SNSで殺人犯にされた主人公の恐怖を描く『俺ではない炎上』
『六人の嘘つきな大学生』で知られる作家・浅倉秋成の同名小説を、阿部寛主演で山田篤宏監督が映画化しました。
ある日突然、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされた主人公・山縣泰介。見えない追跡者の手から逃れようとする山縣の姿を通し、SNS上で根拠の乏しい情報が“真実”となり大きな事件へと発展していく冤罪の恐怖を描きます。
誰も自分を信じてくれないという恐怖と、自分を捕えようとする人々から逃げ惑う山縣。走りに走って逃亡を図る山縣ですが、果たして彼は濡れ衣を晴らすことができるのでしょうか。
映画『俺ではない炎上』をネタバレありでご紹介します。
映画『俺ではない炎上』の作品情報

(C)2025「俺ではない炎上」製作委員会 (C)浅倉秋成/双葉社
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
浅倉秋成『俺ではない炎上』(双葉社)
【監督】
山田篤宏
【脚本】
林民夫
【キャスト】
阿部寛、芦田愛菜、藤原大祐、長尾謙杜、三宅弘城、橋本淳、板倉俊之、浜野謙太、美保純、田島令子、夏川結衣
【作品概要】
本作『俺ではない炎上』は、映画『六人の嘘つきな大学生』(2024)の原作者・浅倉秋成の同名小説を基にしています。
主人公・山縣泰介を阿部寛が演じ、大学生サクラを芦田愛菜、初羽馬を藤原大祐、青江を長尾謙杜、芙由子を夏川結衣が共演。『AWAKE』(2020)の山田篤宏が監督として取りまとめ、脚本は『護られなかった者たちへ』(2021)『空飛ぶタイヤ』(2018)などを手がけた林民夫が担当しました。
映画『俺ではない炎上』のあらすじとネタバレ

(C)2025「俺ではない炎上」製作委員会 (C)浅倉秋成/双葉社
大手ハウスメーカー勤務の山縣泰介(阿部寛)。会社ではバリバリ仕事をし、部下にも家族からも信頼されている毎日を過ごしていました。
そんなある日突然、彼自身のものとしか思えないSNSアカウントに、女子大生の死体画像をアップされ、殺人犯に仕立て上げられました。
ファミレスにいれば、若者グループからスマホで写真を撮られ、すぐに「ファミレスでたいすけがいた」などと情報がSNSにアップされる始末です。
死体となった女子大生の身元が判明し、マッチングアプリで‟たいすけ”と名乗る人物と頻繁に連絡を取っていたこともわかりました。
山縣への犯人疑惑はますます募ります。家族を愛し、誠実に働いてきた山縣にとって、実の覚えのない事態に無実を訴えるも、またたく間にネットで情報が拡散され、‟炎上状態”に。
匿名のユーチューバーに次々と個人情報を暴露され、日本中のスマホ使用者から追い掛け回されることになりました。
ビジネスホテルに潜伏していた山縣が車と荷物を取りにこっそりと自宅に戻った時、物置で別の女性の死体が入ったビニール袋を見つけました。
驚いて退いた山縣をフラッシュが捉えます。自宅を見張っていた‟私人逮捕系ユーチューバー”が、死体の入ったビニール袋と山縣を写真に撮ったのです。
山縣は一目散に自分の車に乗って、自宅を後にします。車はすぐに発見されるので、車内にあったスポーツウェアに着替えて、車を捨てて逃げることにしました。
走って逃げる途中、目についたスナック・しずくのママ(美保純)に助けられます。親し気に声をかけてくれるママに山縣は、娘が小学生の頃にSNSで知り合った男性に会いに行った話をします。
その男性は犯罪者でした。幸いにも山縣の娘はその男性と会わないですんだのですが、山縣はとても怒り、娘を物置に閉じ込めたのです。
その晩スナックで寝て少し元気を取り戻した山縣は、翌朝ママが酔いつぶれて寝ているすきに、スナックを逃げ出しました。
一方、警察の調べで、山縣の自宅で発見された死体は女性で、一人目の女性と同じマッチングアプリを利用していたことがわかりました。彼女たちは知り合った男性たちを脅してお金を巻き上げていたようでした。
彼女たちと一緒に悪どいことをしていた女性がもう1人いたのですが、彼女も今は行方不明となっていました。
その頃、最初にこうすけのアカウントでアップされた死体写真をSNSで拡散した大学生の住吉初羽馬(藤原大祐)は、アカウント名・サクラと名乗る女子大生に話しかけられます。
なんでも、たいすけの殺人事件で犠牲となった女子大生は自分の親友だから、山縣を一緒に探して欲しいと言うのです。最初は断った住吉ですが、結局車にサクラを乗せて山縣探しに付き合うこととなりました。
週に2日はランニングをしていた山縣は、早朝ランニングのふりをして逃亡を続けます。
逃亡中の泰介は、「これまで自分は周りから尊敬される人生を歩んできた。だから、みんなが助けてくれる」と思い、親身に世話をし仲良くしていた元部下の家を目指すことにします。
元部下の家についたのですが、「帰ってください」と言われました。しかも「気づいてないようだが、お前はみなから嫌われている」とも……。
ショックを受ける泰介。そのまま部下の家から立ち去りますが、時間が経つにつれて自分の会社での所業を思い出し、自分が嫌われても仕方がないと思いました。
映画『俺ではない炎上』の感想と評価

(C)2025「俺ではない炎上」製作委員会 (C)浅倉秋成/双葉社
歪んだ正義との戦い
本作の主人公・山縣は、ある意味自己中な男性でした。家庭でのいざこざもなく、仕事もバリバリできると自負する山縣ですが、ある日身に覚えのない自分のアカウントで作られたSNSに、殺人現場が投稿されました。
何が何だかわからないうちに、山縣は殺人事件の犯人として、‟私人逮捕系ユーチューバー”たちに追われるようになったのです。
山縣は、身の潔白を晴らそうとしますが、ネットで犯人だと言われ周囲の人間がみな敵に思えて、逃亡を図ります。そして徐々に自分が誰かにはめられたのではないかと思うようになったのです。
自分を憎む奴はいないと思っていたのに、実は自分は周囲の人から憎まれていたと知り、奈落の底へ落ちた気分になります。
誰が自分を陥れたのか、疑心暗鬼になった山縣に救いの手を差し伸べたのが、シーケン社員の青江でした。ですが、この青江こそが、小学生の‟えばたん”であり、山縣を陥れようとする張本人だったのです。
ここが原作小説との大きな違いでした。原作では青江は純粋な社員のままで、別人の‟えばたん”が真犯人として描かれています。映画では、山縣は自分を信じてくれたと思った青江に裏切られたことで、より深い苦しみを背負います。
なぜ青江は山縣を憎んでいたのか。青江の小学生の頃の記憶が、‟歪んだ正義”を育んで行ったと思われます。
間違った情報に踊らされて、特定人物が犯人であるかのような投稿をする若者たちは、自分もまた加害者になっていることに気が付きません。
「俺は悪くない」と唱える現代の若者たちが、今でもSNS上において、‟歪んだ正義”を投稿し続けているという現実に恐怖を覚えます。
キャストの好演に‟どんでん返し”も

(C)2025「俺ではない炎上」製作委員会 (C)浅倉秋成/双葉社
本作のキャッチコピーは、「えっ、SNSで人生終了!?」。文字通り、SNSで事件が拡散され、事件の投稿者として山縣が犯人とされました。
一度SNSで炎上されれば、人生は終わったも同然。「人の噂も75日」ということわざもありますが、SNSに上がってしまえば、なかなか消えることはありません。
そんな恐怖を味わった山縣ですから、そりゃ、SNSや世間から逃げますよ。
逃げまくって疲労骨折までする山縣を、文字通り体当たりで演じた阿部寛。恐怖にひきつる顔、皆から憎まれていると知って落ち込む様子、疲れ切って倒れ込むシーンまで、力の限りの熱演を披露してくれました。
また、そんな山縣を助けようと獅子奮迅の働きをするのが、芦田愛菜演じるサクラです。
知性の光る芦田愛菜がなりふり構わずに、山縣を陥れた犯人探しに乗り出す役を見事に演じていました。
女子大生サクラは、本作では重要なカギを握るキーマンです。原作を読んだ方ならわかるでしょうが、過去と現在とをうまくかみ合わせて映像化された一連の出来事には、時系列トリックが潜んでいます。
ラストにならないとこのトリックは融けないようになっていて、驚くべきどんでん返しが待っていました。
まとめ

(C)2025「俺ではない炎上」製作委員会 (C)浅倉秋成/双葉社
阿部寛主演映画『俺ではない炎上』をネタバレ有りでご紹介しました。
ある日突然、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされた主人公・山縣の姿を通し、SNS上で根拠の乏しい情報が“真実”となり大きな事件へと発展していくという、現代社会ならではのえん罪の恐怖を描いた作品でした。
SNSは上手に利用すればこんなに便利なツールはありませんが、誤った考えのもとで使っていると、えん罪事件の加害者になる場合もあるのです。
ですが、加害者になったという認識はみな持っていません。「俺は悪くない」という一言で終わります。
無責任とでもいうべき事態が、さらに次なる悲劇や事件を招くとも言えるでしょう。
SNSの炎上の恐怖を詳細に描いた本作では、社会におけるSNSの使い方を考えるべきだと、警鐘を鳴らしています。




































