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Entry 2024/08/12
Update

【ネタバレ】ブルーピリオド(実写映画)あらすじ感想評価と結末考察。口コミ話題の眞栄田郷敦主演作は“美術の道”を目指す者たちの青春

  • Writer :
  • 糸魚川悟

絵に出会い、透明な世界に色が付いた……

勉強やスポーツと異なり、はっきりとした正解が存在しない「芸術」の世界。

正解が存在しないからこそ、己の中の世界観や上手くなりたいと言う意志が何よりも大事になります。

今回はこれまで「芸術」に全く興味のなかった主人公が、感性と情熱を武器に「芸術」の世界に挑む物語を描いた映画『ブルーピリオド』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

映画『ブルーピリオド』の作品情報


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【原作】
山口つばさ

【監督】
萩原健太郎

【脚本】
吉田玲子

【キャスト】
眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子

【作品概要】
講談社の月刊誌『月刊アフタヌーン』に2017年より連載された山口つばさによる同名漫画を実写映画化。監督は映画『東京喰種 トーキョーグール』(2017)の萩原健太郎。

映画『ゴールデンカムイ』(2024)などに出演した眞栄田郷敦が主演を務めました。

映画『ブルーピリオド』のあらすじとネタバレ


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

友人たちと酒やタバコに明け暮れ、夜を明かすことも珍しくない不良でありながら、学内でもトップクラスの成績を誇る優等生でもある高校2年生の八虎。

ノルマをこなすように生きる日々に何も達成感を覚えることがなく、空虚な毎日を過ごしていた八虎。ある日、女装をした同級生・龍二に、授業中に友人へ渡そうとしていたタバコを拾われます。

龍二に周囲に合わせているだけの人間と批評された八虎は、美大を目指す龍二を「将来性のない美大に行って何になる」と否定し、2人は一触即発の状況となりますが、美術教師の佐伯によって制止されます。

翌日、美術部であり3年生の森まると出会った八虎は、彼女の絵と彼女の絵に対する情熱に惚れ込み、その場で美術の授業の課題でもあった「私の好きな風景」を描くことにします。

森の言葉からどんな風に絵を描いても良いと知った八虎は、友人たちとの徹夜明けに見た渋谷の風景を真っ青に描き、技術は低いものの完成した絵は龍二を始め多くの人から高評価を受けることになりました。

絵を評価され涙を流す八虎はその日から絵を描くことにのめりこみ、些細な隙間時間にデッサンの練習を始めます。

佐伯のもとを訪ねた八虎は佐伯に美大を目指したいことや、その一方で家庭の都合から国公立大学しか進学できないことを伝えると、佐伯は美大にも国公立大学が存在すると「東京藝術大学」を紹介します。

東京藝術大学・絵画科の倍率は「200倍」とも言われ、八虎は佐伯に今から準備をするような人間が間に合うと思うかと訪ねると、佐伯は分からないと答えながらも「やりたいことに努力できる人間は無敵だと断言しました。

この日から八虎は美術部に入部し、日々のすべてを絵に打ち込み目覚ましい進歩を遂げていきます。

冬。森は志望していた武蔵野美術大学に合格し、八虎の成長に「彼なら東京藝術大学に受かるかもしれない」と期待しつつ高校を卒業しました。

受験まで1年を切った八虎は、本格的に受験対策を行うため美大専門の予備校「東京美術学院」の冬期講習を受講します。

初の講習で石膏デッサンが行われると、八虎は同じ講習を受けていた「天才」と称される高橋世田介との腕の差を見せつけられるだけでなく、講習の中でも際立って低い自身の実力を実感。

心が折れかける八虎でしたが、龍二の咤激励によって「天才」に追いつくだけの死に物狂いの努力を行うことに決めました。

着実に基礎力を上げる八虎でしたが、東京藝術大学の合格に求められる「世界観」や独自の着想を自分自身に見出せず、「縁」をテーマとしたテーマ課題でありふれた「糸」の絵を描いてしまい酷評を受けることになります。

スランプに陥る八虎を龍二は、武蔵野美術大学の学園祭に連れていき、八虎はその場で見た森の「祈り」をテーマにした絵に心を動かされ、自分の中に「縁」の形を見出しました。

時に糸のようであり、時に鋭利な刃物のようである「縁」を「鉄」のようにイメージした八虎の絵は冬期講習内で5位を記録。

一方で独特すぎる感性から評価を受けにくい高橋の絵は19位と振るわず、一般的な感性を押し付ける予備校に嫌気がさし予備校を退学します。

高橋を引き留めようとする八虎でしたが、「何でも持っている奴がこっちに来るな」や「美術じゃなくても良かったくせに」と拒絶されました。

高橋の言葉にいら立つ八虎は、自分の人生をかけると決めた絵で東京藝術大学に必ず受かると意気込みますが、徐々に不安を募らせていきます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『ブルーピリオド』のネタバレ・結末の記載がございます。映画『ブルーピリオド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

絵の道に理解のない母親に東京藝術大学への入試を隠していた八虎でしたが、机に放置していた願書を見られ詰問を受けることになります。

問い詰められた八虎は咄嗟に「なんとなく書いただけ」と言うと、家を抜け出し渋谷の街を彷徨いました。

不良の友人である恋ヶ窪に誘われケーキ屋に入った八虎。そこで恋ヶ窪から、「青い渋谷」の絵と絵に真剣に取り組む八虎の姿を見たことで、パティシエの専門学校を目指すことを決めたと聞かされます。

家に戻った八虎は、テーブルで寝ていた母親の絵を描きました。そして、自身が初めて真剣に好きになった絵を大学で学びたいと伝え、入試の許可を得ました。

東京藝術大学の一次試験の会場に足を踏み入れた八虎、油画専攻の課題は「自画像」であり、シンプルな課題ゆえに八虎は描く題材の戦略を考え始めます。

自分自身の中の「二面性」を題材にしようと考える八虎ですが、ありふれたテーマだと自分自身で案を否定した直後、前の席の生徒の不注意で八虎の鏡が割れてしまいます。

しかし、八虎は割れた鏡から自分の中に眠る人格は一つではないとひらめき、「多面性」を題材に「自画像」を完成させ、一次試験を無事に突破。

二次試験が迫る中、八虎は予備校の同級生から龍二が日本画専攻の試験の場で「×」のみを描き退出したと聞き、龍二に電話をかけます。

龍二は小田原の海にいると言い、試験が翌々日に迫る八虎に話がしたいのであれば小田原に来るようにと言い電話を切りました。

八虎はスランプに陥る自分が龍二に救われたことを思い出し、小田原まで駆け付けると夜の海へと足を踏み入れた龍二を救い出します。

龍二と共に旅館に泊まった八虎は、龍二からの提案でお互いに自分自身の全裸の姿を描きながら、龍二が父親によって女装道具のすべてを捨てられたことを聞きます。

東京藝術大学の2次試験は3日にわたって一つの課題に取り組む試験であり、1日目に会場に足を踏み入れた八虎は度重なる寝不足によって体調不良に陥っており、「ヌードモデル」の課題にほぼ手を付けることができませんでした。

2日目でようやくスケッチに手を付けた八虎でしたがその遅れは著しく、3日目に八虎は龍二とのヌードデッサンで得た着想を基に、キャンバスの地を作品の一部として使うことで大胆な時短を行います。

その絵は試験会場で再会した高橋が悔しがるほどの完成度を誇っており、試験を無事に終えた八虎は達成感に包まれていました。

合格発表の日、一足先に発表を見終えた高橋が受かっていることを知った八虎は、張り出された合格発表の紙に自身の受験番号が記載されていることを目にします。

こうして八虎は東京藝術大学への入学を果たし、絵に出会うまでずっと空虚だった自身の日々が満たされていることを感じながら、再び絵に向かうのでした。

映画『ブルーピリオド』の感想と評価


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

情熱を武器に挑む「200倍」の超難関

日本の芸術系大学の中でも、最高峰と位置付けられている東京藝術大学。

少人数教育を重んじることで世界で活躍する人材の輩出を成し遂げている東京藝大は、作中で明言されている通り国内でも最難関と言えるほどに高い受験倍率を毎年キープしています。

幼少期から絵に打ち込んでいたり、いくつもの賞を受賞しているような学生たちが目指す中で、本作の主人公は絵を始めたての状態で受験を目指すことになります。

学び成長を続けてきた人たちにも負けたくないと言う「情熱」と、培ってきた「感性」を頼りに難関校に挑む本作は、身体を大きく動かすわけではないにも関わらず、心が熱くなる物語が展開される作品でした。

唯一無二の作品を生み出す「感性」


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

本作は「芸術」を題材としていることもあり、独特な「感性」を持ち合わせた人物が多く登場します。

一方で主人公の八虎は他者の顔や機嫌を伺いながら生きてきたこともあり、絵に対する情熱は人一倍あれど自分自身の「世界観」を見つけることに苦戦することになります。

他者の作品の技術を応用する器用さは見せても完全に自分のものとすることは出来ず、「上辺をなぞっているだけ」と否定される八虎。

ですが、そんな自分の「世界観」を見つけることに苦戦する薄っぺらな人物も個性であり、「芸術」を前にすべての人間の「感性」を肯定するような優しさに包まれた作品でした。

まとめ


(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

何かに打ち込むことの出来る幸福さと、それゆえの挫折と絶望を描いた漫画『ブルーピリオド』。

そんな漫画原作を実写として映像化に落とし込んだ本作は、主人公の八虎の抱えていた空虚な人生が色付いていく様が実写ならではのリアリティで描かれていました。

映画『ブルーピリオド』は「絵」の世界を知らない人にも自信を持ってオススメできる青春ムービーです。


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