硫黄島の戦いを日本側の視点で描いた映画史上初の2部作の第2弾。
クリント・イーストウッドが製作・監督を務めた、2006年製作のアメリカの戦争ドラマ映画『硫黄島からの手紙』。
太平洋戦争最大の激戦だったといわれる、硫黄島の戦い。参加した1人の若き日本軍の兵士の視点から見る、約2万2000人の日本軍を率いたアメリカ帰りの名将栗林忠道中将たちの戦いとは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
アメリカ側の視点で硫黄島の戦いを描いた映画『父親たちの星条旗』と対になる映画『硫黄島からの手紙』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
映画『硫黄島からの手紙』の作品情報
(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.
【公開】
2006年(アメリカ映画)
【原作】
栗林忠道『「玉砕総指揮官」の絵手紙』
【監督】
クリント・イーストウッド
【キャスト】
渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、松崎悠希、中村獅童、裕木奈江、ルーク・エバール、マーク・モーゼス、ロクサーヌ・ハート、尾崎英二郎、渡辺広、山口貴史、阪上伸正、安東生馬、サニー斉藤、安部義広、県敏哉、戸田年治、ケン・ケンセイ、長土居政史、志摩明子、諸澤和之、アキラ・カネダ、ブラック縁、ルーカス・エリオット、サイモン・リー、樗沢憲昭
【作品概要】
『父親たちの星条旗』(2006)のクリント・イーストウッドが製作・監督を務めた、アメリカの戦争ドラマ作品です。
原作はアメリカ帰りの陸軍中将・栗林忠道の手紙を後にまとめた『「玉砕総指揮官」の絵手紙』。太平洋戦争最大の激闘といわれる「硫黄島の戦い」を日米双方の視点で描いた映画史上初の2部作であり、『父親たちの星条旗』(2006)に続く第2弾の作品でもあります。
『ラスト サムライ』(2003)や『沈まぬ太陽』(2009)、『GODZILLA ゴジラ』(2014)など国内外で活躍する俳優・渡辺謙が主演を務めています。
映画『硫黄島からの手紙』のあらすじとネタバレ
(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.
2005年、東京都小笠原諸島にある硫黄島。太平洋戦争最大の激戦が繰り広げられたそこには、硫黄島の戦いで戦没した者の慰霊碑や、戦争が終わった今も残されたままの塹壕や重砲、戦車がありました。
戦跡の調査隊は数ある塹壕の中で、何かが土に埋もれているのを発見。それは61年前の1944年、硫黄島で戦った日本軍の兵士たちが、家族に宛てて書き残した数百通もの手紙でした。
1944年6月。日本陸軍第109師団長兼小笠原兵団長を務める陸軍中将・栗林忠道が、硫黄の臭気が立ち込める灼熱の島「硫黄島」に降り立ち、硫黄島守備隊の新たな指揮官として着任しました。
栗林は着任早々、海岸で上官から体罰を受けていた陸軍一等兵の西郷昇と樫原を助けます。そのおかげで西郷たちは、自分たちが所属する機関銃中隊の谷田陸軍大尉から休憩を貰うことができ、1日中塹壕のための穴掘り作業をしていた疲れを癒すことが出来ました。
その日の夜。栗林は海軍部隊の指揮官の1人である伊藤海軍大尉からの報告を受け、摺鉢山地区指揮官である足立陸軍大佐率いる陸軍と、海軍が上手く連携が取れていないという問題点に気づきます。
翌日。栗林は副官である藤田正喜陸軍中尉と共に硫黄島内を視察し、避難できていない島民たちがいることを知り、本土に戻すよう命じました。
そんな栗林の元に、硫黄島に新しく派遣された軍人であり、戦車第26連隊長の西竹一陸軍中佐が馬に跨って現れました。西は1932年のロサンゼルス五輪における馬術障害飛越競技の金メダリストであり、避難した島民たちの住居の解体作業を行っていた西郷たちにも、自慢の馬術を披露していました。
騎兵科出身の栗林と西は、共に馬を愛する者同士気が合い、その日の夜は一緒に食事をとりました。その際に栗林は西から、自分が思っていた以上に戦況が悪化している事実を聞かされます。
「我々日本軍は、制海権・制空権ともに無きも同然。先日のマリアナ沖海戦で空母の艦載機が撃墜され、連合艦隊は壊滅。この状況で最も賢明な判断を下すとしたら、この孤立した島を海の底に沈めることでしょう」
(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.
翌日、栗林は地図を見直し、藤田と一緒に再度海岸を視察。そして彼は、藤田に米海兵隊員の役をやらせ、塹壕に適した場所はどこかを探します。栗林は駐在武官としてアメリカに駐在した経験があり、陸軍では数少ない「知米派」でもありました。
その後、栗林は従来一般的であった水際防衛作戦を否定し、内地持久戦による徹底抗戦への変更を決定。硫黄島の元山・東山・摺鉢山一帯にかけて、洞窟を掘り地下要塞を構築するよう命じました。
それは、圧倒的な軍事力と技術力を誇る米海兵隊が、確実に海岸線を突破するという確証があるため、そこに兵力を集中させてしまっては勝ち目がないと踏んだ判断でした。
食料も水も満足にない過酷な状況で、西郷や彼と同じ隊に所属する野崎陸軍一等兵たちと、新たに派遣された元憲兵の清水洋一上等兵が洞窟を掘り進め、地下要塞を築いていきました。
そんな中、西郷と野崎は、小銃手なのに拳銃を携行している清水上等兵のことを、「俺たちを見張りにきたスパイ」と勘繰ってしまいます。
特に西郷は、憲兵に対してあまり良い印象を持っていません。それは戦局が悪化して以降、西郷と彼の妻である花子が切り盛りしていたパン屋から、憲兵隊があらゆるものを奪っていき、店を畳むことになってしまったからでした。そしてそれから間もなく、西郷は軍隊への招集がかかり、自分の子供を身籠った花子を残して硫黄島へと向かうことになったのです。
一方、栗林の命令を受けた海軍少将の大杉、陸軍少将の林らは水際防衛作戦と飛行場確保に固執し猛抗議します。それに対し栗林は、こう答えました。
「この島に配備されている戦闘機は全て、本土に帰還することになった。もはやこの島は孤立したも同然」「この島での防衛戦は無理なのかもしれない。しかしそれでも、我々はこの島を死守せねばならない、最後の一兵にいたるまで」
「我々の子供が日本で1日でも長く、安泰に暮らせるのなら、洞窟を掘り進めている我々の1日には意味がある」
そして栗林は最後に、大杉に対して海軍からの支援を要請しましたが、彼が頷くことはありませんでした。
映画『硫黄島からの手紙』の感想と評価
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戦場で生まれた友情
硫黄島守備隊に所属する陸軍一等兵の西郷と、新たに硫黄島に派遣された上等兵の清水。元憲兵ということでスパイと疑われた清水上等兵は、西郷に反発されてしまい、2人は打ち解けることなく戦闘が始まります。
ところが、守備に就いていた摺鉢山が陥落寸前、彼らの隊は2人を残して皆手榴弾や拳銃を使って自決。生き残った西郷と清水は、何が何でも生き残るために行動を共にするようになるのです。
摺鉢山から元山の掩蔽豪、島の西方面の尾根へと逃げ、共に戦場を駆け抜けてきた西郷と清水は、少しずつ話すようになっていきます。そして、清水が憲兵を辞めさせられた理由を聞いて以降、西郷の中で清水に対する印象が変わったのでしょう。
西郷と清水上等兵の間に友情が生まれた瞬間と、2人で脱走を企てた場面は、それまでの彼らの関係性を考えると、とても感慨深いものがあります。
そしてだからこそ、脱走し捕虜となった清水が射殺され、その遺体を見て西郷が涙を流す場面は、本作が描く「戦争の無情さ」を象徴する場面の一つとして、観る者の記憶に強く焼き付けられます。
届かなかった家族への手紙
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指揮官として硫黄島に来た中将・栗林と、彼に度々命を救われた西郷。共に兵士である以前に「夫」であり、子供を持つ「父親」でもあるという共通点があります。
2人は硫黄島の戦いが始まる前も、また始まってからもずっと、心の安寧を保つかのように家族に手紙を書き続けていました。
栗林と西郷の手紙の内容を描いた場面は、彼らの家族に対する深い愛情を感じることができ、特に子供を持つ親にとって涙する場面でしょう。西郷たち、硫黄島で戦った者たちが書き続けた家族宛ての手紙が、届いて欲しい家族に届かなかったことはあまりにも切ないです。
また日本軍に捕虜として捕らえられた、米海兵隊員サムが持っていた母親の手紙の内容もまた、観る者の心にもジーンと響きます。そして「敵」として争いを続けている相手にもまた、栗林や西郷たち同様に「祖国に家族を残してきた人間」であり、同時に本作と対をなす『父親たちの星条旗』の新たな意味に気づかされるのです。
まとめ
(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.
太平洋戦争最大の激戦といわれる「硫黄島の戦い」を日本軍視点で描いた、アメリカの戦争ドラマ作品でした。
本作の見どころは、戦場で生まれた1つの友情と西郷たち日本兵による硫黄島での防衛戦、何よりも西郷たちの手紙です。
硫黄島の戦いは、前作『父親たちの星条旗』にて描かれた米海兵隊の視点とはまた違う、戦いの過酷さを体感できます。
栗林が考えた作戦により、硫黄島に上陸した米海兵隊に一泡吹かせることが出来たかと思いきや、圧倒的な軍事力と技術を誇る敵に追い込まれてしまう日本軍。そして日米双方の兵士たちが、祖国のため家族のため仲間のために命懸けで戦う姿は、有無も言わせぬ映像としての迫力、そして戦争の無情さを観る者に突きつけてきます。
そして『父親たちの星条旗』における重要なモチーフが「写真」というメディアであったように、『硫黄島からの手紙』もまた「手紙」というメディアが物語の重要なモチーフとして描かれるのです。
家族のため戦い生き抜こうとした、或いは生き抜きたかった人々が、どのような想いを未来へ託そうとしたのかを描いた戦争ドラマ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。