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【ネタバレ】仕掛人 藤枝梅安(2023)あらすじ結末感想と評価考察。必殺シリーズを映画化!昭和傑作時代劇に豊川悦司が挑む

  • Writer :
  • 星野しげみ

池波正太郎生誕100年企画映画『仕掛人・藤枝梅安』第一部が公開。

池波正太郎のベストセラー時代小説『仕掛人・藤枝梅安』。

腕の良い医者という表の顔と、お金をもらって生かしておいてはならない者たちを闇に葬る仕掛人という裏の顔を持つ藤枝梅安を描いています。

幾度か映画化されたこの小説が、池波正太郎生誕100年となる2023年に、映画『仕掛人・藤枝梅安』二部作として公開。本作はその第一部です。

令和版『仕掛人・藤枝梅安』二部作を取りまとめたのは、数多くの人気テレビドラマを手がけてきた河毛俊作監督です。

これまでにも、緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙といった名優らが演じてきた藤枝梅安役に豊川悦司が挑みました。相棒の彦次郎を演じるのは片岡愛之助です。

人の持つ表の顔と裏の顔。冷酷そのもののお面をかぶって人を殺める仕掛人の真の姿を描いた本作を、あらすじネタバレ有りでご紹介します。

映画『仕掛人・藤枝梅安』の作品情報


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
池波正太郎:『仕掛人・藤枝梅安書』(講談社文庫刊)

【監督】
河毛俊作

【脚本】
大森寿美男

【エグゼクティブプロデューサー】
宮川朋之

【編集】
野澤瞳

【音楽】
川井憲次

【殺陣】
清家三彦

【キャスト】
豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、小野了、高畑淳子、小林薫、早乙女太一、柳葉敏郎、天海祐希、でんでん、鷲尾真知子ほか

【作品概要】
「仕掛人・藤枝梅安」は「鬼平犯科帳」「剣客商売」シリーズとともに、時代小説の大家・池波正太郎の代表作として、長く愛されている作品。

これまでにも、緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙といった俳優らが梅安を演じた本作を、池波正太郎生誕100年となる2023年に二部作として映画化されました。

監督はテレビドラマを数多く手がけ、2005年に映画『星になった少年』をとりまとめた河毛俊作。藤枝梅安役は豊川悦司、相棒の彦次郎を片岡愛之助が演じます。

菅野美穂、小野了、高畑淳子、小林薫といった実力派に加え、第一部のゲストとして、早乙女太一、柳葉敏郎、天海祐希が顔を揃えました。第二部には、一ノ瀬颯、椎名桔平、佐藤浩市がゲスト出演しています。

映画『仕掛人・藤枝梅安』のあらすじとネタバレ


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

品川台町の藤枝梅安(豊川悦司)は二つの顔を持っています。

腕の良い鍼医者としての表の顔と、“蔓(つる)”と呼ばれる裏稼業の元締から金をもらって、生かしておいては為にならない奴らを闇に葬る冷酷な裏の顔“仕掛人”です。

ある晩、仕掛の後、仕掛人でもある楊枝作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)の家に泊った梅安は、帰り道、浪人・石川友五郎(早乙女太一)が刺客を斬り捨てる場面を目撃します。

刺客を全て殺して梅安の姿に気が付いた浪人。梅安は「俺は鍼医者だ」と言い、間合いを取りながら、刺客が死んだことを確かめ、医者が出る幕ではないと悠然と立ち去りました。

その後、梅安は蔓である羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛を依頼されます。

3年前、万七の前の女房おしずを仕掛けたのは他ならぬ梅安でした。またもや万七の内儀相手の仕事を頼まれる奇遇に梅安は驚きます。

裏仕事のため、梅安は万七の女中おもん(菅野美穂)と深い仲になり、店の内情を聞き出します。

おもんの話では、万七の主人は水茶屋にいたおみのに熱をあげていたそうです。おしずが死ぬと、親族の反対を押し切るようにして、おみのを後妻にしました。

おみのが内儀になってから、古参の奉公人たちが次々と去り、店の評判は落ちているのに儲けだけはあると言います。

おみのは店に見栄えのいい娘を女中として雇い入れ、客をとらせていたのです。

おしず殺しの依頼人はおみのなのか。殺しの起り(依頼人)の身元を探るのは仕掛人の掟に反すると知りながら、梅安は3年前のいきさつを知りたいと思い始めます。

そして、万七を訪れ、初めておみのの顔を見た梅安は驚きを隠せません。「何か私の顔についていますか?」と言うおみのに、梅安は「おかみがあまりに美して」とその場を取り繕い、店を去りました。

一方、彦次郎は別の蔓である口入屋の田中屋久兵衛から、大工の万吉を殺すよう、頼まれます。

殺す相手の顔を確かめた彦次郎もまた驚きます。万吉は御座松の孫八という盗賊の一味で、実は昔、彦次郎もこの一味に入っていたのです。

万吉の近辺を調べていた彦次郎は、万吉が万七に行き、おみのを脅迫していることを知ります。それから、彦次郎はなんなく万吉の仕掛をやり遂げました。

その後、梅安と彦次郎はこれまでの仕掛のことを話します。はじめて彦次郎は過去を話し始めました。

彦次郎はしばらく盗賊として働いたあと、万吉と一緒に頭である孫八を殺し、有り金を持ち逃げしました。

孫八には、妻は死んだようだけれども、美しい女の子がいたとか。その女の子が現在のおみのだと言うのです。おみのの顔と過去を知る万吉は、おみのの過去をばらすと脅かしていたのです。

梅安は動揺しながら「“おみの”は本名か」と聞きました。「いや、本名は“お吉”だ」。その答えに対して「万七の内儀・おみのは、俺の妹だ」と言う梅安。「どういうことだ」と彦次郎は驚きます。

梅安ははるか昔の過去を話しだします。

梅安は子どもの頃、鍼医師の父と母とお吉という妹の三人暮らしでした。

父が病死したある日、母はお吉だけ連れて男と家を出てしまいました。それ以来、梅安は独りぼっちで鍼医師の修業をして医師になりました。母を連れ出した男が、御座松の孫八だったのでしょう。

梅安が万七で初めておみのの顔を見た時、別れた母親そっくりで、何も言わなくても妹だと分かったのです。

忘れ去っていた過去が、裏仕事と関連して目の前に現れて、梅安の心を乱します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『仕掛人・藤枝梅安』ネタバレ・結末の記載がございます。『仕掛人・藤枝梅安』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

そんな頃、梅安は山にある常在寺の住職から、身動き取れない重病人がいるので、寺まで出向いて治療して欲しいと頼まれました。

梅安が行ってみると、お千枝という娘が寺に臥せっていました。梅安がその娘を出来る限りの手当をしたことがきっかけで、いつか刺客に追われていた浪人と再び出会いました。

浪人は、石川友五郎と名乗り、これまでのいきさつを語りました。

お千枝は、好き放題に女に手を付ける旗本・嶋田のせいで母を亡くした娘でした。

お千枝は嶋田に抗議しますが、反対に手籠めにされ、屋敷に閉じ込められてしまいます。嶋田の家来であった石川友五郎は、見るに見かねてお千枝を救い出し、常在寺に匿ってもらったのです。

こうしてお千枝と石川友五郎は嶋田から追われる立場となったと言います。

一方その頃、彦次郎はまたしても蔓の田中屋から仕事を頼まれました。

ターゲットは、石川友五郎。あろうことか、田中屋は嶋田から仕事の依頼を受け、石川はさる旗本の娘をレイプして寺に幽閉しているという、正反対の情報を彦次郎に伝えたのです。

お千枝の容態を看るために寺へ来た梅安と様子をさぐっていた彦次郎は、寺の上の山道でばったり出会います。

梅安から話を聞いた彦次郎は、田中屋への不信感をあらわにします。そして2人は策略を練りました。

その頃、常在寺へ嶋田の差し向けた侍の一行が押しかけていました。剣術の達人石川友五郎は1人で雄々しく立ち向かい、彦次郎は木立に隠れて毒の吹き矢で刺客たちを射止めます。

なんとか全員を殺すことができ、歩けるようになったお千枝と石川友五郎は助かりました。

一方、万七へ来ていた田中屋は、忍び寄った梅安によって手際よく命を奪われました。その後、梅安は廊下でおみのと話します。

梅安を口説こうとするおみのの口調にあわせて、梅安はおみのを抱き寄せます。

「あれ、なんだか懐かしい匂い」と言うおみの。梅安は、おみのの首筋に鍼をさし「お吉、お前の命、俺に預けろ」と囁きました。

死ぬ間際、おみのははっと幼い頃のことを思い出しました。

裏仕事が一件落着し、梅安と彦次郎は新年を迎えます。

梅安は鍼医師の恩師の墓参りのために上方へ向かうことを思い立ち、正月が明けると、彦次郎と一緒に旅に出ました。

さて、上方でいったいどんなことが彼らを待ち受けているのでしょう。

映画『仕掛人・藤枝梅安』の感想と評価


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

仕掛人は裏のヒーロー

作家・池波正太郎の人気時代小説『仕掛人・藤枝梅安』が、河毛監督による新たな着想と映画技術を持って映画化されました。

本作で特に強調されたのは、仕掛人として生きる梅安の過去と仕掛の技です。

腕の良い鍼医師としての表の顔とお金で雇われて人を殺める裏の顔。天使と悪魔、ジキルとハイドのような両極端の顔を持つ仕掛人の藤枝梅安。

仕掛人になった理由などは明かされていませんが、本作では梅安の過去が徐々に明らかにされます。

幼い頃に生き別れになった実の妹が、お金のためなら何でもする不敵な女となって恨みをかい、梅安の仕掛の対象となります。

今まで数多の仕掛をしてきた梅安ですが、今度の仕掛だけはさぞかし胸が痛んだことでしょう。それでも、仕掛人の掟として仕掛を依頼され仕掛料を頂けば行動せざるを得ません。

ポーカーフェイスを取り繕い、冷酷そのものの仮面をつけていても、相方の彦次郎にだけは本心をポロリともらす梅安。

血も涙もなく人を殺める梅安ですが、ふと見せるその温かな表情に胸をなでおろします。

涙を隠して人を斬る・・・。いわば仕掛人は、誰も裁く人がいない世の中から弱者を泣かす悪を殺す使命をおびたダークヒーローなのです。

悪がまかり通る腐りきった世の中には、ぜひともいてほしい影の存在と言えます。

注目したい2つの仕掛


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

本作での注目はやはり人を殺める仕掛のシーンです。本作の梅安の最初の仕掛は、水中にターゲットを引き摺り込んで仕留めるというものでした。その武器は、鍼医師の商売道具の鍼。

水中での殺しのシーンも鮮やかなら、仕掛後の月夜に浮かぶ梅安のシルエットもまた緊迫感を煽ります。光と影の見事なコントラストによって、血なまぐさい仕掛シーンですら、美しさを伴って映し出されました。

ところで、これまでの撮影では、ずいぶんと太目の鍼が使用されていたそうです。それは、仕掛の鍼が細いと映像にうまく映らないというのが理由だとか。

鍼が太いと出血し、それによって仕掛人の仕事には見えないのではという問題が起こり、今回は撮影に工夫を凝らしたと言います。

こうして実現した細い鍼での仕掛シーン。映像では本当に細い鍼がはっきりと映って梅安が手に取る様子が映し出されます。

この技術が最初の撮影の頃には無かったそうですから、令和版の『仕掛人・藤枝梅安』として観るべき価値のあるシーンと言えます

そしてもう一つ注目したのは、頻繁に出てくる江戸料理です。お茶漬け、味噌汁、焼き魚、豆腐料理、ハゼの煮付け、軍鶏鍋、手打ち蕎麦……。

池波正太郎は江戸料理をとても愛していたと想像できます。梅安好みと思われる江戸料理が原作にもよく描かれているので、映画ではそれを忠実に再現しています。

料理はどれも湯気が立ち昇り、その香りが映像からも漂ってくるようで、見ている方の食欲をそそります。

劇中で「明日はこの料理を食べられないかもしれないから・・・」と、梅安が彦次郎に語る場面がありました。

仕掛をしくじればそこに待っているのは‟死”だけ。殺すか殺されるかの世界に生きる仕掛人には、今日を楽しむことぐらいしか許されないのです。

美味しそうに料理を食べる梅安からは、そんな悲壮感が漂いますが、それでも生きてやるという力強い生命力が感じられるのは、梅安演じる豊川悦司の秀逸な演技力の賜物だと言えるでしょう。

まとめ


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

河毛監督が手がけた『仕掛人・藤枝梅安』第一部をご紹介しました。

1980年に萬屋錦之介が主演を務めた映画化から40年以上がたち、なぜまた映画化なのでしょう。そこには今だからこそ観るべき‟藤枝梅安の物語”が見受けられました。

現代だから撮影できた梅安の細い鍼使用の仕掛。ここでは、映画技術の躍進が見られます。

江戸料理や時代風景を通して再確認できる江戸時代の風習。ここには、現代人が忘れかけている日本文化の良さがあります。

極めつけとして、池波正太郎小説のテーマである‟人は悪いことをしながら、一方では善いこともする矛盾した存在”ということが、色濃く描かれました。

お金で命を奪う‟仕掛”をする梅安は、実は腕の良い医師。弱者のためになる仕掛のみ実行していたようです。権力を楯に弱者をいたぶる悪人を梅安が成敗する様に胸がスッキリ!

表に出ずに裏で悪を斬る仕掛人。人斬りは正義の味方とは呼べないかもしれませんが、世知辛いこの世の中に、こんなダークヒーローがいたっていいのではないでしょうか

2023年の『仕掛人・藤枝梅安』は、第一部は梅安たちが上方へ向かうところで終わっています。続編となる第二部は2023年4月7日(金)公開予定。こちらも、梅安独自の正義が爆発することへの期待が高まります。

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