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Entry 2019/05/24
Update

映画『オーファンズ・ブルース』あらすじと感想。工藤梨穂監督の世界観を「肌(はだ)」で感じる

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

徐々に記憶が欠落していく女性エマの、幼馴染を探す旅を描いたロードムービー映画『オーファンズ・ブルース』

2019年5月31日から、テアトル新宿にて1週間限定で上映される、本作をご紹介します。

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映画『オーファンズ・ブルース』の作品情報


【公開】
2019年5月31日(日本映画)

【監督・脚本】
工藤梨穂

【キャスト】
村上由規乃、上川拓郎、辻凪子、佐々木詩音、窪瀬環、吉井優

【作品概要】
日本国内の、さまざまな映画祭で高い評価を受けた、工藤梨穂監督の劇場デビュー作。

主演に映画『赤い玉、』や『クマ・エロヒーム』の村上由規乃。

映画『オーファンズ・ブルース』主なキャストと配役

村上由規乃(エマ役)

徐々に記憶が欠落する病と戦いながら、幼馴染のヤンを探す旅に出る、本作の主人公エマ。

演じる村上由規乃は、2015年の映画『赤い玉、』で銀幕デビューを果たし、キネマ旬報新人女優賞第7位にランクインしました。

2018年の映画『クマ・エロヒーム』で主演の他、映画『菊とギロチン』などに出演しています。

上川拓郎(バン役)

エマの幼馴染で、成り行きからヤン探しの旅に同行する事になるバン。

演じる上川拓郎は、福岡県を中心に舞台やCM、ドラマで活動後に上京「劇団子供鉅人」の舞台や自主制作映画などに出演しています。

近年では俳優業の他にバンド「貉幼稚園(むじなようちえん)」で、ドラムを担当するなど、音楽活動にも力を入れています。

辻凪子(ユリ役)

バンの恋人、ユリ。

バンと同じく成り行きで、エマの旅に同行しますが、バンの気持ちがエマに傾いている事を感じ始めます。

演じる辻凪子は、2018年の映画『温泉しかばね芸者』で主演を務めた他、2017年のNHK「連続テレビ小説」『わろてんか』にも出演しています。

また、阪元裕吾監督と共同で監督と脚本を務めた、2017年の映画『ぱん。』で、「プチョン国際ファンタスティック映画祭短編部門」にて短編審査員特別賞を受賞。

女優だけでなく、監督としての才能も発揮しています。

佐々木詩音(アキ役)

ルカの経営するペンションに宿泊している、謎の多い男アキ。

演じる佐々木詩音は、京都造形芸術大学在校時に主演を務めた映画『DRILL & MESSY』で「PFFアワード2016」 エンタテインメント賞(ホリプロ賞)&観客賞(京都)を受賞。

その他の出演作に『ウィッチ・フウィッチ』などがあります。

窪瀬環(ルカ役)

ヤンの妻で、ペンションを経営しているルカ。

彼女は、ヤンの居場所を知っているのでしょうか?

演じる窪瀬環は、映画『ミは未来のミ』や、2019年5月24日公開の映画『嵐電』などに出演。

自主制作映画『天の火(あめのひ)』で監督を務めるなど、映画監督しても活躍しています。

吉井優(ヤン役)

行方不明になった、エマとバンの幼馴染ヤン。

彼の存在が、物語の鍵を握ります。

演じる吉井優は、2016年の映画『べー。』で主演を務め、「学生残酷映画祭2016」にてグランプリと観客賞を受賞。

その他の出演作に2015年の映画『赤い玉、』、「PFFアワード2018」入選作品の『カルチェ』。

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映画『オーファンズ・ブルース』あらすじ


海辺の街で生活する女性エマは最近物忘れが多く、些細な情報をノートに書き留め、あらゆる情報を書き込んだメモを、家中に貼っていました。

ある日、エマの孤児院時代の幼馴染で、行方不明となっているヤンから、象の絵が書かれた手紙が届きます。

エマは手紙の消印を頼りに、ヤンが住んでいると思われる場所を訪ねますが、誰もいませんでした。

中華街のような場所に迷い込み、クラブを訪れたエマは、ヤンと同じ孤児院時代の幼馴染である、バンと再会し、バンの恋人であるユリと知り合います。

バンとユリは、働いていた店のお金を着服し、タヒチに逃亡しようと計画しましたが、店からの追手に捕まり断念、バンは追手に暴行を加え逃亡し、ユリと共にエマの旅に同行します。

エマ達は、ヤンの妻で、ペンションのオーナーであるルカを訪ねます。

ヤンはペンションにはおらず、ルカは「そのうち戻ってくる」とエマに伝えます。

ルカのペンションで、バンとユリ、そして謎の浮浪人であるアキと共に過ごしながら、ヤンを待つエマ。

ですが、エマの記憶は徐々に失われてきており、エマ自身も苛立ちを感じるようになります。

エマの記憶は、全て失われてしまうのでしょうか?

そして、ヤンと再会する事はできるのでしょうか?

「異国」とも思える日本を舞台にした作品


本作は、海辺の街から物語が始まり、中華街や自然溢れる草原など、目まぐるしく背景が変わります。

そして、全ての場面が、日本としては特異な風景となっており、作品全体を通して「異国」とも思える特別な世界観を持った、日本を表現しています。

本作では、エマが煙草を吸うシーンが印象的なのですが、その仕草も、どこかアジアの繁華街を連想させます。

工藤監督は「ロードムービーは、観る人をどこかに連れて行ってくれる」と考えており、日常的に見慣れた光景より、特異な場所を選んで撮影しました。

その為、パン工場で深夜バイトをしながら制作費を稼ぎ、7都道府県でロケを行って、本作の独特の世界観を作り上げたという、工藤監督の情熱が伝わるエピソードがあります。

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「肌で感じる」独特の演出


本作は登場人物の人間関係や、エマが記憶を欠落させていく理由など、多くは語られません。

作品の序盤から、エマの生活の様子や、何気ない会話のシーンから、観客はエマが抱えている問題を感じ、ペンションのオーナーでヤンの妻であるルカとの、ある会話から、記憶の欠落が決定的に進んでいる事を確信する事になります。

近年、作中の状況や、登場人物の心情などを、セリフなどで説明する映画も多いと感じますが、本作では説明的なセリフや、分かりやすい人間関係という構図は、あえて作らず、エマとヤン、バンの関係に象徴されるような「何とも言えない微妙な関係」と、それに伴う言葉では表現しづらい感情を映し出しています。

観客は、映し出された事を肌で感じながら、映画の物語を体験していきます。

この、観客に肌で感じさせる演出が非常に繊細で、実に見事だと感じました。

描かれているテーマは希望


本作の主軸となる部分である「エマにとってヤンが、どのような存在なのか?」は、前述したようにハッキリと描かれていません。

エマにとってヤンが、大事な存在だという事は分かりますが、それが恋人としてなのか?何でも話せる親友なのか?頼りにできる存在なのか?不明のままです。

エマ自身も「自分にとって、ヤンがどのような存在なのか?」分からなくなっているのではないか?とさえ感じます。

そして「異国」と錯覚させる日本は、エマ視点の日本で、エマは自分がどこにいるのかも、認識していないのではないでしょうか?

それでも、ヤンに再会する事を望むエマに、悲しい現実が突きつけられます。

ですが、本作で描かれているのは希望です。

エマにとって、もう1人の幼馴染であるバンが、手を差し伸べます。

バンがラストで選択する、エマを救う為の「たった1つしかない」とも思える選択。

とても切ない選択ですが、映画が終了した後に、2人の新たな物語が始まるような、そんな希望を感じます。

『オーファンズ・ブルース』は、作中の世界を観客が肌で感じて、想像力を働かせて、語られていない部分を補っていくという作品だと感じています。

人によっては、同じシーンでも捉え方や、映画全体の印象が全く変わるかもしれませんね。

まとめ


本作の大半は、エマの視点で描かれています。

ですが、ある瞬間から、バンの視点に切り替わった印象を受けます。

バンの視点に変わった事により、これまでエマの視点で描かれていた、記憶が欠落していき「忘れてしまう」という不安や恐怖が、今度はバンの「忘れられてしまう」という不安と恐怖に代わります。

そして、「忘れられてしまう」という不安や恐怖が、バンにある決断をさせ、ラストに繋がっていきます。

巧みに視点を切り替え、記憶と人間の、ある意味残酷な部分を見せつけ、それでも希望を感じるラストにまとめた『オーファンズ・ブルース』。

是非、作品の世界を肌で感じてみてください。



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