風変わりで孤独な殺し屋の戦いを描いたアクション!
ジム・ジャームッシュが脚本・製作・監督を務めた、1999年製作のアメリカ・日本・フランス・ドイツ合作のアクション映画『ゴースト・ドッグ』。
「武士道といふのは、死ぬことと見つけたり」
この一節で有名な日本の江戸時代の書物『葉隠』を愛読し、伝書鳩を通信手段にしている風変わりで孤独な殺し屋が、マフィアの一員を殺す依頼を受けましたが、ある行き違いからマフィアとの抗争に発展していく物語とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
鬼才ジム・ジャームッシュがフォレスト・ウィテカーを主演に描いた、異色のアクション映画『ゴースト・ドッグ』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
映画『ゴースト・ドッグ』の作品情報
【公開】
1999年(アメリカ・日本・フランス・ドイツ合作映画)
【脚本・監督】
ジム・ジャームッシュ
【キャスト】
フォレスト・ウィテカー、ジョン・トーメイ、クリフ・ゴーマン、ヘンリー・シルヴァ、ヴィクター・アルゴ、トリシア・ヴェッセイ、カミール・ウィンブッシュ、ジーン・ルッフィーニ、デイモン・ウィッテカー、イザック・ド・バンコレ
【作品概要】
『パーマネント・バケーション』(1980)や『ダウン・バイ・ロー』(1986)、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)などを手がける鬼才ジム・ジャームッシュが脚本・製作・監督を務めた、アメリカ・日本・フランス・ドイツ合作のアクション作品です。
『バード』(1988)や『ケープタウン』(2013)、『LIVE AND DIE リヴ・アンド・ダイ』(2013)などに出演するフォレスト・ウィテカーが主演を務めています。
映画『ゴースト・ドッグ』のあらすじとネタバレ
「武士道とは死ぬことと見つけたり」「必死の観念、一日を仕切り、毎朝心身をしずめ、弓・鉄砲・刀に身を裂かれることを思え」
「大波にさらわれ、炎の中に投げ込まれ、雷電に打たれ、大地震に命を奪われ、千丈の崖から落ち病に倒れ、主の死に切腹する覚悟を」
「日夜自らを死に身と考えるべし」「これが武士道というものの本分なり」
そう書かれた日本の江戸時代の書物『葉隠』を愛読し、伝書鳩を通信手段にしている風変わりで孤独な殺し屋ゴースト・ドッグは、ある男の殺人を依頼され、路上に停められた黒のレクサスGS400に乗ってターゲットの元へ向かいました。
依頼内容は、ヴァーゴ・ファミリーというイタリア系マフィアの一員ハンサム・フラックの暗殺。マフィアのボスであるヴァーゴの愛娘ルイーズに、フランクを殺すことは知られてはいけません。
黒のフードジャケットを被り、サプレッサー付きの銃でフランクを射殺。しかし誤算だったのが、ルイーズがフランクと一緒にいたことです。
関係を持った男が目の前で殺されたというのに、全く動じないルイーズ。彼女は心のどこかで、自分を溺愛している父親が、フランクのことを知って激怒し、彼を殺そうとするだろうと察しがついていたのでしょう。
ルイーズは「パパに言われたの?」と尋ねた後、直前まで読んでいた『羅生門』と書かれた本を、「いい本だから貸してあげる」と言って渡してきました。
翌朝、複数の伝書鳩と共に生活しているゴースト・ドッグの元に、ヴァーゴ・ファミリーの幹部ルーイからの手紙を足に括りつけた伝書鳩が帰還。
小さな手紙には、こう記されていました。「メッセージを受け取った。大問題発生、連絡を請う」
ゴースト・ドッグにフランク殺しを依頼してきたのは、このルーイです。ゴースト・ドッグは8年前、ルーイに命を救われて以降、彼を主と慕い忠誠を誓っていました。
しかしそのルーイは今、突然ヴァーゴから呼び出され、内心酷く動揺していました。幹部仲間のヴィニーやジョニーらと一緒に、ルーイはヴァーゴの元へ向かいます。
ヴァーゴがルーイを呼び出したのは、ルイーズをジョニーがバスに乗せて、フランクから遠ざけてから彼を殺す手筈だったはずなのに、知られたくなかったルイーズの目の前で彼を殺してしまった大失態についてです。
ジョニーはルイーズがバスに乗り込んだのを確認していましたが、ルイーズは監視の目を欺き、密かにバスを降りてフランクの家へ向かっていました。
このことをヴァーゴと、彼の隣に座る幹部のソニー・ヴァレリオに糾弾されたルーイは、新たな任務を言い渡されます。
それは、身内であるフランクを殺したゴースト・ドッグの暗殺です。「フランクを消した奴を消さなきゃいかん」
「フランクは身内だ、ファミリーの敵は抹殺する。この地球上からな」
そうソニーに言われてもルーイ自身、ゴースト・ドッグをこの4年間で12回雇っていますが、ゴースト・ドッグの連絡先も住んでいる場所も知りません。
ルーイに分かるのは、伝書鳩を通信手段としている黒人の大男ということだけです。ルーイは8年前、半グレ集団にリンチに遭っていたゴースト・ドッグを助けましたが、まともに彼と話をしたのはその4年後でした。
ルーイの元を訪ねてきたゴースト・ドッグは、「ルーイには借りがある」と言いました。その後、ルーイはそう言った彼ともう一度会い、殺しの仕事を依頼するようになっていきました。
ルーイがゴースト・ドッグに仕事を頼み始めてからというもの、毎日ルーイの元に伝書鳩が現れ、仕事が終われば「任務完了」というメッセージが送られてきます。
そして仕事を完遂した報酬は、毎年秋の最初の日に前年分をまとめて支払うことになっていますが、口座振り込みではないため銀行の口座も分かりません。
ルーイはゴースト・ドッグの素性を知らずとも、自分を敬い、痕跡も残さず完璧に仕事をこなしてくれる彼の腕と彼自身を信用していたため、これまで伝書鳩を追ったり探知器を取りつけたりして正体を突き止めようとは思いませんでした。
謎が多い殺し屋がフランクを殺したと知ってもなお、ソニーたちはルーイに、そのゴースト・ドッグを死ぬ気で見つけ出し殺すよう命じます。
その頃ゴースト・ドッグは、また主であるルーイのために力を振るう日に備えて、棲み処としている建物の屋上で、短剣や刀を使って鍛錬を積んでいました。
ゴースト・ドッグはあまり人と話さない寡黙な男ですが、心を許している相手が2人います。
1人目は、公園でいつもアイスクリームを売っている親友レイモン。しかし彼はフランス語しか話せず、ゴースト・ドッグも英語しか話せないため、今まで一言も言葉が通じ合ったことはありません。
2人目は、公園で出会った近所の黒人の少女パーリーン。彼女が公園のベンチに座っていたゴースト・ドッグに声を掛けたのがきっかけで知り合い、読書が好きな者同士自然と仲良くなっていきました。
ゴースト・ドッグはパーリーンに、『羅生門』を渡しこう言いました。「この本を貸してやる。その代わり読んだ後、本の感想を聞かせてくれ」
映画『ゴースト・ドッグ』の感想と評価
寡黙な殺し屋の戦い
『葉隠』という武士道を説いた書物を愛読書とし、鳩と一緒に建物の屋上の小屋で暮らしている殺し屋ゴースト・ドッグ。
彼が殺し屋としての道を歩むことになったのは、ずっと昔に命を救ってくれたマフィアの幹部ルーイの家来として、彼に仕えるためでした。
そんなゴースト・ドッグの殺し屋としての戦い方は、従来のアクション映画に登場する殺し屋とはまた違い、『葉隠』で学んだ武士道に則って標的を殺します。
自分の姿さえ敵に最後まで見せず、主の命令に従い標的を殺すゴースト・ドッグの姿は、まさに侍そのもの。
いくら殺したところ見られたからといって、証拠隠滅のために女であるルイーズを殺したりしません。
ゴースト・ドッグの復讐劇では激しい銃撃戦は繰り広げられないものの、反撃の隙すら与えず次々と攻撃を仕掛けていったり、元凶たるソニーを排水管越しに射殺したりするといった静かなアクション場面は他のアクション映画にはない魅力があります。
真昼間の決闘
物語の終盤では、ゴースト・ドッグがよく通っている親友レイモンのアイスクリーム屋の近くで、ゴースト・ドッグとルーイが真昼間の決闘を繰り広げていきます。
しかしゴースト・ドッグは、最初から主であるルーイを殺す気はさらさらありません。ルーイがいたヴァーゴ・ファミリーを壊滅させたことに後悔はないものの、いずれボスの仇討ちにくるであろうルーイに殺されることこそ、ゴースト・ドッグなりに考えた彼への忠義だったからです。
ルーイもまた、ゴースト・ドッグが自分に忠を尽くしてくれたことへの感謝はあります。ですがそれよりも、今までなんだかんだ言って仕えてきたボス、ヴァーゴへの忠義を貫くためには、ルーイはどうしてもゴースト・ドッグを殺さなければなりません。
ゴースト・ドッグが最後、叶わぬ約束をルーイと交わしてから死んで、幕を引いた彼らの決闘は、何とも言えない悲しみが込み上げてきます。
まとめ
風変わりで寡黙で、孤独な殺し屋ゴースト・ドッグが、自らの信条とする武士道に則って戦い、主への忠義を貫き通すアクション作品でした。
「ボスの愛娘に手を出した奴を殺せ」と言った後には、「身内を殺した奴を殺せ」とルーイに言い、終始理不尽で無茶苦茶なことを言っていたソニー。
ですがその一方で、ファミリー全員高齢者なせいで金策に困っているのか、家賃を滞納していることをオーナーに言われている姿は全く怖さを感じず、マフィアのイメージとは違うギャップがあります。
また、ゴースト・ドッグは冷静沈着に標的を殺す殺し屋なのに、動物や心を許した相手には優しいといった一面があり、どちらのギャップも心が和みますし面白いです。
従来のアクション映画にはない、殺し屋とマフィアの意外な一面にクスリと笑えて、武士道を貫き通したゴースト・ドッグの姿に感動するアクション映画が観たい人に、とてもオススメな作品となっています。