2025年2月14日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開
ダコタ・ジョンソン×ショーン・ペンがおくるワンシチュエーション舞台劇。
ジョン・F・ケネディ空港からマンハッタンへと向かうタクシー。他愛のない会話は、次第に予期せぬ形で互いの本音を曝け出していきます。
愛に悩む女性と愛に後悔するタクシー運転手。二度と出会うことのない2人だからこそ、話せる互いの秘密。悩める大人に捧ぐ珠玉のドラマ。
劇作家であるクリスティ・ホールの脚本に惚れ込んだダコタ・ジョンソンをプロデューサーを務め、クリスティ・ホールが脚本・監督を担当した映画『ドライブ・イン・マンハッタン』。
そんなダコタ・ジョンソンと、『ミスティック・リバー』(2003)、『ミルク』(2008)で二度もオスカーに輝いたショーン・ペンの2人が、タクシーの車内だけというワンシチュエーションで、息のあった演技をみせます。
映画『ドライブ・イン・マンハッタン』の作品情報
【日本公開】
2025年(アメリカ映画)
【原題】
Daddio
【監督・脚本】
クリスティ・ホール
【撮影】
フェドン・パパマイケル
【製作】
ダコタ・ジョンソン、ロー・ドネリー、エマ・ティリンジャー・コスコフ、クリスティ・ホール、パリス・カシドコスタス=ラトシス
【キャスト】
ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペン
【作品概要】
劇作家であり、『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』(2024)の脚本を手がけたクリスティ・ホールの脚本が、脚本家専門サイトThe Black Listのトップ3に選出されたことで注目を集め、ダコタ・ジョンソンが映画化を切望し、プロデューサーとして製作を手がけました。
クリスティ・ホールは本作で初監督を務め、撮影監督には『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ』(2013)、『シカゴ7裁判』(2020)でアカデミー賞撮影賞に2度ノミネートされたフェドン・パパマイケルが務めました。
映画『ドライブ・イン・マンハッタン』のあらすじ
夜、ジョン・F・ケネディ空港に降り立ったある女性(ダコタ・ジョンソン)が、タクシーに乗り込みます。
タクシーの運転手(ショーン・ペン)は、物憂げな表情でスマホを見ることも、音楽を聴くこともしない女性の姿に好感を持ち、「今夜はお客さんで最後だ」と話しかけます。
女性は運転手の質問に軽いジョークで返し、運転手に「名前は?」と質問を返します。クラークという名の運転手は、自分の名前が高尚でそんな柄ではないとジョークを飛ばします。
女性はスマホに目を落とし、会話が途切れます。スマホを見て表情を曇らす女性の姿を運転手はミラー越しに見つめていました。
「会いたい」「写真を送って」
一方的に己の欲求を満たそうとする恋人のメッセージに対する返答に困る女性。そんな女性に運転手は世間話を続けます。女性はプログラマーで、ニューヨークの住んで9年だと言います。
故郷はオクラホマで、ちょうどオクラホマの故郷に行ってきた帰りだと言います。年の離れた姉のことがあまり好きではないが、その姉に会いに行ったと言います。
姉は恋人とトレーラーに住み幸せそうだったと言う女性。運転手は、女性のから話をするする聞き出しますが、その一方で女性が触れてほしくないことまで、あえて刺激したくて言ってしまいます。
恋人は既婚者だろうと言い当て、自身も浮気をしてきたという運転手は、男性の本音と建前を説き、浮気相手からの「愛している」は求めていないと言ってしまいます。
女性は怒りますが、運転手は謝り、他愛もない話のはずが、互いの深い本音まで引き出していくのでした。
映画『ドライブ・イン・マンハッタン』の感想と評価
タクシー運転手と女性の乗客。二度と出会うことのない2人だからこそ話せる互いの会話。味わい深い大人の映画『ドライブ・イン・マンハッタン』。
タクシーの車内という限られた空間で展開される本作は、会話の妙、ダコタ・ジョンソンとショーン・ペンの重厚な演技によって観客を引き込みます。
また、本作は現代社会において疎遠になりつつある人と人との対話の大切さを感じさせます。運転手は乗客の女性を見て、スマホをいじらない姿に「機器に接続されていない人間だ」と好感を持ちます。
スマホの普及によって現代人はスマホへの依存度が高まっています。人とリアルできちんと対話するという大切さが忘れられているという側面もあるでしょう。そんな中、本作における女性も運転手も互いの目を見てきちんと話します。
それもミラー越しに互いの目を見ているのです。運転手は、女性がスマホを見て表情を曇らせる姿を鏡越しに見て、女性が悩んでいることに気づきます。そしてそれが恋人との悩みであることも何となく気づいていたのです。
自分勝手に生き、浮気もしてきた運転手は、かつての自分に対する後悔も感じています。そんな運転手だからこそ、そんな男性に振り回されてほしくないと思うのです。
一方で、中には運転手にプライベートについて詮索するような会話をすることを好まない人も当然いるでしょう。そんな人にとって時にスマホは、コミュニケーションを取りたくないという意思表示ともいえます。
その意味で、女性は運転手に話しかけられることに拒絶反応はなかったと推測できます。運転手の方も、女性の様子を見て話しかけたのでしょう。さらに、スマホのメッセージを見て表情が曇った女性の様子に、何か悩んでいるのではと思ったのでしょう。
そのように相手の様子を見てコミュニケーションをはかることが、一方的ではない会話につながっていきます。しかし、それは多くの人とコミュニケーションをとってこそ、身に付くものと言えます。
見ず知らずの人に話すことで、心が軽くなることもあります。人は、出会いと別れを繰り返すものだからこそ、ふとした出会い、ふとした会話が思わぬ人生の分岐点になったりするのです。
ふとした出会いが織りなす心の揺れ動き、感情の吐露……そのマジカルさに見ている観客の心もするすると解かれていくかのようです。ふっと心に触れる、忘れない一作になるかもしれません。
まとめ
ダコタ・ジョンソン×ショーン・ペンが贈るワンシチュエーション舞台劇『ドライブ・イン・マンハッタン』は、キャリアを重ねた今の2人だからこそ出せる見事な演技で観客を引き込みます。
特に、恋人からの性的なメッセージを見て表情を曇らせたり、図星なことを運転手に言われて怒ったり……様々なダコタ・ジョンソンの表情に釘付けになります。
ダコタ・ジョンソン演じる女性は、自立した女性という一面を持つ一方で、家庭環境によりトラウマを抱えているという一面も浮き彫りになっていきます。誰しもトラウマを引きずっていることを指摘されて、そう簡単に認められるものではありません。
しかし、運転手は嫌なことを言う一方で、自立した女性だからこそ立ち直ることができる、いつかきっと前に進めると、愛に思い悩む女性の背中を押すのです。
ダコタ・ジョンソンの演技が素晴らしい一方で、その女性像はややステレオタイプから脱することができていないという側面もあります。そこには、成功した白人女性像という固定概念も感じられます。
また、性の欲求に関しても女性が受動的ではなく、能動的であると本人が思っているということを描くためとはいえ、性的な会話は人を選ぶ演出とも言えるでしょう。
少し刺激的な部分もありますが、ウイットに富んだ味わい深い大人の会話劇が楽しめる映画になっています。