「タングはケンのために。ケンはタングのために」
そんな思いを友情と呼びます。
2016年刊行、日本でもベストセラーとなり劇団四季の舞台化もされた、デボラ・インストール作「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を、三木孝浩監督が二宮和也を主演に迎え映画化。
AIの進化で人間の生活にロボットが欠かせない時代。ある日を境に、夢も希望も失い、人生の時計が止まってしまった主人公・春日井健の元に、旧式ロボットがやってきます。
名前を聞くと「タング」と答えました。どこから来たのか。何のロボットなのか。どうやら記憶を失くしているようです。
何をやってもポンコツなタングを、一度は捨てようとする健ですが、自分もまた妻から家を追い出されてしまいます。
迷子になった健とタング。タングの記憶に隠された秘密をめぐり、謎の追っ手に追われることに。いったい誰が何のために「タング」を作り出したのか?
人生に迷うダメ男と記憶を失くしたポンコツロボットが繰り広げる冒険物語。映画『TANG タング』を紹介します。
映画『TANG タング』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
デボラ・インストール
【監督】
三木孝浩
【キャスト】
二宮和也、満島ひかり、市川実日子、小手伸也、奈緒、京本大我、山内健司、濱家隆一、景井ひな、武田鉄矢
【作品概要】
2020年より劇団四季のミュージカルとして舞台化もされたイギリスの人気小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)『夏への扉 キミのいる未来へ』(2021)の三木孝浩監督が日本版にアレンジして実写映画化しました。
ある出来事をきっかけに自信を失くしダメ男になってしまった主人公・健を、二宮和也が演じます。
また、妻の絵美を満島ひかり、健の姉を市川実日子、健とタングを追う謎の男を小手伸也、ロボット博士を菜緒が演じ、その他にも武田鉄矢、京本大我(SixTONES)、お笑い芸人のかまいたちの2人など個性豊かな俳優が集結となりました。
ロボットの「タング」に命を吹き込むのは、『STAND BY ME ドラえもん』(2014)など日本を代表するVFXプロダクション「白組」が担当。美しい近未来のロボット世界を描き出します。
映画『TANG タング』のあらすじとネタバレ
AIは進化し、人間とロボットが一緒に暮らす時代。かつては医師を目指していた春日井健は、ある出来事を機に自信をなくし、現在はゲーム三昧のニート生活です。弁護士である妻の絵美はそんな夫の無気力に苛立ちを募らせていました。
そんなある日、春日井家の庭に旧式のロボットが迷い込みます。背も小さく見た目もオンボロなロボットは「タング」と名乗りました。
ドット絵のような目はピコピコと電飾し、首はキョロキョロと動き、マジックハンドのような手をニギニギしながら、テトテトと歩きます。
健の言葉を真似したり、ハハハと笑ったり、何とも人間らしい、しゃべるタイプのロボット「タング」。どこから来たのか、記憶を失くしているようです。
健はそんなタングを、リサイクルショップに連れて行くことにしました。知り合いの店員は「使い物にならないけど、解体すれば何か役にたつ備品があるかも」と言います。
立ち去ろうとする健に、タングが呼びかけます。「ケン」その目はどこか寂しそう。そんな作戦も虚しく置いてけぼりになったタング。
店員の目を盗みこっそりと抜け出し、健の後を追います。健の家の中に侵入したタングは、写真や画像をフォルダに整理し次々と学んでいるようです。
ティッシュ箱を発見し1枚抜いてみたタングは、ヒラヒラと舞うティッシュに大喜び。子供のように次々とティッシュを抜いていきます。
そこに、健と絵美がやってきました。2人は喧嘩をしています。絵美は健の父親の形見である時計を床に投げつけて割ってしまいました。
「いつまで逃げるの?いいかげん前に進んで!」。壊した絵美も苦しそうです。そんな絵美をなだめるも、捨てたはずのタングが家にいることに驚く健。
「出てって!」。健とタングは一緒に家を追い出されてしまいました。迷子になった人間とロボット。
気付くとタングの体から液体が漏れています。「お漏らしかよ。本当にポンコツだな」。体の部分を開けてみると、液体の入った容器にヒビが入りそこから洩れているようです。
タングを作ったであろうメーカーの名前から広告を検索すると、旧式タイプを最新タイプへ交換するキャンペーンを行っているようです。
このポンコツを最新のお料理ロボットと交換して絵美にプレゼントすれば仲直りが出来るかもしれない。早速、健はタングを連れて本社のある福岡へと向かいます。
向かう道中、飛行機に乗ったタングは、ぴょんぴょんと大はしゃぎ。モニターから流れる映像をどんどん学習していきます。
中でも、アニメの中の男の子が言ったセリフが気に入ったようです。「僕は君のため、君は僕のため」。「タングはケンのため、ケンはタングのため…」。
製造会社を訪ねるも「適応外です」と、受付ロボットに断られる健たち。そこに見学に来ていた子供たちがタングを見つけて集まってきました。
「わぁ、古いロボットだ。かわいい」と何やら人気のタング。踏みつけられそうになった「てんとう虫」を庇い逃がしてあげます。
その様子を見ていた社員の林原は、感情を持つロボットに驚きます。タングには、好奇心があり、生き物へ共感し、想像力をも兼ね備えている。今のAIにはない特別な何かがあると。
林原は、タングに応急処置をほどこし、中国の深センにいるロボット博士・大槻を紹介してくれました。このまま液体が無くなってしまうと、タングは壊れて止まってしまいます。
中国まで行くのをためらう健でしたが、健の好きなコーヒーを宝物の100円硬貨で買い、揺れてこぼしながらも一生懸命届けてくれたタングの優しさに触れ、修理することを決心しました。
AIの最先端である深センは、マッピング映像にあふれたとても華やかな町です。空へ映し出される本物のような花火。始めは喜んでいたタングが、花火の音に震え出します。蘇る記憶の断片。
気を取り直し、大槻博士の元へ向かう健とタング。大槻は2人を大歓迎してくれましたが、行き交うロボットに興味深々のタングは、おもちゃロボットの後を追いかけ迷子になってしまいます。
健と大槻が見つけた時にはすでに、タングは檻に入れられ車で連れ去られる寸前でした。走り去る車にGPS付きの社員証を投げ込ませる大槻。
なんでタングが狙われたのか分からない健に大槻は教えます。タングは第3世代の機械学習能力を持つ、人間により近い最新ロボットなのだと。
タングを助けに向かう最中、健の電話が鳴ります。相手は妻の絵美でした。「もうあなたの子守はうんざりなの。私、家を出るね」。「わかった」。引き留めることもできない健。
健が将来の夢も希望も無くし、自信も失くしたのにはある理由がありました。
映画『TANG タング』の感想と評価
妻に捨てられたダメ男と記憶を無くした迷子のロボット。2人が出会った時、止まっていた人生が動き出す。心温まる冒険エンタメ映画『TANG タング』。
人間とロボットが共存する世界。最新ロボットに比べ、いかにも旧式で見た目もポンコツなロボット「タング」。おまけに記憶を失くし、行動はまるで子供のようです。
そんな好奇心旺盛で、いたずらっ子なタングが、見ているうちにどんどん可愛く見えてくるから不思議です。表情は乏しくも体全体で表現する姿は、感情豊かに映ります。
怒るとプシューと湯気がでたり、嬉しいと目がオレンジになったり、都合が悪くなると休止モードで寝たふりをしたり。とても愛くるしいです。
感情を持つタングは、健に出会ったことで、「ともだち」の意味や「やさしい心」を学んでいきます。てんとう虫を逃がしてあげたり、鳥と仲良くなったり、何と言っても健のことが大好きです。
ある出来事を境に、自信をなくし無気力に生きていた健もまた、タングに出会って世話を焼くうちに、忘れかけていた大事な事を思い出していきます。
2人は似た者同士でした。「タングはケンのため、ケンはタングのため」。ひとりじゃない、相手のために何ができるのか。そこには思いやりの心がありました。
そして、大事なときは辛くても逃げ出さず、前に進むこと。「一緒なら、きっと大丈夫」。自分に自信を失くしても、信じてくれている誰かのために、自分を諦めないことが大事なのだと教えてくれます。
大人になるにつれ、純粋に気持ちを伝えることが苦手になっていると感じます。大事な人には言葉で伝える。上手く伝えようと頑張らなくてもいいのです。タングのように素直になることが大事です。
タングがより人間的に見える効果として、主人公の健を演じた二宮和也の自然体の演技があります。そこにまるで本当にタングがいるかのように思わせてくれます。
さらに、この作品の見どころのひとつでもある、最新のVFX技術による映像美に注目です。
自動運転の車に、ドローンが飛び交う街、ロボットが行き交う空港、人間の姿の受付ロボット、可愛らしいペットロボット、空一面に映し出された花火のプロジェクションマッピングなど、美しい近未来のロボット世界の映像に、わくわくします。
そんなAIの世界にあって、海や空の青さ、植物の緑、生き物の色、自然の豊かさと、今私たちが目にしている世界も美しく写し出されていて、改めてこの景色を大事にしたいと感じました。
ロボットと人間が友達になれる。そんな未来がもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
まとめ
イギリスの作家、デボラ・インストールの人気作「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を、三木孝浩監督が日本版にアレンジして実写映画化した『TANG タング』を紹介しました。
人間とロボットのポンコツコンビが繰り広げる、絆と再生の冒険物語。自分に自信を失くした主人公の健と、記憶を無くしたロボットのタングの間に芽生える絆に感動の涙があふれます。
そして、誰もが特別な存在であり、価値があるものだと教えてくれます。「君なら、きっと大丈夫」と優しく背中を押してくれる作品となっています。
観る者をやさしい気持ちにしてくれる映画『TANG タング』。ぜひ、ご家族でご覧ください。