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Entry 2023/12/22
Update

『秋刀魚の味』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。巨星・小津安二郎の感動の遺作で笠智衆×岩下志麻は父と娘を演じる

  • Writer :
  • 谷川裕美子

父と娘の切ない関係を描く小津の真骨頂

老いと孤独をテーマに、妻に先立たれた初老の主人公と結婚適齢期を迎えた娘の心情を、ユーモラスに繊細に描いた映画『秋刀魚の味』

東京物語』(1953)の日本映画界が誇る巨星・小津安二郎の遺作となった作品です。

父親を『東京物語』(1953)の笠智衆、娘役を岩下志麻が演じます。共演は佐田啓二、岡田茉莉子、東野英治郎。

現代よりずっと結婚適齢期が早かった時代を舞台に、愛ゆえに娘を結婚させる父の深い愛と孤独を映し出す名作の魅力をご紹介します。

映画『秋刀魚の味』の作品情報


(C)松竹株式会社

【公開】
1962年(日本映画)

【監督】
小津安二郎

【脚本】
野田高梧、小津安二郎

【キャスト】
笠智衆、岩下志麻、佐田啓二、岡田茉莉子、東野英治郎、岸田今日子、杉村春子

【作品概要】
東京物語』(1953)の巨匠・小津安二郎監督の遺作。

小津監督が長きに渡って題材としてきた「結婚をめぐる父と娘の関係」「家族を思う優しさと温かさ」「老いていく父親の孤独」などが柔らかくユーモラスに描かれます。

2013年には松竹と東京国立近代美術館フィルムセンターの共同作業によってデジタル修復され、第66回カンヌ国際映画祭クラシック部門でプレミア上映されました。

父親・平山役を『東京物語』(1953)の笠智衆、娘・路子を岩下志麻が演じたほか、佐田啓二、岡田茉莉子、東野英治郎らが出演しています。

映画『秋刀魚の味』のあらすじとネタバレ

妻に先立たれたサラリーマンの平山周平は、長女の路子に家事の一切を任せて次男と3人で暮らしています。

彼は友人の河合に路子の縁談を持ちかけられても「結婚はまだ早い」と聞き流していました。

そんなある日、中学の同窓会に出席した平山は、機嫌よく飲み過ぎてしまった元恩師・佐久間を自宅に送り届けます。

佐久間もまた妻を亡くして以来、娘の伴子とふたりでラーメン屋を営み暮らしていました。父の世話に追われて婚期を逃した伴子を見て以来、平山は路子の結婚を真剣に考えるようになります。

後日、平山が同級生から集めたお礼を包んで佐久間の店に持っていくと、偶然軍隊時代に平山の部下だった坂本がやってきました。ふたりはバーでひと時酒を酌み交わし楽しく過ごしました。

帰宅すると、長男・幸一が来ていました。平山は「バーのママが亡き妻の若い頃に似ていた」とうれしそうに話します。

また「冷蔵庫を買うために金を都合してほしい」という幸一の頼みに、平山は快く承諾します。

その金で中古のゴルフクラブを買おうとした幸一は、妻の秋子とケンカになります。妻の尻に敷かれている彼は諦めました。

路子が金を届けに兄の家を訪ねると、同僚の三浦がクラブを持ってやってきました。クラブを買うように言う三浦に、秋子は怒って断ってみせますが、月賦払いと聞いて買ってやることにします。

三浦と路子が一緒に帰った後、もう一度佐久間と飲んだ平山は、佐久間が結婚しそびれた娘への罪の思いを口にするのを聞いて考え込みます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『秋刀魚の味』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『秋刀魚の味』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

帰宅してから、娘に結婚しないかと問いかける平山でしたが、路子からは反発されます。

その後、路子の想い人が三浦だと知った平山は、幸一に三浦に探りをいれてくれるよう頼みました。しかしながら、三浦には社内に恋人がいました。

悩みつつも父は路子にそのことを告げ、自分が気づくのが遅くて悪かったと謝ります。路子は落ち着いた様子で話しを聞き「見合い相手と会う」と返事をしました。

娘の気丈な様にほっとした平山でしたが、和夫から路子が実は泣いていたことを聞かされます。

それから見合いは進み、やがて路子の婚礼の日が訪れました。

平山は美しい花嫁姿の娘を見て目を細め、「幸せにな」と言って娘と家の玄関へ向かいます。

婚礼を終えた晩。平山は河合たちと酒を酌み交わしながら「子どもはいつか巣立つから、育て甲斐がない」と言い合います。

酔いの進んだ平山は、ひとり先に席を立ちました。彼の気持ちを友人たちは思いやります。

平山はひとり行きつけのバーに入り、ママから「葬式の帰りか」と聞かれて「そんなもんだ」と答えます。

酔って遅くに帰宅した平山を、幸一夫婦と和夫が心配しながら待っていました。

やがて幸一らが帰り、和夫が寝てしまった後、平山は部屋を見渡します。

それから、ひとり寂しく台所の椅子に座り込みました。

映画『秋刀魚の味』の感想と評価


(C)松竹株式会社

父と娘の愛と切なさに満ちた関係性

味わい深い人間ドラマを描く巨匠・小津安二郎の遺作となった一作です。

彼の作品には温かな人情とともに、誰もが抱くどうすることもできない孤独が常に描かれています

主人公・平山は妻に早くに先立たれ、24歳の美しい盛りの娘・路子と、若い次男・和夫と暮らしています。家のことは路子に任せきりでした。娘をまだ子どものままかのように思っており「結婚には早過ぎる」と考えています。

しかし恩師・佐久間と、父の世話をしていたがために婚期を逃した彼の娘の姿を見て、時があっという間に過ぎ去ることを痛感します。

今よりずっと婚期が早く、未婚の女性の肩身が狭かった時代です。また「男性が自分で家事をする」という発想はすぐには思いつかない時代でもありました。

妻亡き後、甲斐甲斐しく家族の面倒を見てくれていた路子への感謝と愛情が、知らず知らずに結婚へのブレーキをかけさせていたのでしょう。

それでも、佐久間を見て時の無情さを実感した平山は、娘に幸せな結婚をさせようと敏速に行動を開始します。

父の真剣さと愛情を感じ取った路子は見合いを受け入れ、やがて嫁ぐ日を迎えました。

父親の心中に大きな安堵とともに訪れたのは、大きな寂寥感でした。平山はひとりで飲んで帰った後、娘のいなくなった家を見つめ、いつも彼女がいた台所の椅子にひとり寂しく座ります。

子どもを巣立たせるときの、どうにもならない寂しさ。

しかし、そこには確かな愛情があふれており、やはり彼の人生が幸せで満たされていることが伝わってくるのです。

細部に宿る小津精神と生命力あふれる人々

小津監督は、徹底的に映像美にこだわり、細部に至るまで綿密な計算の上で「画作り」を進めていたことで有名です。

窓の外に見える大きな提灯、テーブルの上の美しい食器、俳優たちの安定したバストショット、町のネオンや看板。現代の私たちの目から見てもすべてがスタイリッシュで、強いこだわりと高い美意識を感じさせます

岩下志麻や岡田茉莉子ら美しい女優たちのキリッとしたファッションからも、匂い立つような色香が漂ってきます。レトロな掃除機、やっと普及し始めた冷蔵庫などが、戦後間もない日本の世相をくっきりと浮かび上がらせる手腕は見事です。

笠智衆演じるソフトなダンディさを持つ平山は、亡き妻に面影が似ているママのいるバーに通うようになります。

はきはきモノを言いながらも家族思いの路子は、自分の思い人に恋人がいると知って、別の場所にある幸せに向かい踏み出します。

平山の娘の縁談を心配する河合。若い妻をもらったのが得意でたまらない堀江。ブラックなジョークを言い合える仲間ですが、堀江へのやっかみが何度も透けて見えるのがユーモアたっぷりで笑えます。

借りた金で自分のゴルフクラブを買おうとするボンクラ長男・幸一と、それを諫める気の強いかわいい妻・秋子。一緒に飲めて嬉しいと言いながらも、娘への贖罪の思いを呟きながら酔いつぶれてしまう元恩師の佐久間。

どこにでもいそうなごく平凡な人々でありながら、その誰もが光り輝いています

淡々と進む物語なのに、いつの間にか深く魅入られ、濃密な時間を味わっていることに気づかされることでしょう

小津作品がもたらす大きな余韻は、芳醇なワインのそれに似ています。いつまでも胸に残る静かな感動を、何度も味わう幸福を感じるに違いありません

まとめ


(C)松竹株式会社

小津が一貫して描いてきた年老いた父と適齢期の娘の愛情ある関係というテーマを掘り下げた名作『秋刀魚の味』

クスッと笑いを誘うようなユーモラスな場面と、胸を締め付けるような本質的な孤独に迫るシーンが織り交ぜられた、極上の人間ドラマです。

ヴィム・ヴェンダースら、数々の名監督らを虜にしてきた理由がよく伝わってきます。

美しく鋭い感性で紡ぐ小津安二郎の世界をどうぞご堪能ください。



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