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Entry 2020/08/22
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映画『人数の町』感想と考察評価。中村倫也の演技力で魅せる“謎の町で生き抜く”多様な表情に注目|スター深堀研究所1

  • Writer :
  • 咲田真菜

連載コラム『スター深堀研究所』第1回

読者の皆さま、はじめまして。連載コラム『スター深堀研究所』を担当させていただくことになりました、咲田真菜です。

このコラムでは特定のキャストにスポットをあてて、作品の中でどのような役を演じ、どんな魅力を放っているのかを紹介していきます。

第1回目は、2020年9月4日(金)より劇場公開される『人数の町』で主演を務める中村倫也にスポットを当てます。

テレビドラマや舞台で活躍し、まさに乗りに乗っている中村が、出入りは自由だけれど離れることができない謎の“町”に住むことによって、さまざまな表情をみせていきます。崖っぷちに立たされた青年を演じる中村の魅力に迫ります。

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映画『人数の町』の作品情報


(C)2020『人数の町』制作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【脚本・監督】
荒木伸二

【音楽】
渡邊琢磨

【キャスト】
中村倫也、石橋静河、立花恵理、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗、山中聡

【作品概要】
本作は衣食住が保証され、セックスで快楽を貪る毎日を送ることができる町。出入りが自由なのにもかかわらず、決して離れることはできない、という謎の町です。

借金で首の回らなくなった蒼山(中村倫也)が、その町の住人となり、そこで出会う人々との交流を経て町の謎に迫っていく新感覚のディストピア・ミステリーです。

謎の町で蒼山が出会うのは、令和版『東京ラブストーリー』で赤名リカ役を演じて話題の石橋静河が演じる木村紅子、本作で映画初出演となる『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』の立花恵理が演じる末永緑、『映像研には手を出すな!』に出演中の山中聡が演じるポールなど、フレッシュな面々が顔を揃えています。

監督・脚本は、松本人志出演の『タウンワーク』のCMやMVなどを多数手掛ける荒木伸二が初の長編映画に挑戦しました。

映画『人数の町』のあらすじ


(C)2020『人数の町』制作委員会

借金取りに追われ暴行を受けていた蒼山は、黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられました。その男は蒼山に「居場所」を用意してやるといいます。蒼山のことを“デュード”と呼ぶその男に導かれ辿り着いた先は、ある奇妙な「町」でした。

そこでは、初対面の住人同士が独特の挨拶を交わすルールがあったり、住人が交流するためのプールでは、人目もはばからず気に入った女性や男性を誘って自由にセックスをすることができます。

一見すると楽に暮らせるパラダイスのような町ですが、衣食住を保証してもらうためには、言われるがままに仕事をしなければなりません。仕事先では他人に変わって選挙の投票をしたり、街中に寝そべってデモをしたり、奇妙なことをさせられます。一体この町は何のために存在しているのか、タイトルでもある『人数の町』の謎が少しずつ解き明かされていきます。

映画『人数の町』の感想と評価

(C)2020『人数の町』制作委員会

違和感を覚えながらも町に溶け込んでいく

主人公の蒼山は、借金で首がまわらなくなり、にっちもさっちもいかないところへ追い詰められた崖っぷちの青年です。逃げ場がなく、借金取りから殴られているところを助けてくれた、黄色いツナギを着た謎の男に導かれるように、ある町へ行くことになります。

蒼山を「デュード」と呼ぶその男に連れてこられた町の住人は、同じく黄色いツナギを着た「チューター」たちに管理され、簡単な労働と引き換えに衣食住が保証されています。

住人たちが交流を深めるプールでは、繋がった者同士でセックスの快楽を貪ることも出来るのです。

借金取りに追われる生活から逃れることができた蒼山ですが、住人が初めて出会った時に交わす決まり文句のような挨拶や、時々仕事と称し外出し、別人を装って選挙の投票を行なったりすることなどに違和感を覚えます。

蒼山は時々間の抜けた質問をして、住人の末永緑からバカにされたりするのですが、「謎の街に来てからはイライラすることもなくなり、常にふわふわした気分だ」と語り、違和感を覚えながらも町の暮らしに溶け込んでいきます。

思うに、借金で首がまわらなくなってしまいこの町に来た蒼山は、もともと自分を律して生きることが苦手な青年なのかもしれません。謎の街に来た当初は、なんとなく不安げな表情をしていた蒼山が、少しずつ、何も考えずに日々を過ごし、ぼーっとした男性に変わっていく様を、中村は自然体でうまく演じています。

新しい住人・紅子の登場で蒼山の気持ちに変化が

(C)2020『人数の町』制作委員会

さまざまな女性から誘いがかかり、衣食住も保証され、たまに外出して簡単な仕事をする…。そんな気楽で、ある意味自堕落な生活を送っていた蒼山ですが、新しい住人・木村紅子が町に登場したことで変化が起きます。

他の住人と違って、どこか思いつめたような様子の紅子が蒼山は気になって仕方がありません。思い切って話しかけ、よくよく話を聞いてみると、彼女は行方不明になった妹をこの町に探しに来たのだといいます。その妹こそが、蒼山をいつも小ばかにしている緑でした。

そこで初めて、実は緑には幼い娘がいて、娘を虐待する夫から逃げてきた過去があることを知る蒼山。娘は緑から引き離され、町の別の場所に隔離されているのを見た紅子は、「このままではいけない」とこの町から逃げることを決意します。

しかし謎の町での自堕落な生活にすっかりなじんでしまった緑は、紅子の話を全く聞こうとしません。緑を説得するために悪戦苦闘する紅子を見つめる蒼山の目に変化が出てきます。町で漫然と過ごしていた時のとろんとした目から、「紅子を守りたい」という気持ちが出たからか、力のある目に変わっていきます。

決して逃げられない町からの逃亡

(C)2020『人数の町』制作委員会

「このままこの町にいてはいけない」という紅子の強い意志に動かされ、紅子とともに町を出ることを決意する蒼山。

しかし、かつて住人の一人に「フェンスの外へ行ってみないか」と誘われた時、蒼山はある不思議な現象に見舞われたことがありました。

それを回避するための道具をチューターたちの部屋へ忍び込んで持ち出し、脱出を決行します。

途中で待ち伏せていた若い女性チューターを殴り倒し、紅子と緑の娘の3人で逃亡します。これまでは、どことなくぼーっとした雰囲気の蒼山でしたが、すでにその姿はありませんでした。

しかし町を脱出したものの、外の世界では蒼山と紅子にとっては、厳しい現実が待っていました。なんとか二人を守ろうと必死になる蒼山は、町に来る前借金取りに殴られ、自分の人生を半分諦めたような情けない表情をした青年とは違う人間へと変化していきました。

まとめ

(C)2020『人数の町』制作委員会

テレビCMでは、クライアント企業にプレゼンテーションをして、見事契約を勝ち取るいかにもできるサラリーマンを演じている中村倫也。そんな中村の印象が強い人は、本作で見せる少し頼りなく情けない姿に驚くと思います。しかし本作の中で中村は、実に4段階に分けて、魅せる表情を変えていきます。

借金取りに追われて、人生を諦めたような表情、謎の町で快楽に溺れていく自堕落な表情、愛する女性とその姪を命がけで救おうとする表情、そして物語のエンディングで、あることを決意した時には、これまでとはまた違った、何かを達観したかのような表情を魅せます。実に1つの作品で中村は、さまざまな表情を見せているのです。

今作で中村が演じた蒼山という役は、いわゆる感情を激しく表現するキャラクターではありません。そんな中、多様な表情を魅せなければいけないのはとても難しい役どころだったと思いますが、中村は見事に演じきりました。

この作品を観て、旬な俳優の一人としてあげられる中村が、今後ますます活躍していくだろうとさらに期待が高まりました。

次回の連載コラム『スター深堀研究所』もお楽しみに。

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