小さくても、大きくても、
この世は奇跡にあふれている。
過去を抱えながらも「今」を生きる主人公・五十嵐芙美の日常と、そこに起こる小さな奇跡を綴ったヒューマンドラマ。
小さな港町に暮らす芙美には、この町にやってきた哀しい過去がありました。それでも彼女は、嘆いてばかりいるのではなく、日々を丁寧に生きる努力をしています。
ある日、芙美の運転する車に隕石が衝突。1憶分の1の偶然の確立に、何か良いことが起こるかも!?と期待が膨らみます。
果たして、芙美の日常に奇跡は起こるのか。大人のゆるーくほっこり映画『ツユクサ』を紹介します。
映画『ツユクサ』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
平山秀幸
【キャスト】
小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦、泉谷しげる、ベンガル、松重豊
【作品概要】
『at Homeアットホーム』の安部照雄によるオリジナル脚本をもとに、『愛を乞うひと』(1998)の平山秀幸監督が映画化。
主演は、『かもめ食堂』(2006)『めがね』(2007)など、人生を丁寧に生きる大人の作品にぴったりな俳優・小林聡美。
哀しい過去を抱えながら、ユーモアを持って健やかに生きる主人公を爽やかに演じています。
主人公を取り巻く登場人物には、平岩紙、江口のりこ、泉谷しげる、ベンガル、渋川清彦と個性派俳優が勢揃いです。
映画『ツユクサ』のあらすじとネタバレ
小さな港町で暮らす、宇宙大好き少年・櫛本航平は、その夜も望遠鏡で星空を覗いていました。突然、まばゆい光の帯がせまってきます。隕石が落ちたかも!
五十嵐芙美は、「断酒の会」の会合を終え、車で家に帰る途中でした。かなり強い衝撃があり、車は横転。なんと、隕石がぶつかったのです。
「人に当たる確率は1憶分の1だよ。芙美ちゃん、すごいね」。歳の離れた親友・航平は興奮しています。
航平は、芙美の仕事仲間・櫛本直子の息子で、芙美とは何でも話せる親友です。芙美が、この町に来た理由、断酒をするまでの理由も知っています。
隕石が当たった人の運命を調べたら、不幸なものばかりでした。航平は、芙美ちゃんに幸せになって欲しいので、内緒にすることにしました。
ボディータオル工場で働く、芙美と直子、そして菊地妙子は仲良し3人組。お昼休みは、中年らしく体の不調や、利くか分からない通販の美容グッズの話で盛り上がります。
出会いを求め、婚活台湾旅行に行ったけど、女性にフラれ太極拳だけ習得して帰って来た工場長の、ラジオ体操にも太極拳を取り入れる様子を笑い合ったりもします。
工場長を笑っていた妙子もまた、新しい恋をしているようです。そして、航平にも淡い初恋のにおいがします。年齢に関係なく人を好きになることは自由です。
芙美は航平の希望で、隕石が落ちたであろう海岸に来ていました。芙美にはまったく石の違いは分かりませんが、航平はそれらしき石を見つけたようです。
手にした途端、2つに割れる石。航平は片方を芙美にあげることにしました。のちに大学で調べてもらうと、なんと月の石でした。
月の石のパワーなのか、芙美は久しぶりに顔を出したBar「羅針盤」で、ジョギングの途中ですれ違う警備員の男と居合わせます。男は、篠田吾郎と名乗りました。最近この町にやってきたようです。
彼が、公園で吹いていた草笛の音色が、優しく耳に蘇ります。ツユクサの草笛の話で、すっかり意気投合した2人は、よく顔を合わせるようになります。
吾郎のことが気になりだした芙美でしたが、自分の心にブレーキをかけます。部屋に飾られた子供の写真に話しかけます。「りょうちゃん、分かってます。ここに来た理由を忘れません」。
芙美は吾郎に、航平は自分の息子で、夫は捕鯨船に乗っていると嘘をつきます。航平はそんな芙美ちゃんの嘘に付き合ってあげますが、航平にも我慢の限界があります。
映画『ツユクサ』の感想と評価
主人公の五十嵐芙美は、哀しい過去を嘆くばかりではなく、今の生活を大事に少しづつでも前に進む努力をしている女性です。
友達を大切にする、清く働く、料理をする、運動をする、時には我慢する。ユーモアを忘れず、日々を丁寧に暮らす。そんな芙美は、すごく魅力的です。
一見、感情表現が乏しくクールに見えますが、子供相手に本気で怒ったり、気持ちが抑えられず急かしてしまったりと情熱的な一面もあります。
その中でも、芙美の仕事仲間である直子の息子・航平との関係がとても素敵です。歳の離れた親友である芙美と航平。芙美は、航平を子ども扱いせず平等に接します。
大事なものは半分こ。何でも話せる相手であり、ケンカしたり仲直りもする。どちらかというと、子供同士の付き合いのようですが、航平の方が大人に見えることもあります。
また、それぞれの恋の行方にも注目です。航平の淡い初恋と、芙美の大人の恋。年齢は違えど、恋する気持ちに変わりはありません。
色々な事情を抱え、恋に臆病になった芙美と吾郎の大人の恋もまた、初恋のように不器用です。そんな芙美の背中を押してくれたのも航平でした。
宇宙の隕石が地球に落ちて人に当たる確率は1憶分の1。そんな奇跡を起こした芙美でしたが、劇的に人生が変わることはありませんでした。
それでも、料理が上手に出来たり、好きな人に出会えたり、草笛が吹けるようになったり、小さな奇跡は日々の生活の中に転がっていました。
主人公の芙美を演じるのは、「日々を丁寧に生きる」、そんな大人なテーマの作品が似合う俳優・小林聡美。
『かもめ食堂』(2006)『めがね』(2007)『プール』(2009)などの小林聡美が好きな方は、今作も心に響く作品だと思います。
その他にも、魅力あふれる登場人物に癒されます。「断酒の会」会長は、会員に禁酒を勧めながらも、自らは酔っ払い神社の狛犬に抱き着いているところを目撃されます。「飲まないとやってらんないよ」の台詞に同情します。
「断酒の会」メンバーの女性は、頑張ってきたにも関わらず、失恋で酒を煽ります。「なんで酒を飲むのか。泣きたい時に笑うためよ」。お酒との上手な付き合い方も学べます。
芙美の仲良し仕事仲間にもほっこりします。航平の母でもある直子を演じるのは平岩紙。親近感がわく彼女の演技にリアリティを感じます。
そしてもうひとりの仕事仲間、妙子を演じるのは江口のりこ。夫の墓参りで坊主に見初められ、イケイケ坊主との恋愛を楽しむ妙子を、コミカルにクールに演じています。
芙美の酒癖を知るBarのマスターに泉谷しげる。婚活台湾旅行の末に太極拳マスターになった工場長をベンガル。不器用ながらも愛情に溢れた航平の父・貞夫役に渋川清彦と、個性派俳優が勢揃いです。
まとめ
大人の人生にそっと寄り添う、ほっこりあたたかい映画『ツユクサ』を紹介しました。
1憶分の1の確率で隕石に当たった芙美。大きな奇跡は起こらなくても、どこにでもあるツユクサのような小さくて愛らしい奇跡に出会えました。
人生長く生きていれば、哀しいことも嬉しいことも起こります。辛い日々に疲れて前に進めない時も、不安に押しつぶされそうな日々もあると思います。
それでも、「今」を丁寧に暮らしていれば、案外、奇跡は日々、身近に起こっているのかもしれません。
日々頑張る大人のあなたにおススメ『ツユクサ』。宇宙からの隕石にご注意ください。