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Entry 2021/09/19
Update

『心が叫びたがってるんだ。』ネタバレ結末感想とあらすじ考察。青春アニメとして甘さと苦さで心の葛藤を描く

  • Writer :
  • 大塚まき

『あの花』に続く秩父三部作の第2弾

監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀の3人が再結集して制作された“秩父三部作”の第2弾『心が叫びたがってるんだ。』。

大ヒットを記録した『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013)であの花現象を巻き起こした制作チームが再び秩父を舞台にオリジナルの青春群像劇を描き出します。

誰もが一度は聞いたことのある「悲愴」や「Over the Rainbow」「Around The World」といった名曲のアレンジが物語とともに響き渡ります。

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映画『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の作品情報


(C)KOKOSAKE PROJECT

【公開】
2015年(日本映画)

【英題】
The Anthem of the Heart

【監督】
長井龍雪

【脚本】
岡田麿里

【キャラクターデザイン・総作画監督】
田中将賀

【音楽】
ミト(クラムボン)

【声のキャスト】
水瀬いのり、内山昂輝、雨宮天、細谷佳正、藤原啓治、吉田羊

【作品概要】
秩父を舞台にしたアニメ‟秩父三部作”の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』。

第2弾となる本作は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』に続く監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀の3人が結集し(超平和バスターズ)、再び秩父を舞台にした完全オリジナルストーリーの青春群像劇。

声の出演は、成瀬順役に水瀬いのり、坂上拓実役に内山昂輝、仁藤菜月役に雨宮天、田崎大樹役に細谷佳正らが務めました。

主題歌は、乃木坂46の『今、話したい誰かがいる』。第39回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞です。

映画『心が叫びたがってるんだ。』あらすじとネタバレ


(C)KOKOSAKE PROJECT

夢見がちな少女・成瀬順は、いつしか素敵な王子様と山の上の舞踏会へ行くことに憧れていました。

順は小学校の帰り道に憧れている山の上に建つお城に向かい、そこから父が運転する車を目撃します。助手席には知らない女の人が座っていました。

そのお城がラブホテルだと知らない順は、無邪気に山の上のお城から父が出てきたことを母に話します。

母は、それ以上しゃべっちゃだめ、誰にも話さないでと、作っていた玉子焼きを順の口に入れて口止めしました。

家を追い出された父を止めようとする順に「ほんとにおしゃべりだな、全部おまえのせいじゃないか」と言われ、激しく動揺します。

そんな順の前に突然現れた“玉子の妖精”に、この先お喋りで不幸にならないように、お喋りを封印され、言葉を発するとお腹が痛くなるという呪いをかけられます。

それ以来、心も閉ざしたまま高校二年生になった順はある日、担任教師の城嶋から地域ふれあい交流会の実行委員に任命されます。

他に一緒に任命されたのは、全く接点ない坂上拓実・仁藤菜月・田崎大樹の3人。実行委員一回目の会合は、放棄した田崎以外の三人と城嶋での話し合いとなりました。

合唱や朗読を提案しますが、城嶋の思惑により、ミュージカルが出し物の候補に上がります。何も喋らない順でしたが、拓実から「もしかして、ミュージカルやりたかったりする?」と聞かれます。

自分の心を見透かされたように感じた順は、拓実に喋れなくなった事の成り行きを携帯のメールを通して打ち明けました。

交流会の出し物について、クラスメイトたちににミュージカルの案を出してみますが、乗り気ではない様子。

拓実のアドバイスでメロディーに言葉をのせて歌えば、お腹も痛くならないことに気づいた順は、幾ばくかの変化に嬉しくなります。

しかし、喋れなくなった順のことを母は、みっともないという言葉を投げつけました。

心の中で爆発しそうな感情を物語にする順。自分の身に起こったことをベースに物語を作った順は、それを歌にしてほしいと拓実の元を訪れます。

拓実は必死に喋りたいことを表に出そうとしている順の姿を見て、交流会でミュージカルをするため、自身が所属するDTM研究会の仲間である岩木と相沢に協力を仰ぎます。

菜月にも、交流会でミュージカルをすることを話すためにファミレスに呼びます。

そこにやることもないからと大樹も便乗し話しをしていると、野球部の後輩たちが大樹がいることを知らずに、大樹への文句を言いながら近くの席に座りました。

大樹は後輩たちに声をかけますが、その中の一人が大樹に向かって罵声を浴びせます。

ショックを隠せない大樹が呆然としていると「言葉は傷つけるんだから、絶対に取り戻せないんだから」と順が叫んでいました。

言い終わるか否かで、腹痛に襲われる順。病院へかけつけた母からは、心無い言葉をかけられますが、拓実が順をかばうように間に入りました。

病院からの帰り道に拓実と菜月は、順のように言いたいことがあるのに言えないことに共感し、がんばって自分の言葉を表に出そうしている順を応援しようと話します。

甲子園前に肘を負傷した元エースの大樹もまた、自分の身勝手な振舞いを改心しようと前に進む決心をし、交流会の実行委員にも参加表明します。

交流会の実行委員がオリジナルのミュージカルをやってみようと改めて、クラスメイトたちに話します。

オリジナルのミュージカルよりもっと簡単なものでいいよと不平・不満をこぼす意見が多い中、拓実と菜月の説得からクラスの雰囲気が変わりはじめ、予算がでることも知ったクラスメイトたちの反応が面白そうだからやってみようと動き出し、それぞれができる範囲でやればいいということでミュージカルに決定します。

実行委員たちはメインを担うことになり、ヒロイン・少女役を順、玉子役を大樹、王子役を拓実、コーラスと罪人役を菜月という配役に。

振付、音楽、衣装、メイク、美術、照明、大道具などの役割分担も決まり、各パートに分かれて着々と準備が進められていきます。

ラストの曲が「ピアノソナタ第8番 悲愴」に決まり、発表に向けてあとひと踏ん張りの時、拓実の両親が離婚していたことを知った順。

順は、ミュージカルで少女が刑死する結末をハッピーエンドに変えたいと拓実に持ちかけます。

拓実は、元の曲にのせた歌にも順の気持ちがこめられているなら両方を生かしたいと言い、「Over The Rainbow」の曲に重ねてアレンジする案を出します。

順の気持ちをいつも汲み取ってくれていた拓実の期待に応えるように、順は心に閉じ込めていた気持ちを歌にしようと決心します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『心が叫びたがってるんだ。』ネタバレ・結末の記載がございます。『心が叫びたがってるんだ。』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)KOKOSAKE PROJECT

しかし、交流会前日の夜、偶然にも拓実と菜月の会話を聞いてしまい二人の関係を知った順は、居たたまれずに一人で学校から走り去ります。

再び順の前に姿を現した”玉子の妖精”に、君は心がお喋りすぎると告げられます。交流会当日、順はクラスに現れず拓実の元にヒロインをできないことを詫びたメールをし、行方をくらませてしまいます。

開演時間が近づく中、順の不在に他のクラスメイトたちは動揺し、順への不信と不安をこぼします。拓実は順がいなくなったことをクラスメイト詫び、自ら順を探しに行くことを申し出ます。

これに同意した大樹は、拓実と順の出番に代役を立てて乗り切るプランを出し、拓実を送り出しました。ヒロインの少女役を菜月が演じる形でミュージカル『青春の向う脛』が開演します。

客席に来ていた順の母は順が舞台にいないことで「やっぱり、ダメなんじゃない…」とつぶやきます。必死で順を探す拓実は、廃墟になっていた山の上のお城(ラブホテル)の一室で順を見つけます。

「喋ったりするから不幸になった、言葉は人を傷つける」と主張する順に、拓実は「傷ついていいから、おまえの本当の言葉、もっと聞きたいんだ」と話しかけます。

順は拓実を傷つける言葉を叫び、拓実はそれをすべて受け止めます。

拓実は順に「お前と会えてうれしい」「お前のおかげで、俺、いろいろ気づけた気がする」と話し、それを聞いて順は立ち直ります。

順は最後に拓実に好きな気持ちを伝え、拓実は感謝しながらもほかに好きな人がいると返事をします。

舞台はすでに中盤も過ぎていましたが、城嶋の発案で少女の「心の歌声」として順が歌いながら会場の観客席通路を歩いてステージにあがります。客席にいた順の母は、思わず涙をこぼします。

楽屋に戻った順はクラスメイトから戻ってきたことを温かく迎えられ、順は「玉子なんでいなかったんだ、呪いをかけたのはわたし、玉子はわたし、玉子に閉じこもっていた私自身」ということに気づきます。

ラストの合唱で観客席からは大きな拍手が送られ、ミュージカルが終幕します。

交流会の後片付け中に、大樹は順に告白をし、顔を真っ赤にする順に風が吹きあがり、“玉子の妖精”の帽子が落ち葉と一緒に飛ばされていきました。

「玉子の中には何がある、いろんな気持ちを閉じ込めて、閉じ込めきれなくなって、爆発して、そして生まれたその世界は思ったよりきれいなんだ」と順と拓実の声が響きます。

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映画『心が叫びたがってるんだ。』感想と評価


(C)KOKOSAKE PROJECT

憎きも可愛い玉子の妖精とは?

王子様とお城の舞踏会に行くことを憧れる少女・順は、メルヘンな世界を夢見ますが、現実の世界では、素敵なお城と思っていた建物はラブホテルで、そこから出てきた父のことを母に伝えてしまったことから、取り返しのつかない道を進むことになります。

トラウマから生まれた“玉子の妖精”は、呪いをかけるという憎き存在でありながら、可愛らしい姿です。

だからこそ、順が空想していたメルヘンの世界で“玉子の妖精”が生み出され、その世界ごと自ら封印したのだろうと想像できます。

そして順がはじめて自分の想いを物語に書き起こし、ミュージカルとして歌にのせておくことで、封印されていた内面の世界が徐々に露わになっていきます。

また拓実への恋心を自覚した順は、封じ込めていた心の声が騒ぎ出すことに戸惑います。そんな葛藤と相まって、“玉子の妖精”が再び現れます。

この“玉子の妖精”の言動がコミカルさを含んでいるからこそ、無機質な玉子に愛着と脅威を感じるのです。

登場人物たちのそれぞれの葛藤や背景にフォーカスし、現実世界を舞台にするストーリーは、実写っぽさを漂わせますが、唯一無二の“玉子の妖精”の存在が、アニメならではの魅力を放っています

それぞれの葛藤を名曲とともに描く


(C)KOKOSAKE PROJECT

順や拓実、菜月、大樹たちのそれぞれの葛藤はとても身近なものに感じます。自分の内側と外側の世界をつなぐものは、結局のところ他者でしかありえません。

他者がいるから他者とつながりたいから、自分の内側にあるものをどうにか表に出そうとします

どこかでそんなつながりを億劫がっていたり、傷つくことを恐れて怯えていたり、自分の中にある感情に見て見ぬふりをする。それでもその葛藤を抱えながら、誰かと通じ合いたいと願っている小さな自分を発見したいと登場人物たちとともに見ている側も一緒に気持ちを重ねます。

順たちがヒリヒリとした痛みを隠さずにさらけ出し、自分の殻を破ることができたのなら、その先に見えた世界は、思ったよりいいかもしれないと思わせてくれる映画でした。

そして、誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々が繊細でありながら、大胆なアレンジを効かせて心に響かせます。

また、劇中のクラムボンのミトによる挿入歌も、作品の雰囲気と登場人物の心理描写をすくいとり、思春期に誰にでも起こりえる葛藤のざわめきを感じさせます。

まとめ


(C)KOKOSAKE PROJECT

主要なキャラクターの声優には、水瀬いのりが主人公・成瀬順を、喋ることができないもどかしさを垣間見れる高い演技で、命を吹き込みました。

物静かなでピアノや歌をさらりとこなす面をも持ちわせる坂上拓実と、愛らしい姿で脅威をさらす玉子の妖精の二役を見事に演じた内山昂輝。

チアリーディング部の部長で、クラスの中心人物である仁藤菜月を落ち着いた存在感を強めた雨宮天。

気性が荒く口が悪いところがあるが、野球一筋で真っ直ぐな性格の田崎大樹を、直球にぶつけた細谷佳正といった面々が、物語を彩ります。

本作はただ誰かを好きと言いたいという気持ちだけで、人が変われたり、救われたりする、そんな脆くも真っ直ぐで、青春特有のなんとも形容しがたい胸の内の感情にスポットを当てたアニメ映画と言えるでしょう。



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