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Entry 2023/04/21
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『ガッデム阿修羅』あらすじ感想と評価解説。台湾社会派サスペンス映画が描く“無差別乱射事件が狂わせる運命”|映画という星空を知るひとよ151

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第151回

映画『ガッデム 阿修羅』は、ジャーナリストのフー・ムーチンが書いた無差別殺傷事件に関する3つのレポートに触発されて製作された社会派サスペンスです。

夜市の日、無差別乱射事件が起こります。犯人は18歳になったばかりの青年。何も理由を語らない彼に業を煮やし、青年の親友は事件の真相を掴もうと奔走します。

事件の被害者となった男性と、その婚約者。被害者男性とネットゲームで知り合っていた不良少女と、偶然にも事件現場にいたマスコミ記者……人々の運命は、夜市乱射事件で一変しました。

2023年6月9日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国順次ロードショーとなる映画『ガッデム 阿修羅』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ガッデム 阿修羅』の作品情報


(C)Content Digital Film Co., Ltd

【日本公開】
2023年(台湾映画)

【原題】
該死的阿修羅

【英題】
GODDAMNEDASURA

【監督】
ロウ・イーアン

【脚本】
ロウ・イーアン、チェン・シンイー

【出演】
ホァン・シェンチョウ、モー・ズーイー、ホァン・ペイジァ、パン・ガンダー、ワン・ユーシュエン ほか

【作品概要】
実際の無差別殺傷事件に触発され製作された社会派サスペンス『ガッデム 阿修羅』。

監督は、数々の受賞歴があるロウ・イーアン。本作では、2021年に「台湾のアカデミー賞」とされる金馬奨でワン・ユーシュエンが最優秀助演女優賞を、続く2022年には台北映画祭の台北電影奨で脚本賞・音楽賞・最優秀助演女優賞を受賞しました。

主演は『先に愛した人』(2018)のホァン・シェンチョウ。金馬奨新人賞にノミネートされた主人公の親友役のパン・ガンダーのほか、『親愛なる君へ』(2021)で知られるモー・ズーイーは事件を調べる記者役を、ワン・ユーシュエンは不良少女役を務め、実力派俳優が勢ぞろいしました。

映画『ガッデム 阿修羅』のあらすじ


(C)Content Digital Film Co., Ltd

ジャン・ウェン(ホァン・シェンチョウ)とアーシン(パン・ガンダー)は親友同士です。

両親が離婚して財力のある父に引き取られたジャン・ウェンは、厳格な父の目を盗み、物語を書いていました。またアーシンはその物語をアニメ化し、ネットに投稿していました。

流されるような日々の中、父親とも将来について自分の本心を話せないジャン・ウェンの鬱蒼とした思いは徐々に募っていました。

ある日、18歳の誕生日を迎えたばかりのジャン・ウェンが、夜市で乱射事件を起こします。その動機について、周囲の誰も見当がつきません。彼を殺人の罪から助けたい親友のアーシンは「彼に殺意はなかった」を証明するために奔走します。

この夜市乱射事件で唯一命を落としたシャオセン(ライ・ハオジャ)は、ゲーム「王者の世界」で多くのファンを持つプレーヤー。しかし実生活では、規則正しく平凡な生活を送る地味な公務員でした。

シャオセンの婚約者のビータ(ホァン・ペイジァ)は仕事中心の生活になっており、二人の間にはすれ違いが生まれていました。

高校3年生のリンリン(ワン・ユーシュエン)は頭脳明晰ですが、貧しい母子家庭で育ち非行に走っています。シャオセンと同じくゲーム「王者の世界」にのめり込み、 偽のIDとヌード写真を用いてシャオセンを誘惑しました。

リンリンの住む黎明アパートを取材する通称「バイ菌」の記者メイ・ジュンズ(モー・ズーイー)は偶然、夜市乱射事件の現場に居合わせ、事件の真相を突き止めることを決意します。

ジャン・ウェン、アーシン、シャオセン、ビータ、リンリン、メイ・ジュンズ……6人の運命が夜市で交錯します。

もし、彼らが犯行前に別の選択をしていたら、悲劇は起きなかったのでしょうか……。

映画『ガッデム 阿修羅』の感想と評価


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物語は、店の店頭の檻に入れられていた犬を二人の青年が逃がす場面から始まります。単なるいたずらと思われるこの行為ですが、実は青年の一人ジャン・ウェンの屈折した心理を表していました

檻に閉じ込められた犬に、ジャン・ウェンは自分の置かれた現状を見ていたのでしょう。なんとかして自由にしてやろうと檻から逃がすのですが、なぜか犬はすぐに檻に戻って来ます。

そんな犬の反応も、ジャン・ウェンが抱える悩みを助長し、行き場を失ったジャン・ウェンの屈折した思いは、ある日無差別乱射事件を起こします。

ジャン・ウェンの親友アーシンは、彼の罪を軽くすべくとんでもない行動に出ます。また乱射事件の被害者シャオセンは死んでしまい、その妻ビータのその後の人生を大きく狂わせます。

一方、シャオセンとゲームの世界で知り合っていた不良少女リンリンは、自分の住むアパートを取材にきた記者メイ・ジュンズと顔見知りになり、メイ・ジュンズは偶然にも乱射事件の現場に居合わせていました。

偶然が重なった結果、乱射事件を通じて運命が狂い始めてゆく6人。本作では、彼らの運命の変わりようをいくつかのパターンで描きだしました。「一つの言動が招く結末が、凶と出るのか吉と出るのか」……それは誰にも分りません。

どういう選択をすれば、6人が6人とも満足の行くよう人生になるのか。じっくりと考えてみたくなります

また、不良少女リンリンを演じているワン・ユーシュエンは、本作で最優秀助演女優賞に輝きました。

時には掴みようのない淫らな小悪魔的な表情を見せ、そうかと思えば天使のように明るい笑顔を見せるリンリン。ワン・ユーシュエンの移り変わりの激しい女心を、そのまま映し出すような変幻自在な演技に目を奪われることでしょう

まとめ


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本作『ガッデム 阿修羅』は、実際の無差別殺傷事件に触発され製作されたと言います。

事件の犯人とその周囲の人々、事件に遭遇した人。考えてみれば一つの事件に関われば、それまでの人生が変わってしてしまうことに気が付きます。

その時の行動を別の選択にしていれば、また違った展開になったことでしょう。物事が善になるも、悪になるも、タイミング次第なのかも知れません

三つの章立てから違ったパターンで語られる、事件に関わった人々の物語。選択の仕方を変えていれば、また違った結果を得られたかも……。

果たして映画は、どんな結末を迎えるのでしょう。お楽しみに。

映画『ガッデム 阿修羅』は2023年6月9日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国順次ロードショー! 

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。





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