映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!
『彼女がその名を知らない鳥たち』『虎狼の血』で知られる白石和彌監督と俳優にしてアーティストの香取慎吾が初のタッグを組んだ映画『凪待ち』。
「3・11」を経験した宮城県石巻市を舞台に、人生につまずき零落れてしまった男の《喪失》、そして《再生》に至るまでの道のりを描いたヒューマンドラマです。
本記事では、2019年4月23日に開かれた映画『凪待ち』マスコミ完成披露会見における共演者や白石和彌監督たちのコメント、そして香取自身のコメントも交えつつ、これまでのイメージとは全く異なるという本作における“香取慎吾”の姿とその演技について探ります!
CONTENTS
香取慎吾プロフィール
映画『凪待ち』のロケ現場で郁男役に挑む香取慎吾
1977年生まれ、神奈川県横浜市出身。
1987年にジャニーズ事務所に入所。1988年にはSMAPの前身に当たるユニット「スケートボーイズ」の中から「SMAP」のメンバーに選ばれました。当時香取は11歳で、メンバーの中では最年少でした。
1995年にはドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』『未成年』に出演。特に『未成年』では第7回ザテレビジョンドラマアカデミー賞・助演男優賞を受賞し、10代の時点からその演技力と存在感を発揮し、各方面から注目を集めていました。
1996年には『透明人間』でドラマ初主演を果たし、同年には『ドク』で第11回ザテレビジョンドラマアカデミー賞・主演男優賞を受賞しました。
1997年、『香港大夜総会 タッチ&マギー』で映画初主演。その後は数々のバラエティー番組のMCを務め、ドラマ・バラエティーと幅広く活躍します。
2004年にはNHK大河ドラマ『新選組!』にて近藤勇役として主演を務め、同作は高視聴率を獲得しました。
2009年には、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでミュージカル『TALK LIKE SINGING』(脚本:三谷幸喜)に出演。日本のオリジナルミュージカルが初演をニューヨークで行うのは日本演劇界では史上初であり、翌年の2010年には日本公演も行われました。
また2014年には、小池修一郎演出のもと『オーシャンズ11』をミュージカル化、主人公ダニー・オーシャンを演じました。そして翌年の2015年には、長年の夢であった草彅剛との二人芝居を三谷幸喜演出の舞台『Burst!』で実現させました。
2016年12月31日のSMAP解散に合わせてソロタレントとして活動することを決意し、2017年に稲垣吾郎・草薙剛とともにジャニーズ事務所を退所。同年に公式共同ファンサイト「新しい地図」を開設し活動を本格的に開始しました。
独立後はアーティストとしての活動も幅広く行い、2018年3月には「香港アートマンス」プロジェクトに参加。香港島にある世界一長いエスカレーター中環至半山自動扶梯の壁画を制作しました。
同年4月30日には草彅と新たに“SingTuyo”(しんつよ)名義の音楽ユニットを結成し、歌手活動も開始。 8月には、SMAP時代からタッグを組んできたスタイリスト祐真朋樹とともにさまざまなブランドとのコラボ企画を行うポップアップショップ『JANTJE_ONTEMBAAR』(ヤンチェ・オンテンバール)を開業しました。
同年9月には、日仏友好160周年を記念してパリで開かれた芸術祭「ジャポニスム2018」の公式企画の一環として初の個展『NAKAMA des ARTS』を開催。
香取慎吾個展『BOUM!BOUM!BOUM!』(2019)
そして2019年の3月には、自身にとって国内初の個展『BOUM!BOUM!BOUM!』を開催、4月25日には来場者数10万人突破という快挙を成し遂げました。ちなみに同個展は、2019年6月16日まで開催中です。
2017年からはInstagramとTwitterを開始。Instagramアカウントは運用開始から3日でフォロワー数が843,000人を突破し、瞬く間に国内ユーザーのフォロワー数ランキング100位以内にランクインしました。また2019年には公式ブログを開設し、翌月にはAmebaの1月期におけるBest Rookie Awardが贈られました。
香取慎吾が演じる主人公・木野原郁男とは?
映画『凪待ち』にて香取が演じたのは、主人公である木野本郁男。競輪を主とするギャンブル依存症に振り回され、毎日をふらふらと無為に過ごしていましたが、恋人である昆野亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松祐里)が実家のある宮城県石巻市に引っ越すのを機に、新天地での再出発を決意します。
競輪場通いから足を洗い、小野寺修司(リリー・フランキー)の紹介で印刷工の仕事を始めるものの、やがて再び競輪に嵌ってしまいます。そしてその後亜弓が何者かに殺されてしまったことで、郁男は精神的に追い込まれてゆきます。
「あまりにどうしようもなく、あまりに人間臭いダメ男」と言えるその役柄は、それまでに香取が演じてきたキャラクターとも、多くの人々が抱く“香取慎吾”のイメージとも全く異なるものです。
香取にとっても、「『あの人のために走らなきゃ』という時に必ず誰かの背中の後ろに隠れてしまう」ような人物である郁男を演じることは、それまで演じたことがなかったゆえの気持ち良さを感じた一方で、撮影期間中「人の優しさがこんなに“痛い”ものなんだ」と感じてしまう程に、郁男という役の不甲斐なさ、どうしようもなさに苛まれたと語りました。
“香取慎吾”というイメージからの解放感と、郁男という一人の人間として堕ち続けることの苦悩を共に味わいながら、主人公を演じた香取。その思いは、彼の演技にどのような形で現れているのでしょうか。
美波役の恒松裕里にとっての“香取慎吾”
香取演じる主人公・郁男の恋人である亜弓の娘・美波を演じた恒松。
完成披露会見にて、彼女にとって香取はまさに“スター”であり、そんな香取と共演できたのは非常に嬉しかったそうです。そして、以前からその作品を観ていた白石監督と香取がタッグを組んだ映画『凪待ち』に自身も参加することができたのは光栄だったと語りました。
現場での香取は、「どうしようもないダメ男」というその役柄とは全く異なる「明るくて優しいお兄ちゃん」であり、恒松がそれまでメディアを通して見てきた“香取慎吾”のイメージ通りだったといいます。誰にでも分け隔てなく接する香取のおかげで、彼女は本作の撮影現場にも居やすかったそうです。
一方、香取は恒松との共演について、シリアスなヒューマンドラマである本作において「一瞬ホッとする瞬間」を共に演じることが多かったと語り、主人公・郁男にとっては娘のような存在であると同時に友達のような存在でもある美波は、他の登場人物には見せることのない郁男の顔が見出せたといいます。
美波を演じた恒松の演技力があったからこそ、香取曰く「生きることが辛くて色々と考えなくてはいけないことがいっぱいある」主人公・郁男にとって、美波が微かな平穏を垣間見せてくれる存在になれたのでしょう。
小野寺役のリリー・フランキーにとっての“香取慎吾”
香取とは自身がラジオ構成作家として活動していた頃からの付き合いだというリリー。俳優同士として共演するのは本作が初めてであり、「申し訳ないというか、照れ臭い」と感じてしまったそうです。
完成披露会見ではラジオ内でミニドラマを企画した時のエピソードについて語り、多忙であるために収録日当日に台本を読まざるをえず、ほぼ初見の状況の中でも役を演じ切る香取の実力に、当時のリリーは驚かされたそうです。
そして本作での共演を通して、リリーは「改めて“香取慎吾”という人の凄さを目の当たりにした」と語りました。特に香取の発する“色気”には、撮影を共にする中でもドキドキしてしまったと言います。
香取もまた、リリーとの映画初共演について、ラジオ構成作家という“裏方”の彼と映画『凪待ち』によって俳優同士として共演できたことに喜びを露わにしました。
特に祭りの最中でリリー演じる小野寺に郁男が諭される場面では、香取曰く「自分にはこの人しかいない」と思わせるリリーの演技に、郁男を演じる自分自身すら「縋る思い」を抱いてしまったことを語りました。
勝美役の吉澤健にとっての“香取慎吾”
吉澤が演じたのは、主人公・郁男の恋人である亜弓の父にして、震災で妻を亡くした後も石巻で漁師を続ける昆野勝美。
香取は勝美という人物、そして彼を演じた吉澤について、役を通して伝わってくるその優しさに「痛い」と感じたと語ります。
多くを語ることはないが、一瞬見つめるだけで「お前ダメだなあ」「でもダメでもいいんだぞ」と心の声によって語りかけてくる。それが、郁男を演じる自身にとって痛みを感じざるを得なかったといいます。それゆえに、吉澤演じる勝美とは、その芝居の中で「目を合わせているようで、ちゃんと目を合わせられなかった」のだそうです。
しかしながら、吉澤は香取の演技を「非常にナチュラルで、いいなぁ」と感じたのを触れたうえで、彼との芝居は「俺の中では響き合っていた」といいます。
また、香取と義理の父子に近い関係の役柄を演じたことについて、彼との年齢差がちょうど親子ぐらいであること、自身には息子がいないことから、そのような関係を香取と役の中で演じられたのは楽しかったとも語りました。
その香取と吉澤が役の中で結んだ義理の父子に近い関係は、完成披露会見の最中、吉澤が映画『凪待ち』について語る姿をどこか穏やかそうに見つめる香取の様子からも感じ取ることができました。
白石和彌監督にとっての“香取慎吾”
本作の制作が開始される以前、ネット配信ドラマを企画していた頃から香取への出演オファーを望み続け、今回共に仕事ができたことは嬉しかったという白石監督。
それまでの白石作品と比べるとエンターテインメント色が抑えられている本作は、香取にとっての新しい挑戦であると同時に、白石監督にとっても新しい挑戦でもあります。
白石監督は香取の演技力について、撮影初日のファーストシーン時点から「ゾクゾクしっぱなし」で、「ゾクゾクを通り越していちいち笑けてくるぐらい」に香取の芝居が凄かったといいます。
その具体例として、白石監督は香取演じる主人公・郁男が借金をする場面を挙げ、借金など一度も経験したことがないであろう香取の借りた後の「すいません」という謝り方を見て、「なんでできるのだろう」「これは見たことあるな、どっかで」と感じてしまう程に、彼の“リアリティー”の作り方に驚かされたそうです。
そしてリリーも触れていたように、何よりもその“色気”と“存在感”が素晴らしかったと、演技力のみでは身に纏うことのできない、香取の“名優”或いは“スター”としての風格について語りました。
また白石監督は、撮影を終えた後の香取を見て、「笑顔の人」という印象を抱いていたはずの香取の「心からの笑顔」を、彼が演じた主人公・郁男では見られなかったことに気付かされたそうです。
それは、白石監督と同様に多くの方が抱いている“香取慎吾”の印象とは全く異なる、「笑顔の人」ではない“香取慎吾”が映画『凪待ち』には映し出されていることを意味しています。
その一方で、香取は本作を通して「今まで見たことのない“香取慎吾”が見られるかもしれない」と踏まえつつも、自分自身からすれば「“香取慎吾”として突拍子もないこと、おかしいことをやっているというよりかは、“すごく好きな部分”をやっとできた」という気持ちが強いことを告白しました。
その“すごく好きな部分”こそが、香取曰く人間の誰もが抱えている「狂気の部分」/「闇の部分」であり、香取が思う白石作品の重要な魅力の一つです。
そして、2019年公開の映画『凪待ち』というタイミングで、自身の「狂気の部分」/「闇の部分」を引き出してくれた白石監督に感謝していることを語りました。
映画『凪待ち』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
白石和彌
【脚本】
加藤正人
【キャスト】
香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
【作品概要】
宮城県石巻市を舞台に、人生につまずき零落れてしまった男の喪失、そして再生に至るまでの道のりを描く。
監督は、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)『孤狼の血』(2018)など、現在の日本映画界を担う映画監督の一人である白石和彌。
主演は、『クソ野郎と美しき世界』(2018)など俳優活動のみならず、アーティストとしてもその才能を遺憾なく発揮している香取慎吾。恋人・亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松裕里)と共に、母娘の故郷である宮城県石巻市で再出発しようとする主人公・郁男を演じます。
多感な少女・美波を演じるのは、『くちびるに歌を』(2015)『散歩する侵略者』(2017)の恒松祐里。
また郁男の恋人・亜弓を演じるのは、映画・テレビドラマと幅広い分野で活躍する女優の西田尚美。
そして、『止められるか、俺たちを』(2018)『麻雀放浪記2020』(2019)と白石監督作品の常連俳優である吉澤健と音尾琢真、『凶悪』(2013)『万引き家族』(2018)のリリー・フランキーなど、実力派俳優陣が脇を固めました。
映画『凪待ち』のあらすじ
ギャンブル依存症を抱えながら、その人生をフラフラと過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)。
彼は恋人の亜弓(西田尚美)が故郷である石巻に戻ることをきっかけに、ギャンブルから足を洗い、石巻で働き暮らすことを決心します。
郁男は亜弓やその娘・美波(恒松祐里)と共に石巻にある家へと向かいますが、そこには末期ガンを宣告されてからも漁師の仕事を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)が暮らしていました。
亜弓は美容院を開業、郁男は近所に暮らしている小野寺(リリー・フランキー)から紹介された印刷工の仕事を、美波は地元の定時制の学校へと、三人の新たな生活が始まります。
しかしすぐに、郁男は仕事先の同僚に誘われたのがきっかけとなり、再びギャンブルに、それも違法なギャンブルに手を染めてしまいました。
やがて些細な揉め事から、美波は母である亜弓と衝突してしまい、家を出て行ってしまいます。
その後、夜になっても戻らない彼女を郁男と亜弓は探しに行くものの、二人はその車中で口論となってしまい、郁男は車から亜弓を降ろしてそのままどこかへと去ってしまいました。
そして、ある重大な事件が起こります。郁男と別れた後、亜弓が何者かによって殺害されたのです。
あまりにも唐突な死に、茫然とする郁男と美波。葬式を終えた後も、家に帰ろうとしなかった自身を責め続ける美波に、郁男は自分が置き去りにしたせいで彼女を死なせてしまったと語ります。
そして、亜弓という“繋がり”を失ったことで、戸籍上親子ではない郁男と美波の関係も次第に崩れてゆきました。美波の将来を案じた小野寺は、彼女に実父である村上(音尾琢真)とともに暮らすことを勧めます。
一方、郁男は自分のせいで亜弓を死なせてしまったと考え続けていました。そして追い打ちをかけるかのように、郁男は社員を違法なギャンブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ、会社を解雇されてしまいました。
行き場のない怒りを職場で爆発させた後、郁男はどんどん自暴自棄に陥ってゆきます…。
まとめ
完成を迎えて以来、ずっと本作の公開を待っていたという香取慎吾。その言葉は、彼が白石和彌監督の映画『凪待ち』を真に素晴らしい作品であると感じているのと同時に、それまでの“香取慎吾”像とは異なる自身の姿を見てほしいと感じていることも意味するのでしょう。
香取にとって本作は、現在の石巻や自身が演じた主人公・郁男をはじめ、「《再生》しなければいけなくなった人間の姿がたくさん詰まった映画」なのだといいます。そして、《再生》のためにもがき、苦しみ続ける郁男の姿を見て、「自分も少しでも前に進んでみようかな」と思ってほしいと語ります。
香取演じる郁男の《再生》の姿。それは、“香取慎吾”像と共に生きてきた香取自身の《再生》の姿と重なります。果たしてその《再生》の姿は、観客たちの眼にはどのように映り込むのでしょうか。
その真の答えは、一人一人が、劇場で映画を鑑賞することによってのみ辿り着けるものでしょう。
映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!