旅回り一座の座長をめぐる人々の絆
『東京物語』(1953)の名匠・小津安二郎が、旅回りの一座の人間模様を描くセルフリメイク作品です。
主演は二代目中村鴈治郎。京マチ子、杉村春子、若尾文子が共演します。
旅回り一座を率いる主人公の駒十郎は、自分の昔の女と息子の住む街を訪れます。父であることを明かしていない息子との絆、彼をとりまく女性との深い情を描く日本映画の名作です。
映画『浮草』の作品情報

(C)1959 KADOKAWA
【公開】
1959年(日本映画)
【監督】
小津安二郎
【脚本】
野田高梧、小津安二郎
【キャスト】
中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、野添ひとみ、笠智衆、三井弘次、田中春男、入江洋吉、星ひかる、潮万太郎、浦辺粂子
【作品概要】
『東京物語』(1953)、の名匠・小津安二郎監督作。
松竹蒲田撮影所で制作した『浮草物語』を小津監督自らセルフリメイクしました。ドサ廻り一座の浮草稼業ぶりを描く作品で、人間と人間の間に存在するさまざまな感情を丁寧に映し出します。
旅一座の座長・駒十郎役に二代目中村鴈治郎。京マチ子、杉村春子、若尾文子ら名女優が顔を揃えます。
映画『浮草』のあらすじとネタバレ

(C)1959 KADOKAWA
志摩半島の西南端にある小さな港町に、嵐駒十郎一座が久方ぶりにやって来ます。座長の駒十郎を筆頭に、すみ子、加代、吉之助など総勢15人は、知多半島一帯を回っていました。
この土地には、駒十郎が30代の頃に子供まで産ませたお芳が移り住んでいます。息子の清は成長し、高校卒業後郵便局でアルバイトしながら進学のために勉強していました。
清は駒十郎が父とは知らず、おじさんと呼んで懐いています。
映画『浮草』の感想と評価

(C)1959 KADOKAWA
旅一座を率いる駒十郎の魅力
画を見ているだけでしみじみ楽しい、名匠・小津安二郎の名作ヒューマンドラマです。生き生きとした人々が、計算し尽くされたアングルと美しい色彩で映し出されます。
こだわりぬいた映像で知られる小津ワールドの魅力の虜になることでしょう。旅芸人の芝居の舞台も丁寧に描き、情緒あふれる映像で魅了します。
12年ぶりにかつての女性・お芳と息子の清に会いに行く、座長の駒十郎。健気なお芳は温かく迎え入れます。それだけで、駒十郎がどれほど魅力的な人柄なのか伝わってきます。
お芳が彼をいつでも迎え入れるのは、愛する息子の父親として慈しむ思いに加え、仕送りを続け息子の輝く将来を心から願う思いをよく理解していたからでした。
上機嫌で清との時間を大切に過ごす駒十郎は愛嬌たっぷり。女たちが皆「女に手がはやい」と皮肉を言いつつも、心惹かれずにいられない気持ちがよくわかります。
役者に誇りを持ちながらも、どこか肩身の狭い稼業と感じている駒十郎は、息子には違う人生を歩ませたいという思いから父だと名乗らずにきました。
そんな情深い駒十郎だからこそ、看板役者のすみ子は猛烈な嫉妬を抱くほどに愛さずにいられなかったのでしょう。
一度はこの街に残り、親子3人で暮らそうと口にした駒十郎。その言葉に涙を流して喜んだお芳。しかし、彼がいつも通り旅立ちを決めたのを見て、お芳は「このままでええんや」と気丈に話します。
いつもいつも辛い思いをしながら、この家を出て行っていた駒十郎の気持ちを、彼女は苦しいほどわかっていました。
足蹴にされながらも、すみ子は駒十郎と共に新たに旅立つ道を選びます。二人の素晴らしい女性に愛される駒十郎に、いつの間にか私たちも魅了されてしまうのです。
美しき名女優たちの饗宴

古き時代の美しい女優たちの姿に、ただただ見惚れる作品です。
気の強い看板女優・すみ子を演じるのは京マチ子です。きりりとつり上がった瞳を嫉妬に燃やすすみ子の美しさに圧倒されます。
連れ合いの駒十郎の過去の女も、彼の息子・清も、すみ子にとってはただただ憎い存在でした。感情に正直な彼女は、いそいそと家族に会いに行く駒十郎にがまんがならず、若く美しい女優の加代に清を誘惑するよう焚きつけます。
美しい女優・加代を演じるのは若尾文子。彼女はまだ幼く、自分の魅力を試してみたいという軽い気持ちで清を誘惑しますが、本物の恋に落ちて苦しみます。
加代が清の勤める郵便局を訪れた際のショットはとても印象的です。緑の額縁に入った絵のような美しさで、小津監督の計算しつくした画角の素晴らしさにうならされます。
もう一人の名女優、杉村春子が清を生んだ母・お芳を演じます。彼女の背筋の伸びた佇まいは、彼女のまっすぐな生き方そのものを映し出しているかのようです。決して泣き言を言わず、美しい魂をもって息子を育て上げた強い女性を体現しています。
まとめ

(C)1959 KADOKAWA
様々な土地を旅してまわる一座の姿を描く名作『浮草』。浮草稼業の人々が味わう悲喜こもごもを、温かく美しく映し出します。
父として息子を遠くから見守る道を選んだ駒十郎、それを理解する強気母・お芳。真実を知って今さら父などいらないと言った清でしたが、母の言葉を聞いてきっと父の思いを受け止めたことでしょう。
人を愛する方法はそれぞれ異なり、また愛を受け取るやり方も人によって違うことを教えられます。
後ろ髪ひかれる思いで息子の未来をお芳らに託し、再び旅に出ることを選んだ駒十郎の隣に寄り添うすみ子。暗闇の中出発した二人は、やがて美しい夜明けを迎えることでしょう。



































