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Entry 2018/11/30
Update

映画『斬、』あらすじと感想レビュー。塚本晋也が『野火』の続編として描くテーマとは

  • Writer :
  • 白石丸

『野火』で第2次大戦を描いた塚本晋也監督。

本作『斬、』は監督の初の時代劇で「刀と刀による殺し合い」の映画です。

暴力を恐れながら暴力に惹かれてしまう男、鉄と合体しそうになる男という、塚本監督が一貫して描いてきた“あるテーマ”が本作にも盛り込まれています。

世界に名立たる鬼才の待望の新作『斬、』を解説していきます。

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映画『斬、』の作品情報


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
塚本晋也

【キャスト】
池松壮亮、蒼井優、塚本晋也、中村達也、前田隆成

【作品概要】

『鉄男』『双生児』『バレット・バレエ』などで世界的なファンが多い鬼才・塚本晋也監督の初の時代劇となる最新作。

『野火』で第2次対戦という人類史上最悪の争いを描いた監督が、さらに昔の原始的な武器「剣」による暴力を描いた一作です。

暴力と殺し合いを恐れながら一線を超えてしまう男を塚本組初参加の池松壮亮が演じています。

蒼井優、オーディションで選ばれた前田隆成、『バレット・バレエ』『野火』に続いて異彩を放つ中村達也、そして俳優としても活躍をする塚本監督が出演し、それぞれ強烈な怪演を見せました。

2017年12月に亡くなったインダストリアルミュージシャン石川忠の遺作でもあり、塚本ワールドを象徴する異様なテンションの音楽を鳴り響かせています。

映画『斬、』のあらすじ


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

幕末のとある農村。

浪人の都築杢之進は、とある一家の農作業を手伝いながら長男の市助に剣術指南をしていました。

市助の姉、ゆうは杢之進に恋心を抱いていました。

杢之進たちが特訓していたのは、外国勢力の存在に揺れる世の役に立とうと、侍として参戦するため。

そんなある日、村に澤村次郎左衛門という男が現れます。

彼は杢之進たちの目の前で別の侍と果し合いをして、一瞬で相手を仕留めます。


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

澤村は京に組を作って武功を立てに行く目的を持っており、杢之進と市助を勧誘してきます。

ゆうの反対も聞かず、彼らはまたとないチャンスに浮き足立ちます。

しかし杢之進は腕前は確かですが、真剣を握ると体の震えが止まらないという問題を抱えていて、どうしても治りません。

そんな中、村に悪名高い浪人たちがやってきました。


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

怖がる農民を落ち着かせながら、杢之進は浪人とあくまで話し合って事態を収めようとします。

浪人の頭領は杢之進に「俺たちは悪い奴にしか悪いことはしねえんだ」と言い、過去の悪事を平気で語りだします。

しばらくは大人しくしていた浪人たちでしたが、ある日、市助が彼らに暴行を加えられ、ひどい有様で帰ってきます。

その時に、熱で寝たきりになっていた杢之助。

澤村は「市助はもう仲間だ。黙ってられません。」と無頼漢たちのところに出向きます。

彼は1人を残して浪人たちを始末しますが、それが新たな争いの火種となってしまいます。

杢之進は刀への、そして人を殺すことへの恐怖を持ったまま、暴力の連鎖に巻き込まれていき…。

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映画『斬、』の感想と評価


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

鉄=暴力と一体化する男の物語

塚本晋也作品には必ず「鉄」というモチーフが出てきます。

彼の映画で鉄というのは人間の暴力性を拡大させたものとして描かれています。

そして塚本作品の主人公は鉄と一体化して、暴力の一線を超えてしまうか否かの瀬戸際に追い込まれます。

デビュー作の『鉄男』では主人公は鉄と一体化して終わります。

『バレット・バレエ』では恋人に拳銃自殺された男が自ら鉄から拳銃を作り、その危険な魅力に取り込まれていきます。

そして監督の前作は、市川崑監督の『野火』の再映画化。第2次世界大戦という、鉄の武器による人類史上最大の殺し合いです。

それによって『野火』の登場人物は仲間の肉を食べなければ生きていけないほどの極限状態に追い込まれます。

『野火』は主人公が、戦地での罪を浄化させようとするかのように、火の前で一心不乱に祈りを捧げているシーンで終わります。

対して本作『斬、』は、火の中から鉄が取り出され鍛えらえれて刀へと変わっていくシーンから始まります。

近代兵器による戦争から、人類最古の鉄の武器「刀」での個人の闘いの物語へ、火を通してタイムスリップしたかのようです。

『野火』ではひたすら戦争というものの恐ろしさ、虚しさを描いていましたが、『斬、』では、なぜ人は恐ろしいと思いながら殺し合いをしてしまうのかを考える作品となっています。


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

『斬、』の主人公杢之進は武士としては優秀ながら、恐れから真剣を持って人を殺すことが出来ない男。

しかし彼はただの平和主義者ではなく、刀の危険な魅力にとり憑かれているように見えます。

とあるシーンで杢之進は「私も人を斬りたい」と何回も連呼しています。

冒頭で澤村が果し合いの相手を殺しているのを見たとき、明らかに興奮しているのも示唆的です。

人間は恐れながらも武器や暴力に心惹かれてしまうもの。

250年間平和な江戸時代を過ごしてきた日本人も暴力によって開国を迫られ、自分たちも暴力の世界に入って『野火』の悲劇まで行ってしまいます。

また、傍から暴力を見ているときは楽しんでいるのに、実際に自分がそれを振るう側や晒される側になると恐れおののいてしまう人間。

それは、普段アクション映画などで暴力を娯楽として見ている我々観客のことでもあります。

そんな人間たちに「実際に暴力を振るうというのはこういうことだ」と嫌というほど見せつけてくるのが本作。

刀はただ構えただけでギチギチと不吉な鉄の音を鳴り響かせ、妖しげな光を放ち、「こんなものを人に振るったら大変なことになる」と感じるように描かれていますし、斬り捨てられた無残な死体も包み隠さずに即物的に画面に映ります。

本作の時代劇らしからぬビデオのような画面も、劇中で起きる惨劇の即物性を高めるという意味で効果的です。

一度人を殺したらもう普通の世界には戻ってこられない。

澤村が、散々悪行の限りを尽くしてきた浪人たちを斬った時に「今までの人生を振り返ってください」と悔恨させるための時間を与えるのも、人を殺すことの罪深さを表しています。

そして人を殺められないことを情けないと主人公に思わせてしまう時代の異常さ、自分の背負った罪を自覚しながら淡々としている澤村のような人間の恐ろしさも描いています。

塚本監督は杢之進を現代の普通の若者が江戸時代にタイムスリップしたかのように描きたかったと語っています。

そんな普通の若者が“鉄”と一体化し、ある一線を越えるまでの物語です。

暴力と裏表の性欲


(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

塚本作品では暴力衝動というのは性欲と不可分なものとして描かれます。

どちらも人間の本能的なものですから必然性があります。

『鉄男』では、股間が鉄のドリルに変わった主人公が恋人を刺し殺し、最後は全身鉄の塊と化して「ヤリまくるぞ~!!」と叫んで終わります。

『斬、』の主人公である杢之進は、ヒロインのゆうの恋心に気づいていながら、彼女とは壁の隙間越しに指を舐めさせる程度の行為しかできず、真剣を振るう訓練をした後も自身の恐怖心を収めるかのように自慰行為に耽ります。

本作のモチーフである刀をはじめ、拳銃、ミサイルといった兵器にいたるまで、塚本作品に限らず武器というものは男根と重ね合わせて語られることが多いもの。

武器を人に向けられない、人を殺せない杢之進=性的に不能ということがわかります。

そんな彼も浪人たちとの争いの中で、ゆうが犯されているのを見た時についに暴力に目覚めますが、結局人を斬ることはできません。

その直後にゆうを救って浪人たちを全員始末するのは澤村です。

男を知ったゆうも、今度は暴力=性欲を他人に向けられる大人の男である澤村にアプローチをかけ始めます。

澤村のやっていることは肯定できませんが、清濁併せ吞んで事態を解決できる存在です。

そんな大人になることを拒み続けた杢之進も、暴力には暴力でしか対抗できないことを学んでいきます。

暴力を行使し始めたら人間は行くところまで行くしかない。

『野火』とは違うベクトルではありますが、本作も反戦映画であり、暴力と性についての映画でもあり、塚本監督にしか撮れない映画になっています。

まとめ

『野火』が公開された2015年は終戦70年目、そして『斬、』が公開された2018年は明治維新から150年目

塚本監督はいずれもただの過去の話ではなく、現在の世の中を映す物語として捉えています。

人間とは切っても切り離せない暴力と、それに対する憧憬の心。

本作は時代劇として、ストレートにかっこいいと魅入ってしまう殺陣のシーンもあります。

まずは真正面からこの映画を鑑賞し楽しんでいただき、そしてどう楽しんだのか、なぜ楽しんだのかを考えてみてはいかがでしょうか。

映画『斬、』塚本晋也監督インタビュー|時代劇で現代を描いた真意とは



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