うんこのドキュメンタリー=ウンコメンタリー映画『ウンチク/うんこが地球を救う』
2022年現在、世界の人口は約78億人。さらに870万種もの生物がこの地球上に暮らしています。そして生き物はうんこをします。
文明が発達した21世紀のこの時代でも、45億人もの人々が衛生的なトイレ環境を得られていないといいます。/]
この映画ではうんこがどのように扱われてきたかその歴史を探り、世界各地のうんこ問題を取材し、うんこを役立てようとする事例を紹介しています。
映画『ウンチク/うんこが地球を救う』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
SHIT SAVES THE WORLD
【監督】
トロイ・ヘイル
【キャスト】
鈴木達央(日本語吹き替えナレーション)
【作品概要】
人間は平均して1日に400g、1週間で2.7kg、1年間で145kgのうんこをします。一生の間ではそれは12.2tにもなります。
しかし現在のようなトイレができたのはたった220年前。それ以前は屋外でしたり、器に入れて捨てていました。その結果病気が流行ることも多く、うんこ問題は人間の健康を切っても切れない重要な課題となっています。現在世界中で起こっているうんこの問題や、その解決に尽力する人々の努力を見ていきましょう。
監督はアメリカのミシガン州立大学でドキュメンタリー映画について教えているトロイ・ヘイル。ちょうど大学に動物の糞尿などを電力に変えるバイオディジェスター(注:参照)があったことからこのテーマを取り上げることにしたそうです。
日本語吹き替えは人気声優の鈴木達央が担当。シリアスなナレーションからコミカルなアテレコまで、声のバリエーションが堪能できます。
注:バイオディジェスターとは家畜の糞尿や生ごみなどを嫌気性状態(無酸素状態)において発酵させ、その過程で発生するバイオガスをエネルギー源・熱源として使う施設のこと
映画『ウンチク/うんこが地球を救う』のあらすじとネタバレ
地球の人口77億人、そして870万種もの生物が日々うんこをします。そう、地球はそこらじゅううんこだらけなのです。
わたしたちは毎日トイレを使います。例えばアメリカのラスベガス。そこにあるホテルの客室は15万室でトイレの数はそれ以上です。またニューヨークからは列車でアラバマへうんこが運ばれます。毎日のうんこの処理は大変です。
600万年もの人類の歴史の中で現在のようなトイレができたのはたった220年前だと言われています。
それはエリザベス1世に献上された水洗トイレでした。原始時代洞窟に住んでいた人類は、その中では用を足さず屋外の決まった場所で排便していたとみられています。
その後古代ローマ時代には水道橋などの技術が発達し、バス・トイレが完備されていました。しかしその衰退・滅亡とともに時代は逆戻り。うんこが臭い、不潔と忌み嫌われる時代が続きます。
時を現在に戻し、場所はメキシコとの国境に近い南カリフォルニアのインペリアルビーチ。ここはティファナ川を下ってくる汚水に悩まされビーチを閉鎖しました。
川の上流はメキシコで、そこから糞尿はもとより有害な工場排水やゴミまでもがそのまま流れてくるといいます。
川の水は想像もつかない色をしており、住民たちは臭いに苦しめられながら、その水質汚染によって生命すら脅かされています。そしてこれはアメリカとメキシコ、両国の政府が話し合って解決するべき問題です。
世界では7億人以上の人が安全な水を得られていないといいます。そして45億人以上が衛生的なトイレを使えていません。多くの発展途上国ではいまも屋外排泄があたりまえなのです。
多くの登山客で賑わう山でもうんこ問題は深刻です。そして人類は月にもうんこを置いてきました。アポロ11号の乗組員は月で採取した石を持ち帰るため、重量の関係で彼らの排泄物を月面に置かざるを得なかったのです。
うんこには多くのバクテリアが存在します。つまり人類は、月面に生命を置いてきたということになります。
SF映画の中でも排泄の問題は取り上げられています。『アポロ13』(1995年)では宇宙船から尿を船外に排出する様子が描かれています。
またマット・デイモン主演の『オデッセイ』(2015年)では、火星に取り残された主人公が食糧となるジャガイモを育てるため排泄物を利用しています。
また現実に、宇宙船の中で排泄物が漏れてしまいだれかの便が浮かんでいるという交信内容が記録されています。それだけ宇宙船乗組員の排泄問題は切実で、下手に船外に捨てると凍った尿が船体を傷つけてしまうこともあるそうです。そのため1,900万ドルもするトイレを開発したり、ハンズフリーで排泄できるアイデアを一般に募集したりしました。
現在、世界各地で汚水は処理場で水質を改善してから川へと流されています。昔はなんの処理も施されないままうんこがたれ流されていたことを考えるとめざましい進歩です。
前世紀、人類の健康に最も寄与したのは下水処理だと言われています。そしてその処理は休むことなく日々続けられなければなりません。毎日「トイレに感謝」です。
映画『ウンチク/うんこが地球を救う』の感想と評価
「うんこの映画を見る」という経験は初めてでした。どんな映像なのだろうかとこわごわ席に着きましたが、ナビゲーターもこなすトロイ・ヘイル監督の軽妙な見せ方で楽しくわかりやすくうんこについて学ぶことができました。
それこそウンチクと呼ぶにふさわしいうんこに関するトリビアが数々紹介され、世界のうんこ事情に詳しくなります。特に衝撃だったのは、ヨーロッパでアンティークの陶器を買って食器として使うのは気をつけた方がいいというものです。お土産に喜ばれそうな素敵な柄の器が、実はうんこをするためのものだったとしたら…考えただけでも恐ろしいです。
ヴェルサイユ宮殿にトイレがなくそこらへんで用を足していたなどと聞くとにわかには信じられませんが、いままで見たその時代を描く映画の背景にそんなうんこ事情があったかと思うと今後見方が変わってしまいそうです。
とはいえうんこの歴史は病気との戦いの歴史。水、そして衛生については21世紀の日本で生活している身にはピンと来ないかもしれませんが、世界ではまだまだ多くの人々が衛生面に不安を抱えた生活を強いられています。そんな事例を紹介し、世界にはまだまだ解決しなければならない問題が山積みだということを教えてもらいました。
そして増え続ける世界の人口問題。人が増えればうんこも増える。うんこの処理問題は深刻化する一方ですが、そこに現れた光明がうんこのエネルギー利用です。うんこを有効活用でき、燃料費の削減、そして持続可能な電力の供給源としてPoo Power、つまりうんこの力が期待されています。
うんこを飲料水に変換するビル・ゲイツ開発の処理装置も大きな希望です。それが全世界に行き渡れば不衛生な環境に悩まされていた人々が救われます。もちろんうんこの処理にも役立ちまさに一石二鳥です。
まとめ
うんこ問題はまさに「不都合な真実」としてフタをされてきました。しかしこの映画に出てきた人物たちをはじめ、世界中の多くの人たちが問題を解決すべく活動しています。そしてそれらをもっと広めるため、ヘイル監督は世界中に発信しているのです。
うんこの問題から未来への希望をわかりやすく紹介してくれた『ウンチク/うんこが地球を救う』。子どもたちはもちろん、たくさんの方に知ってもらい、日々の生活を振り返るきっかけにしてほしいです。