第16回大阪アジアン映画祭上映作品『愛しい詐欺師』
毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で16回目。2021年3月05日(金)から3月14日(日)までの10日間にわたってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品が上映されます。
さらに本年度は「オンライン座」として、過去のアジアン映画祭で上映された作品から特に好評を博した作品を中心にしたオンライン上映も、2021年2月28日(日)から3月20日(土)の期間、開催されます。
今回はその中から、コンペティション部門で上映されるタイ映画『愛しい詐欺師』(2020)をご紹介します。
【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら
映画『愛しい詐欺師』の作品情報
【日本公開】
2021年(タイ映画)
【原題】
The Con-Heartist [Aii-Con-Lor-Luang]
【監督】
メート・タラートン
【キャスト】
ナデート・クギミヤ、ピムチャノック・ルーウィセートパイブーン、ティティ・マハーヨーターラック、カタリヤー・メーキントッシュ、ポンサトーン・ジョンウィラート、チャンタウィット・タナセーウィー
【作品概要】
映画、テレビを舞台に多くのエンターテインメント作品を生みだしてきたタイの「GDH」による製作作品。
2020年12月にタイ国内で公開され、大ヒットを記録。国外でもベトナム、インドネシアなどアジアを中心に公開され、大ヒットとなっている。監督は大阪アジアン映画祭では常連のメート・タラートン。
メート・タラートン監督プロフィール
広告業界で助監督として活動しながら、『The Possible』(2006)、ホラー・アンソロジーの『Phobia』(2008)、『Phobia2』(2009)などの映画の脚本を執筆。
2010年の『恋するリトルコメディアン』で共同監督デビューを果たし、2012年の『ATMエラー』でソロ監督デビューを果たした。『ATMエラー』と2014年の『アイ・ファイン・サンキュー、ラブ・ユー』は大阪アジアン映画祭で上映され、『アイ・ファイン・サンキュー、ラブ・ユー』ではOAFF2015来るべき才能賞を受賞。
映画『愛しい詐欺師』のあらすじ
タイ東北部ブリーラムで暮らすイナには、5年越しの借金がありました。イナは借金を抱えながら、いかに苦労してやりくりしているかという動画をネットに投稿し、寄付を募っていました。
ある日、勤め先のクレジットサービス会社に一本の電話がかかってきます。税務署の者だと名乗る男は、イナに多額の寄付が来たが、それを受け取るにはまずイナが金を振りこまなくてはならないと語ります。
少しでも借金が減るのならと目が眩み、クレジットカードを手にATMへ走るイナでしたが、指定された口座にいざ振り込もうとすると名義が個人の名前になっているではありませんか。
これは詐欺だと悟ったイナは音声を録音し、テレビ局に公開するわよと逆に男を脅しつけました。
ひとまず2人は会う約束をし、イナはタワーと名乗る男に音声ファイルの消去を交換条件に、大学を卒業し今は隣の県で旅行会社に勤めているペットを騙す計画を持ちかけます。
かつて、ペットはイナの恋人でした。彼が大学の学費が払えないと力を落としているのを見てイナが肩代わりをしたのですが、彼は返却する気はまったくなく、用済みになるとあっさり振られてしまったのです。
イナの恋心を利用した詐欺行為でしたが、法では裁けず、イナには借金だけが残されました。今の苦しい生活は全てこのせいでした。
こうしてイナとタワーは詐欺師チームを結成。イナの恩師、ヌット先生、タワーの兄のジョーンも仲間に引き込み、作戦が開始されました。
果たして詐欺師たちはペットを騙し、金を手にいれることが出来るのでしょうか。
映画『愛しい詐欺師』の感想と評価
大阪アジアン映画祭では『ATMエラー』(OAFF2013)『アイ・ファイン・サンキュー、ラブ・ユー』(OAFF2015来るべき才能賞受賞)でお馴染みのメート・タラートンが監督を務めた『愛しい詐欺師』(2020)は、全編笑いの渦に包まれたすこぶる愉快なロマンチックコメディです。
2020年12月に封切られるや大ヒットを記録。タイ国内のみならず、カンボジアやベトナムでも興行収入1位に輝くなど、大ヒットとなりました。COVID-19で疲弊した社会に笑いと元気を与えたことは想像に難くありません。
不誠実な恋人にまんまと騙され、巨額な負債を背負った女性と、その女性を騙そうとして失敗した詐欺師が手を組み、女性の元恋人を騙して、金をせしめる計画を建てます。
しかし「オーシャンズ」シリーズとは違い、集まったチームのメンバーは、凄腕とはとても思えない詐欺師と騙されやすいズブの素人という顔ぶれ。
そんな彼ら、彼女たちが、したたかで一筋縄では行かない相手に対してどのように挑むのか、勝つのか、負けるのか、誰が騙して、誰が騙されるのか、手に汗握るコンゲームが展開します。
主役のふたりから脇役に至るまで、それぞれのキャラクター造形が秀逸です。ホテルの支配人役のチャンタウィット・タナセーウィーは大阪アジアン映画祭ではお馴染みの顔。
出てきただけでおかしいのですが、しゃべるたびに歯の隙間から唾液が飛び散るギャクは、時勢的にも非常に強烈です。
また、不誠実な元恋人のわざとらしい(けれど素敵な)笑顔がしつこいほど繰り返されるのはコメディ映画の王道的手法であり、まんまと術に嵌り爆笑させられます。
ただのギャグだと思っていたものが、忘れた頃にふいに重要な問題として浮上してくるなど伏線の張り方も巧みで、シナリオも良く練られています。
また、現代の生活にかかせないSNSを映画の画面でいかに表現するかというのは、多くの映画人が試行錯誤している問題ですが、本作はそれらを実に巧みに表現していて驚かされます。
主人公は冒頭、いきなりYouTuberとして登場して来ますし、旅行先である人物が更新するSNSの投稿はそれだけで笑いを誘います。
そしてなんといっても3台のスマホが画面に並び、1台、1台にそのスマホの持ち主のビジュアルがはめ込まれて動いてしゃべるという画面設計の素晴らしいこと! SNSを映画的に完全にモノにしていると言っても過言ではありません。
後日談としてコロナ禍におけるキャラクターたちの姿も描かれており、社会的な観点も取り入れながら、それらを爽快な笑いにしてしまう力技ともいうべきコメディーセンスにも脱帽せずにはいられません。
まとめ
本作は、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017/ナタウット・プーンピリヤ)や昨年のグランプリ作品『ハッピー・オールド・イヤー』(2019/ナワポン・タムロンラタナリット)など、タイ映画界を牽引するエンターティンメント会社「GDH」によって製作されました。
COVID-19により壊滅的な状況になったタイ映画界の救世主となり、2021年2月からはインドネシアで公開されるなど、アジアを中心に熱狂が広がっています。
ヒロインに抜擢されたのはピムチャノック・ルーウィセートパイブーン。純粋でかつ逞しいヒロインをチャーミングに演じています。
彼女を騙そうと近づき、のちに協力し合うことになる詐欺師タワーを演じるのは、モデルとしても知られるナデート・クギミヤです。普段、コメディ的な役割を演じることは少ないそうですが、本作では、のりのりの演技を見せてくれます。
元恋人のペットにはタイの人気俳優で、NHKBSドラマ『ガタの国から』(2017)にも出演したティティ・マハーヨーターラックが扮しています。
韓国のボーイズグループGOT7のメンバーであるBambamによる主題歌「I’m Not A Con-Heartist」も高揚感をもたらす快適なナンバーで、ビデオクリップが公開されるやこちらも大ヒットを記録しました。
『愛しい詐欺師』は2021年3月13日(土)の10:05分よりABCホールで2回目の上映があります。是非、大きなスクリーンでこの抱腹絶倒の傑作コメディーを体感してみてください。
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