“究極の選択”を迫られた、家族愛と恐怖の終末スリラー
今回ご紹介する映画『ノック 終末の訪問者』は、『シックス・センス』(1999)や『オールド』(2021)ほか、話題作を次々生み出すスリラー映画の名手M.ナイト・シャマラン監督最新作で、テーマは「究極の選択」です。
ブラム・ストーカー賞、英国幻想文学大賞、マサチューセッツ図書賞を受賞している小説家・ポール・トレンブレイの『終末の訪問者』を原作に書き下ろした作品です。
街の喧騒を離れ人里離れた森の中で、“バッタ”捕りに夢中になる少女、彼女の目の前に突如全身タトゥだらけの大男が現れ、少女に「友達になろう」と言いますが、遠くからさらに謎の3人の姿が現れます。
逃げ帰る少女は“2人の父親”に非常事態を知らせます。やがて家の扉を7回ノックする者が……彼らは家族を拘束し「われわれは世界の終わりを防ぎに来た」と告げます……。
4人の訪問者は何者なのか? なぜ、世界は終末を迎えることになるのか? そして、世界の終わりを防ぐ究極の“選択”のとは……。
CONTENTS
映画『ノック 終末の訪問者』の作品情報
【公開】
2023年(アメリカ映画)
【原題】
Knock at the Cabin
【監督】
M・ナイト・シャマラン
【原作】
ポール・トレンブレイ
【脚本】
M・ナイト・シャマラン、スティーブ・デスモンド、マイケル・シャーマン
【キャスト】
デイブ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、クリステン・ツイ、アビー・クイン、ルパート・グリント
【作品概要】
謎の訪問者レナード役には、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのデイヴ・バウティスタ、レドモンド役は「ハリー・ポッター」シリーズのロンを演じたルパート・グリントらが務めます。
究極の選択を迫られる同性カップルのエリック役をドラマ「Fleebag フリーバッグ」のベン・オルドリッジ、アンドリュー役には『マトリックス レザレクションズ』のジョナサン・グロフが務めます。
映画『ノック 終末の訪問者』のあらすじとネタバレ
都会の喧騒を離れた森の中で、ウェンという少女がバッタを捕り瓶に入れ、1匹ずつ名前を付け観察日記を記録しています。
ところが人気のない森に入ってくる者がいます。遠目に見ても体格のいい男が向かってくるので、ウェンは逃げて家までたどりつけるかと思案に暮れてますが、彼はあっという間に近づき、気さくに声をかけてきます。
ウェンは知らない人とは話さないと言うと、大柄な男はレナードだと名乗り、ウェンの名前と歳を聞きます。ウェンはあと6日で8歳になると教えると、レナードは握手を求めました。
レナードは全身入れ墨だらけの男です。しかし、見た目からは想像つかないほど優しく、バッタの捕り方も上手で採集を手伝ってくれました。
ウェンは自分には2人の父親がいて、エリックパパとアンドリューパパだと教えます。レナードは予想外の展開という感じに驚きながら、自分が来た方角を気にします。
ウェンは「何でここに来たの?」と素朴な疑問を投げかけます。すると、レナードが後方から森の中に3人の姿が見えてきます。手に武器のようなものを持ち、異様な雰囲気を漂わせていました。
恐怖を感じたウェンは小屋に帰り、テラスでのんびり過ごす父親たちに、危険が迫っていることを必死に伝えます。エリックとアンドリューは軽くあしらいますが、外を見ると異変を信じ家中を施錠します。
警戒していると、ドアをノックする音が鳴り響きます。レナードがドア越しに「多くの人を救うために来ました。中に入れてください」と声をかけてきます。
エリックはそんな不審だらけの男を信用できません。レナードは直接話がしたいと繰り返すばかりです。窓から覗くと仲間と思しき他の3人が、家の周りを包囲するように歩きます。
アンドリューが警察に電話しようとしても、回線は切られ携帯も圏外で繋がりません。武器を持っている不審者を誰が信じるかと叫ぶと、レナードは「これは武器ではなく、道具だ」と言います。
当然信じられるわけもなく呼びかけに応じません。アンドリューは車に拳銃があると言い、隙を見て取りに行くことを提案します。
するとドアを激しく揺さぶられ、侵入されないよう抵抗しようとする3人でしたが、窓を破壊され、中肉中背の男が侵入してきます。
エリックは対抗しますが強い反撃で卒倒し、脳震盪を起こし気を失ってしまいます。激怒したアンドリューが、男を執拗に殴り返しましたが、ウェンがレナードに捕まってしまい、抵抗を諦めるしかありませんでした。
『ノック 終末の訪問者』の感想と評価
ヨハネの黙示録の“四騎士”の意味
エリックはアンドリューに比べ少しは信仰心があったからか、訪問してきた4人が「黙示録の四騎士」のようだと、理解しました。
「黙示録の四騎士」とは、「ヨハネの黙示録」6章~8章5節に登場する“七つの封印(災い)”の内、始めの4つの封印が解かれる時に現れると言われています。
四騎士は地上の人間を、支配(白い馬)、戦争(赤い馬)、飢饉(黒い馬)、疫病(青白い馬)の4分の1にわけ、それらの人間を殺す権威を与えられているとされています。
ところが本作に登場する4人が“四騎士”を示すものであるなら、なぜ終末を阻止する役わりになったのでしょうか?と疑問が残ります。
白いシャツを着ていたレナードは第一の騎士と見た場合、リーダーとしてその場を支配していましたが、実生活でも教師として「導く」ことを担っていました。
第二の騎士は赤いシャツを着ていたレドモンドだと考えると、彼は喧嘩っぱやくアンドリューとトラブルを起こし、いざこざが原因で世間に「恨み」を持っていた男です。
さて、第三の騎士は黒い馬に乗っていましたが、エイドリアンは真っ黒とはいえないくすんだネイビーのシャツを着、飢饉をもたらす要素とは逆の食べ物で「養い」を与えました。
サブリナも第四の騎士の青白い馬の色のシャツでもなく、黄泉(疫病をもたらす獣)もつれていません。そして「疫病」もたらす役回りとは真逆の看護師として「癒し」をもたらしました。
また、それぞれの4人が死ぬことによって、災いが発動するという展開でしたが、ヨハネの黙示録で解く「戦争」と「飢饉」は起きていません。
ところが四騎士の後、第五の封印が解かれると、殉教者が血の復讐を求めるとあり、第六の封印が解かれると地震と天災が起きるとされています。
レドモンドの死がこの第五の封印だとしたら「恨みによる復讐」だと考えると、第六の封印の地震・水害・落雷などの天災とつながります。
そして、レナードの死は第七の封印が解かれ、「しばらく沈黙があり、祈りがささげられる」と繋がりました。
「ヨハネの黙示録」には7つの封印が解かれたあとの8章6節~11章19節で、4人の御使が地の四角に立ち、四方の風をひき止めて、地にも海にもすべての木にも吹きつけないようにし、神から選ばれし144,000人がいるという話がありました。
本作に登場する4人は四騎士ではなく、4人の御徒でエリックが見た光の中の人物は生存を許す「神」だったとも捉えられます。
人類の滅亡を守ろうとした4人御使が、死ぬ毎に災難が起きたと考えた方が自然ではないでしょうか?だから、シャツの色も四騎士の馬に沿っていなかったのでしょう。
“ノック”の回数が意味すること
144,000人が選ばれると、7つのラッパを吹く7人の天使が現れ、7つの災難を起こすと言われ、その後には“七つの金の鉢”という災難もでてきます。
“7つのラッパ”による災難の中に、「たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた」という災いがあり、航空機の落下を意味しているようにも感じます。
このようにヨハネの黙示録には、“7つの封印”の他にも数字の7にまつわる話があり、4にまつわる話も合間に出てきます。
キリスト教の「黙示録(終末論)」には数字の7と4が大きく関わっていて、映画『ノック 終末の訪問者』でノックされる数が“7回”であることにも注目してください。
ノックは‟これから災いが起きますよ”という合図です。すでに「戦争」も「飢饉」も起きたあとで、残りの4つの災いを予見し、最後に人類を滅亡させない猶予を与えたというイメージかもしれません。
しかし、日本人の私たちはこの映画で示す、地震や津波を経験しています。欧米などでは自然発火による大規模な火災、世界的に拡大したCOVID-19の感染症、共産圏(赤)の侵攻による戦争も起きています。
戦争による食に関わる物価の上昇など、達観して捉えられない現実が実際におきています。既に起きていることではありますが、今生き長らえているのは誰かが人類滅亡を阻止してくれたから?とでも言っているようです。
そして、黙示録にはまだまだ続きがあります。すなわち「災害は忘れた頃にやってくる・・・。」人は喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物です。この映画はまだまだ終わりではないということを感じました。
エリックが見たビジョンには獣医になったウェンと、歳を重ねたアンドリューが映りますが、ウェンがバッタに興味がある事、獣医になるという未来は、黙示録に重ねると不穏さを感じてしまう部分もあります。
アンドリューが着ていたTシャツが灰色だったので、彼が青白い馬の騎士で連れている黄泉はウェンを指しているのではないかと・・・そんな想像もさせました。
博愛主義に近いエリックとは違いアンドリューは、拳銃を所持することや発砲、暴力も時と場合によってはいとわないからです。
まとめ
映画『ノック 終末の訪問者』に関してシャマラン監督は、「自分の家族の物語」と語っています。実際にアジア系の女児を養子に迎え育てており、血が繋がらない間がらでも、愛情を込めて育てている感情を反映しているからです。
ウェイには「口唇裂(こうしんれつ)」の痕がありました。アジア人に多いと言われる先天性の奇形ですが、その他になにか障害がでるわけではなく、手術で治癒できる疾患です。
しかし、誤った知識のせいで生まれる前に、“中絶”されてしまうことが多いようです。おそらくウェイは口唇裂のせいで親から捨てられ、エリックとアンドリューの養子となったのでしょう。
エリックとアンドリューはゲイのカップルです。世間から理解されず、時に同性愛が人類を滅ぼすなどと中傷をされることもあります。
この映画はゲイのカップルがウェイを養育する家族の形を通し、真の「家族愛」を描き、その愛で人類を救う物語を描いていると感じました。
差別や偏見を無くすことから、身近な家族を愛し平和で豊かな暮らしを作る・・・過ちを繰り返しても、気づきやり直す勇気をこの映画は伝えています。