エスターが孤児院に入る前の前日譚を描くホラー大作
あの衝撃が再び……。
クライマックスに明かされるエスターの正体に衝撃が走った『エスター』(2009)から14年経ち、その前日譚として再びエスターが帰ってきます。
彼女がなぜ“エスター”になったのかが今明かされます。
6歳のエスターが行方不明になってから4年、当然エスターが見つかったとオルブライト家に連絡がきます。娘の帰還を喜ぶ家族でしたが、4年ぶりに帰ってきたエスターは“何かが”変わっていました。
そのことを気づいていたのは母親だけでした……。
当時12歳であったイザベル・ファーマンが、同世代のエスターを演じた前作から14年経ち公開された『エスター ファースト・キル』においてもエスターを演じています。
撮影当時23歳であったというイザベル・ファーマンですが、様々な演出方法により10歳くらいの少女に見えるようになっています。
映画『エスター ファースト・キル』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(アメリカ映画)
【原題】
Orphan: First Kill
【監督】
ウィリアム・ブレント・ベル
【脚本】
デビッド・コッゲシャル
【キャスト】
イザベル・ファーマン、ジュリア・スタイルズ、ロッシフ・サザーランド、マシュー・アーロン・フィンラン
【作品概要】
養子として迎え入れた少女・エスターの子供とは思えぬ不気味さとその正体に衝撃が走った『エスター』(2009)から14年が経って、前日譚として製作された『エスター ファースト・キル』。
当時12歳で少女のエスターを演じたイザベル・ファーマンが本作でも再びエスターを演じ、最新の技術を使って少女のように演出しました。母親役は『ハスラーズ』(2020)のジュリア・スタイルズ、父親役は『ハイエナ・ロード』(2016)のロッシフ・サザーランドが演じました。
監督を務めたのは、『ザ・ボーイ 人形少年の館』(2016)、『ザ・ボーイ2 残虐人形遊戯』(2020)、のウィリアム・ブレント・ベル。
映画『エスター ファースト・キル』のあらすじとネタバレ
エストニアのとある修道院。
アートセラピストのアナは精神病院で新たにアートセラピーの教師として赴任することになります。施設長がアナを案内していると突如警報がなります。
この院で一番危険なリーナ(イザベル・ファーマン)の姿が見えないというのです。アナが戸惑っていると、暗くなった教室の奥に一人の少女が座っているのを見つけます。その少女こそがリーナでした。
施設長はリーナを部屋に戻すと、アナに外見に騙されはいけない、ホルモンの異常で10歳ごろから成長が止まっているが、成人女性で天才的な詐欺師だから注意するよう言います。少女のような外見からは信じられない事実にアナは戸惑いを隠せません。
リーナは精神病棟の患者を手懐けるだけでなく、自分に好意的な警備員を誘惑します。警備員に黒のドレスを自分に届けさせ、お礼をしたいと部屋に招き入れます。部屋に入るのを警戒していた警備員も誘惑に勝てず部屋に入ってしまいます。
リーナは誘惑するように見せかけて隙を狙って警備員の男の頭を掴み、壁に打ち付けます。そして荷物を持ち、警備員のキーを使って部屋から抜け出します。
そして人に見つからないよう移動し、巧妙に防犯カメラの映像を消し、あと少しで施設の外というところで警備員に見つかってしまいます。しかし、以前から手懐けていた患者に襲わせ、難なく抜け出します。
施設にやってきてあたりの惨状を見て恐怖したアナは、施設長に私ではやっていけないから辞めるといい、車に乗り込み帰ろうとします。
雪に覆われたフロントガラスをバンパーではらうと目の前にリーナの姿が現れます。恐れるアナにリーナは唇に人差し指をあて、静かにという仕草をします。
そのままアナは車でロシアの家に帰ります。家に着くと車のトランクのドアが空いていることに気づきます。嫌な予感がしつつも家に入ると目の前にリーナが現れ、次の瞬間にはリーナに殴られ、殺されてしまいます。
リーナはパソコンで行方不明の子供の情報を調べ、自身の容姿に近い少女を見つけました。それが「エスター」でした。
公園で一人ブランコを漕いでいる少女を見つけた警官が保護し、名前を聞くとリーナは笑顔で「エスター」と答えます。警察は行方不明になっているエスターが見つかったとアメリカにいるオルブライト家に連絡します。
連絡を聞き、母親(ジュリア・スタイルズ)が迎えにきます。警察はまだ、事件のことについて詳しく話そうとしないが、ロシアに連れてこられて養女として育てられていたと言います。
母親とエスターは緊張した面持ちで対面します。母親はエスターの顔を見て私の娘に違いないと再会を喜びます。
帰りの飛行機の中で母親は携帯の写真を見せ、家族についてエスターに話し始めます。エスターも嬉しそうに話を聞きながら、祖父母の写真を見て「早く会いたい」と言います。
すると母親は怪訝な顔をして「どうしたのエスター、もう亡くなっているでしょ」と言います。エスターは自分がミスをしたことに気づき、お手洗いに行きます。
一人でお手洗いの中で自分のミスに苛立ち暴れますが、何事もなかったかのような顔で自分の席に戻ります。
父親(ロッシフ・サザーランド)と兄が待つ空港にたどり着いたエスターと母親。母親はエスターのチョーカーを外そうと手を伸ばしますが、その手をエスターは強い力で握り、止めます。あまりの力に母親は戸惑いながらも「急にごめんね」と謝ります。
エスターは首にある傷を隠すためにチョーカーをしているため、その傷を見られたくなかったのです。
エスターの帰りを何よりも楽しみにしていたのは父親でした。エスターを抱きしめ、また元のような幸せな家庭が送れると信じていました。
しかし、エスターは何かが変わってしまっていました。その異変に母親は気づいていましたが、父親はエスターが戻ってきたことを喜び、活気を取り戻していきます。止まっていた絵の制作を始めた父親に母親も喜んでいます。
エスターの担当刑事は、返ってきたエスターが本物なのか疑問を抱いています。しかしエスターは何も話そうとはせず、両親も無理して話すことはないといい、エスターを自分たちの娘だと信じています。
刑事はこっそりエスターの部屋に入り、エスターの指紋を採取し、DNA鑑定をしようします。指紋を採取されたことに勘付いたエスターは、刑事の住所を調べて侵入し殺そうとしますが、力に敵わず捕まりそうになります。
その時、銃声がなり刑事が撃ち殺されます。そこにいたのは何と母親でした。突然の状況にエスターは驚きます。
映画『エスター ファースト・キル』の感想と評価
エスターの哀しさ
彼女がなぜ“エスター”になったのかが明かされる映画『エスター ファースト・キル』。
前作で、エスターが少女ではなく、少女になりすましている成人女性であるということは明かされています。そのため、本作ではその部分を最初の精神病院の時点で観客に明かしています。
そして、前作ではエスターが成人女性であることを知り、その巧妙な手筋に驚く人も多かったでしょう。本作においてもその天才詐欺師としての才は発揮されています。精神病院での人間関係などを把握し、利用できる人間を見極める才能を持っているのです。
自分の言うことを聞くように患者を手懐け、監視員を誘惑し見事に脱出したエスターは、新しく赴任してきたばかりの若いアートセラピーの先生も利用し、彼女の車に乗ることであっさり街中に逃れてしまいます。
その後、行方不明の少女の中から自身の外見に近いエスターの情報を見つけ出し、エスターになりすまします。しかしその選択には大きな誤算があったのです。
それが、エスターはもう死んでいた、ということです。母親と兄によって死を隠蔽され行方不明ということになっていたのです。
エスターにとって想像もしない展開はスリリングなエスターVS母、兄という構図を生み出します。
前作は不穏さの漂うダークホラーでしたが、本作はアクションが多くなり、ダークホラー要素もありつつスリリングなバトルが展開されていきます。更に相手はエスターと同等に頭がきれ、体格はエスターよりも大きいという難敵です。
フリークとエスターを蔑み、エスターに夫は渡さないと言い放つ母親の姿に思わずエスターを応援したくなります。
エスターは、ホルモンの異常という病気によって大人の女性の身体になることを奪われた存在です。彼女が大人の男性に愛情を抱いても、相手にとってエスターは子供としか見られないのです。
その哀しさは前作でも描かれていましたが、エスターの正体を知り、フリークと蔑む母と兄の姿からエスターの理解されない哀しさが浮き彫りになります。
エスターは普通に成長し家族を持ちたいと願っていたのかもしれません。それが叶わず、生きるためのその外見を利用し詐欺師となった、そうとしか生きられなかった背景があるのかもしれません。
精神病院に来る前何をしていたかは、本作においても明らかにはされていませんが、子供のふりをして金銭などを奪っては去りというのを繰り返していた様子が伺えます。
エスターになりすまし、オルブライト家にやってきた時も数日過ごし家を出ようとしするシーンが描かれますが、夜一人でアトリエで制作をしている父親の姿を見て、エスターは思いとどまります。それは父親に対してエスターが思いを寄せていたからなのです。
そんなエスターの思いも虚しく、エスターが娘ではないことがわかった瞬間、父親はエスターを拒絶します。
娘だと思っていた相手が誰だか分からない別人であると判明したら拒絶するのは当然の反応であるかもしれませんが、エスターにとっては大きな絶望なのです。
理解されないエスターの哀しさとともに、エスターを追い詰める難敵として母親を登場させるという前作とはまた違った衝撃が、観客を楽しませてくれます。
まとめ
『エスター』(2009)から14年経ち公開された『エスター ファーストキル』では、前作と繋がりのある要素も大きく出てきています。その一つが絵画です。
エスターは絵の才能があり、その実力には画家の父親も驚くほどでした。画家であるエスターの父親は、特殊なインクを使い、灯りを消すと一つの絵にもう一つの絵が浮かび上がるという独自の手法を使っていました。
その手法は、前作でエスターを養子にした母親が、灯りを消してエスターの絵を見ると、衝撃の絵が浮かび上がってくるというシーンで登場しています。前作を見ていた人は、父親の手法を見て思わずハッとしたのではないでしょうか。
更にエスターが大事に持っている聖書も前作同様今回も登場していました。
更に、晒しを胸にまき、入れ歯をして首の傷を隠すようなチョーカーなど、前作で最後に明かされるエスターのカモフラージュ術も出てきます。
そのように前作につながる発見も楽しめる映画になっています。