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Entry 2019/11/01
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【平山秀幸監督インタビュー】映画『閉鎖病棟』笑福亭鶴瓶×小松菜奈らに重ねられたオマージュと“映画作りの面白さ”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』は2019年11月1日(金)より全国ロードショー!

精神科医にして作家・帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)が山本周五郎賞を受賞した同名小説の映画化作品。そして、名落語家にして名優・笑福亭鶴瓶の『ディア・ドクター』以来10年ぶりの主演作。

それが、とある精神病院を舞台に、そこに入院する患者たちのと哀しみと怒り、そして優しさが交差する様を描いた映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』です。


(C)Cinemarche

このたび2019年11月1日(金)からの劇場公開を記念し、これまでにも多種多様なジャンルの映画作品を手がけてきた平山秀幸監督にインタビューを行いました。

原作小説から抱いた感想や共感をはじめ、本作の映画化を後押しした名作映画の存在や登場人物たちの関係性、そしてベテラン監督として今現在感じる「映画の面白さ」など、貴重なお話を伺いました。

「自分とは関係ない世界」ではなく


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

──まずはじめに、帚木蓬生さんの原作小説を初めて読まれた際の感想をお聞かせいただけますか。

平山秀幸監督(以下、平山):昔から世間では、精神疾患や精神科病院に対しては差別的な呼称が用いられ、偏見の目で見られ続けてきました。現在もそれは続いていると思います。

僕が初めて帚木さんの原作小説と出会った際にも、当初は『閉鎖病棟』という仰々しいタイトルも相まって、「“自分とは関係のない世界”についての物語を描いているのだろう」という偏見の中で読み始めました。

ですが実際に小説を読み進めていくうちに、私は小説内の登場人物に自分を重ね合わせてみたり、彼らの抱える“生きづらさ”に対しても「他人事ではない」という思いを抱いたんです。

それが原作小説に対する第一印象だったんですが、精神疾患について詳細に調べていくと「えっ、この病気って友人の◯◯さんと一緒だよ」「これ、俺にも当てはまるところあるなぁ」という発見があったんです。

精神疾患や精神科病院は“自分とは関係ない世界”などではなく、非常に身近なものへと変わっていきました。

また劇中に登場する精神病院の患者たちを演じたキャストのオーデションを行なったんですが、その質疑応答の中で、「精神疾患にかかった経験、或いはそれを意識した経験について話していただけませんか?」と尋ねました。

すると、オーデイション参加者はそういった経験をしていました。精神疾患や精神科病院というものは決して特殊でも他人事でもない、ましてや差別や偏見の対象になるものなどではないと改めて感じさせられました。

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』メイキング映像

ある名作映画へのオマージュ


(C)Cinemarche

──本作では平山監督ご自身が脚本を執筆されていますが、原作小説の脚色にあたってどのような点を特に意識されていましたか。

平山:もし精神疾患や精神科病院というものをリアルにお客さんへ伝えようとするならば、ドキュメンタリーを選んだと思います。本作は精神疾患を題材にしたフィクションであると捉えています。

この題材を基にして、どうすればお客さんの心を動かせるフィクションを作れるのか。そのことを第一に考えました。

そして構想を続ける中で、クリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』(2009)に行き当たりました。老齢の主人公とアジア系の少年が築いていった作中での関係性を、原作小説における秀丸と由紀の関係性に重ね合わせることができたら、面白い作品になるのではと感じたんです。

チュウさんを主人公として描いていた原作小説に対し「秀丸を中心に描く」という脚色を行った理由の一つにもなりました。

精神病院という「安堵できる場所」の意味


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

──脚本の執筆や映画の制作にあたり、シナハン・ロケハンとして実際の精神病院を取材されたとお聞きしました。具体的にはどのようなことを取材の中で調べられたのでしょうか。

平山:精神科病院に勤めている看護師さんや精神科医の方々への聞き取り取材が主でした。院内の一日における日課やスケジュールの詳細もそうですが、患者さんたちにまつわる印象的なエピソードを中心にお話ししていただきました。

僕らが何回目かのロケハンに伺った日に、偶然「今ちょうど入院する」という方にお会いできました。


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

平山:その方は精神科病院への入院が嬉しそうだったんです。「こんなところに入らなきゃいけない!」というネガティブな感情ではなく、「ここだったら安心して過ごせるんじゃないか?」という期待に近い安堵感を抱いていた。

自分たちの先入観とは全く異なる発想がたくさん存在するということを思い知らされました。

「優しさ」「自己犠牲」という言葉の難しさ


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

──映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』をご覧になった方の多くが本作における「優しさ」と「自己犠牲」を感想で触れられていますが、平山監督ご自身は本作における「優しさ」と「自己犠牲」をどのように捉えられていますか。

平山:以前鶴瓶さんとお話しした際にも、僕は彼から「この映画、優しいよね」と言われたことがあります。ただその言葉に「でも、僕自身は優しくなんてないよ」と答えたんです。すると鶴瓶さんも「せやな、ワシも優しないもんな(笑)」と冗談交じりに返してくれました。

ある人にとっては優しさであっても、他者にとっては全く違うことはいくらでもあります。だからこそ「優しい」とか「正しい」という言葉はとても使い方が難しいと思います。

『グラン・トリノ』で例えるとしたら、主人公が少年を命懸けで助けたのも、「少年を助けるため」だけではなく「自分自身が納得するため」だったのだと僕は捉えています。自らのためにとった行動が、「少年を助けた」という結果をもたらし、最終的には「自己犠牲」という言葉で説明されているように思います。


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

秀丸が由紀のことを気遣い続ける理由や原因は、哀れみや同情だけではなく、そこには由紀を傷つけるものへの怒りや、「かつて人を殺めた」という自らの罪への意識、また「すでに一度死んだ人間である」という人生への諦めも含まれているかもしれない。

一言では表しきれない複雑に絡み合った感情の中で、秀丸は由紀の身を案じていたはずです。

「映画作りって面白い」


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

──最後に、本作の撮影や編集作業の過程において記憶に残っているエピソード改めてお聞かせいただけますか。

平山:例えば渋川清彦が演じた重宗という患者は、周囲の人間に辺り構わず暴力的な態度をとるどうしようもない人物です。原作小説でもそのように描かれています。撮影を開始した当初も、原作に忠実な形で彼を撮ろうとしていたんですが、たまたまエクストラカットとして、重宗が壁を相手にひとりぼっちでキャッチボールをするカットを撮っておいたんです。映画のどこに挿入するかは考えていなかったんですが。

編集作業の中でそのカットを入れる場所次第で、重宗の人物像が大きく変化していったんです。「どうしようもない悪人」だったはずの重宗が、疎外され続けてきた人間に見えてきたんです。

もちろん彼が他者に対して暴力的で、酷いことも悪いこともしてきたという事実は変わりません。ただ、重宗の別の一面が見えてくる。「映画作りって面白い」「映画作りって不思議だなぁ」と改めて感じさせられました。


(C)Cinemarche

──平山監督ほどのベテラン監督が、今現在のおいても映画制作の「面白さ」を再発見されたことには、正直驚きと感動を隠せません。本作の制作中、映画作りの「面白さ」を再発見された瞬間は他にもあったのでしょうか。

平山:本作の劇中には、オフデちゃんという患者が登場します。おかっぱ頭でメガネのちょっと変わった女の子なんですが、院内でのカラオケ大会の場面ではド派手なワンピースを着ているんです。

その衣装について、僕は「こうしてくれ」と頼んだ覚えがなかったんです。それは衣装部のスタッフたちが考えた末の成果なわけですが、素晴らしいアイデアでした。

映画作りとは「書き上げた脚本通りに撮り、脚本通りに編集をしていく」というだけの作業ではなく、スタッフとキャストが「どうすればこの映画は面白くなるのか?」とそれぞれ考え、アイデアを出し合っていく作業だと思います。

インタビュー・構成/河合のび
インタビュー・撮影/出町光識

平山秀幸監督プロフィール


(C)Cinemarche

1950年生まれ、福岡県出身。日本大学芸術学部・放送学科卒業。

1990年の『マリアの胃袋』で監督デビューしたのち、1992年に『ザ・中学教師』で日本映画監督協会新人賞を受賞。

以降も映画「学校の怪談」シリーズ(1995〜1999)が大ヒット記録し、1998年には『愛を乞うひと』でモントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞、日本アカデミー賞最優秀監督賞などをはじめ数々の映画賞を獲得。

その他にも『笑う蛙』(2002)『魔界転生』(2003)『レディ・ジョーカー』(2004)『しゃべれども しゃべれども』(2007)『必死剣 鳥刺し』(2010)『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-』(2011)『エヴェレスト 神々の山嶺』(2016)と数々の話題作を監督してきました。

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』の作品情報

【公開】
2019年11月1日(日本映画)

【原作】
帚木蓬生『閉鎖病棟』(新潮文庫刊)

【脚本・監督】
平山秀幸

【キャスト】
笑福亭鶴瓶、綾野剛、小松菜奈
坂東龍汰、平岩紙、綾田俊樹、森下能幸、水澤紳吾、駒木根隆介、大窪人衛、北村早樹子、大方斐紗子、村木仁 / 片岡礼子、山中崇、根岸季衣、ベンガル
高橋和也、木野花、渋川清彦、小林聡美

【作品概要】
精神科医でもある作家・帚木蓬生の山本周五郎賞受賞作を、『愛を乞うひと』(1998)などをはじめ数々の作品を手がけてきた平山秀幸監督が自ら脚本を執筆し映画化。

とある精神病院を舞台に、それぞれに重く悲しい過去と「生きづらさ」を抱える患者たちの心の交流とそれゆえに生じてしまう新たな「哀しみ」と「優しさ」を描きます。

主要キャストには、『ディア・ドクター』(2009)以来10年ぶりに主演を努める笑福亭鶴瓶をはじめ、『そこのみて光輝く』(2014)などの綾野剛、『渇き。』(2014)などの小松菜奈が出演。さらに個性派・実力派の俳優陣がその脇を固めます。

映画『閉鎖病棟-それぞれの朝-』のあらすじ


(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

長野県のとある精神科病院。そこには、それぞれの過去を背負った患者たちが入院していました。

母親や妻を殺めた罪で死刑判決を下されたものの、死刑執行が失敗したことで生き永らえ「患者」として入院し続ける梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。

サラリーマンだったが幻聴が聴こえ始めたことで暴れ出すようになり、母の身を案じながらも妹夫婦からは疎んじられている塚本中弥=「チュウさん」(綾野剛)。

ある出来事が原因で不登校となり、やがて病院へ入院することになった女子高生・島崎由紀(小松菜奈)。

彼らは家族や世間から遠ざけられながらも、それでも明るく生きようとしていました。

ですが、そのような穏やかさが漂う日常は、院内で起こったある殺人事件によって崩壊します。

事件の加害者は、秀丸。彼が再び人を殺めてしまったその理由とは…。





編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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