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【三木孝浩監督インタビュー】映画『TANGタング』二宮和也が“自身の芝居”を見つめ直そうとした作品

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『TANG タング』は2022年8月11日(木・祝)ロードショー!

仕事をせず、ゲーム三昧の生活をし、妻から見放された主人公。彼は自らを「タング」と呼ぶ不良品ロボットと出会ったことで、思いがけず冒険の旅に出る。

二宮和也主演作『TANG タング』はイギリスのベストセラー小説が原作の、人生につまずいた男が記憶喪失のロボットとの出会いによって人生の宝物を見つけ、新たな一歩を踏み出すまでを描いた感動のファンタジー映画です。


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このたび『TANG タング』の劇場公開を記念し、本作を手がけられた三木孝浩監督にインタビューを敢行。

原作小説の日本での実写映画化や、ロボット「タング」を描くにあたっての苦労、主演・二宮和也からもらえた勇気、完成した映画に対しての想いなどについて語っていただけました。

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「ファミリー映画」だが、大人にこそ見てほしい


Based on A ROBOT IN THE GARDEN by Deborah Install Copyright (C)2015 by Deborah Install Licensed by Deborah Install c/o Andrew Nurnberg Associates, London through Tuttle-Mori Agency, Inc. , Tokyo
(C)2015 DI (C)2022映画「TANG」製作委員会

──原作は2016年のベルリン国際映画祭で「映画化したい一冊」に選ばれ、日本でもベストセラーとなったイギリス小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』です。監督オファーを受けられた時にはどのような想いを抱かれましたか。

三木孝浩監督(以下、三木):オファーにおいて、僕はどんなジャンルの作品であっても、監督として期待されるものがあるのならそれにお応えしたいと考えています。

「映画化したい」と話を持ちかけてくださった田口生己プロデューサーから原作小説を渡されて読んだ時、作品そのものはとにかく面白くて。でも小説の舞台は海外で、登場人物は欧米人。その設定のまま映画化するのは難しいと同時に感じました。

ただ、物語に登場する時代は「ロボットが活躍する近い未来」ですが、物語自体は「前に進めなくなった大人の主人公が、少し成長するまでの心の旅路」を描いています。そこにスポットを当てれば、日本へと舞台を変えても勝算があるなと思いました。脚本の金子ありささんとも、「日本に置き換えたら、主人公たちはどこを旅するか」というところから考え始めて、田口プロデューサーも交え皆で脚本開発を進めました。

一番苦労したのは、やはり主人公を欧米人から日本人に置き換える点でした。特に、結婚観ですね。主人公と奥さんの関係性において、原作小説では旅の途中で主人公にロマンスがあり、奥さんは奥さんで別の人とのロマンスがありますが、それらの描写は日本ではなかなか受け入れられにくい。映画的な尺の問題もありますが、そこはシンプルにして、健自身の成長譚に物語をフォーカスしていきました。

ただ映画でも、夫婦の機微はしっかり描写しています。金子さんや田口プロデューサー、それに僕もそれぞれ結婚をしているので、夫婦の話題となると「お互いがすれ違って、少しケンカになるってどういうタイミング?」「相手のどんなところにイライラする?」といった、それぞれの家庭の話をしながら脚本作りをしていました。この作品はファミリー向けに見えて、実は大人に観ていただきたい作品でもあります。

本作で「自身の芝居」を見つめ直した二宮和也


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──主人公・春日井健を二宮和也さんが演じられています。

三木:二宮さんは年齢的に夫婦を演じられる一方で、「永遠の少年像」のような部分も持っています。だからこそ自然なモラトリアム感を出せるし、何より芝居が上手い。二宮さんしかいないと思いました。

少し飄々とされているところがあるので、企画意図をどう捉えていただけているのかは正直会うまでわからなかったのですが、「相手はロボットで、役者ではない。何もないところへ向かってお芝居をするというのは初めてですが、ロボットを映し鏡にして、自分の芝居を見つめ直すきっかけになるかもしれない。それはチャレンジであり、面白いと感じられました」というようなことを二宮さんはおっしゃっていました。

深いところまで考えられた上で、本作の企画を引き受けていただけたのだと知って驚き、作る側としても本当に勇気づけられました。

──二宮さんが演じた春日井健は最初のうちは周りの人を思いやる余裕がなく、虚勢を張ってばかりでしたが、タングと接していくうちに変わっていき、表情も柔らかくなっていきました。その微妙な変化など、二宮さんの役作りは三木監督からご覧になっていかがでしたか。

三木:僕は当初、二宮さんは健を演じられるのに苦労されると思っていました。しかし演じる上で、二宮さんが困惑されたことはほとんどなかったです。例えば映画の序盤、健はタングに嫌味を言ったりしますが、本当はどう感じて、どう考えているのかは表に出しません。ですが映画の後半部になって、フッと「健って、こういう風に思っていたんだ」と観客に提示する。その方がより感情移入ができるのではないかと、二宮さんが健役としてのプランニングをされていたのです。

またクライマックス間近になると、健は感情をあふれさせます。多くの芝居では、生きている役者の言葉や表情、仕草に対するリアクションとして感情が少しずつ膨らんでいくのですが、本作での相手はロボット。ほぼ自分一人で心の内側から感情を膨らませるのは、どんな役者さんでも大変なことです。それをやり遂げた二宮さんはすごいですし、頭の中でちゃんとタングのイメージができていたのだと思います。

実は健の赤いジャケットは、『理由なき反抗』(1955)のジェームズ・ディーンの「永遠の少年」感、モラトリアム感へのオマージュでもあります。そうした健のスタイリングだけでなく、家の美術装飾もどこかノスタルジーを感じるアンティークな雰囲気にしました。近い未来の話とはミスマッチに思えるけれど、そこがかえってよいのではないかと。

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ロボット「タング」の3桁にも及ぶデザイン案


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──ロボット「タング」はどのような技術によって映像で表現していったのでしょうか。

三木:「プリウィズ」という事前に制作したCGシミュレーション映像によって、その場面でのタングの動作をある程度まで確認した上で、本番の撮影ではタングのモデルを置き、役者は頭の中でタングの動作を想像しながら演じていきました。

ただ、プリウィズはあくまでガイドラインでしかないため、タングが動いているのを目で追う視線の芝居などは難しかったと思います。普段は合成カットくらいしか絵コンテを描かないのですが、今回は事前に全カットを絵コンテに落とし、キャスト・スタッフ全員がイメージを共有できるようにしました。

作中、タングが健にコーヒーを持ってくる場面があるのですが、その撮影は本当に難しかったです。タングの健気さを伝えたいけれども、タングの歩くスピードや歩幅が現場ではなかなか想像できません。健がしゃがんでコーヒーを受け取り、タングと話す時の目線の先にいるタングの動きは「こんな感じだったらいいな」という願望はありましたが、想像したとおりにできあがるのかは、撮った後でないとわかりません。

ただ、二宮さんは「最初は健がタングを気にせず歩いているので、タングが置いていかれている感じでもいいんじゃないでしょうか」とおっしゃってくれました。物語が進むにつれ、だんだん歩幅が合っていく。それによって心の距離が近づいてきたことが伝わるのではないかと思いました。

──タングのビジュアルについては、どのようなコンセプトでもってデザインが形作られていったのでしょうか。

三木:健とタングは友だちですが、疑似的な親子のような姿にも見せたい。幼い子どもの空気感を意識し、背丈やちょっとした仕草は5~6歳の男の子をイメージしながら作っています。

実はタングを映像で表現するにあたって、最初に苦労したのがキャラクターデザインでした。原作の文庫本にもかわいらしい挿絵はあるのですが、実写映画へと落とし込むには、もっとリアルなロボット感が必要でした。

デザイナーの丹治匠さんにお願いしたのですが、3桁ほどのデザイン案を上げていただき、その中で微調整を重ねて、現在のタングの姿になりました。脚本作りと並行してキャラクターデザイン作りをしていましたが、1年くらいかかっています。

自身をポジティブに見つめ直すきっかけに


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──最後に、『TANG タング』が三木監督ご自身にとってどのような作品となったのかを改めてお聞かせください。

三木:『TANG タング』はキャストとスタッフがそれぞれ、事前に計算した上で作り込んでいった作品です。これまでに監督したものとはまったく異なるアプローチで作った作品だったので、非常に楽しかったです。

一方、今まで若い役者さんとご一緒してきた恋愛映画では、現場で生まれた空気を切り取るような形で撮影していたので、ドキュメンタリー感覚が強くありました。役者さんが作品の中で成長していく過程と、キャラクターが成長していく過程がシンクロするところが面白い。それぞれの作品に、監督としての面白さがあると感じています。

今の世の中では大変なことが多く、疲れてしまった大人の方がたくさんいらっしゃると思います。この映画をご覧いただき、大らかな気持ちで心のネジを緩めてもらって、ご自身をポジティブに見つめ直すきっかけになればうれしいです。

インタビュー/ほりきみき

三木孝浩監督プロフィール

2000年よりミュージックビデオの監督をスタートし、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005/最優秀ビデオ賞、SPACE SHOWER Music Video Awards 2005/BEST POP VIDEOなどを受賞。以降、ショートムービー・ドラマ・CMなど活動を広げる。

JUJU feat. Spontania『素直になれたら』のプロモーションの一環として制作した世界初のペアモバイルムービーでカンヌ国際広告祭2009/メディア部門金賞などを受賞。2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。

長編2作目となる映画『僕等がいた』(2012)が、邦画初の前・後篇2部作連続公開。以降では『陽だまりの彼女』(2013)、『ホットロード』(2014)、『くちびるに歌を』(2015)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)など、毎年コンスタントに劇場公開映画作品を発表している。

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映画『TANG タング』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
デボラ・インストール

【監督】
三木孝浩

【脚本】
金子ありさ

【キャスト】
二宮和也 満島ひかり / 市川実日子 小手伸也 奈緒 京本大我(SixTONES)
山内健司・濱家隆一(かまいたち) 野間口徹 利重剛 景井ひな / 武田鉄矢

【作品概要】
原作は2016年のベルリン国際映画祭で「映画化したい一冊」に選ばれ、日本でもシリーズ累計発行部数38万部を超えるベストセラー小説「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(作:デボラ・インストール/訳:松原葉子/小学館文庫刊)。

主人公の春日井健を演じたのは『母と暮せば』で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得し、『検察側の罪人』『浅田家!』で同賞の優秀主演男優賞に輝いた二宮和也。健の妻で弁護士の絵美を満島ひかりが演じる。

脚本はドラマ『恋はつづくよどこまでも』『着飾る恋には理由があって』の金子ありさ。日本を舞台に原作をアレンジした。『思い、思われ、ふり、ふられ』『きみの瞳が問いかけている』の三木孝浩が監督を務め、『STAND BY ME ドラえもん』『DESTINY 鎌倉ものがたり』などを手がけてきた「白組」のVFX技術でロボットのタングを作り上げた。

映画『TANG タング』のあらすじ

ある理由から、自分の夢も、妻・絵美との未来も諦めてしまった、ダメ男・春日井健。

ある日、健の家の庭に突然現れたのは、記憶をなくした迷子のロボット「タング」。

初めは時代遅れな旧式のタングを捨てようとする健だったが、タングが失った記憶には、世界を変えるある秘密が隠されていた。

謎の追っ手が迫る中、大人とロボット、ふたりの迷子が大冒険の先に見つけた《人生の宝物》とは?

キミとなら、きっと大丈夫。この夏、ふたりが見つけた宝物に、日本中が笑顔と優しい涙に包みこまれる。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。




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