連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第75回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第75回は、『GP506』(2008)のご紹介です。
非武装地帯に存在する警戒しょう所「ガードポスト」通称「GP」。
内部が迷路のようになっており「1度入ると出られない」と呼ばれる、この軍事施設で起きた、残虐な事件の真相とはいかに?
映画『GP506』のあらすじと感想をネタバレありでご紹介します。
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CONTENTS
映画『GP506』の作品情報
【公開】
2008年制作(韓国映画)
【原題】
GP506
【監督】
コン・スチャン
【キャスト】
チョン・ホジン、チョ・ヒョンジェ、イ・ヨンフン、イ・ジョンホン
【作品概要】『
軍事施設「GP506」で発生した、残虐な事件の真相の解明に挑む捜査官が、迷宮のような施設で遭遇する、恐怖とその正体を描いたバイオレンスホラー。
主人公のノ捜査官を『卑劣な街』(2006)などに出演し、本作が初主演作となるチョン・ホジン。
自称「GP小隊長」を名乗る、ユ中尉を『スキャンダル』(2003)のチョ・ヒョンジェが演じています。
監督は『Rポイント』のコン・スチャン。
映画『GP506』のあらすじとネタバレ
最前線に存在する軍事施設、通称「GP506」。
「冷戦時代のなごり」とも呼ばれるこの軍事施設は、1個小隊が3ヵ月間駐在し、防衛任務にあたっています。
迷路のようなこの施設で、兵士全員が殺害される事件が発生します。
「GP506」を指揮していた小隊長であるユ中尉が、総参謀総長の息子である事から、ノ捜査官は上官から「ユ中尉の遺体を探せ」と命じられます。
日付が変われば「GP506」内の事件は揉み消される為、期限は次の日の明朝までとなります。
ノ捜査官が「GP506」に到着すると、軍医官が既に遺体の処理を始めていました。
時間が経過すれば遺体が傷み始める為、遺族からのクレームを避けようと、軍医官は遺体を迅速に運び出そうとします。
「GP506」にいた兵士の数は21名。その内、事件を起こしたカン上等兵は、意識不明になっていました。
ノ捜査官は、20名のはずの遺体の数が、19名しかないことに気付きます。
1人足りないことを不審に感じたノ捜査官は、「GP506」での総指揮を自分が執ることを伝え「今後GP外に遺体は運ばせない」と軍医官に伝えます。
早く遺体を運び出したい軍医官は、ノ捜査官の命令を無視して、強引に「GP506」から遺体を搬送します。
ですが、全ての道路が閉鎖されており、成す術の無い軍医官は「GP506」に戻って来ます。
ノ捜査官は、施設内で起きた事件を把握する為に「GP506」内に残された、勤務日誌を読みます。
兵士を皆殺しにしたカン上等兵は、問題のある行動を起こすことも多かったですが、根は明るい性格で、事件を起こすような人間ではありませんでした。
事件に不信な点を感じながら、ノ捜査官が「GP506」内を探索すると、生き残った兵士が発見されます。
その兵士は「ユ中尉」を名乗り「自分はGPをまとめていた、小隊長だ」と言います。
ノ捜査官はユ中尉から、事件の詳細を聞こうとしますが、ユ中尉は「どうせ話しても信じない」と何かに怯えた様子を見せます。
何も話さないユ中尉を諦め、更にノ捜査官が「GP506」内を探索していると、ビデオカメラが見つかります。
兵士達の誕生パーティーの様子が録画された、そのビデオには、途中から血で赤く染まったようなカン上等兵が現れ「これから20名全員を殺す」と宣言します。
カン上等兵の殺意は本物でした。
何故カン上等兵は、こんな残酷な事件を起こしたのでしょうか?
ノ捜査官の問いかけに「俺は幽霊など信じないが…」と、ユ中尉が重い口を開きます。
映画『GP506』感想と評価
非武装地帯に実在する軍事施設「GP506」を舞台に、突如発生した殺人事件の真相を描いた『GP506』。
作品の冒頭で、いきなり体中血まみれのカン上等兵が現れ、部隊を全滅させる衝撃的な場面から始まる本作ですが、実はホラー要素よりも、かなりサスペンス色の強い内容となっています。
いろいろと解明されていない部分もあるので、考察も交えてご紹介します。
タイムリミットは夜明けまで
『GP506』の主人公ノ捜査官は、施設内で起きた事件の真相解明と共に、総参謀総長の息子で小隊長だった「ユ中尉の遺体を探す」という任務を背負っています。
冒頭で起きた、部隊が全滅する事件に関して、何も説明がありません。
さらに軍の上層部は、この施設で起きたことを、全て揉み消すことを決めたようですが、とにかく不可解な展開が序盤で続きます。
ノ捜査官にも、じゅうぶんな説明がされないままなのですが、上司の命令に逆らえない軍隊の規律に従い、ノ捜査官は「GP506」の謎に挑むことになります。
期限は施設が破壊される夜明けまで……。
何も把握できないまま、閉ざされた施設に足を踏み入れなければならない、ノ捜査官の不安と恐怖が、序盤では丁寧に描かれています。
外の世界と隔離された施設で巻き起こる恐怖
何も分からないまま、事件の解明という表の任務と「ユ中尉の遺体を探す」という、裏の任務を進めることになったノ捜査官。
残された日誌から、事件を起こしたカン上等兵のことを探ろうとしますが、ますます謎が深まるばかりとなります。
そこへ、生き残っていた自称「ユ中尉」が現れたことで、本作は急展開を見せます。
「GP506」で起きた事件の真相を、このユ中尉を名乗る男が知っているからです。
事件の真相…それは、人間を凶暴化させるウィルスの存在が原因でした。
次々にウィルスに感染した兵士たちは、一時的に凶暴化してしまい「GP506」で内乱が発生したのです。
迷路のような閉ざされた施設で、逃げ場も無い為、兵士達には地獄のような状況となってしまいます。
ただ、ここで冒頭のカン上等兵の目的が、ようやく判明します。
ウィルス感染者を外に出せば、世界中がこの凶暴化するウィルスの脅威に晒される為、あえて自分の手で仲間を全滅させたんですね。
ノ捜査官は、ウィルスの脅威を目の当たりにし、結果的にこれまで「理解不能」だった、カン上等兵と同じ決断をせざるを得なくなります。
この後半の展開は「傍観者だったはずが、いつの間にか当事者になってしまった」という恐怖が、皮肉的というか、印象的な演出になっていますね。
そもそもウィルスの発生源は?
結果的にノ捜査官も捜索隊も全滅してしまう、衝撃的なラストを迎える『GP506』。
ただ、最後まで分からないのが「ウィルスの発生源」です。
ウィルスは、除草作業に出たマ兵長と部下が、数日間行方不明になった後に、戻って来ると感染していました。
除草作業中に、間違いなく何かが起きたんでしょうが、そこは一切謎のままです。
おそらくですが、韓国の軍部が細菌兵器を研究していて、その実験の場に選ばれたのが「GP506」だったのではないでしょうか?
「GP506」を統率していたユ中尉は、総参謀総長の息子なので、一種のクーデターだった可能性もあります。
ただ、この一連の事件を、まともな検証もせずに、施設ごと破壊して揉み消そうとした韓国の軍部は、確実に全てを把握していました。
とてつもなく巨大な力に翻弄される、力無き者達。そんな悲しさを感じる容赦のないラストが、なんとなくですが「韓国映画らしいな」と感じました。
まとめ
完全に逃げ場の無い状況で、それまで仲間のはずだった存在が、いきなり信用できなくなる恐怖というのは、同じ韓国映画の『南極日誌』(2005)に近いですね。
『GP506』は、ノ捜査官を通して、隠されていた事実が次々に明らかにされるという、サスペンス色の強い展開で、『南極日誌』よりエンターテイメント作品に振り切っていると感じました。
ただ、ウィルスに感染した兵士が、中途半端にゾンビっぽくなったり「夜明けまでのタイムリミット」という設定が、いまいち活かされていなかったり、「GP506」内が同じ場面が多いので「迷宮のような内部」感がしなかったりと、残念な部分はあります。
ですが、クライマックスの「傍観者だったはずが当事者になってしまった」という、恐怖に繋げる伏線は見事ですので、間違いなく楽しめる作品です。
ウィルスの発生源ですが「北朝鮮の工作」とも受け取れたりと、人によっていろいろと、発生源に関する解釈も違ってくるのではないでしょうか?