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『白夜(1971)』あらすじ感想と評価レビュー。巨匠ロベール・ブレッソン幻の名作が4Kレストア版で蘇る《ドストエフスキー原作の若き男女による“夢想家の4夜”》

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『白夜』4Kレストア版が2025年3月7日(金)よりユーロスペース、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開!

ドストエフスキーの短編を原作に、セーヌ河岸とポンヌフを背景に若き二人の男女を見つめた巨匠ロベール・ブレッソンの名作映画『白夜』(1971)。

孤独な画家の青年ジャックは、理想の恋人との出会いを夢見てその思いをテープレコーダーに吹き込んでいます。そんな彼はポン・ヌフの橋である男性を待ち続ける女性マルトと出会い、彼女のために尽くそうとしますが……。

本作は、1971年カンヌ映画祭で初公開され、その後はフランスでも公開不可能でしたが、2012年に日本でのみ35mmニュープリントで上映され、2025年ついに4Kレストアでスクリーンに蘇ります

70年代のパリの街並み、マルトとジャックのみずみずしさ、色褪せぬ美しい世界観を彩ります。

映画『白夜』の作品情報


(C)1971 Robert Bresson

【公開】
1971年(フランス・イタリア合作映画)

【原題】
Quatre nuits d’un reveur

【原作】
フョードル・ドストエフスキー

【監督・脚本】
ロベール・ブレッソン

【キャスト】
イザベル・ベンガルテン、ギョーム・デ・フォレ、ジャン=モーリス・モノワイエ、ジェローム・マサール

【作品概要】
巨匠ロベール・ブレッソンが『やさしい女』(1969)に引き続き、フョードル・ドストエフスキーの短編を元に翻案。原作では19世紀のロシア・ペテルブルクが舞台でしたが、映画では撮影当時の70年代フランス・パリに変わっています。

ジャックとマルトを演じたのは、本作が映画初出演となったギヨーム・デ・フォレとイザベル・ヴェンガルテン。

日本では1978年に劇場で初公開され、2012年に35ミリニュープリント版が公開されました。そして2025年、4Kレストア版でリバイバル公開されます。

映画『白夜』のあらすじ

孤独な画家の青年ジャックは、理想の女性との出会いを夢見て、その思いをテープレコーダーに吹き込んでいました。

ある晩ジャックは、ポン・ヌフの橋で、思いつめた表情の美しい女性・マルトに出会います。

マルトは恋した男性が「結婚できる身分になったら1年後に会おう」と言い残し、アメリカに留学したと言います。しかし1年経ったその晩、相手は現れませんでした。

恋した男性を思うマルトの熱い思いに触れ、マルトに思いを寄せ始めたジャックは、マルトが約束の相手に会えるように協力します。

ジャックの協力も虚しく、相手は現れません。次第にマルトの思いもジャックに傾き始めますが……。

映画『白夜』の感想と評価


(C)1971 Robert Bresson

巨匠ロベール・ブレッソンが『やさしい女』(1969)に続き、ドストエフスキーの短編を翻案し映画化した『白夜』(1971)。1971年カンヌ映画祭で初公開された本作は、ロベール・ブレッソンの長編映画13作品の中でも見る機会の少ない映画でした。

日本では、1978年に劇場初公開されたのち、2012年に35ミリニュープリント版が公開されました。そして、2025年に4Kレストア版でリバイバル公開されます。

原作の舞台は19世紀のロシア・ペテルブルクでしたが、映画では撮影当時の1970年代のフランス・パリに変わり、美しい映像で映し出します。

ロベール・ブレッソンは俳優を起用せず、素人を起用し、音楽もほとんど使用しない独自の作風を貫きました。本作においても、ジャックとマルトを演じたギヨーム・デ・フォレとイザベル・ヴェンガルテンは本作が映画初出演となりました。

イザベル・ヴェンガルテンは、本作に出演後ジャン・ユスターシュ監督の『ママと娼婦』(1996)、ヴィム・ヴェンダース監督の『ことの次第』(1983)に出演しています。

そんなブレッソンが描く『白夜』は、恋に恋する男女の一方通行が描かれています。画家のジャックは恋に落ちやすく、理想の恋を夢見てはテープレコーダーに録音しています。それは、悪く言えば一方的な恋であり、現実の恋ではないと言えます。

一方、マルトの方も愛した男性を待ち続けていますが、終わった恋に縋り続けているとも言えます。ジャックもマルトも恋に恋をしているだけで、独りよがりなのです。

しかし、それこそが若さゆえの未熟さであり、目の前の恋に気づけない盲目さなのです。

マルトは恋した男性が現れないことに絶望しきり、そんなマルトに惹かれたジャックはマルトのために、恋した男性と会えるよう協力してしまうのです。

パリの街並みの美しさに比例して、2人の恋模様は青く、未熟ですうまくいかない恋に悲観し、恋を夢見てばかり2人の思いは交差することはありません

誰かの恋の余韻に縋っているような、美しくみずみずしいなかにある不毛さが印象的な映画です

まとめ

4Kレストアでスクリーンに蘇るロベール・ブレッソンの名作『白夜』は、タイトルにもある「夜」が印象的な映画と言えます。

ジャックがマルトに出会うのも「夜」です。日中も映し出されますが、日中のジャックはテープレコーダーに吹き込んでいたり、絵を描いていたりとマルトと一緒にいる場面ではありません。

恋に恋している2人の夜の逢瀬は刹那的であり、永遠を感じさせるような余韻と熱情を感じます。しかし、その熱情が夢かのように消え去った昼間が映し出され、良いアクセントになっています。

また邦題は『白夜』ですが、原題の「Quatre nuits d’un reveur」を直訳すると「夢想家の4夜」という意味です。その通りに、ジャックがマルトと出会った日の夜から4日目までの夜が描かれています。

出会って、互いの素性を話し、ジャックはマルトに協力しますが、マルトが恋をした男性は現れません。そして迎えた第4夜、2人の関係性はどう変化していくのでしょうか。

観終わった後も余韻が続き、観客自身の「夜」へと映画の世界が続いていくような心地良さも感じるような映画になっています。

映画『白夜』4Kレストア版が2025年3月7日(金)よりユーロスペース、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開!


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