狂気と暴力が入り乱れる、戦慄の潜入クライムエンターテインメント
数々の格闘技でインストラクターとしての資格を取得し、『散り椿』(2018)や「ザ・ファブル」シリーズで磨き上げられた身体能力を披露する俳優岡田准一。
アクションのクオリティが絶賛される一方で、過去には大河ドラマ『軍師官兵衛』や『永遠の0』(2013)でアクションではなく演技の面でも高い評価を得ていました。
今回はそんな岡田准一が演技とアクションの両面で高い実力を見せた、悪役だらけの潜入捜査映画『ヘルドッグス』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『ヘルドッグス』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
原田眞人
【脚本】
原田眞人
【キャスト】
岡田准一、坂口健太郎、松岡茉優、MIYAVI、北村一輝、大竹しのぶ、金田哲
【作品概要】
『渇き。』(2014)として映像化された小説「果てしなき渇き」などの著作で知られる深町秋生による小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」を、『関ヶ原』(2017)や『燃えよ剣』(2021)の原田眞人が映像化した作品。
主人公の潜入捜査官・兼高を岡田准一が演じ、『君と100回目の恋』(2017)や『仮面病棟』(2020)で主演を務めた坂口健太郎が兼高の相棒となる室岡を演じました。
映画『ヘルドッグス』のあらすじとネタバレ
新宿の交番勤務の警察官、出月梧郎はスーパーで働く女子高生と仲良くなりデートの約束を取り付けます。
デートの前日、スーパーに中国人マフィアが押し入り4人の従業員を銃殺し、出月は死体の中からデートの約束をした女子高生の姿を見つけました。
犯人の一人「マッド・ドッグ」は逮捕されたものの証拠不十分で釈放、出月は警察から姿を消しました。
数年後、出月は世界各地に隠れ潜んでいた3人の強盗犯を見つけ出し、相手が犯罪から足を洗っているかは関係なく殺害しました。
「マッド・ドッグ」を始めとした強盗に関わった全員の殺害を終えた出月は警視庁組織犯罪対策部の阿内に身柄を拘束され、犯した罪を清算する代わりに関東最大の暴力団「東鞘会」への潜入を命じられます。
「東鞘会」は先代会長の死後、秘書を務めていた十朱が会長に就任したことで、反発した氏家が「東鞘会」を抜け敵対し大規模な抗争が巻き起こっていました。
阿内の指示通り出月は兼高昭吾と名を変え、海外に勢力を拡大した「東鞘会」潜入への足がかりとして、「東鞘会」傘下「神津組」の組長である土岐が組織する裏仕事専門部隊「ヘルドッグス」の室岡に近づくことにします。
1年後、「ヘルドッグス」に入隊し室岡の兄貴分となった兼高は土岐の指示のもとに裏仕事を率先して引受け「神津組」の中での地位を高めていきますが、組のナンバー2の三神と犬猿の仲な上に土岐の愛人の恵美裏と密かに愛人関係になっているなど綱渡りの日常を過ごしていました。
出張での暗殺仕事を終え、土岐からの評価を高めた2人は十朱のボディガードとして推薦され、防弾ベスト越しに拳銃で撃たれた後に殴り合うと言うオーディションを通して2人はボディガードのBチームに任命されます。
「東鞘会」の幹部・大前田の専属マッサージ師でありながら警察の協力者でもある衣笠の店で阿内と会った兼高は、阿内から十朱の持つ警察上層部の秘密を記載された「秘密ファイル」を奪い出すように命じられました。
一方、新興宗教二世であり親が死刑囚と言う過去を持つ室岡は同じ境遇の幼馴染の杏南と再会し、2人は付き合い始めます。
杏南は室岡を犯罪加害者家族と犯罪被害者遺族の集まりに連れて行き、室岡は新宿のスーパーで発生した強盗殺人事件の被害者遺族の少女から、「出月梧郎」と言う人物が匿名で被害者遺族に定期的に多額のお金を支援し続けている話しを聞きます。
人を躊躇いなく殺し良心の呵責もない「サイコボーイ」と呼ばれながらも実は人一倍ヒーロー願望を持っている室岡は、恐らくは強盗殺人犯の殺害も終えている「出月梧郎」の物語に感銘を受けました。
ある日、氏家と手を組み十朱の命を狙う「神戸華岡組」の俵谷との密会に参加することとなった十朱に付きそう兼高と室岡は、会合場所のキャストに紛れ込んでいた殺し屋ルカの捕縛に成功。
ルカは郊外の処理場へと運ばれますが、顛末に興味を持った十朱は周囲の反対を押し切り処理場へと足を運びました。
兼高と室岡を含めた少数のボディガードと処理場の管理人、会長秘書の熊沢と拷問を続ける十朱ですが、ルカの体内に発信機が埋め込まれていたことが分かります。
実は俵谷は十朱を裏切っており、処理場に少数で行くことを見越して大量の殺し屋を送り込んでいました。
兼高と室岡が奮戦し殺し屋を全員殺害し十朱の警護に成功しますが、会長秘書の熊沢は殺害されてしまいます。
盟友である熊沢の死を聞いた土岐は「神戸華岡組」のアジトに手勢を率いて自ら乗り込み、俵谷を含めた「神戸華岡組」の幹部たちを殺害。
映画『ヘルドッグス』の感想と評価
極道組織に潜入する闇に堕ちた捜査官
極道組織やマフィアなど反社会的勢力と思われる組織への潜入捜査は実際に行われており、多くの実績があるゆえに物語の題材として珍しくはありません。
香港映画をリメイクしアカデミー賞を受賞した映画『ディパーテッド』(2007)やキアヌ・リーヴスが出演した『ハートブルー』(1991)、邦画では極道組織への潜入をギャグ要素を多めに描いた漫画を実写化した『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(2014)など、映画に絞っても数えきれないほどの作品が存在します。
そんな「警察による潜入捜査」を描いた本作ですが、本作ではこれまでの潜入捜査映画とはひと味違う味付けがなされていました。
『ハートブルー』や『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』の潜入捜査官は一線を越えることはなく、犯罪に加担することとなる『ディパーテッド』ではマフィアへの潜入を行ったビリーは自身の正義感ゆえに精神的に追い詰められていくことになります。
一方、映画『ヘルドッグス』の主人公兼高は潜入捜査を命じられる前から一線を越えた警察官であり、潜入捜査後も殺人を含めた裏社会の仕事を躊躇なく実行に移していきます。
悪が悪に潜入し、より巨大な悪を制するために動くと言う、警察官による捜査映画でありながら悪人だらけの物語が展開される、全く新しい潜入捜査映画となっていました。
坂口健太郎を始めとした俳優たちが魅せる「狂気」
映画『ヘルドッグス』の登場人物はほぼ全員が悪人であると同時に、その心に彼らなりの「正義」と恐るべき「狂気」を含ませています。
任務のために殺人にも淡々と手を染める兼高もそのひとりではありますが、兼高の相棒でありヒーローに憧れながらも加虐行為に興奮を覚える室岡はその筆頭とも言えます。
室岡を演じた坂口健太郎は『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』(2021)や『余命10年』(2022)など演じる役どころは好青年なイメージの強い役者ですが、本作では明らかに常軌を逸したサイコボーイな室岡を怪演。
見せる笑顔のどれひとつにも坂口健太郎の持つ「好青年」な雰囲気を感じさせない演技は、彼の演技の新たな領域が開かれたことを感じさせるほどでした。
その他にも組織や仁義を重んじながらも強い暴力性を持つ北村一輝の悪漢としての魅力や、MIYAVIが演じた兼高のターゲットとなる絶対的なカリスマ性を持つ十朱が見せる静かな狂気。
それぞれが全く異なるジャンルの「狂気」を演じた本作は、俳優の演技にも大注目の作品です。
まとめ
暴力と騙し合いに満ちた潜入捜査劇を描いた映画『ヘルドッグス』。
岡田准一主演作品として期待されるキレのあるアクションはもちろん健在であり、刀や拳銃に素手と過去の出演作品でも使われた武器だけでなく、ナイフやショットガンと言った新たな武器を使ったアクションで更なる進化を遂げています。
血しぶきが飛び交うアクションと各俳優の見せる狂気の演技、そして手に汗握る潜入捜査の物語。
映画『ヘルドッグス』はどこを切り取っても楽しい、戦慄のクライムエンターテインメントとしてオススメの作品です。