おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。
新米魔女キキの成長を描いた温かなファンタジー!
1989年に公開された、スタジオジブリ作品の5作目にあたる長編アニメーション映画『魔女の宅急便』。角野栄子の大人気児童小説を、宮崎駿監督が映画化しました。
家から旅立ち新たな街へと向かうキキの姿と共に流れるオープニング曲『ルージュの伝言』や、主題歌の『やさしさに包まれたなら』など、今なお親しまれている荒井由実の名曲が作品に温かみを与えます。
魔女の母親の血を継ぐキキ。古くからの言い伝えで魔女は13歳になると親元を離れ、一人で「自分の街」を見つけそこで修行をし、一人前の魔女になるという掟があります。
13歳になったキキは期待を胸に、海の見える街を目指して旅立ちます。たどり着いた街でキキは挫折したり、落ち込んだりしながらも人々に助けられて成長していきます。
思春期の少女と街の人々の交流を描いた温かなファンタジー作品です。
映画『魔女の宅急便』の作品情報
【公開】
1989年(日本映画)
【原作】
角野栄子『魔女の宅急便』(福音館書店)
【監督・脚本】
宮崎駿
【音楽】
久石譲
【主題歌】
荒井由実
【声のキャスト】
高山みなみ、佐久間レイ、山口勝平、加藤治子、戸田恵子
【作品概要】
角野栄子の原作小説は『魔女の宅急便』から始まり全6作に渡り、少女であったキキが魔女修行に旅立ち一人前になり、結婚などを経験していく35歳までの物語を綴っています。本作では、1作目の物語にあたる少女キキの旅立ちと成長の過程を描き出します。
本作は当初、宮崎駿が監督を務める予定はなく、別の若手監督が担当する予定だったとのこと。なお、その若手監督は『この世界の片隅で』(2016)の片渕須直でしたが、製作上の事情など紆余曲折を経て宮崎駿が監督を務めることになりました。
映画『魔女の宅急便』あらすじとネタバレ
魔女の母親の血を受け継ぐキキ。
古いしきたりで魔女は13歳になると、家を出て自分で街を見つけて住み一人前の魔女になるための修行をしなくてはなりません。
13歳になったキキは海が見える街を目指して期待を胸いっぱいに黒猫のジジと旅立ちます。南に向かっていると突如天気が崩れ大雨になってしまいます。
目の前にあった貨物列車の中に潜り込み、少し雨宿りするはずが干草の中で眠ってしまったキキ。翌朝貨物列車から出て飛び立ったキキの視界に大きな海が広がります。
やがて見えてきた大きな街を見て、この街に住むことを決めたキキ。街中を飛んでいると、魔女を見たことがない街の人は驚いてキキを見上げます。
すまして飛んでいたキキでしたが曲がってきたバスを慌てて避けてバランスを崩し、箒に乗ったまま道路に飛び出してまいます。降り立ったキキは駆けつけた警官に親の連絡先を聞かれてしまいます。
返答に困っていたところどこかで「ドロボードロボー」という声が聞こえ、警官はその声のする方に向かっていきます。
その隙に抜け出したキキに自転車に乗った少年・トンボが声をかけてきます。少年はキキを助けるためドロボーと大声を上げたといい、キキに「君魔女だよね?箒見せてよ」と質問攻めにします。
キキは怒って「助けてくれてありがとう。でも助けてなんて頼んでないわ。それによく知りもしない女性に声をかけるなんて失礼だわ」と言い放ちます。その後、事情を説明しても未成年では泊めてくれるところはなく、途方にくれてしまいます。
そんな時、パン屋のおソノさんが店から出てきて赤ちゃんのおしゃぶりをもち、「奥さーん忘れ物!」と叫んでいます。その視界の先には乳母車を押した女性の姿があります。
届けに行かなくてはと困っている姿を目にしたキキは私が届けにいきますと声をかけ箒に乗っておしゃぶりを届けにいきます。届けにいき帰ってきたキキとお茶をして事情を知ったおソノは、部屋が余っているから使うといいと快く部屋を貸してくれます。
パン屋で住むことになったキキは、宅配便の仕事を始めるつもりだとおソノに言うと、時折パン屋で店番をすることを条件に電話を使っていいと言います。そんななか、キキに初めてのお客さんがやってきます。
甥っ子の誕生会に行けなくなってので代わりにプレゼントを届けてほしいというものでした。
張り切って荷物を届けに行こうとする途中、突風に巻き込まれキキは森の中に落ちてしまいます。なんとか抜け出したものの、プレゼントの猫のぬいぐるみを森の中に落としてしまいます。
探している時間もなく、困ったキキはしばらくの間ジジにぬいぐるみの身代わりになってもらい、ぬいぐるみを探しに森に戻ります。探していると森の中にある小屋の中にぬいぐるみを発見します。
そこにいたのは画家の少女・ウルスラでした。落ちた時にやぶけてしまったぬいぐるみをウルスラが直し、その代わりにキキは小屋の掃除をします。すっかり打ち解けあい、キキはまたここに来ると約束し、ぬいぐるみを持ってジジを助けに行きます。
キキは、初めての仕事を終え、少しずつ新しい街での暮らしに慣れてきます。
ある日パン屋で店番をしているとトンボがやってきて仲間内でやるパーティに来てくれないかとキキを誘います。そっけない態度をしながらもパーティに誘われキキはうきうきしています。
運んで欲しいものがあるので来てほしいと頼まれた家に向かうと、優しそうな老婦人とバーサが出迎えます。孫の誕生会にニシンのパイを持っていこうと思ったけれどレンジが使い物にならないので諦めて料金だけ払うという老婦人にお金だけなんてもらえないとキキは薪のオーブンで焼いたらどうかと提案し一緒に焼きます。
パーティまでまだ時間があるから大丈夫だとゆっくりしていたキキでしたが老婦人が「大変!この時計10分遅れているの」と言うと慌ててパイを届けに飛び立ちます。
向かう途中雨に降られ、びしょ濡れになりながらもパイが冷めないように注意して届けます。しかし孫は「このパイ嫌いなのよね」と心優しい老婦人の手作りのパイを全く喜んでいません。
パーティの約束の時間はもう過ぎ、沈んだ気持ちで家に向かいます。翌日キキは高熱を出してしまいます。落ち込んで熱を出し弱気になっていたキキでしたが、熱が下がると少し元気を取り戻します。
そんなキキにおソノが届け物をお願いします。近くだからと箒に乗らず歩いて向かうとその届け先はトンボの家だったのです。
映画『魔女の宅急便』感想と評価
13歳で親元を離れ、新たな街で独り立ちしようとするキキの奮闘と街の人々との交流を描いたアニメーション映画『魔女の宅急便』。
期待を胸に海の見える街にやってきたキキですが、大きな街で魔女は珍しく交通整備の発達した街中を飛んでいたキキは道路に飛び込み混乱を巻き起こしてしまいます。
もともとキキが生まれ育ったのは小さな田舎の街で発展した近代的な街ではありませんでした。キキがたどり着いた海の見える街で見かける白黒テレビや飛行船、車の様子などから本作の時代設定は1930〜1940年ごろではないかと推測できます。
最初にキキが街にやってきたときに話した時計塔のおじいさんは、魔女のことを「近頃はとんと見かけなくなった」と言っています。発展した大きな街はキキが生まれ育ったところと違い、魔女を受け入れる土壌がなかったとも受け取れます。
キキはおソノとの会話でも「この街の人は魔女のこと好きじゃないみたい」と落ち込んだ様子で話しています。それに対し、おソノは「大きな街だからね、いろんな人がいるよ。でも私は気に入ったよ」と言ってくれます。
挫折と人々の助け、2つのキーワード
キキはおソノさんをはじめとした人々に受け入れられて、少しずつ街に馴染んでいきます。宅急便の仕事もはじめ順調に向かっていくかのように見えた矢先、キキは大きな壁にぶつかり挫折してしまいます。
宮崎駿監督作品では、登場人物が試練を乗り越える様を題材にすることが多く、本作もキキが挫折から立ち直る姿を描いているといえます。
挫折したキキは魔法の力が弱くなり、ジジの言葉もわからず、箒で飛ぶのも難しくなってしまいます。ではなぜ挫折してしまったのでしょうか。
様々な要因によりキキは自信を失くしてしまったと考えられ、その大きな要因は仕事で落ち込んだことと、トンボとの関係性にあると考えられます。
宅配便の仕事を通じて様々な人と交流していたキキですが老婦人が焼いたパイを受け取った孫が何気なく放った「このパイ嫌いなんだよね」という言葉にひどく傷ついた様子が伺えます。
最初は機械の故障でパイを届けるのを諦めていましたが、キキが率先して手伝い共に焼き上げたパイが全く歓迎されなかったことに否定されたような悲しい気持ちになり、自分の仕事に対する自信も失ってしまったのかもしれません。
キキとトンボとの関係
もう一つはトンボとの関係性です。最初は突き放していたキキですが、パーティに誘われるととても喜び楽しみにしています。海の見える街に着いてからキキは何度もトンボやその仲間たちの姿を見かけ、トンボが話しかけては素っ気ない態度をとってしまいます。
しかしそれは本当は仲良くなりたいけれど、なかなかうまくいかない気持ちの表れでもあるのでしょう。新たに街にやってきたキキは同世代の友達がいません。
だからこそ友達が欲しいという気持ちからトンボが話しかけてくれることに嬉しいという気持ちはあれど、仲間と共にいるトンボに対して疎外感などを感じ冷たくしてしまうのです。
原作ではトンボとキキはさまざまな出来事がありつつも結婚していますが、本作の中では明確に恋愛感情として描こうとはぜず、好意が完全にないわけではないけれど友情とのはざまの曖昧なまま描いています。それは13歳という思春期の年代ならではなのかもしれません。
そのような要因から自信を失くしていたキキが、立ち直りまた頑張ろうと思えたのは、周りの人々の支えと絆でした。
落ち込んでいるキキを連れ出し小屋に泊めたウルスラはかつて自身も同じように悩み、画家になろうと決めたことを話し、誰しもが落ち込み挫折しながらもいつかはまた頑張れるとキキを勇気づけます。
また、老婦人もキキにお礼としてケーキを焼いてくれます。配達の仕事で出会った人々の優しさに触れキキは思わず涙します。パイのこともあり自信を失くしていたキキが自分の仕事の意義を再び見出していく瞬間でもあります。
クライマックスのトンボを助けにいく場面で、キキはトンボを助けたい一心で弱まっていた魔力を取り戻し、トンボを助けにいきます。更にそんなキキとトンボを街中の人が「頑張れ!」と声援を送っています。
最初は魔女であるキキをもの珍しく見ていた街中の人々が一体となって応援している姿は、キキがその街の一員として認められた証でもあるのでしょう。両親に手紙を出したキキの、挫折を乗り越えまた明日に向かっていく姿に、見ている私たちも元気をもらえます。
まとめ
13歳のキキの旅立ちと新たな街での奮闘。キキの成長の証として、黒猫のジジとの関係も浮き彫りにされました。
魔力が弱くなってからキキはそれまで普通に話していたジジの言葉が分からなくなります。魔力が弱くなったからと考えられましたが、魔力が戻ってからもジジとは会話ができません。
その理由について、数多くのスタジオジブリ作品のプロデューサーを務めてきた鈴木敏夫は「キキが猫のジジと話せていたのは、キキにとってのジジが“もう一人の自分自身”でもあったため」と語っています。
キキから「自己との対話相手」として認識されていたジジが、彼女の精神的成長を経てその役目を終えた。キキの大人への成長の証が「猫のジジと話せなくなる」という形で表現されているのです。
大人への階段を一歩あがり、ひたむきに頑張るキキ。そこには、落ち込んだ時に勇気づけてくれる温かさがあります。
そんな温かい映画を彩る荒井由実の名曲も外せません。
旅立つキキの心情を表したような歌詞が印象的なオープニング曲『ルージュの伝言』は、思わず旅に出たくなるようなわくわくするメロディーになっています。
エンディングに流れる『やさしさに包まれたなら』も優しく、勇気づけてくれるような素敵な曲です。
キキのまっすぐさと優しい荒井由美の名曲に落ち込んでも頑張っていこうと思える映画『魔女の宅急便』は公開から30年余り経った今も人々に愛されています。