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Entry 2022/02/27
Update

映画『ツユクサ』あらすじ感想と評価解説。小林聡美が「幸せと希望」を爽やかに“大人のおとぎ話”として紡ぐ

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『ツユクサ』は、2022年4月29日(金・祝)全国公開!

映画『ツユクサ』は、隕石にぶつかったヒロインがささやかな幸せをみつけていく奇跡の物語。

愛を乞うひと』(1998)『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(2019)など、さまざまな視点から人生を描いてきた平山秀幸監督が、脚本家・安倍照雄によるオリジナルストーリーを映像化しました。

旧知のふたりが10年以上あたため続けてきた人生讃歌の物語です。

過去の哀しみを抱えながらも「今」を生きるヒロイン・五十嵐芙美を演じるのは、『かもめ食堂』(2006)『めがね』(2007)の小林聡美。彼女の恋の相手・吾郎を演じる松重豊をはじめ、平岩紙、江口のりこら名優たちの味わいある掛け合いもみどころです。

主人公・芙美は、隕石とぶつかったり、草笛を吹けるようになったりするという小さくて大きな奇跡に出会います。

映画のキャッチコピーに「どこにでもある大人のおとぎ話」とありますが、 “大人のおとぎ話”という言葉はいったいどんな意味を持つのでしょうか。

その言葉に注目しながら、苦くて甘い、胸にじんわり沁みる物語『ツユクサ』をご紹介します。

映画『ツユクサ』の作品情報


(C)2022「ツユクサ」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【脚本】
安倍照雄

【監督】
平山秀幸

【編集】
洲崎千恵子、小西智香

【出演】
小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、渋川清彦、泉谷しげる、ベンガル、松重豊

【作品概要】
安倍照雄によるオリジナルストーリー脚本を、『愛を乞うひと』(1998)『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(2019)など数々の作品で知られる平山秀幸監督が映画化したヒューマンドラマ。

深い哀しみを抱いた女性がさまざまな人々との出会いを通して再生していくさまを、ホッコリとしたあたたかなタッチで描きます。

主人公の芙美に『かもめ食堂』(2006)の小林聡美、草笛を通して芙美と心通わせる吾郎に『バイプレイヤーズ 〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』の松重豊。純粋で胸に沁みる大人の恋を紡ぎます。

芙美の友人役の平岩紙、江口のりこらのコミカルな掛け合いも楽しい一作です。

映画『ツユクサ』のあらすじ


(C)2022「ツユクサ」製作委員会

「ぼくの大切な親友、ふみちゃんの話をしよう」と宇宙大好き少年・航平が話し始めます。

数え切れないほどたくさんの隕石が地球に落ちてきますが、それが人間に当たる確率はたったの1億分の1。まず起こるはずがないと言います。

なのに、隕石が五十嵐芙美の車にぶつかるという奇跡が起きました。「ひまわり断酒の会」に参加していた芙美が、会の規約でお酒を海に流した帰り道のことでした。

車が壊れてしまった彼女は、気心知れた友達の直子に迎えに来てもらいました。直子の息子の航平は、芙美がお酒を飲むようになった本当の理由を知っています。

芙美の部屋にはあどけない顔をした男の子の写真が飾られていました。

海と山が美しい静岡にある会社で、芙美は直子や妙子など気の合う仲間たちと働いていました。彼女たちは、断酒の会にいい男はいないのかという話題で盛り上がり、工場長が婚活パーティーのために台湾に行った話をして笑い合います。

日課のジョギングに出た芙美は、石段ですれ違った男性に会釈します。

航平は義父・貞夫の働く船舶工業に立ち寄りますが、よそよそしいままです。ぶつかった隕石を捜しに航平と芙美は浜へ向かい、それらしきものをみつけた航平は大事に持ち帰ります。

「隕石 ぶつかった人」を検索し、ぶつかった女性が不幸のうちに早くに亡くなったことを知る航平。

そのとき、階下から言い争う声が聞こえてきました。転勤でひとり単身赴任しようとする夫に、一緒に行くと直子が声を荒げていたのです。再婚した彼女は、連れ子の航平が夫に懐いていないことを気に病んでいました。

航平が拾った石を大学で調べてもらったところ、本物の月隕石だということがわかります。割れた石の片方をもらった芙美は、月の石をペンダントにして身に着けていたら幸せになれる気がすると言って笑いました。

芙美はジョギング中に、以前石段ですれ違った男性が草笛を吹いているのを見かけます。

断酒の会が休みになった芙美は、酒を捨てずにバー「羅針盤」のマスターに届け、酒の代わりにナポリタンを注文します。

カウンターに葉っぱが置かれているのに気づいた芙美。そこにマスターに頼まれて買い物をしてきたひとりの男性客が現れます。

彼は草笛を吹いていた男でした。男も芙美に気づきます。

芙美が草笛の腕をほめると、男は言いました。「これツユクサです。草笛にするといい音が鳴るんですよ。」

帰りがけに彼は「篠田吾郎」と名乗り、ふたりは「楽しかった」と互いに笑顔で言い合います。

帰り道、芙美は友達の妙子と偶然会います。妙子の隣には、死んだ夫のお墓のある寺のお坊さんの姿がありました。

翌日、妙子は芙美に「気になる男の人がいるでしょ。わかんのよ」と笑いかけます。

バーに再び立ち寄った芙美が、店を「羅針盤」という名前にした理由をマスターに聞くと、彼は昔捕鯨船の船乗りだったことを話します。

一方直子は、夫と一緒に新潟に行く決心をしていました。このまま夫と別々になったら戻れなくなる気がしたのです。

交通整理の仕事を終えた吾郎と並んで歩く芙美。吾郎はツユクサを鳴らす方法を彼女に教えます。いい音が鳴ると、子どものように喜ぶ芙美。

帰宅してからも練習を続けていた芙美は、写真の中の少年と目が合って話しかけます。

「大丈夫。わかってる。母さんそんなことでこの町に来たわけじゃないもんね。」

芙美は吾郎に、航平を自分の息子だと偽って紹介し、夫は捕鯨船に乗っているとウソをつきます。

その後、吾郎は偶然出会った航平に自分が歯医者だったことを話しますが、なぜこの町に来たのかは言いませんでした。

吾郎を山の上にある建物に連れて行った航平。そこで気になる女の子が少年とキスしているのを見てしまった航平は、帰り道、泣きながら吾郎に向かって叫びます。

「俺、芙美ちゃんの子どもじゃないし!主人は捕鯨船乗ってますってあれもウソだし!俺の周りの大人はみんな嘘つきだし!以上!」

バーに行くと、「料理の仕方がわからないから」と、吾郎が芙美宛に空心菜を残していました。

芙美は慌てて彼を追いかけ、「私、作れます!」と言って吾郎を自宅に招きます。

吾郎は芙美の部屋に飾られた少年の写真を見つめ…。

映画『ツユクサ』の感想と評価

隕石がぶつかるのは「幸運」なのか

主人公の芙美は、お酒をやめるために断酒の会に参加しています。飲まずにいらないほど大きな哀しみを抱えていたからです。

そんな彼女は、ある夜、隕石にぶつかるという奇跡的な経験をします。

隕石が人に当たる確率はなんとたった1億分の1なのだそうです。そんな奇跡に出会った芙美は、「もしかしたら幸せが訪れるかもしれない」と明るい気持ちになります。

ここで疑問が湧きます。隕石がぶつかるというのは果たして本当に「幸運」なのでしょうか?

芙美が「幸運」ととらえたのは、いくつかの理由があります。まず、車は壊れてしまったものの、彼女は無傷で済んだこと。もし大けがしていたなら、この事実は「不運」ととらえられたはずです。

そのほか、宇宙好きな航平から隕石が当たった奇跡をとても喜ばれたことや、車が壊れてしまった自分を迎えにきてくれる仲の良い友人・直子がいてくれたおかげもありました。

彼女を取り巻く幸せな環境が、隕石衝突を「幸運」だと思わせてくれたのです

そして、この奇跡を「幸運」と信じたからこそ、その後も彼女には小さな奇跡がいくつも訪れます

心に深い傷を負って逃げるように今の町にやってきた芙美が自分の幸せを信じられるようになっていくさまを、丁寧に紡ぐ小林聡美の繊細な演技に注目です。

「大人のおとぎ話」の意味

隕石にぶつかるという「幸運」に背中を押された芙美は、その後出会った篠田吾郎と恋に落ちます。

ここでもまた、彼女を取り巻く人々の後押しがありました。婚活パーティーのために台湾にまでいった工場長や、再婚した夫の転勤先について新天地に行くことを決心した直子。

なかでも、亡くなった夫のお墓のあるお寺の住職と付き合っている妙子の存在は、芙美に大きな影響を与えます。

彼らは年齢を理由に恋愛から遠ざかることなく、自ら飛び込んでいく人たちでした。

深い哀しみを持つ芙美は、ずっと幸せに背を向けてきました。しかし、いくつもの奇跡から勇気をもらったことで、吾郎への恋心に素直に向き合うようになっていきます。

お互いにおずおずと手を伸ばし合うふたり。大人の恋は、中学生の初恋と同じくらい勇気が必要なものなのかもしれません。

小林聡美と松重豊が恋愛ドラマを演じること自体が珍しいこともあり、なおさら震えるような切ない恋心が伝わってきます。

「大人のおとぎ話」という言葉は、おそらくは「隕石の衝突」というファンタジックな出来事を中心に指しているのでしょう。

それに加え、「大人の恋」そのものが「おとぎ話」のように美しく非現実的なものだと暗示しているようにも感じられます。

吾郎が惹かれたのは、哀しみを抱えながらも背筋を凛と伸ばした芙美の美しい生き様でした。芙美が吾郎に心奪われたのも、彼に同じ哀しみの匂いを感じ取ったからにほかなりません。

どんなに美しく見えても、「大人の恋」の根っこには深い傷と痛みが存在します。

果たしてその傷は癒されるのでしょうか。それとも逆に疼くのでしょうか。

「大人のおとぎ話」は、そんな怖さを乗り越えた先にしか生まれないものなのかもしれません。

まとめ

愛を乞うひと』(1998)『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』(2019)の平山秀幸監督と脚本家・安倍照雄が長年あたためてきた人生讃歌『ツユクサ』。

もし、幸せを見失ってしまったとしても、またきっと新たな幸せに出会うことができるーそんなふうに勇気づけてくれるあたたかな作品です。

哀しみを抱きしめながらも、「きっと幸せになる」と決心して歩き出す主人公・芙美役の小林聡美の繊細な演技に心打たれるに違いありません

映画『ツユクサ』は、2022年4月29日(金・祝)全国公開!


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