次女役のムン・ソリがプロデューサーも務め、それぞれの悩みを抱えながら奮闘する三姉妹の姿を描くヒューマンドラマ
ドラマ『愛の不時着』(2020)のキム・ソニョンが長女役、次女役には『オアシス』(2020)のムン・ソリ、三女役はトップモデルとして第一線で活躍し、『ベテラン』(2015)でデビューを果たしたチャン・ユンジュが演じました。
悩みを抱え、日々の生活に追われながらも、それぞれの家庭で母親として奮闘する三姉妹が、父の誕生会で久しぶりに顔を合わせ、過去の問題と向き合っていこうとする姿を描きます。
自己肯定感が低く、すぐ謝る長女、完璧であろうとする次女、アルコール依存症で夫や次女に電話をかけて迷惑をかける三女。
幼少期のトラウマを抱えながら生きる三姉妹の姿を通して、厳格な父親による家庭内暴力のその後を描き出しています。
『はちどり』(2020)をはじめ、男性優位な社会の問題に切り込み、女性の生きづらさを描く映画が増えてきた韓国映画界で新たな女性たちの生き様を描く映画となっています。
映画『三姉妹』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【英題】
Three Sisters
【監督・脚本】
イ・スンウォン
【キャスト】
ムン・ソリ、キム・ソニョン、チャン・ユンジュ、チョン・ハンチョル
【作品概要】
長女・ヒスク役はドラマ『愛の不時着』(2020)や『ひかり探して』(2020)などのキム・ソニョン。本作の監督を務めたイ・スンウォン監督とは公私共にパートナーであり、イ・スンウォン監督の映画『Happy Bus Day』(2017)、『コミュニケーションと嘘』(2015)にも出演しています。
次女・ミヨン役には、『ペパーミント・キャンディー』(1999)でデビューし、『オアシス』(2002)、『お嬢さん』(2016)などで様々な作品に出演している実力派ムン・ソリ。ムン・ソリは脚本に惚れ込み、本作のプロデューサーも務めました。
三女・ミオク役はモデルとして第一線で活躍し、『ベテラン』(2015)で映画デビューしたチャン・ユンジュが演じました。
本作は、第42回青龍映画祭で最優秀主演女優賞(ムン・ソリ)、最優秀助演女優賞(キム・ソニョン)を受賞し、第57回百想芸術大賞、第41回韓国映画評論家協会賞など受賞。
映画『三姉妹』あらすじとネタバレ
韓国・ソウル。
長女・ヒスク(キム・ソニョン)は、小さな花屋の店主として働きながら、シングルマザーとして娘のボミと暮らしています。しかしボミは反抗期真っ盛りで話もまともにしようとせず、パンクバンドに入れ込んでいます。
ある日、ヒスクは体に異変を感じ、病院に診察を受けに行くと癌があることがわかります。しかし、そのことをボミになかなか言うことができないでいました。
一方、次女・ミヨン(ムン・ソリ)は、熱心に教会に通い、聖歌隊の指揮者を務め、日々練習を指導しています。
高級マンションに引っ越し、お祝いの会の準備に追われていました。しかし、娘は食前の祈りができないと言い、大学教授である夫はミヨンにあまり協力的ではありません。
そして、酔った三女・ミオク(チャン・ユンジュ)からしきりに電話がかかってきます。平静を装い、ミオクの話を聞くも、毎度ミオクは酔っているためあまり覚えていません。
日々、悩みに忙殺される中、ミヨンは必死で完璧であろうとしますが、夫の様子に違和感を感じ始めます。スマートフォンを見ている時間が増え、教会の信徒を集めた引っ越しの祝いに遅れてやってきたのです。
そして夫と共に聖歌隊のメンバーであり、夫の教え子の女生徒がやってきたのです。女生徒の指輪で盛り上がっている様子を見たミヨンは夫が送ったものではないかと疑い、夫のコートの匂いを嗅ぎます。
ある日、聖歌隊の練習に女生徒の姿がないことに気づいたミヨンは、女生徒探している最中に女生徒と夫が隠れて2人でいる現場を目撃してしまいます。
疑いが確信へと変わったミヨンは、教会のイベントで泊まりの際に、深夜寝ている女生徒の元にそっとやってきて、布団を頭までかぶるよう指示します。
言われるまま布団をかぶった女生徒の顔を踏みつけ、明日の朝食までに指輪を持ってくるように言います。
何も知らずにいた夫でしたが、ミヨンが指輪を持っていることに気づき、浮気がバレていることを知ります。言いたいことがあるなら直接言って怒ればいいと言う夫にミヨンは怒っても何も解決しないと言います。
ムカつく女だと夫はミヨンを平手打ちしますが、ミヨンはb必死に平気なそぶりをしようとします。こちらから連絡するまで連絡をするなと書き置きを残し、夫は家を出ていってしまいます。
映画『三姉妹』の感想と評価
完璧なふり、大丈夫なふり、酔っていないふり……。
それぞれが事情を抱えながらも奮闘し、母親であろうとする三姉妹の姿を描く映画『三姉妹』。
父の誕生会に久しぶりに再会した三姉妹は、それぞれが抱えている事情、そして過去のトラウマと向き合うことで感情を爆発させていきます。
同時に明かされるのは、三姉妹の幼少期の父親による家庭内暴力の現実です。
それぞれの悩みを抱え葛藤する女性の物語と同時に本作は家庭内暴力のその後を描いた映画でもあります。
母親に酔って手を上げていた父親が、次第に腹違いの長女・ヒスクと末っ子の長男に手を上げるようになります。
現在のヒスクの自己肯定感の低さ、すぐに謝り笑って誤魔化そうとする癖は子供の頃の影響によるものでしょう。
また、木の枝などで自分を傷つけている場面も描かれており、自分で自分を罰しようとする様子も伺えます。
そんなヒスクに対し娘であるボミは苛立ちを隠せません。
「癌なの。早く死んでほしいでしょう。あなたも私を嫌いなの?どうしたら嫌われないのかな」とヒスクは言います。
しかし、ボミは反抗期ではありますが、母親を思う気持ちもあり、父の誕生会で三姉妹が感情を爆発させたところに「ママは癌なの、可哀想な人生を送って死ぬのよ」とヒスクが癌であることを告げます。
姉妹がヒスクを取り囲み泣き始めるとヒスクは取り乱し、今は治療したら癌だって治るし、死なないと慌てて泣きながら大丈夫なふりをしようとします。
それまで癌だとなかなか娘に言えず、言えたものの早く死んだほうがいいでしょう、と口にしていたことから治療する気はあまりなかったのではないかと考えられます。
周りから心配され、ちゃんとした生活をおくるよう言われても笑って誤魔化すばかりのヒスクは、自己肯定感の低さから自分を大切にしようと思っていないのです。
一方で、完璧なふりをしてしまう次女・ミヨンは、父親から暴力を振るわれてはいませんでした。
ある夜、三女のミオクと共に裸足のまま夜に抜け出し、近くのお店によって通報してほしいと言ったものの、父親を通報するなんてと酔った客に怒られてしまいます。
その日、ミヨンは朝起きたら父親以外皆死んでいますように、父親以外で天国で幸せになれますようにと祈ったといいます。
しかし、その祈りは届きませんでした。
幼いミオクより物事を理解できる年齢であったミヨンは、殴られる姉と弟を助けられない無力感から自分がしっかりしていないからだと責めるようになったのでしょう。
完璧であろうとし、自身の夫や子供たちにもその完璧さを求めてしまい、夫は窮屈さを感じ子供たちもどこかプレッシャーを感じてしまっています。
完璧であろうとするミヨンですが、酔って記憶もないまま電話をかけてくるミオクなどに対して頑なに怒らないように、怒鳴らないようにしようと努めている面もあります。
それは自分が父親と同じにならないようにと自制しているからだと思われます。
しかし、コントロールしようとするミヨンをミオクは、父親と同じだと言います。
本作では終盤に幼少期の様子が描かれるものの、父親が暴力を振るう場面などは描かれていません。
それは、トラウマを抱える観客がフラッシュバックするのを配慮した制作側の意図もあるのでしょう。
また、男性優位、家庭内暴力の実情をその後の三姉妹に重ねて描くことでこの問題の根強さ、いつまでも残る傷の深さを描いているとも言えます。
まとめ
本作は家庭内暴力のその後を描いた映画であるとともに、三姉妹がそれぞれ子供を抱えた母親であり、母親であろうとする女性の奮闘を描いた映画であると言えます。
長女ヒスクは反抗期の娘ボミに疎まれながらも、話しかけて娘を知ろうとします。嫌われないようにするが故に疎まれてしまうヒスク。しかし、最後ボミは母親のために祖父に向かって謝るように言い放つ場面からも、ボミは決して母親を嫌っているわけではない様子が伺えます。
ミヨンは完璧ないい母親であろうとするあまり、子供にも完璧を求めすぎてしまいます。父親が出ていったのは自分のせいだと泣く娘を抱きしめ、自分が娘にプレッシャーを与えていたことを知るのです。
ミオクも義理の息子との向き合い方がわからずお酒に逃げて自暴自棄になってしまいます。
それぞれ悩みを抱えながらも、がむしゃらに奮闘する三姉妹の姿を今を生きる私たちの共感を呼び、どこか清々しさを感じさせる最後の三姉妹の様子は、明日に向かう元気を与えてくれるかのようです。