孤独な魂が身を寄せ合う疑似家族の生きざま
東京藝術大学で黒沢清に師事した『ピストルライターの撃ち方』(2023)の眞田康平の初監督作品。
伝説のバンド「はっぴいえんど」の名曲「しんしんしん」にインスピレーションを受けて撮り上げたロードムービーです。
行くあてのない人々が集まってできた「家族」が、町から町をめぐる姿を描きます。
主演を『カナリア』(2005)の石田法嗣、ヒロインを『恋に至る病』(2012)の我妻三輪子が務めます。
映画『しんしんしん』の作品情報
【公開】
2013年(日本映画)
【監督・脚本】
眞田康平
【編集】
片寄弥生
【出演】
石田法嗣、我妻三輪子、佐野和宏、奥津裕也、神楽坂恵、坪井麻里子、中村有、洞口依子
【作品概要】
東京藝術大学で黒沢清に師事した『ピストルライターの撃ち方』(2023)の眞田康平の初監督作品。
日本の音楽史に名を残す伝説のバンド「はっぴいえんど」の名曲「しんしんしん」にインスピレーションを受けてオリジナル脚本を書いて撮り上げました。
行くあてのない人々が集まってできた「家族」が、生きる場所を求めてトラックで旅に出る様を描きます。
主演を『カナリア』(2005)『スウィートビターキャンディー』(2021)の石田法嗣、ヒロインを『恋に至る病』(2012)の我妻三輪子。
喪失を引き受け見つめようとする監督に深く賛同したキャスト陣が、人々の本質を体現しています。
映画『しんしんしん』のあらすじ
高校生の朋之は、それぞれが訳ありで行く当てのない他人同士が寄り集まってできた「家族」とともにテキヤをして暮らしていました。
酒を手放せないまま離れ離れになった実の息子を思い続ける芳男、明美と付き合っている裕也との男所帯でしたが、ある時、高校2年生のユキが加わることとなります。
しかし、その後家が取り壊しにあい、一家は突然帰る場所をなくしてしまいました。
迷いながらも朋之も一緒にトラックに乗り込み、それぞれの行き先を探し求めて巡業の旅に出ますが…。
映画『しんしんしん』の感想と評価
「都市に積る雪なんか汚れて当たり前という そんな馬鹿な 誰が汚した」という歌詞が鮮烈な印象を残す「はっぴいえんど」の名曲「しんしんしん」から生まれた、心を揺さぶる一作です。
家族を失った者同士がいつの間にか引き寄せ合い、共同体となって必死に生きていく様が描かれます。帰る場所もないのに、互いに手をとり「帰ろう」と言いあう彼らは、疑似家族でありながら本当の絆で結ばれていました。
時代の移り変わりに取り残された芳男。女を惹きつけてやまない気のいい裕也。そして、高校生にして本当の家族を失って流れ着いた朋之。
そこに同じく高校生で身寄りのないユキが加わります。飲み屋で働こうとしていた彼女に「ユキ」という源氏名を与えたのは芳男でした。
「汚れのない存在」として「ユキ」という名を与えられた少女は、本作の核となっていきます。
その後、突然家を取り壊されてしまった一家は、トラックで放浪することとなります。不安なまま身を寄せ合う彼らは、行き場のない悲しみと不安に押しつぶされそうになりながらも、次の土地を求め彷徨うのでした。
しかし、ギリギリのところで自分を持ちこたえていた彼らの関係は、あっけなく破綻し始めます。
もともと何も持っていなかった人たちがさらなる喪失を味わう残酷さ。それとともに、そんな彼らだからこそ見つけることができた確かな真実が浮き彫りとなっていきます。
彼らが互いをどれほど必要とし、どれほど大切にしているのかが伝わって来て、胸が苦しくなることでしょう。
観終えた後に胸に残るずっしりと重い余韻に、驚かされるに違いありません。
まとめ
孤独を抱えた人々が強い磁力で引き合ったかのように生まれた「疑似家族」の流浪の旅を描く『しんしんしん』。
時に反発し合いながらも互いの手を離さずに、彼らは次第に絆を深めていきます。
必死に居場所を求める一家の姿は、生きる場所を求める私たちすべてを映し出したものなのかもしれません。