躍によって、綾香市に再び平和が訪れます。

カツミは本格的に服飾デザインを学ぶためミラノへ、イサミは宇宙考古学を学ぶためカリフォルニアへそれぞれの道を歩み始めるのです。

ウルトラマンなのか、人間なのかという問い


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

テレビシリーズではマイペースな弟・湊イサミ/ウルトラマンブルや妹のアサヒ、父ウシオの振り回され気味だった長男・湊カツミ/ウルトラマンロッソ。

本作はカツミの目指す“夢”を中心に物語が進みます。イサミとアサヒが夢を見つけ、かつての友人・戸井の挫折した姿を目の当たりにしカツミは自身の将来に対し迷い始めます。

そんなカツミに罠を仕掛けるウルトラマントレギア。トレギアはカツミに「君はウルトラマンか湊カツミか?」と問いかけます。

この人間なのかウルトラマンなのかという問題はテレビシリーズでも浮上したもので、カツミはウルトラマンである前に湊カツミだという結論を出していました。しかし本作でその結論がブレていきます。

テレビシリーズでカツミが出した結論は、イサミとアサヒの“兄”であるという意識に依拠したものだったのではないでしょうか。

その弟と妹の巣立ちの時が近づき、無意識の内にカツミの中にあった“兄”という存在理由が揺らいでいるのが本作なのではないでしょうか。

つまり本作で湊カツミ/ウルトラマンロッソは、テレビシリーズ以上に1人の人間として自分自身と向き合っている状況なのです。

ウルトラマンになって怪獣を倒すというわかりやすい目的がある訳でもなく、目に見えない自身の将来・夢というものへと向かっていくのです。

劇場版とテレビシリーズをつなぐ演出


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

逆さまの状態でビルに刺さったウルトラマンロッソの回想という、衝撃的な映像から本作は始まります。

戦闘場面からそこに至る経緯を回想していく形式は、テレビシリーズの第1話「ウルトラマンはじめました」(脚本:中野貴雄・監督:武居正能)を踏襲したものです。

また登場場面はわずかですがテレビシリーズから美剣サキ、第5話「さよならイカロス」に登場した二宮ユウハも登場します。

その他ウルトラマンに対する街頭インタビューや、初めて見たウルトラマンジードに対して「目つきが悪い」と言ったり、朝倉リク/ウルトラマンジードとイサミが変身する時に掛け声が重なったりするなど、ユーモラスな場面もテレビシリーズ同様に見られました。

アサヒとリクの交流が描く“家族の絆”


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

『ウルトラマンギンガ』(2013)から始まった“ニュージェネレーション”と呼ばれるウルトラシリーズの劇場版には、これまで過去作の主人公がゲスト出演するのが定番となっています。

そのため本作には前作『ウルトラマンジード』の主人公である朝倉リクが登場します。

“家族の絆”がテーマである『R/B』に悪の超人“ウルトラマンベリアル”を父に持つリクが登場する事で、より『R/B』のテーマが明確に打ち出されました。

リクと初めて出会う登場人物は妹のアサヒです。実父の存在に引け目を感じるリクに対して、アサヒは自身が湊家の人間と血縁関係にないことを打ち明けます。

アサヒは続けて血の繋がりという関係性だけでなく、お互いを大切に思い合う心が“家族の絆”だとリクに伝えるのです。

リクとアサヒを交流させることで、『ウルトラマンR/B』という作品そのものが持つ“家族の絆”というテーマを映画の前半で巧みに明確に提示していました。

新たなウルトラマンたちの総登場!!


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

そして本作の一番の見所はなんといっても初登場のウルトラマンたちです。

まず湊アサヒが変身する“ウルトラウーマングリージョ”。ウルトラシリーズに新たな女性戦士が登場するのはおよそ20年ぶりです。

テレビシリーズで見られたアサヒがみんなに飴を配る設定が、グリージョにも巧く組み込まれています。

またウルトラマンロッソやブルがグリージョを庇った際、グリージョ=アサヒが「女の子とか関係ないです!!」と宣言する場面は現在という時代性を表しています。昨年は男の子が変身するプリキュアも登場して話題になりましたね。

そしてグリージョとウルトラマンロッソ、ウルトラマンブルの兄妹3人が融合変身する“ウルトラマングルーブ”や、敵役の“ウルトラマントレギア”も登場します。


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

ベネチアンマスクのような目元と紅い眼、カラータイマーを封印したような胸元の装甲といったトレギアのデザインは敵役とは言え理屈抜きに格好いいです。

結果として本作には3体の新ウルトラマンが登場。72分という上映時間の映画に総勢7体のウルトラマンが登場するのです。しかし7体の内2体のウルトラマンは融合体のため、画面が散漫になることはありませんでした。

蛇足ですが劇中に登場する街頭インタビューで「ウルトラマンが多すぎる」と言うコメントがあります。これはウルトラマンが7体も登場することに対しての、スタッフの本音なのではと思ってしまいました。

CGを駆使したスピーディーな空中戦‼


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

映像的な見所はクライマックスで描かれるウルトラマングルーブとウルトラマントレギアの空中戦。この空中戦でグルーブとトレギアはフルCGモデルで表現されています。CGを効果的に応用した映像は、スピーディーなものに仕上がっており圧巻でした。

ミニチュア特撮とCGモデルを併用することで、アクションシーンに従来通りの立体感と迫力に加えこれまで以上のスピード感を表現することに成功しています。

さらに実景との合成による戦闘シーンの俯瞰ショットなど、テレビシリーズよりパワーアップした映像が本作で堪能できます。

まとめ


(C)劇場版ウルトラマンR/B製作委員会

テレビシリーズの後日談である『ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』。

本作はテレビシリーズより成長したカツミ・イサミ、アサヒの勇姿と、よりパワーアップした映像を堪能できる作品となっています。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、放送を目前に控えた『騎士竜戦隊リュウソウジャー』を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

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