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Entry 2021/04/01
Update

【木下ほうかインタビュー】映画『裸の天使 赤い部屋』主演作で語る“演技”の理想像と俳優として今立ち返る“目標”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『裸の天使 赤い部屋』は2021年4月2日(金)より全国順次公開!

文豪・江戸川乱歩の短編小説を現代にアレンジする「赤い部屋」シリーズの第2弾にして、乱歩の傑作短編「畸形の天女」を映画化した『裸の天使 赤い部屋』。

秘密の二重生活を送っていた会社社長が、不思議な少女に出会ったことで体験する愛欲の地獄を官能的に描き出します。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念し、本作にて主演を務め、多数の映画・ドラマ作品に出演するほかテレビバラエティなどでも活躍する俳優・木下ほうかさんにインタビュー。

木下さんから見た「現実的」な主人公像、演技や脚本におけるこだわり、今後の俳優活動についてなど、貴重なお話を伺いました。

実は「現実的」な主人公像


(C)2021「裸の天使 赤い部屋」製作委員会

──本作の主人公・松永を演じるにあたって、その人物像をどのように捉えられたのでしょうか?

木下ほうか(以下、木下):人を好きになったり浮気をしたりすること自体は、人間としての通常行動の一部であり、松永が行動で最も現実とかけ離れているのは「殺人の加担」のみでした。つまり、それ以外は全て誰にだって起こり得ることばかりですから、松永という役やその人間像を演じるにあたって、自分としては何かしらの違和感を抱くことはありませんでした。

松永は「大きな会社の社長」という社会的な立場を持つ人間ですし、妻子もいて家庭では「良い父親」であろうとしている。色々なことを守りながらも彼は秘密を保ち続けている。その点はまさに現実的だと思えますし、彼も本当は、文子との恋愛をもう少しうまいこと続けていきたかったんだと思います。また松永だけでなく、この映画に出てくる人間は、みんな現実的で現代的なものをそれぞれ持っているんじゃないでしょうか。

辻褄の「ほつれ」を見過ごせない


(C)2021「裸の天使 赤い部屋」製作委員会

──作中では、松永と少女・文子の関係性の変化が「天使」と「文子」という二つの呼称によって表現され、「文子と愛し合う現実」と「本来の生活が存在する現実」の境界が薄まりつつある松永の心理が描かれていました。

木下:実は松永が初めて文子を「文子」と呼ぶ様子は、当初のホン(脚本)では完成した映画とは別の場面で描かれていて、タイミングが少しずれていたんです。そのためホンを読み込んでいく中で「この場面の方が良いのでは?」と指摘し、「いつから松永は文子を《文子》と呼ぶようになるか?」の描写について相談しました。

今回の映画に限らず、僕自身そういうことが凄く気になってしまうんです。実際に撮っていく中でどうしてもしっくりこない部分、ホンとしての辻褄が合わない部分が見逃せない。その点に関しては、窪田監督とも話し合うことがありました。

たとえば映画序盤、松永がトイレで背広から着替える場面で、彼が持っているカバンのサイズに少し違和感を抱かれた方がいるかもしれません。松永が脱いだ背広や革靴をしまっておくには、ちょっと小さいんですよ。そういった本当に些細な描写が、どうしても気になってしまう。

スクリーンという大きな画面で観ることになる以上、自分のように気づく方もお客さんの中にはいるかもしれない。そしてそれが、物語を観ていく中での「引っかかり」になってしまうかもしれない。そういう小さな辻褄の「ほつれ」が残るのは、できるだけ避けたいんです。

ただ背広に合わせてカバンのサイズを大きくすると、それはそれで不恰好になってしまう。「今は折り畳める革靴があるんだよ」とか丁度良い落とし所を見つけて納得した結果、あのサイズのカバンになったんです。そういったことは現場ではよくあって、そのせいで現場を止めちゃうこともある。あまり良くないこととは思いつつも、「ほつれ」は見過ごせない。厄介な役者ですよ(笑)。

いかにいそうだけど、「こいつ違うな」と感じさせる


photo by 田中舘裕介

──辻褄の「ほつれ」のほかに、木下さんが脚本を読み込まれる際に意識されていることはありますか?

木下:セリフのどこで言葉を切るか、どういうテンポか、語尾のニュアンスを上げるか下げるかといった話し方はもちろん、倒置法によるセリフ内の言葉の順番の入れ替えなど、そういった書き込みをホンをいただいたら最初にしていきます。

ホンに書いてある通りのまま演じてみると、セリフや動作が馴染まないことが案外多いんです。「喋り過ぎじゃないか?」「彼はこういう言い方をするだろうか?」という風に、どこかぎこちなく、嘘っぽく感じてしまう。だからこそ書き込みをしながら確認し、時には監督とも話し合う必要がある。

ただホンに即すということ以上に肝心なのは、いかに自分の俳優としての独自性を出せるかという点ですね。いかに観る者にとって興味深い演技ができるか。或いは人を惹き付けられる、良い意味での違和感を生み出せるか。結局のところ、俳優として「誰が演っても同じような結果が出る」というわけにはいかないですから。


(C)2021「裸の天使 赤い部屋」製作委員会

木下:かといってやり過ぎたら、違和感が度を越して「不自然」になり、わざとらしくなってしまう。いかにもいそうだけど「こいつ違うな」と観た者に感じさせられるかが重要であり、それはどんな役を演る時でも考えています。

ただ、それは凄く難しいことでもある。映画には編集という手が必ず入るから、完成した作品の中で、自分の設計した通りに演技が映し出されることはない。それをふまえると「設計通り」の演技は決してできないし、「編集が行われた後」までを計算して現場で演技をすることもまずできない。

だからこそ、僕は演技において100点を取れることは常にないし、できれば何度でも撮り直したい、演り直したいと思っています。たとえちょっとした仕草の一つでも、うまく演れることは中々ない。「今のセリフ、もっと分かりやすく言えば良かった」「今の言い方、もう少し曖昧した方が」「今のは説明し過ぎな表情だ」「今の表情では説明が足りない」だとか、そういうことはいくらでもあります。

何事もやり過ぎない、表し過ぎない


(C)2021「裸の天使 赤い部屋」製作委員会

──映画ならびに映像作品での演技において、木下さんが最も心がけていることとは何でしょう?

木下:確実にあるのは、何事もやり過ぎないということ、表し過ぎないということ。舞台では細かい演技をしても客席の全員が観ることはできないのに対して、スクリーンという大きな画面では、必然的に全ての演技が大きく映し出されるし、小さな仕草も見えるようになる。だからこそ、なるべく少ない情報量で伝えるべきものを伝えたいし、全てにおいてなるべく過剰にしない。

演技は、見え方によって絶対に変えるべきだと思うんです。特に表情に関しては、「そんな顔しなくても十分に伝わるから」って時が多い。ただ俳優という人間は心配性だから、やり過ぎてしまいがちなんですよ。また撮るショットのサイズによっても、情報量を調整していく必要がある。俳優はあまりそういうことを考えちゃいけないという論もありますが、僕自身はやっぱり、どんな撮り方を今されているのか、その上でどう演じるかはいつも意識しています。

──ちなみに、どのような撮られ方を今されているのかを把握した際、ご自身の演技には具体的にどのような「調整」をされるのでしょうか?

木下:カメラのポジション、ティルト・パンなど本番でのカメラの動きなどに合わせて、演技の中での体や顔の向き、動作を変えたりしてますね。実はそういう部分を、明確に指定して演出される方って少ないんです。

だから撮れた映像を現場で確認することも、他の俳優さんよりも多いですね。ただテレビドラマの現場では、「キャスト含めみんなで映像を確認する」というのは常識のようなものですから。それに「撮れた画を現場では決して確認しない」という俳優の美学・美談は昔から存在してはいるものの、僕自身は自分の演技の修正・改善の可能性を捨てたくないので、どうしても確認しておきたいんです。

かつての目標に今立ち返る


photo by 田中舘裕介

──先ほどの質問にて「演技において100点を取れることは常にない」と語られていましたが、木下さんにとっての「100点」にあたる演技とは一体どのようなものなのでしょうか?

木下:我々が目指すところは、やはり「演技に見えない演技」です。特に、セリフのやりとりや演技の場が「場面」に見えるようにはしたくないと常に思ってます。それが演技というものにおいて一番の理想ですし、僕の基本的な演技の方針であり、俳優の在り方でもあると思っています。

──俳優としての長きキャリアを通じて「理想の演技」に気づかれた中、木下さんは今後どのように活動を続けていきたいとお考えでしょうか?

木下:僕は昔、「色々な映画監督や演出家と仕事をする」ということを俳優としての目標の一つにしていました。ただ最近は、その目標通りにすることが中々できずにいます。

俳優の仕事を続けてきた今も、出会ったことのない、或いは出会ってはいるけれどまだ一緒には仕事ができていない映画監督・演出家の方が沢山いる。だからこそ、これまで組んだことのない監督や演出家とともに仕事をしてみたいんです。もしかしたら相手には、もう嫌われているかもしれませんが(笑)。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

木下ほうかのプロフィール

1964年生まれ、大阪府出身。1981年に『ガキ帝国』で俳優デビュー。

近年の主な映画出演作は2017年の『破門 ふたりのヤクビョーガミ』、2018年の『かぞくいろ -RAILWAYS わたしたちの出発-』『嘘八百 京町ロワイヤル』、2020年の『事故物件 恐い間取り』『無頼』など。また2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』や『アライブ がん専門医のカルテ』と多数のドラマ作品にも出演し、「ぶらり途中下車の旅」などテレビ番組でも活躍。さらに「ほうか道」というアカウントでYouTuberデビューも果たした。

映画『裸の天使 赤い部屋』の作品情報

【公開】
2021年(日本映画)

【原案】
江戸川乱歩

【監督・脚本】
窪田将治

【キャスト】
木下ほうか、中山来未、柳憂怜、波岡一喜、草野康太、仁科貴

【作品概要】
文豪・江戸川乱歩の短編小説を現代にアレンジする「赤い部屋」シリーズの第2弾であり、乱歩の傑作短編「畸形の天女」の映画化作品。二重生活を送っていた会社社長が不思議な少女に出会い体験する愛欲の地獄を描く。

主演は多くの映画・ドラマに出演し、テレビバラエティでも活躍する名優・木下ほうか。不思議な少女・文子を演じるのは、2015年に東海テレビ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、吉本興業によるオーディション番組「ザ・ラストヒロイン~ワルキューレの審判~」で15万人の中からラストヒロインに選ばれた中山来未。また監督を、『失恋殺人』『D坂の殺人事件』など江戸川乱歩の小説を原作に妖艶な世界を作り続け、ヒット作を連発する窪田将治が務める。

映画『裸の天使 赤い部屋』のあらすじ


(C)2021「裸の天使 赤い部屋」製作委員会

不動産会社を経営する松永は一週間に一度訪れ、社長という社会的地位も肩書も忘れて過ごす秘密の隠れ家があった。そしてある夜、彼はその場所で文子という少女と出会う。

文子の不思議な魅力に惹かれた松永は、いつしか秘密の場所で文子と深い関係に落ちていく。

しかし、松永の前に文子に会うなと告げる謎の男が現れる。文子に隠された秘密とは……。



編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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