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Entry 2018/08/01
Update

バレエダンサーの舞台裏を女性男性の視点からの読む『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』|映画と美流百科2

  • Writer :
  • 篠原愛

連載コラム「映画と美流百科」第2回


© Valery Todorovsky Production Company

今回は全国のミニシアターで絶賛上映中の『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』(2017/ロシア)をご紹介します。

地方の炭鉱町で貧しく暮らしていたユリアが、ひょんなことからモスクワのボリショイ・バレエ・アカデミーに入学することになり、そこで出会ったのはお金持ちの家に生まれ育ったカリーナでした。

ユリアはバレエの基礎も知らず破天荒な性格ですが、高い身体能力と才能を秘めています。

いっぽう優等生なカリーナは、クラスの中でも抜きん出たエリートで、優雅で気高い雰囲気を漂わせています。

寮での集団生活のなか厳しいレッスンに耐えながら、正反対な2人は親友かつ、恋とバレエを競い合うライバルとなっていき、卒業公演や、その後の舞台の主役の座を奪い合います。

最後に栄光を掴むのは、どちらなのか? 二転三転するストーリーに先が読めず、ハラハラドキドキするバレエダンサーたちの青春物語です。

【連載コラム】『映画と美流百科』記事一覧はこちら

映画『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』の鑑賞ポイント


© Valery Todorovsky Production Company

ボリショイ・バレエとアカデミー

ボリショイ・バレエとは、モスクワにあるボリショイ劇場を本拠地とするカンパニー(バレエ団)をさします。

「ボリショイ」とはロシア語で「大きい」という意味の言葉なのですが、その名の通り劇場もバレエ団も規模が大きく有名です。

近年では来日公演だけでなく、「ボリショイ・バレエ in シネマ」などライブビューイングとして映画館で鑑賞できる機会も増えているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

このボリショイ・バレエ付属のアカデミー(ダンサー養成学校)で鍛錬に励むのが、本作の主人公ユリアとカリーナなのです。

演じるのは本格的なプロダンサーたち

この映画の見どころは、なんといっても本格的なダンスシーン。

登場するのは、長年訓練を積んだプロのダンサーたちばかりなので、踊りだけでなく細くしなやかな体つきにも説得力があり、無理なくバレエの世界に入り込めます。

また入学試験や食事制限、バーレッスンやオーディションなど、バレエ界の厳しい現実もドキュメンタリーで見かけるのと違わず、真摯に再現されているのがうかがえます。

ボリショイ劇場とバックステージ


© Valery Todorovsky Production Company

雪に覆われた白銀の外観や、シャンデリアが輝き赤い絨毯が敷きつめられた煌びやかな内観など、実際にボリショイ劇場でロケをしたというシーンもすばらしく見入ってしまいます。

バレエ公演の場面では、舞台袖や舞台上から客席側へ向かってダンサーをとらえたショットがあり、普段劇場を訪れた際に目にする客席側からではない、映画ならではのステージシーンとなっています。

衣装合わせやメイクをしたり、公演前に客席に被せてあったシートを取り除いたりといった、公演に向けての準備も興味深いので、バックステージにも注目してみてください。

ボリショイ・バレエ関連の映画と俳優

映画『ポリーナ、私を踊る』

ボリショイ・バレエが登場する映画でも、本作とはまったく違う世界を描いているのは『ポリーナ、私を踊る』(2017/フランス)です。

ロシア人の少女ポリーナは、プリマ・バレリーナを夢見て幼いころからレッスンに励みます。

そして、ついにボリショイ・バレエの入団試験に合格し、これからという時にコンテンポラリーダンスと出会い、その魅力に強く惹かれていきます。

結局ポリーナは、フランスのコンテンポラリーダンスのカンパニーに入団するのですが、練習中にケガをしていまい、だんだんと人生の歯車が狂い始めます。

挫折を味わったポリーナが、最終的に見つけた自分らしい生き方とは…。

『ポリーナ、私を踊る』の見どころは、やはり前衛的なコンテンポラリーダンスです。クラシックなバレエのテクニックに収まりきらない、自分をさらけ出すような自由な表現の魅力を、きっと発見することでしょう。

俳優ミハイル・バリシニコフ

ボリショイ・バレエ出身の俳優として有名なのは、ミハイル・バリシニコフです。

彼はダンサーとしてだけでなく、振付師や芸術監督としてもバレエ界で活躍しました。芸術監督として長く在籍したカンパニーは、アメリカン・バレエ・シアターです。

俳優としては、映画だけでなくドラマにも出演しており、『セックス・アンド・ザ・シティ』シーズン6では、主人公キャリーの恋人であるロシア人芸術家に扮しています。

キャリー役のサラ・ジェシカ・パーカーは元アメリカン・バレエ・シアターの研究生だったという縁もあり、「憧れのバレエダンサーだったミーシャ(バリシニコフの愛称)と共演できるなんて夢にも思っていなかったから、本当にうれしかった」と語っています。

そんなバリシニコフのダンスを堪能できるのが、映画『ホワイトナイツ/白夜』(1985/アメリカ)です。

見逃してはならないのは、11回連続のピルエット(つま先回転)と、タップダンサーのグレゴリー・ハインズとのダンスの共演です。特に後者はクラシックバレエ以外を踊るバリシニコフの貴重映像といえるでしょう。

ストーリーは、芸術の自由を求めて祖国ソ連(現ロシア)を捨てアメリカに亡命したバレエダンサーが、飛行機でシベリアに不時着し、KGBに見つかってしまって…というもの。

演じているバリシニコフ自身が、バレエのカナダ巡演中にソ連からアメリカに亡命した人物なので役柄と重ねずにはおれず、また表現の自由についても考えさせられる作品でもあります。

まとめ


© Valery Todorovsky Production Company

今回は『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』という映画を通して、バレエの世界をご紹介しました。

ともするとダンス映画は、踊りばかりに目が向きがちですが、登場人物の各キャラクターにも、ぜひ注目してください。

主役の少女2人だけでなく、彼女たちの家族やクラスメイト、ユリアを見出した酒浸りの男性、ユリアに目をかける講師の老婦人など、それぞれが抱えている、いかんともしがたい問題も描かれています。

その鬱屈した雰囲気があるからこそ、私たちはラストシーンを目にした時にカタルシスを得られるのです。

次回の『映画と美流百科』は…

次回は、全国にて順次公開中のドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの世界』を取り上げます。

お楽しみに!

【連載コラム】『映画と美流百科』記事一覧はこちら

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