大人気スパイアクションシリーズ、記念すべき第1作!
テレビドラマ『スパイ大作戦』を映画化した、トム・クルーズ主演の大人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第1作。
アメリカ・CIAの特殊作戦部に所属する若きスパイであるイーサン・ハントが、とある任務での失敗を経て着せられた濡れ衣を晴らすべく、任務に隠されていた陰謀に立ち向かいます。
本記事では映画本編のネタバレ有りあらすじの紹介とともに、本作を考察・解説。
本作の重要なモチーフとして登場する旧約聖書『ヨブ記』から、映画のラストで「義人」イーサンに与えられる「新たな苦難」の意味を探っていきます。
CONTENTS
映画『ミッション:インポッシブル』の作品情報
【日本公開】
1996年(アメリカ映画)
【監督】
ブライアン・デ・パルマ
【製作】
トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー
【製作総指揮】
ポール・ヒッチコック
【脚本】
デヴィッド・コープ、ロバート・タウン
【キャスト】
トム・クルーズ、ジョン・ヴォイト、エマニュエル・べアール、ヘンリー・ツェニー、ジャン・レノ、ヴィング・レイムス、クリスティン・スコット・トーマス、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、インゲポルガ・ダグネイト、ジョン・マクラブラン、ロルフ・サクソン、カレル・ドブリー、アンドリアス・ウイスニウスキー、ボブ・フレンド、アナベル・マリオン、イオン・カラミトル、デイル・ダイ、マーセル・ユーレス、エミリオ・エステベス
【作品概要】
テレビドラマ『スパイ大作戦』を映画化した大人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第1作。
アメリカ・CIAの特殊作戦部「IMF(Impossible Mission Force)」所属の若きスパイである主人公イーサン・ハントが、とある任務の失敗を経て着せられた濡れ衣を晴らすべく、任務に隠されていた陰謀に立ち向かう姿を描く。
監督を『スカーフェイス』『アンタッチャブル』のブライアン・デ・パルマ、脚本を『ジュラシック・パーク』のデビッド・コープと『チャイナタウン』のロバート・タウンを手がけ、主演のイーサン・ハント役のトム・クルーズがポーラ・ワグナーと共に製作を務めた。
映画『ミッション:インポッシブル』のあらすじとネタバレ
アメリカ・CIAの特殊作戦部「IMF」に所属するベテラン工作員ジム・フェルプスは、飛行機内でキャビン・アテンダントから受け取った映画を通じて、CIAの上官にあたるキトリッジからの指令を受けます。
任務の内容は、東ヨーロッパで潜入活動中の秘密工作員「ノック(NOC)」の情報リストを盗み出そうとしているプラハのアメリカ大使館員ゴリツィンと、その取引相手を捕らえることでリスト漏洩を防止すること。
ジムが指揮をとり、現場でのリーダー役をイーサン・ハントが務める編成で、ゴリツィンがノックリストを完全に盗み出すつもりでいる大使館パーティーに潜入する作戦チーム。
ところが任務中、作戦内容を完全に知っているかのような謎の襲撃者によってチームメンバーは次々と始末され、異変を察し現場に駆けつけたジムまでも銃で撃たれ、橋から転落しました。
イーサンは生き残ったものの、彼以外のメンバーは全滅。標的だったゴリツィンも殺害され、彼が手にしていたノックリストも襲撃者に奪われました。
イーサンはキトリッジに面会。しかし、今回の任務がIMFの機密情報を外部に漏洩している内通者を炙り出すための囮の任務であり、ノックリスト自体も偽物であったことを明かしたキトリッジは、唯一の生き残りであるイーサンが内通者だと考えていました。
キトリッジと面会した店にあった巨大水槽をガムに偽装された特殊な小型爆弾で爆破し、大洪水の騒ぎに乗じて逃亡に成功したイーサン。
プラハ内のセーフハウスに着いた彼は、自身の濡れ衣と命を落としたメンバーの無念を晴らすべく、「ヨブ」と呼ばれる内通者とその取引相手である武器商人マックスを調べ始めます。
やがてセーフハウスに、ジムの妻で同じくチームメンバーだったクレアが姿を現します。ジムが窮地に陥ったことを知って彼の元に向かい、車に仕掛けられていた爆弾に巻き込まれずに済んだという彼女の弁明を、当初は疑っていたイーサンも受け入れました。
またマックスと内通者ヨブによるノックリスト強奪の作戦名は「Job3-14」だったというキトリッジの言葉とセーフハウス内にあった旧約聖書から、「Job3-14」とは旧約聖書『ヨブ記』3章14節の引用だと気づいたイーサン。
彼はマックスに、『ヨブ記』3章14節の一文を符号として添付したEメールを送信。奪ったノックリストはCIAが用意した偽物であることを伝えました。
のちにマックスとの接触に成功したイーサンは「自身なら本物の、それも東ヨーロッパだけでなく全世界のノックリストを盗める」「1千万ドルと『ヨブ』の正体の情報が成功報酬」と新たな取引をマックスに持ちかけ、成立させました。
イーサンはCIAを解雇され現在は裏社会で活動する天才ハッカーのルーサーを、クレアは元CIA工作員でパイロットのクリーガーを仲間に引き入れ「CIA本部に直接潜入し、世界最高峰のセキュリティを掻い潜りリストを盗む」という前代未聞の作戦を計画します。
映画『ミッション:インポッシブル』の感想と評価
『ヨブ記』で象徴する「義人の苦難」
IMFを裏切り、世界各地のアメリカ所属の秘密工作員(ノック)の情報を売ろうとしただけでなく、自身の死を偽装工作するために作戦チームのメンバーまでも死に追いやり、挙げ句の果てにはイーサンだけを生き残らせることで、彼に裏切り者の濡れ衣も着せようとしたジム。
彼が武器商人マックスとの連絡時に使用していた符号、そしてノックリスト強奪の作戦名を旧約聖書『ヨブ記』から引用していました。
義を尊ぶ人間であり、祝福された生活を送っていたが「ヨブの信仰心は神の祝福という利益を期待しているだけに過ぎず、財産を失えば神を呪うはずだ」と考えたサタンの試みにより苦難を与えられるヨブ。
ヨブ自身は信仰を絶やさなかったものの、最愛の者を亡くし、財産を失くし、皮膚病でその地における社会的死を突きつけられるという苦難たちに、ヨブの友人たちは「彼が苦難に遭うのは、彼が何か罪を犯したからでは」と疑い出し、その罪を告白するようヨブを責め始める……。
「義人の苦難と冤罪」の物語を通じて「どれほど信仰に厚く正しい行いをする人間も、時には不幸に見舞われる」という最も避けがたい信仰の矛盾を扱った『ヨブ記』。その物語は、任務を全うしていただけにも関わらず「裏切り」という冤罪を着せられたイーサンの姿と重なります。
あるいは、かつてはイーサン同様に「国とそこに生きる人々を守る」という義のために生きていたが、「冷戦の終焉によるスパイという仕事の斜陽化」という苦難に堪えられず、世界を呪った果てに裏切りという罪へ走ってしまったジムの姿を皮肉った引用ともいえます。
義人イーサンは再び「罪に満ちた世界」へ
義人としての道を外れたジムとの因縁に決着をつけ「亡くなったチームメンバーの無念を晴らす」という義に基づく行いを貫いたことで、自身の冤罪をも晴らしたイーサン。
しかしイーサンは、IMFへの復職を拒否……裏切りという義に反する行いが跋扈し、堕落が蔓延する「スパイ」という世界から離れることを望みました。
しかし映画のラストシーンにて、飛行機に乗っていたイーサンはキャビンアテンダントに「映画」を観ることを勧められます。それは本作冒頭で描かれたジムが指令を受ける姿からも、それはIMFを辞めたイーサンに「新たな指令」が届いたことを意味しています。
「スパイという罪に満ちた世界へ、再び戻れ」……そんなイーサンへの無情な指令は、ヨブと重ねられるほどの「義人」である彼に訪れた新たな苦難そのものであり、のちに続いていったシリーズでイーサンが味わった数々の哀しみからも、それは最も長く、最も残酷な苦難であるといえます。
まとめ/イーサンが「黄金の島」へ行かされる意味
映画ラストシーンでイーサンが勧められた「映画」は、キャビンアテンダント曰く「カリブ海のアルーバ(アルバ)の映画」と作中で説明されています。
なおアルバという島はカリブ海上に実在し、その名はスペイン語の「oro hubo(黄金がある)」という言葉に由来しているという説があります。
19世紀のゴールドラッシュ時には、多くの者が黄金を追い求めて集った島アルバ。それゆえに多くの人間の欲望と、それに伴う罪も集ってあろう島に向かわされる……。
「罪に満ちた世界」を象徴するかのような島にイーサンが向かわされることで、「シリーズ化」という名の彼の長きにわたる苦難は始まったのです。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。