Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2024/12/29
Update

『君への挽歌』あらすじ感想と評価レビュー。韓国インディーズ映画おすすめ1番の呼び名で公開される”夫婦の情愛をアイゴー(아이고)”と共に描く|映画という星空を知るひとよ243

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第243回

韓国伝統の歌が紡ぎ出す、ある老夫婦の愛の物語『君への挽歌』。この作品は、世界各地の映画祭で作品賞・監督賞・主演俳優賞を中心に計51冠もの賞を受賞し、「韓国インディペンデント映画史上、最も多くの賞を獲得した映画」と言われています。

映画『君への挽歌』は、2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で公開決定!


(C)2022 Film Company Soonsu

イ・チャンヨル監督が、韓国社会で多くの者が向き合う「認知症」と、韓国の口承伝統芸能「パンソリ」を題材に手がけました

パンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語『君への挽歌』を、映画公開に先駆けてご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『君への挽歌』の作品情報


(C)2022 Film Company Soonsu

【日本公開】
2025年(韓国映画)

【監督・脚本】
イ・チャンヨル

【プロデユーサー】
イ・ハンヨル

【キャスト】
ソン・ドンヒョク、チョン・アミ、キム・ユミ、ミン・ギョンジン、チャン・テフン

【作品情報】
映画『君への挽歌』は、韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の歌い手である夫と認知症を患った妻という、老夫婦の生と死の間で歌い上げられる愛の物語です。

イ・チャンヨル監督が思索の果てに辿り着いた人生の在り方を、口承により人から人へ受け継がれてきた伝統芸能パンソリと、一言では語り尽くせない老夫婦の愛の結末を描いた本作に綴り込みました。

映画制作・配給会社「SCRAMBLE FIILM」代表にして、『輝け星くず』(2024)『幕が下りたら会いましょう』(2021)『笑うマトリョーシカ』(2024)などに出演する俳優・松尾百華による、初の海外配給作品。

映画『君への挽歌』のあらすじ


(C)2022 Film Company Soonsu

韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の優れた歌い手であるドンヒョクは、ツアー公演や大学教授としての学生たちへの国楽の講義と、長年にわたり多忙の日々を送ってきました。

やがて高齢者となり、彼は「晩年を故郷で過ごしたい」という妻ヨニの願いを受け入れ、夫婦2人での美しい田舎暮らしを始めます。

ないがしろにしがちだった妻との時間を取り戻そうとするドンヒョクでしたが、ほどなくして彼女の言動の異変に気づきました。

今何を話していたのか、何をしていたのかを忘れてしまう……。感情を制御し切れず、時には暴力まで振るってしまう……。

挙句の果てに、愛娘の顔も忘れてしまうという有り様。ヨニは、認知症を患っていたのです。

何もかもを捨てて、愛する妻の介護に向き合うドンヒョク。ですが、認知症が進行し、別人のように変わっていくヨニに、彼の心は疲れ果てていきます……。

映画『君への挽歌』の感想と評価


(C)2022 Film Company Soonsu

本作の主人公は韓国の口承伝統芸能「パンソリ」の歌い手である夫・ドンヒョクです。ツアーや後輩への講義など多忙な日々を送り、晩年に妻・ヨニと2人で田舎暮らしを始めますが、ヨニは認知症を患っていました。

認知症は怖ろしい病気です。熱や咳がでることもなく、外見に異常は見られず、一見普通の人と変わらないのですが、記憶力が徐々になくなり、精神も次第に壊れていきます。

常軌を逸した行動を取ることも頻繁で、自分が何をしているのかさえ分からなくなります。その時の気分次第で暴れたり叫んだり、昼夜お構いなしに歩き回ったりと、少しの間も患者から目が離せなくなります。

これは患者の介護経験がある方なら充分理解できることですが、元気なころの患者を知っているがゆえに、認知症を患った姿は見るに忍びなく、介護するのもつらいものがあります。

治る見込みがない認知症。施設に預けるにもあまりに言動がひどいため入居を断られる場合もあります。昼夜を問わずヨニの監視をするのは不可能で、ドンヒョクと娘夫婦は疲労困憊に……。

ドンヒョクは認知症によって壊れていく妻への愛と切なさに、悩み苦しみます。胸が張り裂けんばかりのその想いを「パンソリ」を歌って表現。朗々と響く魂の叫びに胸を打たれます

認知症を患う妻を介護する夫。認知症を治す手立てはないものか。彼らを救うにはどうすればよいのか。

老夫婦の切なすぎる愛の物語は、自分たちの身にも起こり得ること。決して他人事とは言えない深い社会問題を孕んだ作品です。

まとめ


(C)2022 Film Company Soonsu

パンソリの歌い手である夫と認知症を患った妻の、生と死の間で歌い上げられる愛の物語『君への挽歌』をご紹介しました。

主人公のドンヒョクを演じた俳優ソン・ドンヒョクは、認知症を患った自身の母親を15年間支え、本作の撮影開始直前に見送った過去を持っているそうです。

それ故に、認知症の妻を介護する姿に鬼気迫るリアリティを感じるに違いありません。

映画『君への挽歌』は、2025年2月7日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋で公開決定!

美しく切ない老夫婦の愛の物語を、ぜひ劇場でご覧ください。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。



関連記事

連載コラム

『ドクター・デスの遺産』原作小説ネタバレと結末までのあらすじ。どんでん返しが待ち構えるバディ刑事を徹底解説|永遠の未完成これ完成である19

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第19回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、2020年11月13日公開の『ドクター・デスの遺産』 …

連載コラム

『Cosmetic DNA』映倫先輩との甘酸っぱい思い出【自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦4】

連載コラム『自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦』 第4回「映倫先輩との甘酸っぱい思い出」 皆様、お世話になっております。誰もお前の世話なんかした覚えねえよというそこのあなた、今こうしてリンクか …

連載コラム

映画『人数の町』感想と考察評価。中村倫也の演技力で魅せる“謎の町で生き抜く”多様な表情に注目|スター深堀研究所1

連載コラム『スター深堀研究所』第1回 読者の皆さま、はじめまして。連載コラム『スター深堀研究所』を担当させていただくことになりました、咲田真菜です。 このコラムでは特定のキャストにスポットをあてて、作 …

連載コラム

SF映画おすすめランキング!2010年代の隠れた名作ベスト5選【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車106

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile106 今回のコラムでは遠藤麻衣子監督による最新映画『TOKYO TELEPATH 2020』(2020)をご紹介予定でしたが、予定を変更させて …

連載コラム

【ネタバレ】ザ・ローブ |あらすじ結末感想と評価解説。ブルース・ウィリスがSFアクションで特殊能力を持つ超人を演じる|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー117

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第117回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学