圧倒的な映像美と楽曲の魅力が冴え渡る新たなサマーアニメ!
『時をかける少女』(2006)と『サマーウォーズ』(2009)の大ヒット以降、「夏アニメの代名詞」とさえ呼ばれるようになった日本のアニメ映画監督の細田守。
彼の描く独特な世界観を持った映画は世界でも人気を集め、2019年に公開された映画『未来のミライ』ではアカデミー賞を始めとした各国の主要な映画賞にノミネートするなど高い評価を受けました。
今回は、前作から3年の月日を経て、細田守が放つ最新のサマーアニメ映画『竜とそばかすの姫』(2021)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
アニメ映画『竜とそばかすの姫』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
細田守
【脚本】
細田守
【キャスト】
中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森川智之、津田健次郎、小山茉美、宮野真守、森山良子、佐藤健
【作品概要】
『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)の完成度の高さから一躍有名となり、『サマーウォーズ』の商業的成功から日本のアニメ映画を牽引する存在となった細田守が、監督を務めた6作目の長編映画。
主人公すずの声をシンガーソングライターの中村佳穂が演じ、公開間際まで仮想空間「U」でのお尋ね者「竜」を演じた佐藤健が隠されていたことも話題となりました。
アニメ映画『竜とそばかすの姫』のあらすじとネタバレ
世界的シェアを誇る仮想空間「U」。
「U」ではボディシェアリング・デバイスを通じてユーザーの生体情報が認識され、空間内におけるアバターとなる存在「As(アズ)」が自動生成されます。そしてユーザーは身体の認知機能を自身のAsと同期させることで「U」を自由に行動することができます。
高知県の片田舎に住む女子高生のすずは幼い頃は歌が好きな少女でしたが、母が増水した川に取り残された少女を助けるために川へ飛び込み死亡してからは歌に強いトラウマを抱え、高校に進学してからもクラスで浮いた存在になっていました。
ある日、友人の弘香に誘われ「U」を始めたすずは、同学年のマドンナ的存在である瑠果に似た輪郭に自身の特徴であるそばかすの着いたアスが用意され困惑しますが、システムの誘導に従い「ベル」と言うハンドルネームで「U」へとログインします。
デバイスがリンクした人間の深層的な力を吸い上げる「U」では現実世界で歌うことのできないすずも歌うことができ、「U」へとログインしたその場ですずは自身が作曲した歌を歌いました。
誰に習ったわけでもないすずの歌は周りのユーザーから馬鹿にされますが、歌唱力と頭に残るメロディが評価を受け、すず=「ベル」のフォロワーは瞬く間に増え始めます。
数ヵ月後、インターネットの世界を熟知する弘香のプロデュースによってベルは世界的歌姫と呼ばれるまでにフォロワーを増やしており、ネット上ではベルのファンとアンチが常に湧き上がっていました。
ベルの人気とは裏腹にすずは冴えない自身の正体を隠しており、母の死以降まともに口を聞いていない父親や、一緒にいるだけで学校内の女子から嫉妬の対象とされる幼馴染の忍との関係性に悩みながら鬱々とする日々を過ごしていました。
ベルの数億人規模による初ライブが開催される日、ベルの歌う会場に背中に多くの痣がある謎のAs「竜」が乱入し、「U」を護る自警団を自称する組織「ジャスティス」との激しい戦いによってライブが中止となってしまいます。
翌日、ライブの中止に怒る弘香は竜の正体を突き止めるべく、過去に「U」内で竜と接触を持ったことのある人間に話を聞きますが、分かったことは抑圧された「強い暴力性」を秘めている人間だということだけでした。
「U」内の格闘技界で有名だった竜は、ベルのライブの騒動でさらに認知度を上げ、竜と似た痣のタトゥーを掘るアーティストやネット上で強い暴力性を見せる貴婦人、そして自身の裸身を決して見せようとしないメジャーリーガーなど、さまざまな人間が「竜の正体では?」と疑惑をかけられていきます。
ある日、弘香の見つけ出した情報から1人で竜の隠れ家とされる「城」へと向かったベルは、妖精のような姿をしたAIたちに行く手を阻まれながらもついに城へとたどり着き、その中で竜を見つけます。
竜はベルに対しても強い暴力性を露わにしますが、同時に他者を想う優しさも見せ、ベルは竜の抱える心の闇に触れようとする中でお互いを理解していきます。
現実世界では、すずは母を亡くしてから自身のことを常に心配してくれる忍を好きになる一方で、日陰の存在である自分が人気者の忍と釣り合わないことを理解していました。
底抜けに前向きゆえに、同級生から馬鹿にされているカヌー部の「カミシン」こと慎次郎と忍の帰り道に遭遇したすずは、忍とお似合いの存在である学校の人気者・瑠果に恋の相談を受けたことをきっかけに、忍に「もう構わないで良いよ」と吐き捨て泣き崩れてしまいます。
「U」の中で竜と関係を深めるベルでしたが、竜の隠れ家に出入りしていることを知ったジャスティスのリーダーであるジャスティンによって捕縛され、「U」内にて生成されたAsの姿を消滅させ、その「オリジン」=現実世界の本来の姿へと戻してしまう武器「アンヴェイル」を突きつけられ、竜の居場所を教えるよう脅迫されます。
ジャスティンは竜の「オリジン」にあたる人間の現実世界での姿を公に晒し、竜を社会的に抹殺しようと考えていましたが、ベルは竜を保護する役目を担っていたAIたちに助けられ、何とか窮地を脱します。
アニメ映画『竜とそばかすの姫』の感想と評価
現実と虚構を通じて描かれる「二面性」の物語
本作は『サマーウォーズ』と同様に「仮想空間」と「現実」を相互に描いた作品であり、設定の冒頭を聞いただけでは既視感を覚える方も多くいると思います。
しかし、本作では『サマーウォーズ』で描かれることのなかった匿名性の高いSNSにおける人間の闇が強く描写されており、「人間とその社会を学習し続けるAI」ではなく「人間同士」だからこそ起きる諍いが発生。
現実社会では大人しく真面目な人間が、匿名のインターネット上では攻撃的になるように、「自分」を形作っている人間関係を捨てることのできる場所では人はいつもは見せない別の顔を見せることがあります。
本作はそんな別の人間を演じることのできるインターネットにおける「二面性」を、仮想空間の中でのみトラウマを払拭できるすずのように肯定的に描く一方で、否定的にも描いており、『サマーウォーズ』の時代に比べ簡単にインターネットに触れることのできるようになった時代の心の変遷を鋭く映し出していました。
歌姫を演じる中村佳穂の歌声
仮想空間内において歌姫としてブレイクすることとなる主人公のすずを演じたのは、シンガーソングライターとして活躍する中村佳穂。
その歌唱力は無名の存在が「歌姫」になっていく様子に確かな説得力を持たせるに充分すぎるほどであり、主題歌を始め彼女の歌唱シーンは「歌」そのものがひとつの演出になっていると感じるほどでした。
物語の開始からラストまでベルの歌は定期的に劇中で披露され、声優や俳優ではなく、なぜシンガーソングライターが起用されたのかが構成から伝わってくる本作。
音楽映画として高音質かつ大音響で楽しむことのできる、劇場での鑑賞を強くオススメする作品です。
まとめ
映画『竜とそばかすの姫』は、夏映画の代名詞とも言える細田守監督らしく夏の描写にもとことんこだわった作品。
自然の生い茂る田舎の風景と夏を感じさせる広大な入道雲。
夏を迎えるたびに鑑賞したくなる、サマー映画の定番となること間違いなしの本作をぜひとも劇場でご覧になってください。