サスペンスとアクションが入り混じった斬新なモンスターパニック
ニュージーランド出身の新鋭女性監督ロザンヌ・リャンが第2次世界大戦で極秘任務に挑む女性パイロットの戦いを描いたサスペンスアクション。
本作は、2020年・第45回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門で観客賞を受賞。主演のクロエ・グレース・モレッツが上空で怪物・グレムリンと激しい戦いを繰り広げるヒロインを演じます。
主人公のモードは最高機密が隠されたカバンをサモアまで運ぶという密命を受けて戦闘機に乗り込み、その後襲い来る数々の敵に立ち向かいます。果たして彼女が抱えたカバンの中身とはなんだったのでしょうか。
予測不可能なストーリーが展開する本作の魅力についてご紹介します。
CONTENTS
映画『シャドウ・イン・クラウド』の作品情報
【日本公開】
2022年(ニュージーランド・アメリカ映画)
【監督】
ロザンヌ・リャン
【脚本】
マックス・ランディス、ロザンヌ・リャン
【編集】
トム・イーグルス
【キャスト】
クロエ・グレース・モレッツ、ビューラ・コアレ、テイラー・ジョン・スミス、カラン・マルベイ、ニック・ロビンソン
【作品概要】
監督、脚本をニュージーランド出身の新鋭女性監督ロザンヌ・リャンが務めるサバイバル映画。第45回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門で観客賞を受賞しました。
『悪魔の棲む家』(2005)で注目された後、『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)のリメイク『モールス』(2010)とアクション・コメディ『キック・アス』(2010)でブレイクしたクロエ・グレース・モレッツが主演を務めます。
共演は『キングス・オブ・サマー』(2013)のニック・ロビンソン、ビューラ・コアレほか。
映画『シャドウ・イン・クラウド』のあらすじとネタバレ
第二次世界大戦中の1943年8月。ニュージーランドのオークランド空軍基地から発つBー17大型爆撃機フールズ・エランド号に、モード・ギャレット空軍大尉が乗り込みます。
彼女は、ある最高機密を収納した革製の大きなカバンを、サモアまで運ぶという密命を受けていました。フールズ・エランド号の乗組員7名は女性の搭乗に反発しますが、軍の指令書を見て渋々許可します。
モードは狭い砲台の銃座に押し込められることとなり、乗組員のクエイド二等軍曹に大切なにカバンを預けました。
銃座から通信で乗組員たちと自己紹介し合うモード。悪天候の中で高度2500メートルの上空に達したそのとき、右翼の下で不気味にうごめく生き物の影をモードは目撃します。しかし彼女の報告を誰も信じようとしません。
その後ハッチが故障し、銃座の中にモードは閉じ込められてしまいます。自分を揶揄し続ける男たちに思わず怒鳴りつけたモード。怒った男たちは無線を切ってしまいました。
そんな中、モードに向かって先ほどの謎の生き物が襲いかかってきます。鋭い鉤爪を持つその凶暴な生き物の正体は、空軍で噂になっていたグレムリンでした。
隠し持っていた拳銃でなんとかグレムリンを撃退するモード。しかし、基地への身分照会により、モード・ギャレットという負傷兵は存在しないという事実が発覚します。乗組員たちからモードに疑惑の目が向けられる中、今度は日本軍の戦闘機が正面から接近してきました。
砲台を操作して機銃を握り締めたモードは、敵機の撃墜に見事成功して乗組員たちを驚かせます。
映画『シャドウ・イン・クラウド』の感想と評価
予測不能のサスペンスフルな展開
ニュージーランド出身の新鋭女性監督ロザンヌ・リャンが手がける、予測不能なサスペンスアクション『シャドウ・イン・クラウド』。
出発間近の戦闘機に極秘任務を受けた主人公のモードが突然乗り込んできたところから物語が始まります。
彼女の任務とは、預かったカバンをサモアまで運ぶというものでした。やっとひとり座れるだけの狭い砲台の銃座に閉じ込められたモードだけが画面に映し出され、乗組員の男たちの様子は音声だけ流れてきます。観る側の想像力が膨らむワンシチュエーションの演出です。
その後すぐに巨大なネズミのような姿をしたおぞましい生物・グレムリンが現れます。突然モンスターが現れて驚きますが、実はグレムリンは大戦中に実際に空軍兵の間で目撃情報が多発したことで知られる存在です。
そこに、普段はこんな地域にいるはずがないと思われていた日本軍機まで現れ、モードの乗り込んだ機体は一気に極限の危険地帯となってしまいます。
当然、彼女が持ち込んだカバンに何か秘密があるのではないかと乗組員たちは疑います。観ている私たちも、グレムリンに関する機密情報なのか、それとも倒すための特殊な武器か薬品が入っているのではないかなど、思わず想像を巡らす場面です。
ところが事態は思わぬ展開を見せます。カバンの中に入っていたのは、モードと乗組員・クエイドの間に生まれた赤ん坊でした。
暴力夫から逃げ出して兵士となったモードは、クエイドと恋に落ちて妊娠しましたが、それを知って追ってきた狂的な夫から逃れるためにこんな無謀な計画を実行したのです。
その後も、モードはただひたすら愛する我が子を守るために次々に襲い来る敵に立ち向かいます。戦うほどにパワーアップしていくモードの姿は強烈です。
モードがどこまで逞しくなっていくのかも、本作の大きなみどころとなっています。
ジェンダーに切り込む視線
女性監督ならではの視線で、ジェンダーに切り込んだ作品となっている点も本作の大きな特徴です。
1940年代という時代性に加え、戦時中の軍隊という特殊な環境下のストーリーの中、女性蔑視のセリフが行き交います。モードを前にした乗組員の男たちの態度は本当にひどいものです。残念ながらこれはあちこちで現実にあったことで、おそらく現在でもその悪習は残されたままなのでしょう。
日本軍は来ないと決めつけ、砲台の銃座にモードを押し込めてしまうお気楽な男たち。彼らから性的で侮蔑的な言葉を投げつけられたモードは耐え切れずに怒鳴りつけます。すると、腹を立てた男たちは彼女を銃座に閉じ込めたまま無線を切ってしまうのです。なんとも幼稚で情けない話です。
その後、カバンの中身が赤ん坊だとわかり、その父親がクエイドだったと知った組員たちは、「お前の相手と知ってたらあんなにひどいことを言わなかった」と弁解します。女性を傷つけた事実よりも男のメンツを気にするなんて、神経を疑う行為です。
このように、乗組員たちの女性蔑視の行為の数々がいやというほど描かれた後、モードから発せられるのは「母は強し」というメッセージです。彼女はどんなときも限界を乗り越えて、敵にひるまず立ち向かい続けます。
クエイドがモードにロマンティックにプロポーズしようしたその隙に、グレムリンが子どもの入ったカバンを奪い去ります。瞬間的にモードはモンスターに飛び掛かって見事子どもを奪還。そして、目を離したクエイドを叱りつけます。
子どもをこの世に生み出すまでの10か月間ですでに母になっていたモードと、今はじめて自分の子どもだと知らされたクエイドでは、親としての自覚に大きな差があり過ぎました。クエイドに少々同情してしまう場面かもしれません。
最後のグレムリンとの戦いは圧巻です。モードはなんと獣を素手で何度も殴りつけ、敵の鉤爪を使ってその首をかっ切ります。グレムリンはモードにとって恐ろしい怪物である前に、自分の子を何度も危険にさらした憎き相手であり、なんとしても息の根を止めねばならない存在でした。
戦うモードを遠くから唖然と見ているだけの男たちのマヌケな顔に、思わず笑ってしまいます。覚悟を決めた女は、母は、本当に強いのです。
いまのモードにとっては暴力夫などこわくもなんともないことでしょう。この先どんなことがあろうと、彼女は子どもを守り続けるに違いありません。
まとめ
女性監督ならではの味わいを楽しめるサスペンス・アクション『シャドウ・イン・クラウド』。前半の奇想天外なサスペンスストーリーと、ヒロインが覚醒した後の激しいアクションの対比が楽しめる斬新な映画です。
ただ敵を打ち負かすというだけではなく、女性の真の強さ、何にも負けない強靭な精神が描かれており、胸がスカッとする作品となっています。
観終えた後一番心に残るのは恐ろしい姿のグレムリンでしょうか。女というだけで投げつけられる侮蔑的な言葉でしょうか。
それとも、ただひたすら子どもを守るためにどんな敵でも蹴散らしていくモードの勇ましい姿でしょうか。
観る人それぞれが、さまざまな面を楽しむことのできる一作です。どうぞ最後までモードの勇姿を見守ってください。