Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

『神田川のふたり』あらすじ感想と解説評価。いまおかしんじ監督が描く“高校生たちが亡き友の恋心”を伝えるロードムービー!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

亡き友と共に美しい青春を抱きしめる高校生ふたりのロードムービー

れいこいるか』(2020)のいまおかしんじ監督による青春ロードムービー『神田川のふたり』が2022年9月2日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開予定です。

お互いに片思いながら別々の高校に進学した男女が、元クラスメイトの葬儀で再会し濃密な時間を過ごすさまを、上大迫祐希と平井亜門がフレッシュに演じます。

映画『神田川のふたり』の作品情報


(C)2021 Sunny Rain

【公開】
2022年(日本映画)

【脚本】
川崎龍太、上野絵美

【監督】
いまおかしんじ

【編集】
川崎雄太

【出演】
上大迫祐希、平井亜門、椎名糸、岡本莉湖、橋本達、佐藤宏、石綿宏司、逢澤みちる

【作品概要】
れいこいるか』(2020)が「映画芸術」2020年日本映画ベストワンに選出されたいまおかしんじ監督最新作。

かぐや姫の名曲『神田川』で知られる神田川を舞台にした高校生男女の青春物語で、青春の甘酸っぱさを描きながらもいまおか監督ならではの不思議な空気感漂う映像となっています。

全編の85%以上が屋外ロケーションによる、東京都杉並区からお隣の武蔵野市にある井の頭恩賜公園までの小さな旅を描いた異色のロードムービーです。

主演の舞と智樹を演じるのは、2021年の東京国際映画祭や上海国際映画祭において世界から高い評価を受けた『スパゲティコード・ラブ』(2021)の上大迫祐希、2020年の各映画賞で高い評価を受けた『アルプススタンドのはしの方』(2020)の平井亜門。

共演は佐藤宏、石綿宏司、逢澤みちるほか。

映画『神田川のふたり』のあらすじ


(C)2021 Sunny Rain

急逝した中学のクラスメイト・神田の葬儀で久しぶりに再会した高校生の舞と智樹。お互いに惹かれ合いながらも、思いを伝えられないまま別々の高校に進学していました。

自転車で進み出したふたりは、思い出話や高校での生活について話して笑い合います。

死んでしまった神田の思い出話をしながらコンビニおにぎりを頬張るふたり。幼い頃の家出で神田川沿いに歩いていったことから神田というあだ名がついたという話を聞いた舞は、一緒に行ってみようと智樹を誘います。

幸福橋から高井戸方面へ並んで神田川沿いに走り出したふたりは、途中で全身オレンジのスウェット姿で両手首を固く縛られている謎の男性に呼び止められました。

智樹の自転車に乗って行ってしまう男性を追いかけ、なんとか追いついたところで男性から団子をせがまれて手渡します。しかし、その隙に智樹の自転車が盗まれてしまいました。男性は「俺に任せて」と言って姿を消します。

下高井戸八幡神社で落ち合った舞と智樹は、「みおと両思いになりたい」と神田が書いた絵馬をみつけました。ふたりは井の頭恩賜公園のボート乗り場で働くみおに神田の思いを伝えに向かうことにします。

途中のゲーセンでみおが好きなキャラクターのくまのぬいぐるみを手に入れ、神田が告白に必要だと言っていたモンブランを買って行きますが、彼女は非番でいませんでした。

ふたりはとうとう神田川の源流にたどり着きました。しかしその後、日暮れ時に吉祥寺に着いた彼らは些細なことで口論になりケンカ別れしてしまいます。

ナンパされた男と歩いていた舞は、同級生と話していた智樹の前を通り過ぎますが…。

映画『神田川のふたり』の感想と評価

不公平な現実をほのぼのとシュールに描く

つやつやの髪をした17才のセーラー服姿の女の子と、ヒョロッと背が高くて線の細い少年の甘酸っぱい恋物語を描く、一風変わったロードムービー『神田川のふたり』

ホームビデオのような素朴な味わいの映像が、青春時代への郷愁をかきたてます。

中学時代に互いに思いを寄せていたものの、告白できないまま違う高校に進学した舞と智樹。病で亡くなったクラスメイトの通称・神田の葬儀で再会したふたりは、神田の叶わなかった恋心を相手の女性に伝えるために一緒に井の頭公園に向かいます。

のんびりと進む時間が温かで、自転車をこいで進んでいく舞のロングショットを見ているうちにだんだんと心地よくなってきます。

観ていて胸がキュンとするふたりの高校生の姿と、突然この世を去らなければならなかった少年の存在。どうしようもない不公平な現実が胸に迫ります

特筆すべきはまるで舞台劇のような演出で、コンビニがないコンビニシーンや、団子屋がない団子屋のシーンが登場します。 それらのシーンを成立させているのは黒子姿の男性です。彼がお盆に置いたおにぎりを主人公たちは購入してかぶりついたり、彼から団子やお賽銭を受け取ったりします。

そんなシュールな演出は秀逸で、何度も見ているうちにその黒子が自然な存在に感じられてくるのが不思議です。

ストーリーの鍵となる、両手を縛られて登場するオレンジ色のスウェット姿の謎の男の存在や、彼が息を切らしながら歌う変てこな歌につい笑ってしまいながらも、彼に導かれる主人公たちを見ていると必然に思えてきます。

観ているうちに誰もがいつの間にか、舞や智樹とともに不思議ないまおかワールドに迷い込んでしまう作品です。

まとめ


(C)2021 Sunny Rain

亡くなった友人の恋心を伝えるために、神田川沿いに自転車で井の頭公園を目指す若者の姿を描く『神田川のふたり』。道中に出会ったさまざまな風変りな人たちの力を借りながら、彼らは井の頭公園にいる友人の思い人のもとへ向かいます。

それは彼ら自身の心の中の思いを辿る旅でもありました。亡くなった友に思いを馳せることで、彼らはいま自分が生きていることの素晴らしさに気づきます

それは本作を観る私たちも同じで、みとれるほどに美しい生きている若い命を目にすることで、この世を去った少年の悲しみが色濃く映し出されるように感じられるのです。

しかし、悲しみだけではなく、受け継がれていく確かなものにも気づかされます。去って行く人たちの思いを抱きしめて生きていきたいと強く感じさせてくれる心温まる作品です。

青春ロードムービー『神田川のふたり』は2022年9月2日(金)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開予定です。





関連記事

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】オールド・フォックス11歳の選択|感想結末と評価考察。台湾映画おすすめ作品は名匠ホウ・シャオシェンが最後に贈る“新世代への選択”

名匠ホウ・シャオシェンの最後のプロデュース作は 少年と“老獪なキツネ”の物語…… バブルにより不動産価格が高騰していた1989年〜1990年の台湾、その郊外で父と2人で暮らしていたリャオジエ。父は亡き …

ヒューマンドラマ映画

映画『PLAN 75』あらすじ感想と評価解説。“SF現代版姥捨て山”を早川千絵監督が再び描く

映画『PLAN 75』は2022年6月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。 75歳を迎えた人々に「命の選択」を与える国の政策が実行された社会を描く『PLAN 75』。 「姥捨て山」の物語を現代 …

ヒューマンドラマ映画

映画『WAVES/ウェイブス』ネタバレ感想と考察解説。音楽31の名曲で展開するケルヴィン・ハリソン・Jr演じる若者の家族の再生物語

映画『WAVES/ウェイブス』は2020年7月10日(金)よりTOHOシネマ新宿ほかにて全国でロードショー! 2019年のトロント映画祭で、同映画祭始まって以来、最長のスタンディングオベーションを浴び …

ヒューマンドラマ映画

映画『足りない二人』あらすじと感想。佐藤秋&山口遥が30代の俳優人生を活かした注目のオリジナル作品

新進の30代の俳優である佐藤秋と山口遥が、“俳優としての居場所を作る”ために、5年の歳月を費やして完成させた等身大の一組の男女の物語。 一つの大きなマイルストーンとして、新宿三大映画館(新宿ピカデリー …

ヒューマンドラマ映画

『熱のあとに』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。実話を基に愛という狂気を山本英監督が突きつける

愛する人を殺そうとした女性の“愛し方”の結末とは—— 2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされた鮮烈な愛の物語。 『ここは退屈迎えに来て』(2018)の橋本愛が主演を務め、『生きちゃ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学