法の下で「ゲーム」を始めよう!?
白黒の間の灰色が見えてくる。
現役弁護士でありながら、第62回メフィスト賞を受賞した五十嵐律人のデビュー作「法廷遊戯」を、深川栄洋監督が映画化。
弁護士を目指す久我清儀と幼なじみの織本美鈴が通うロースクールでは「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判が生徒の間で流行していました。主催者は、大学在学中に司法試験に合格した唯一の人物・結城馨。
卒業後、無事に弁護士となった清儀と美鈴のもとに、馨から再び「無辜ゲーム」への招待が届きます。清儀がゲーム場所へ着いた時には、ナイフで刺され息絶えた馨と、返り血を浴びたかような美鈴の姿がありました。
「私を弁護して」……美鈴の弁護を引き受けた清儀は、とある過去の事件とのつながりを見出していきます。
法廷を舞台に「弁護士」「被告人」「死者」となった3人の真の目的とは。法廷ミステリー映画『法廷遊戯』を紹介します。
映画『法廷遊戯』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
五十嵐律人
【監督】
深川栄洋
【キャスト】
永瀬廉、杉咲花、北村匠海、戸塚純貴、黒沢あすか、倉野章子、やべけんじ、タモト清嵐、柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、大森南朋
【作品概要】
2020年のミステリランキングに軒並みランクインを果たし、メフィスト賞作家にして現役弁護士・五十嵐律人による法廷ミステリー小説『法廷遊戯』が映画化。
監督は『神様のカルテ』(2011)『百夜行』(2010)の深川栄洋監督。脚本を『総理の夫』(2021)の松田沙也が手がけています。
弁護士を目指す主人公「セイギ」こと久我清儀役は『弱虫ペダル』(2020)など俳優としても活動の場を広げるKing&Princeの永瀬廉。セイギの幼なじみ・織本美鈴役は『十二人の死にたい子どもたち』(2019)の杉咲花。そして「無辜ゲーム」を司る天才・結城馨役を北村匠海が演じています。
またセイギの同級生で一癖ある藤方賢二役として、原作者・五十嵐律人と同郷である戸塚純貴が出演しています。
映画『法廷遊戯』のあらすじとネタバレ
駅のホームで悲鳴が聞こえ、階段から一人の男性と女子高校生が転がり落ちてきました。白黒の映像は、何年か前の古いものでした。
弁護士を目指す「セイギ」こと久我清儀は、幼なじみの織本美鈴と法都大ロースクールに通っています。
学校では最近、勉強漬けの生徒たちの息抜きとして「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判が流行していました。「無辜」とは、罪のない事。またはその人を意味します。
ゲームの首謀者は、大学院在学中に唯一司法試験を突破したという天才・結城馨。セイギは、その存在は知っていましたが、ゲームに参加したことはありませんでした。
その日、セイギが奈倉先生に呼ばれ席を外し戻ってくると、机の上に一枚のビラが置かれてありました。周りの生徒たちもざわついています。
内容は、数年前に児童養護施設で起きた殺傷事件の記事でした。施設長を刺した16歳の少年。その少年はセイギでした。
セイギは無辜ゲームで、過去をばらした者を名誉棄損にかけます。証人として美鈴を指名したものの、美鈴の機嫌は悪そうです。美鈴もセイギと同じ児童養護施設で育ったからです。
事件記事のビラは、セイギが席を外した隙に配られたものではないと判明。セイギは、そのからくりに気付いていました。セイギが登校した時にすでに配られていた飲み会のチラシが、実は2枚重ねになっていて、めくると事件の記事が出てくるようになっていたのです。
「この飲み会のチラシを配ったものは誰ですか?」美鈴は指を差して答えます。「藤方賢二です」藤方は罪を認めましたが、学院を辞めると言い出します。
セイギは、どうしても事件記事の写真の入手方法が分かりませんでした。藤方を引き留め、問い詰めます。
「写真はロッカーに報酬と一緒に入っていただけだ。お前は何でここにいるなんだよ。殺人未遂の犯人が弁護士を目指していいのかよ」藤方は苛立ちをセイギにぶつけ出ていきました。
腑に落ちないセイギに、馨が声をかけます。「自分にも親はいない。俺に何かあったら、りんどうの花を持って墓参りにきてくれよ」セイギと馨は、法律のことで意見を交わせる友でした。
その頃、美鈴は何者かにより嫌がらせを受けていました。アパートの玄関窓には、例の事件の記事がアイスピックで刺し込まれ、郵便受けにもチラシが投げ込まれています。
犯人の動きからは、美鈴の行動を把握している様子が窺えました。セイギは、美鈴の部屋の上の空き部屋が怪しいと侵入し。案の定、そこには美鈴を盗聴していた謎の男が潜伏していました。
男は悪びれもせず「ネットで頼まれただけで、クライアントの顔も名前もしらねえよ」と白状しますが、隙をついて逃げ出します。気味の悪い嫌がらせは、それを機になくなりました。
2年後。セイギと美鈴は無事、司法試験に合格し弁護士になりました。そんな二人に、研究者として学院に残っていた馨から無辜ゲームへの誘いがきます。
「これが最後のゲームだ」と言う馨のために、ロースクールに向かうセイギ。ゲームの行われていた洞窟に着いてみると、そこには胸にナイフが刺さったまま倒れている馨の姿がありました。
そして、返り血を浴びたかのような美鈴が、震えるようにセイギに近付いてきます。
「お願い清儀。私を弁護して」
映画『法廷遊戯』の感想と評価
物語は、法律家を目指す生徒が通う法都大ロースクールから始まります。学校で流行っているゲーム「無辜ゲーム」。罪のないこと、またはその人を意味する「無辜」を冠する、生徒たちの模擬裁判に過ぎなかったこのゲームが、物語の序盤から明らかになっていく真実によって、深い意味を持ってきます。
両親がおらず児童養護施設で育った主人公の清儀と幼なじみの美鈴は、そこでのわいせつ事件と殺人、その後の小遣いほしさに始めたゲームをきっかけに深まった「共犯者」としてのつながりをみせます。
死んだように生きていた美鈴にとって、そこから救い出してくれた清儀はまさにセイギの味方。自分を犠牲にしても守り抜くという偏愛は、狂気にも似ています。
一方ロースクールで出会った馨は、在学中に司法試験を突破した天才であり「無辜ゲーム」の首謀者でもあります。馨が「無辜ゲーム」を始めた理由には、父親の死が原因していました。
冤罪に苦しみ、自ら命を絶った父親の無念を晴らす。それは犯人の罪を暴くだけでなく、嘘を見破れず有罪を下した司法への復讐でもありました。そして馨は、清儀と美鈴の罪を知っていました。父親を苦しめた犯人だということも。
馨が考案した「無辜ゲーム」では「同害報復」が敷かれています。「目には目を、歯には歯を」という同じ重さの罪を与えるという法では、何も解決にならないと説かれる中、馨は罪を償わせる理論だと主張します。
裏を返せば「同害報復」は、相手を許すために用いることができる手段のひとつである。馨は、清儀と美鈴に罪を償わせることで許そうと考えていたのではないでしょうか。
しかし、馨は死んでしまいます。「死者」となった馨。現場にいた美鈴は「被告人」に。そして美鈴を弁護する「弁護人」となった清儀。それぞれが守りたかったこと、成し遂げたかったことは叶いませんでした。清儀が、美鈴を弁護し無罪にしたこと以外は。
冒頭の駅のプラットホームでの事件の場面は、白黒映像になっていて、この事件がまさに「灰色」な事件だったということがのちに分かります。「有罪か無罪かは裁判官が決めますが、免罪かどうかは神様しか知りません」という馨の台詞が印象に残ります。
罪を犯すということ。罪を償うということ。罪を許すということ。この世界には法では裁ききれない物事があるということを改めて感じました。
まとめ
第62回メフィスト賞を受賞した五十嵐律人の本格法廷ミステリー小説の映画化、『法廷遊戯』を紹介しました。
弁護士役に初挑戦の永瀬廉。感情を爆発させる演技は必見、杉咲花。静かなる天才がハマり役、北村匠海。3人の演技バトルにも注目です。