連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第73回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第73回は、『SNS殺人動画配信中』(2016)のご紹介です。
SNSに夢中な、17歳のシベーリが遭遇する、恐怖のライブ配信。ブラジル発の、SNSの恐怖にスポットをあてた本作は、31個もの映画賞を受賞しています。
いったい、どんな内容なのでしょうか?
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CONTENTS
映画『SNS殺人動画配信中』の作品情報
【公開】
2016年制作(ブラジル映画)
【原題】
#babynymph
【監督・脚本】
アルド・ペドロサ
【キャスト】
ダンダラ・エイドリアン、ジョバンナ・アルメイダ、ロドリーゴ・シャガス、メイロン・エンゲル、ラファエル・フェレイラ
【作品概要】『
SNSに夢中のシベーリが、友達のダイアナと初めての「お泊り女子会」を開催したことで起きる、殺人ライブ配信の恐怖を描いたサイコサスペンス。
「ニューヨーク世界映画祭賞」「ロサンゼルス独立映画祭賞」等、世界中で31個の賞を受賞した注目の作品!
映画『SNS殺人動画配信中』のあらすじとネタバレ
片時もスマホを離すことなく、少しエッチなライブ配信で人気者になっている、17歳のシベーリ。
ミュージシャンの父親と共に、プール付きの豪邸に住み、楽しい毎日を送っています。
父親がツアーに出かけ、家を留守にしたことをキッカケに、シベーリは友人のダイアナを呼び「お泊り女子会」を開催します。
ダイアナは自由奔放なシベーリとは真逆で、厳格な家庭で育てられた、真面目な性格です。
シベーリとダイアナが部屋で話をしていると、シベーリの父親の元恋人デイユが屋敷を訪れます。
シベーリは、デイユが父親と別れた後に、父親が新しい恋人と写った写真をSNSにアップしました。
それにより、デイユから嫌がらせのような、300通のメールが送られたことで、シベーリはデイユを嫌っています。
ダイアナにデイユの悪口を聞かせていると、デイユが部屋に入って来ました。
一方的に「私たちは友達」と主張するデイユのペースに、シベーリは適当に合わせて、部屋からデイユを追い出します。
ダイアナと2人になったシベーリは、真面目なダイアナに、お酒を飲ませる為のゲームを始め、その様子もスマホに録画します。
映画『SNS殺人動画配信中』感想と評価
スマホを手放すことなく、自身の配信に夢中の17歳のシベーリが遭遇する、ある殺人事件の恐怖を描いた『SNS殺人動画配信中』。
本作で起きる全ての出来事は、シベーリが持っているスマホ画面を通して、映像として伝えられます。
その為、スマホのバッテリーが切れて、いきなり画面が暗くなり、映像が戻ると別の場所に移動していたり、スマホを置いたままシベーリが何処かに行くと、物音だけが聞こえてきて「何が起きているか?」が、正確に分からなくなります。
シベーリの配信を実際に見ているような感覚に陥る、面白い演出の本作ですが、映画としては、なんというか独特なので、その独特ぶりをご紹介します。
「孤独な内面」が読み取れる後半までの50分
『SNS殺人動画配信中』は、79分の比較的短い作品です。
ですが、その内50分は特別な何かが起きることも無く、小悪魔のようなシベーリに、観客はダイアナと共に、振り回されるような感覚に陥ります。
本作の原題は「#babynymph」で、シベーリの学校でのあだ名のようですが、小悪魔的な意味があるのでしょうか?
ただ、この何も起きない後半までの50分では、小悪魔のようなシベーリの「孤独な内面」が読み取れる場面が多数あります。
まず本作の冒頭では、シベーリが自身のライブ動画を配信している場面から始まります。
ライブ配信のコメントの8割が「脱げ!」なので、まぁ、そういう人達が見ているのでしょう。
シベーリも「このアプリはバカしか見てない」と言っていましたので、本人も了承済なんでしょうね。
そして、友人のダイアナが泊まりに来るのですが、このダイアナが非常に真面目な性格で、自身のアプリで、見ている人達を挑発するようなシベーリとは、正反対という印象です。
そして中盤にかけて、シベーリがダイアナにお酒を飲ませるゲームをやらせたり、恋バナをしたりするのですが、ダイアナはゲームを拒否したり、聞いてくる質問も「初めてのキスはいつ?」など、ハッキリ言って面白味がありません。
シベーリは何故、父親が3日もいない自由な時間に、ダイアナとのお泊りを企画したのか?不思議なぐらいです。
シベーリは「9歳の頃から、バーに出入りしてお酒を飲んでいる」と言っていますが、おそらく、そんな遊んでいることもなく、本当はダイアナしか友達がいないのではないでしょうか?
自宅にプールがあるのに「しばらく、自宅でのパーティーはやっていない」とも語っています。
シベーリは、幼い頃に母親を亡くしており、表には出しませんが、心に傷を負っています。
その傷を隠すかのように、ライブ配信で、見ている人を誘惑する「違う自分」を演じているのでしょう。
そして、広い屋敷で3日間も1人になることに耐えられず、ダイアナを泊まりに来させたのではないでしょうか?
本作の開始から50分は、シベーリが何かやりそうで、何もやらない展開が続きますが、そこに見え隠れするのは、シベーリが心の奥底に隠した「孤独」です。
後半30分の怒涛の展開とあまりにも残酷なラスト
シベーリの「孤独」がにじみ出ながらも、前半から中盤にかけて、特に大きな展開が無い『SNS殺人動画配信中』。
ですが、シベーリが麻薬の売人である、ジョニーシスを家に呼んでから、展開が大きく変わります。
ダイアナとの時間が、予想以上に退屈だったのか、シベーリはジョニーシスに連絡をし「父親は家にいない」など、余計なことを言ってしまいます。
そして、麻薬でハイになったジョニーシスに襲われたことで、シベーリは身を守る為に、ジョニーシスに刃物を突き刺します。
そこから、ジョニーシスの死体をダイアナと隠し、事実をスマホの映像に残そうとするダイアナとシベーリの間で確執が起き、謎の侵入者の登場、暴走したデイユの恐怖という、後半30分間で怒涛の展開が巻き起こります。
シベーリとダイアナが遊んでいた、前半から中盤の50分間とは大違い! そして、デイユの暴走の結果、シベーリはダイアナを失います。
ただ、ジョニーシス殺害もデイユに押し付けようとする辺り、シベーリもなかなかの神経をしています。ですが、この一部始終はアプリを通して配信されてしまいました。
「バカしか見ないアプリ」と呼んでいた、そのバカな人達に動画が拡散され、17歳にして人生が終了したシベーリ。
考えてみると、なかなか恐ろしい結末です。
まとめ
ブラジルのサイコサスペンス『SNS殺人動画配信中』は、独特の魅力がある作品でした。
あまりブラジルの作品は観たことが無いのですが、以前観賞した『死体語り』(2019)も、一風変わった映画でした。
国によって、それぞれの作風が違うのも、映画の面白い部分ですよね。
ただ、どこの国にもデイユみたいに、下手に関わると危険な人間っているんですね。
SNSは世界と繋がることが出来ますが、どこにでも刺激するとヤバいタイプはいるので、軽い気持ちや遊び半分で、人をバカにした配信をすると『SNS殺人動画配信中』のような、恐ろしい目にあってしまうかもしれません。