連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第92回
今回紹介するのは、2025年11月14日(金)より広島・サロンシネマ、15日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国公開の『はだしのゲンはまだ怒っている』。
漫画家・中沢啓治が自身の被爆体験をもとに描いた漫画『はだしのゲン』の、誕生から現在までを見つめます。
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映画『はだしのゲンはまだ怒っている』の作品情報

(C)BS12 トゥエルビ
【日本公開】
2025年(日本映画)
【企画・監督・編集・ナレーション】
込山正徳
【プロデューサー】
高橋良美、木村利香
【共同プロデューサー】
大島新、前田亜紀
【出演】
中沢ミサヨ、神⽥⾹織、渡部久仁⼦、江種祐司、阿部静⼦、⼤嶋賢洋、アラン・グリースン、後藤寿⼀、平岡敬、⼭本加津彦、⼩⾕孝⼦
【作品概要】
漫画家・中沢啓治による漫画『はだしのゲン』を題材にしたドキュメンタリーで、2024年9月放送のBS12スペシャル「『はだしのゲン』の熱伝導 原爆漫画を伝える人々」を再編集して映画化。
監督は数々のドキュメンタリー番組を手がけ、本作が映画デビュー作となった込山正徳。『香川1区』(2021)『国葬の日』(2023)の大島新、『NO 選挙,NO LIFE』(2023)の前田亜紀が共同プロデューサーとして参加している。
映画『はだしのゲンはまだ怒っている』のあらすじ

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アメリカが広島に落とした原子爆弾で被爆し、家族を失った少年ゲンが、貧困や偏見に苦しみながらも力強く生き抜く姿を描いた漫画『はだしのゲン』。
「週刊少年ジャンプ」での連載が始まった1973年から半世紀、25ヶ国で翻訳出版され、2024年には《漫画のアカデミー賞》とも呼ばれるアメリカのアイズナー賞を受賞するなど、高い評価を得ています。
しかしその一方で、近年では「描写が過激」「間違った歴史認識を植え付ける」などと、学校図書館での閲覧制限を求める声が上がったり、広島市の平和教材から消えるなどの大きな議論を呼ぶことに。
なぜ今なお、この漫画が熱を帯びているのか? 戦後80年を迎えた日本に溢れる、怒りや悲しみ、そして優しさを映し出します。
漫画で闘った男

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1939年、広島市に生まれた中沢啓治(1939~2012)は6歳の時に被爆し、父、姉、弟を失います。生き残った母と暮らしつつ、その後漫画家を目指し上京。1963年にデビューするも、自身が被爆者ということを伏せていました。
しかしその3年後に、原爆の後遺症に長年苦しんだ母が亡くなり火葬したところ、骨がほとんど残らず「放射能は骨まで奪うのか」と憤慨。それ以降、被爆者であることを明かし「おふくろの弔い合戦をやってやろう。自分には漫画しか描けない。漫画の中で徹底的に闘ってやる!」と誓います。
1968年から原爆をテーマにした作品を次々と発表し、1973年に「週刊少年ジャンプ」で『はだしのゲン』を連載開始。「ゲンは私そのものなんです」と語ったように、主人公のゲンが見てきたこと、体験してきたことは中沢氏自身の投影です。
戦争と原爆というテーマを真正面から捉え、家族を失ったゲンが力強く生き抜く姿は多くの読者の心を掴み、実写化およびアニメ化もされました。
ゲンが怒るべき相手、ゲンが怒るのを止める時

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『はだしのゲン』が及ぼした影響とは──。
『はだしのゲン』で描かれる1945年8月6日の広島をガイドとして伝えるNPO法人理事、『はだしのゲン』の講談をライフワークとする講談師、『はだしのゲン』の外国語翻訳に奔走してきた編集者……。
一方で、「歴史的事実としての間違いはあるが、漫画としてみれば面白い」とするジャーナリストなど、彼らは漫画に宿る熱や怒りを、彼らなりの表現で後世に伝えてきました。
しかし近年は、「描写が過激」「間違った歴史認識を植え付ける」と学校図書館での閲覧制限を求める声や、広島市の平和教材から消えるといった逆風も。これもまた、漫画が持つ熱や怒りの副産物といえるでしょう。
本作を監督した込山正徳は、クリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』(2023)を観て、原爆の被害を受けた日本の描写が無いことに憤りを感じたことが、本作を製作するきっかけとなったと語っています。
「自分が作った原爆で身近にいる人々が消滅する」という幻想を見たオッペンハイマーが狼狽するというショットこそあったものの、日本に原爆を投下した直接的描写はありませんでした。こうした、不満や憤怒が原動力となって新たな作品を生み出すという流れは、実に興味深いものがあります。
ただ気になったのが、『はだしのゲン』を規制した当事者の声を直接拾っていないこと。
生前の中沢氏も『はだしのゲン』への規制に複雑な思いを語っていましたが、その規制者にこそ、ゲンはもっとも怒るべきではないか──と思わずにはいられません。
もしかしたら、規制した関係者にアプローチをするも断られてしまったのかもしれません。それでもドキュメンタリーとしては画竜点睛を欠いていると言わざるを得ないのが残念なところです。

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第二次世界大戦が終結して80年。しかし、現在でも大量虐殺は世界各国で行われています。人の死に戦争の規模など関係ありません。
「人類にとって最高の宝は平和です」──中沢氏の墓石に刻まれたメッセージが全世界で完遂される時こそ、本当の意味でゲンが怒るのを止める時かもしれません。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)


































