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【ネタバレ】ハドソン川の奇跡|あらすじ結末と感想評価。実話実録の航空機事故をイーストウッド監督とトム・ハンクスが温かく辛辣に描く

  • Writer :
  • 谷川裕美子

英雄となった機長を待ち受けていた運命とは

映画『ハドソン川の奇跡』は、『許されざる者』(1993)の名匠クリント・イーストウッド監督が、『フォレスト・ガンプ』(1994)のトム・ハンクスを主演に迎えて製作したヒューマンドラマ。

2009年のアメリカ・ニューヨークで起こり、奇跡的な生還劇として世界に広く報道された航空機事故を、当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記「機長、究極の決断 『ハドソン川』の奇跡」をもとに映画化しました。

乗客全員を救い英雄となったサリー機長でしたが、空港に戻るべきだったのではないかと操縦ミスを疑われ審問を受けることとなります。

衝撃の実話をリアルに描写した名作の魅力をご紹介します。

映画『ハドソン川の奇跡』の作品情報


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

【公開】
2016年(アメリカ映画)

【原作】
チェズレイ・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー

【監督】
クリント・イーストウッド

【脚本】
トッド・コマーニキ

【編集】
ブル・マーレイ

【キャスト】
トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、クリス・バウアー、マイク・オマリー、アンナ・ガン、ジェイミー・シェリダン

【作品概要】
世界から注目された奇跡の生還劇の顛末を、『許されざる者』(1993)の巨匠イーストウッドが映画化。

当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記「機長、究極の決断 『ハドソン川』の奇跡」をもとに、航空機事故の緊迫の着水劇から試練の後日譚まで描きます。

エンジン故障機を川に不時着させることに成功した機長は、乗客全員の命を助けて英雄になったのも束の間、操縦ミスを疑われ国家運輸安全委員会と対立することとなります。

フォレスト・ガンプ』(1994)のトム・ハンクスの憂いと誇りをたたえた名演が光ります。

共演はアーロン・エッカート、ローラ・リニー。

映画『ハドソン川の奇跡』のあらすじとネタバレ


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

2009年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機がマンハッタンの上空850メートルでバードストライク(鳥の衝突)を受け、エンジン故障によりコントロールを失いました。

機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功します。その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、全員が事故から生還しました。

サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されますが、その判断が正しかったのかと、国家運輸安全委員会(NTSB)から厳しく追及されます。

常にマスコミに囲まれ、世間から注目を集める中、サリーは事故の後遺症に苦しめられるようになりました。

やがて委員会から「左エンジンは作動していた」と伝えられますが、サリーは2基とも停止していたと反論します。委員会から厳しく追及され、自分が間違っていたのではないかと落ちこむサリーを、副操縦士のジェフが正しいことをしたのだと言って勇気づけました。

それでもサリーは、もし自分が有罪だったとしたらという恐怖に苛まれ続けます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『ハドソン川の奇跡』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『ハドソン川の奇跡』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

事故の当日。ラガーディア空港を飛び立ってまもなく機体に鳥の大群が激突し、両エンジンが破損しました。サリーは両エンジン不能を管制室に伝え、ラガーディア空港に引き返すと伝えます。しかし、それはすぐに不可能だとサリーは判断しました。

サリーはテターボロ空港に向かおうとしますがすぐに思い直し、管制室にハドソン川に不時着する決断を伝えました。しかし、管制にその言葉が伝わらないまま通信は途絶えます。

いよいよ不時着する寸前、「衝撃に備えて」と言う機長からの言葉と、乗務員の指示に乗客らは必死で従いました。ハドソン川に向かう機体を、管制室は恐怖の目で見守ります。

飛行機は水上不時着に成功しましたが、すぐに浸水し始めました。機長、乗務員らの誘導のもと、乗客らは凍えそうな寒さの中、翼上に脱出を始め、沿岸警備隊が救助に向かいます。

サリーは機内に残っている人がいないか点検した後、一番最後に機体を出ました。船に救出された彼は、妻に電話で無事を伝えます。その後、全員が無事だったと判明し、サリーは心から安堵しました。

一人で入ったバーで流れていたニュースの中で、リポーターが「機長の完璧なタイミング」と話すのを見たサリーは、問題は「タイミング」にあったことに気づきます。

やがて公聴会が開かれました。操縦室音声記録を聞く前に、サリーの要望によりエアバス社が衛星中継でシミュレーションを行うことが告げられます。

ラガーディア、テターボロの2ヶ所でのシミュレーションでは、空港に問題なく戻ることができました。しかし、サリーはパイロットの動きは初めて事故に遭遇したものとは思えないと指摘します。

彼らはコンピューターのシミュレーション通りでしたが、それは鳥と遭遇直後に引き返したからであり、分析や決断にとられた時間は存在しませんでした。

シミュレーションに臨んだパイロットらが17回の練習をした後に本番に臨んだことが明かされ、会場は静まります。国家運輸安全委員会はサリーの批判を受け入れ、決断に要しただろう35秒を追加したシミュレーションを再開します。

ラガーディア、テターボロいずれのシミュレーションも、着陸に失敗して終わりました。

その後、当日の操縦室音声記録が流れました。聞いた後、サリーはジェフに向かい、危険下でも冷静だった彼を誇りに思っていると伝えます。チームプレーで互いに仕事をこなしたことを、ふたりは称え合いました。

公聴会が再開され、左エンジンは完全に破壊されていたことが報告されました。サリーは成功の要因はあなただと称賛されますが、それは違うと反論します。クルーや乗客、レスキューなど全員が力を尽くしたからこそ、全員が生還できたのだと。

もし同じ状況になったら違う方法をとるかと聞かれたジェフが「やるなら7月に」とジョークで答え、会場は温かな笑いに包まれました。

映画『ハドソン川の奇跡』の感想と評価


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

感覚を言語化する難しさ

人の世の素晴らしさと難しさを映し出す実話を基に、名匠クリント・イーストウッドが生み出した秀作です。

バードストライクによってエンジン機能を失った飛行機を、ハドソン川に不時着させることを選んだ機長のサリー。

その決断の根底には、乗客すべてを生還させるという強い信念がありました。願い通り乗客乗員すべてが助かったことから、「ハドソン川の奇跡」の英雄としてサリーは注目されます。

しかし、その後生じたのはいわゆる大人の事情にあたる問題ー事故によって生じた飛行機の損害やその保障問題でした。

左エンジンが稼働していたというデータが出たことから、サリーは空港に引き返すべきだったのではないかと、国家運輸安全委員会から追求されます。

操縦ミスの嫌疑をかけられたサリーは苦悩します。長年の経験による勘から、ハドソン川に向かうのが一番助かる確率が高いと判断しましたが、それが本当に正しかったのかどうか、自分を疑うようになっていきました。

自分には正しい判断だと確実にわかっていたという実感があっても、それが本当に正しいことを自分にも周囲にも説明することがどれほど難しいことか。この作品は難題を突きつけます。

テレビのリポーターが話していた「タイミング」という言葉をきっかけに、サリーは突破口を見いだします。それは、シミュレーションには「人的要因」が欠落しているという事実でした。

実際に事故に合い、分析をし、判断をする時間。その分としての35秒を追加して、2つのシミュレーションを再開したところ、どちらも墜落して失敗します。

たった35秒その違いですべてが変わってしまう恐ろしさとともに、その数秒の間に正しく大きな決断したサリーとジェフのすごさに鳥肌が立ちます。

国家運輸安全委員会は本作で悪役的に描かれますが、彼らに悪意があるはずもなく、サリー同様に自身の仕事をしたに過ぎません。

何が真実であるかを、相手に、そして世界にわかりやすく言語化して提示しなければならなくなったのは、サリーにとってとても大変なことでした。

しかし、真実を解明できるのは自分しかいないと気づいたサリーは、この酷なミッションにも挑み、見事全員を納得させます

ラストでジェフのジョークによって、会場にいる人は皆笑いに包まれました。誰もが望んでいたのは、この温かな解決だったことが伝わってくる素敵なラストです。

一人ひとりの大切な人生


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

本作では乗客の姿も丁寧に描かれます。車椅子の高齢の母と娘、足の悪い父と息子、その従兄弟、小さな赤ちゃんを抱いた女性。一人ひとりに顔があり、それぞれに人生があることが伝わってきます

サリーと長年の付き合いのある副操縦士のジェフ、経験豊かな乗務員たち。後にサリーは、緊急時も冷静に対処したジェフを褒めますが、乗務員の女性たちも落ち着いてプロの仕事をしました。彼女たちのかけ声に従った乗客らも、互いの命を救うためにベストを尽くしました。心の内では、緊急時にも関わらず職務を全うするクルー達を心からリスペクトしていたことでしょう。

そして、飛行機にいる人たちを助けるために駆けつけた警備隊、レスキュー、救急たち。すべての人たちの力が結集して、乗客と乗員、そして彼らの家族や友人すべての人生を救ったのです。

リアルを追求したイーストウッド監督は、救出に関わった当時の関係者を本人役で多数出演させたそうです。監督が伝えたかった思いが画面からにじみ出ているように感じられます。

まとめ


(C)2016 Warner Bros. All Rights Reserved

名匠クリント・イーストウッドと名優トム・ハンクスがタッグを組んだ胸熱くなるヒューマンドラマ『ハドソン川の奇跡』。人の運命が天と地を行き来するさまがリアルに活写されています。

まさに奇跡の実話で、その内容には驚かされるばかりです。イーストウッド監督のぜひとも映像化したかったという熱い思いがじんじん伝わってきます。

自分を守るために、そして世界に真実を知らしめるために、力を振り絞って事実を見つめ直した主人公・サリーから、多くのことを教えられる一作です。



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