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Entry 2024/01/13
Update

サウンド・オブ・サイレンス|あらすじ感想と評価解説。音響設計してガチ怖にした“コレぞ音ホラー誕生”

  • Writer :
  • 糸魚川悟

2024年1月26日(金)より
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開!

映画と言うジャンルの中でも世界共通で人気の高い「ホラー」と言うジャンル。

手を変え品を変え、世界各国でより怖い映画を作ろうと多くの映画監督たちが挑戦を繰り返してきました。

2023年、イタリアで世界を震撼させるような「音」に拘り抜いたホラー映画が製作され、2024年に遂に日本に上陸。

今回は「音」が巻き起こす恐怖を全く新しい着眼点で描いた最新ホラー映画『サウンド・オブ・サイレンス』(2024年)を、物語展開の魅力や類似作との相違点が生んだ魅力をご紹介させていただきます。

映画『サウンド・オブ・サイレンス』の作品情報


© 2022 T3 Directors SRL

【日本公開】
2024年(イタリア映画)

【原題】
Sound of Silence

【監督・脚本】
アレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラ

【キャスト】
ペネロペ・サンギオルジ、ロッコ・マラッツィタ、ルチア・カポラーソ、ダニエル・デ・マルティーノ

【作品概要】
『デス・アプリ 死へのカウントダウン』(2023年)で高い評価を受けたアレッサンドロ・アントナチ、ダニエル・ラスカー、ステファノ・マンダラの3人が結成した監督ユニット「T3」が、自身の短編を元に製作した長編映画。

「イタリア移民の母」と呼ばれたフランシス・ザビエル・カブリーニを描いた映画『Mother Cabrini』(2019)に出演したペネロペ・サンギオルジが本作の主演を務めました。

映画『サウンド・オブ・サイレンス』のあらすじ


© 2022 T3 Directors SRL

故郷イタリアを離れ、恋人のセバと共にニューヨークで歌手を目指すエマ。

オーディションに落ち続け自信を失い始めた彼女のもとに、イタリアに住む父親が重傷を負い入院したという報せが入ります。

セバと共にイタリアに戻ったエマは、事故の日の夜に突然狂いだした父親が母親を襲ったと言う信じられない事態を聞き、原因を探るため実家へと赴きますが……。

映画『サウンド・オブ・サイレンス』の感想と評価

© 2022 T3 Directors SRL

「音」に拘り抜かれた新感覚のホラームービー

ラジオから発せられる音を起点に怪異が発生する本作は、何よりも「音」を使った演出にこだわり抜かれていました。

何気ない生活音を演出として使っているからこそ、その何気ない生活音が突然鳴り始める違和感や、逆に生活音が突然鳴り止む違和感が恐怖へと繋がっています。

「音」に反応する化け物に支配される世界を描いた『クワイエット・プレイス』(2018年)や、目の見えない老人との戦いを描いた『ドント・ブリーズ』(2016年)など、「音」に拘ったホラー映画は近年のブームでもあります。

前出した両作は「音」を発する事で自分の位置や存在が知覚されてしまう、と言うことに重きを置いているため、無音に意識を置いた作品となっています。

しかし、本作は無音だけではなくあらゆる「音」が違和感や恐怖の対象となるため、さまざまな「音」が乱雑に垂れ流されるシーンであっても次に何が起こるのかに怯えながら鑑賞を進めることになります。

「音」に拘った映画と言うブームの中でも、これまでの作品とは異なる着眼点で描かれる新鮮味の強い作品でした。

「呪い」の正体を知り、立ち向かう物語

心霊系であっても殺人鬼系であっても、ホラー映画の展開は多くの場合、大きく分けて2つに分類することができます。

呪詛』(2022年)のように恐怖の対象に終始脅かされ続ける展開と、『NOPE』(2022年)のように恐怖の対象に立ち向かう展開。

前者はどうすることも出来ない「絶望感」をホラーとして楽しむ作品であり、後者は前半に受けた恐怖を払拭するカタルシスを感じることが出来ます。

本作は大別すれば後者にあたり、「音」を使って受け続けた恐怖を逆に利用するカタルシス全開の作品。

「なぜその呪いが生まれたのか」を知り、原因と弱点を探る、ホラー映画として好きな人はとことん好きな展開を見せてくれる物語となっていました。

「理解」することの大切さを描くドラマ

本作の怪異は「音」を発生させた本人を襲うだけでなく、他者を操りその人の大事な人間に危害を加えようとする性質を持っています。

「自身と同じ目に合わせる」と言う、世界各地に伝わる「霊」や「呪い」と同質な負の連鎖を起点とする本作では、「他人を理解すること」が負の連鎖を自身に及ばさない方法として描かれているように感じました。

物語の冒頭、「音」の影響を受けて凶暴化した主人公エマの父親は母親を襲った上で重傷を負います。

医師は傷の状態から父親による家庭内暴力を確信し、エマへ今後についての忠言をしますが、エマの母親は夫による暴力が「何か」の影響を受けたからだと信じており、彼の性格によるものではないと考えていました。

エマを始め彼女の周囲の人たちは窮地に陥っても他者を理解しようとする心を持ち合わせており、やがてその行動が終盤に大きな意味を持つことになります。

あらゆる問題の解決に繋がる理解することの大切さを改めて知ることの出来る作品でした。

まとめ


© 2022 T3 Directors SRL

原色まみれの独特の映像美と狂気的な演出で根強い人気を持つ『サスペリア』(1977年)や、強烈すぎる演出で一躍有名となったフェイクドキュメンタリー映画の代表作の一つ『食人族』(1983年)など、「ホラー」と言うジャンルにおいてイタリアはさまざまな怪作を生み出してきました

本作『サウンド・オブ・サイレンス』もそんな怪作のひとつであり、映画における「音」の扱い方において本作は世界の類似作にも一切引けを取らない作品になっています。

耳をすませて次に起こる恐怖の演出に備える、現実世界での生活音に気を取られることの映画館での鑑賞を強くオススメしたい作品です。

映画『サウンド・オブ・サイレンス』は2024年1月26日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開です。


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