『ノー・ウェイ・ホーム』に登場した
「スパイダーマン」シリーズの歴代ヴィランを徹底解説!
2022年1月7日に公開された『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』(以下、『ノー・ウェイ・ホーム』)では、「スパイダーマン」シリーズ、「アメイジングスパイダーマン」シリーズと過去のスパイダーマン映画から多くの敵キャラクター“ヴィラン”が登場し、多くのファンを驚かせました。
いずれもスパイダーマンを代表する強敵たちですが、過去作の設定を忠実に再現しているのはもちろん、本作ならではの変化もあり、ファンにとってはたまらない演出になっています。
この記事では2002~2006年に公開されたトビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」シリーズから登場したヴィランをシリーズオリジナル版での活躍も含め、ヴィランごとに解説していきます。
CONTENTS
グリーン・ゴブリン:『スパイダーマン』(2002)
グリーン・ゴブリンはトビー・マグワイア版スパイダーマンの第1作『スパイダーマン』(2002)に登場。原作コミックでもスパイダーマンの宿敵として多くの作品で登場し、スパイダーマンを象徴するヴィランとなっています。
劇中では『プラトーン』『スピード2』などで知られるウィレム・デフォーが、グリーン・ゴブリンことノーマン・オズボーンを演じています。
グリーン・ゴブリンは「グライダー」と呼ばれる遠隔操作可能な小型飛行機を操って自在に飛び回り、野球ボール大の手りゅう弾やグライダーに装備されたマシンガンやミサイルでスパイダーマンを苦しめました。
『スパイダーマン』でのグリーン・ゴブリン
ノーマンは軍需企業オズコープ社を一代で一流企業まで成長させた起業家であり、優秀な科学者でもありました。またピーターの親友・ハリーの父親であり、有望なピーターに父親のように接していました。
そんなノーマンは、社の命運をかけた身体能力強化薬の研究資金を軍から打ち切られそうになり、その成果を出すために未完成の強化薬を自身に注入。副作用で残忍で凶悪なもう一つの人格「グリーン・ゴブリン」が芽生え、ノーマンの人格を徐々に侵食。最後には完全にノーマンを乗っ取り、ニューヨークで破壊の限りを尽くそうとしました。
また狡猾な性格により、劇中では火事に逃げ遅れた一般市民を装ってスパイダーマンをおびき寄せたり、スパイダーマンの正体がピーターだと知った際には、ピーターが思いを寄せるMJを誘拐し人質に取りました。
そんなグリーン・ゴブリンの最期は、スパイダーマンに追い詰められるもノーマンの元の人格を装って助命を乞い、その隙にグライダーを操作しスパイダーマンを背後から襲わせようとしますが、スパイダーマンはスパイダーセンスで危険を感知して回避。グライダーはそのままグリーン・ゴブリンに衝突し、グライダーに装備された刃で串刺しになり絶命します。
『ノー・ウェイ・ホーム』でのグリーン・ゴブリン
『ノー・ウェイ・ホーム』では、ノーマンが自我を保っている際にグリーン・ゴブリンに怯える様子が描かれ、『スパイダーマン』劇中では描かれていなかったもののノーマンの苦悩と恐怖が時を経て表現されていました。
また、本作のピーターがヴィランを治療すると宣言した場面で協力を申し出る際の「私も科学をやっている」というセリフは、『スパイダーマン』劇中で「スパイダーマン」シリーズのピーターと初めて出会った際のセリフであり、本作のピーターと研究を進める中でその才能を評価する様子は、『スパイダーマン』で描かれた二人の本来の関係性と重なり、感慨深い演出でした。
そして中盤、『ノー・ウェイ・ホーム』のピーターがグリーン・ゴブリンの本性に気付く場面では、これまでの穏やかなノーマンの表情が一変。薄気味悪い残忍な笑みを浮かべるグリーン・ゴブリンの姿には、演じるキャラクターの性格を見事に表現するのに定評のあるウィレム・デフォーの真骨頂を感じるとともに、狡猾なグリーン・ゴブリンらしいストーリー展開にファンの多くは度肝を抜かれ、キャラクターの理解の深さに感嘆した人も少なくないようです。
さらにクライマックスのバトルシーン、本作のスパイダーマンと一対一で戦う場面では、右手に仕込んだ短剣を披露しています。
こちらは『スパイダーマン』では登場していませんが、シリーズ三作目にあたる『スパイダーマン3』において、ノーマンの息子・ハリーが「ニューゴブリン」としてスパイダーマンと戦う際、右手に複数の刃が付いた武器を使用しています。
ニューゴブリンのスーツはグリーン・ゴブリンのスーツをアップグレードしたものという設定だったため、元々グリーン・ゴブリンのスーツに仕込まれていたものかもしれません。
ドクター・オクトパス:『スパイダーマン2』(2004)
ドクター・オクトパスは「スパイダーマン」シリーズの第2作『スパイダーマン2』(2004)に登場しました。
原作コミックスでは前述のグリーン・ゴブリンに並び人気の高いヴィランで、時にスパイダーマンを助けたり、スパイダーマンことピーターの叔母・メイと婚約したり完全な悪役としては描かれていないのも特徴的なヴィランであり、「ドック・オク」の愛称でも親しまれています。
劇中では『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』でデビューを飾り、『ダ・ヴィンチ・コード』などで知られるアルフレッド・モリーナがドクター・オクトパスことオットー・オクタビアスを演じています。
ドクター・オクトパスの最大の特徴である背中から伸びる4本のアームは、それぞれに人工知能を搭載し自律起動をしており、アームの先端が三つ爪になって物をつかんだり壁をよじ登ったりすることができるほか、スピアや触手のようなワイヤーも装備されているなどの変幻自在な攻撃により、スパイダーマンを苦しめました。
『スパイダーマン2』でのドクター・オクトパス
天才物理学者であるオットーは、ノーマンの死後にオズコープ社を引き継いだハリーから資金援助を受け、核融合による新エネルギーの開発を行っていましたが、実験中に装置が暴走したことで爆発事故を起こしてしまいます。
その時、オットーが作業効率を向上させるために開発し、実験時も自らの肉体に装着していたマシンアームに搭載された人工知能も破損・暴走。オットーの人格を凶暴なものに変貌させます。
凶暴化したオットーこと「ドクター・オクトパス」は自身の実験を成功させることに取り憑かれ、資金や実験に必要な研究資材を集めるために至る所を襲撃。その後、実験に必要なトリチウムという希少金属を得るため、スパイダーマンを父の仇と思っているハリーと取引し、「スパイダーマンの専属カメラマン」として収入を得ていたピーターを襲いかかります。
その襲撃時に偶然居合わせたMJを人質にとり、彼女を助けにきたスパイダーマンを拘束。彼をハリーに引き渡してトリチウムを手に入れると、再び実験を行おうとします。なおこの時、ハリーはスパイダーマンの正体が親友・ピーターであったことを知りますが、MJが人質になっていることを知り解放します。
ドクター・オクトパスは実験を再開しますが、実験を止めようと駆け付けたスパイダーマンと最後の戦いに臨みます。その戦いの最中に装置は再び暴走し、ニューヨークの消滅を避けるため、スパイダーマンは自ら正体を明かし、ピーターとしてドクター・オクトパスを説得。その言葉に純粋な科学者であったオットーの自我が目覚め、ニューヨークを救うため装置と共に川へ沈んでいきました。
『ノー・ウェイ・ホーム』でのドクター・オクトパス
『ノー・ウェイ・ホーム』に登場したヴィランの中では当初最も反抗的で、本作のピーターが提案した治療も一人反対するほどでしたが、本作の世界へ現れた直後の戦いで、本作のスパイダーマンが纏っていたナノテクノロジーを駆使したスーツ(『アベンジャーズ インフィニティウォー』でアイアンマンからもらったスーツ、通称「アイアンスパイダー」)の一部がアームと同化。スパイダーマンの制御下になってしまったために抵抗できず、逆に自身のアームに拘束されていました。
ピーターの治療が成功したことで元の人格を取り戻し、ヴィランの治療を手伝おうとしますが、グリーン・ゴブリンの策略によりヴィランたちと共に姿を消します。しかしクライマックスのバトルシーンでは、電撃を操るエレクトロに苦戦するスパイダーマンたちを助ける活躍を見せました。
この時、ドクター・オクトパスはエレクトロのエネルギー源となっていたアークリアクターを取り外すことでエレクトロを弱らせたのですが、手にしたアークリアクターを見つめながら呟いた「小さな太陽が私の手に…」という彼の言葉は、『スパイダーマン2』にて核融合装置の実験を行い、成功したかと思われたときに呟いたセリフと同じものです。
このことから技術体系は違うものの、オットーが目指していた新たなエネルギー源を目にしたことで科学者として感慨深さを抱いたのと同時に、自身の夢を未だ諦められていない様が感じられ、オットーの科学者としてのプライドが表現されていました。
また、本作では戦いを終えたオットーは自身の世界(「スパイダーマン」シリーズ)から来たピーターとの再会を果たします。その際「どうしている?」というオットーの問いにピーターは「反省ばかりです」と答えますが、これは『スパイダーマン2』で初めて二人が出会った際、オットーが「優秀だが怠け者」とピーターを評した際に彼が「反省しています」と答えた場面へのオマージュでもあります。
「スパイダーマン」シリーズのピーターがスパイダーマンとしてオットーを救うことができなかったことへの想いのようにも感じられ、二人のいわば師弟関係が垣間見える演出となっていました。
サンドマン:『スパイダーマン3』(2006)
サンドマンはトビー版の第3作『スパイダーマン3』(2006)に登場し、映画『サイドウェイ』などで脚光を集め、アカデミー賞ノミネートの経験も持つトーマス・ヘイデン・チャーチがサンドマンことフリント・マルコを演じました。
原作コミックでは古くから登場しているヴィランであり、前述のゴブリンやドクター・オクトパス同様、スパイダーマンを代表するヴィランであるサンドマン。
全身を砂に変化させるためほとんどの攻撃が無効化でき、くわえて砂さえあれば巨大化もできるという特徴からも、打撃が基本の攻撃手段であるスパイダーマンにとっては相性が最悪な相手でした。
『スパイダーマン3』でのサンドマン
マルコは強盗を繰り返したことで警察に逮捕され刑務所に収監されていましたが、重い病に苦しむ娘に会うため脱獄。逃亡中に素粒子実験場に入り込んでしまったことで実験に巻き込まれ、全身が砂状に変化し「サンドマン」と化しました。
サンドマンはこの能力を使い、娘の治療費のため再び強盗を行いますが、駆け付けたスパイダーマンに阻止されます。
また、フリントがピーターの叔父・ベンを殺害した真犯人だと知ったピーターは、寄生したシンビオートにより増幅した負の感情を抑えられず、再び対峙したサンドマンを必要以上に痛めつけ撃退。何とか一命をとりとめたサンドマンは、スパイダーマンに復讐を誓います。
その後、スパイダーマンから離れ「ヴェノム」となったシンビオートとスパイダーマン打倒のため協力。MJを誘拐し、スパイダーマンを誘い出した上で工事現場にあった大量の砂で巨大化、スパイダーマンを迎え撃ちます。しかし、スパイダーマンを助けに現れた「ニューゴブリン」ことピーターの親友・ハリーに撃退されます。
戦いが終わった後、サンドマンはベンを誤って殺害してしまったこと、そのことをずっと後悔していることをピーターに告げます。ピーターは自身も犯してきた過ちを明かした上で彼のことを赦すと、フリントは砂になって風と共に去っていきました。
『ノー・ウェイ・ホーム』でのサンドマン
サンドマンは、電気を操るヴィラン・エレクトロと同時に本作の世界へやってきます。
当初は自身が別世界にやってきたことが分からなかったサンドマンは、『ノー・ウェイ・ホーム』のスパイダーマンと遭遇。自身の知る「スパイダーマン」シリーズのスパイダーマンと勘違いし、結果として暴走状態にあったエレクトロを止める手助けをします。このことから、サンドマンの『スパイダーマン3』にて和解に至ったスパイダーマンへの信頼の強さがうかがえます。
また、恐らく『スパイダーマン3』以降の時間軸からやってきたものと考えられ、唯一「スパイダーマン」シリーズに登場するヴィランで生き残っているキャラクターであるため、グリーン・ゴブリンとドクター・オクトパスの最期を知らせていました。
本作に登場したヴィランの中では最も温厚で、前述のエレクトロを止めた後、スパイダーマンが自身の知る「スパイダーマン」シリーズのピーターではないと知っても闇雲に攻撃しようとしない点からも、『スパイダーマン3』の結末後も正しい道を歩もうとしていたのだと感じられます。
一転オリジナルと異なるのは、砂が人型になっているようなヴィジュアルで、事あるごとに砂が体からこぼれたり、ぶつけた手が崩れ砂になってしまう描写が描かれており、人間の姿が登場したのは治療を終えた後になってからでした。
また愛する娘への想いの強さは変わらず、「元の世界に戻るため」という他のヴィランたちとは違った目的で最後の戦いに参加。またこの際には『スパイダーマン3』同様、大量の砂で巨大化した姿を見せています。
まとめ
映画『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』に登場した、「スパイダーマン」シリーズ(2002~2006)の各ヴィラン解説はいかがだったでしょうか。
いずれのヴィランもオリジナル版映画へのリスペクトがつまった演出をしながらも、本作で新たに見せる姿に歓喜したファンが多かったことは言うまでもありません。
しかしそれ以上に、そのヴィランの心の闇や秘めた想いなどしっかりとくみ取り、本作のストーリーに反映している点で本作がすべてのスパイダーマンファンに高く評価されることとなる要因なのではないでしょうか。