お節介は人を救う!?孤独な男の《再生》の物語。
スウェーデンの人気作家フレドリック・バックマンの世界的ベストセラー小説『幸せなひとりぼっち』を、トム・ハンクスの主演・製作でリメイク映画化した『オットーという男』。
主人公オットーは、町一番の嫌われ者。曲がったことが許せない彼は近所のパトロールを欠かさず、ルールを守らない住人にお説教ばかりしています。
そんなオットーも、人知れず孤独を抱えていました。最愛の妻を亡くし、仕事も失い、生きる気力を失くした彼が自ら命を絶とうと決めた時、向かいの家に賑やかな家族が引っ越してきます。
奥さんのマリソルは何かとオットーを頼り、ズケズケと生活に入り込んで来ます。迷惑がるオットーでしたが、その出会いは彼の心にある変化をもたらします。
笑って泣いて心温まるヒューマンドラマ『オットーという男』を紹介します。
映画『オットーという男』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(アメリカ映画)
【監督】
マーク・フォースター
【キャスト】
トム・ハンクス、マリアナ・トレビーニョ、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、レイチェル・ケラー、トルーマン・ハンクス
【作品概要】
原作はスウェーデンの作家フレドリック・バックマンの小説『幸せなひとりぼっち』。2016年に映画化された際にはアカデミー賞・外国語映画賞にノミネートされた同小説に、作品に感銘を受けたトム・ハンクスがプロデューサーとなり、ハリウッドでのリメイクを果たしました。
監督は『チョコレート』(2001)、『ネバーランド』(2004)など、数々の感動作を生み出してきたマーク・フォースター。名優トム・ハンクスが、主人公である町一番の嫌われ者・オットーを演じます。
またオットーの人生を変えた陽気な女性マリソル役を、メキシコで最も人気のあるコメディ女優のひとり、マリアナ・トレビーニョが演じています。
映画『オットーという男』のあらすじとネタバレ
町のホームセンターで、店員と散々揉めながら、きっちり長さを計った紐を購入した男。そんなオットーという男は、町一番の嫌われ者でした。
早朝5時30分に目覚ましが鳴る前に起床すると、朝のルーティーンである近所のパトロールを開始。ゴミの分別、車の乗り入れなど、ルールを守らない住人に説教三昧。挨拶されても仏頂面で、常に眉間にシワを寄せています。
しかし今日は、自身が勤めていた工場を辞める日でした。最愛の妻に先立たれ、仕事も辞め、この先の人生を生きてゆく意味を、オットーは見出せずにいました。
オットーは、自らの命を絶つ準備をしていました。スーツに着替え、リビングの天井に買ってきた紐を括りつけ、セットしたイスに上がります。妻ソーニャとの出会いをはじめ、幸せだった日々が走馬灯のように蘇ります。
最後に窓から見えたのは、向かいの家に新しい住人が引っ越してきた様子でした。今となっては、もうどうでもいいことです。
オットーは紐に首を通し、イスを倒します。苦しい……と思ったのも束の間、「ドカッ」床に落ちたオットー。天井には穴が開いていました。
また、向かいの家から騒がしい声が聞こえてきました。引っ越し車の縦列駐車に苦労しているようです。何度もバックを繰り返しては、壁にぶつかりそうになっています。見かねたオットーは家を出ると、車を止めてやりました。
越してきたのは、トミーとマリソルの夫妻です。子供は女の子が2人。そして、マリソルのお腹の中にはもう一人いるようです。
トミーとマリソルは、お礼にと手作り料理を持参しオットーの家に押しかけてきます。人懐っこく陽気なマリソルは、オットーとは真逆の人間でした。
それからというもの、事あるごとに頼ってくるマリソルに迷惑顔のオットーでしたが、なんだかんだとお願いを聞いてしまいます。差し入れてくれる手作り料理の味も抜群でした。
しかし、オットーは「早くソーニャの元に行くんだ」と焦り出します。ガレージに止めてある車の中で、今度こそ死ぬ覚悟です。ガスを静かに放ちます。
「バンバンバン」ガレージのシャッターを激しく叩く音で、オットーは我にかえります。飛び出してみると、マリソルが慌てています。聞けば、夫のトミーが梯子から落ちて負傷し病院へ搬送されたので、車で送っていってほしいとのこと。
「なんで私が?」……気づけば、マリソルと子どもたちは後ろに乗っていました。病院では子守をりも任されたオットーでしたが、子供たちを楽しませようとやってきたピエロのマジックに、大人げなく本気で怒ってしまい警察沙汰に。
マリソルのおかげで、亡きソーニャの元にも行けずじまいの散々な日々が続くオットー。近所に住み着いた猫の世話まで押し付けられた中、いよいよオットーは自分の死に場所を求め、駅のホームに立ちます。
映画『オットーという男』の感想と評価
スウェーデンの作家フレドリック・バックマンの小説『幸せなひとりぼっち』のハリウッド版リメイク映画『オットーという男』。人生を諦めた孤独な男が、おせっかいなご近所さんの出現によって、生きる気力を取り戻していく笑いと感動のヒューマンドラマです。
偏屈ながらどこか滑稽な主人公オットーを演じるのは、名優トム・ハンクス。仏頂面でロボットのように感情を出さない表情の中にも、どこか優しさがにじみ出るトム・ハンクスならではの演技が光ります。
オットーが他人との関わりを持たず、孤独になった背景には、愛する妻ソーニャの死がありました。彼女の死を受け入れられず、家の中はそのままに、ソーニャゆかりの遺品たちを捨てることもなく持ち続けています。
思い出すのは、彼女との幸せだった記憶ばかり。「もし、生きていたなら」と悲しみに囚われ、前に進むこともできないオットー。
そんな「生きていても仕方がない」と、自ら命を絶とうとしていたオットーの人生を変えた人物が、近所に引っ越して来たお節介おばちゃん・マリソルでした。
対して、人懐っこく陽気な性格のマリソルは、オットーが迷惑そうでもお構いなしに話しかけてきます。周りを巻き込み迷惑をかける一面もありますが、どこか憎めないキャラクターです。
ご近所になったのも何かの縁。困った時は助け合うことが当たり前。オットーは、マリソルの強引なお願い攻撃をかわすことができません。オットーとマリソルのやりとりは、全く噛み合わず、思わず笑ってしまいます。
マリソルに振り回されながらも、オットーの心は少しずつ変化していきます。誰かに必要とされること。自分を本気で心配してくれる誰かがいるということ。「自分も誰かの役に立ちたい」と願うこと。
忘れかけていた感情が再び沸き起こってきます。それは
「幸せ」という感情であり、「生きたい」という気持ちでした。
人と関わる喜びを取り戻したオットーの人生は、最期まで満たされた人生となりました。人は決して一人では生きていけないものなのだと改めて感じます。
近所づきあいがめっきり薄くなった現代では、お節介焼きのおばちゃんも姿を消しています。むしろ、隣人に無関心な人も多いことでしょう。マリソルのお節介までとは言いませんが、他人の心の痛みに気づき声をかけてあげられる、優しさからきたお節介は、持ち続けていたいものです。
ちょっとした挨拶や笑顔を心がけるだけでも、人生が少しだけ賑やかに、楽しくなるかもしれません。
まとめ
トム・ハンクス主演で、ハリウッドリメイク版として映画化された『オットーという男』を紹介しました。
町一番の嫌われ者オットーは、実は悲しみに囚われ、「幸せ」を見失ってしまっていた男でした。そして、生きる気力を失ったオットーを救ったのは、陽気なお節介おばさんなマリソルでした。
人に必要とされることは、孤独だったオットーに、生きる意味を取り戻させてくれました。困った時はお互い様。家族でなくても、本気であなたを心配してくれる人がいるはずです。
映画を観終わった後は、人に優しくしたくなることでしょう。