Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2022/03/22
Update

【松本穂香インタビュー】Netflix映画『桜のような僕の恋人』深川栄洋監督のキャスト陣の役の気持ちを引き出す “ささやき”の演出

  • Writer :
  • ほりきみき

Netflix映画『桜のような僕の恋人』は2022年3月24日(木)よりNetflixにて全世界独占配信。

カメラマンを目指す朝倉晴人と、人より早く年を取る「早老症」という難病を発症した恋人の有明美咲の運命を描いた、宇山佳佑による恋愛小説『桜のような僕の恋人』。

「涙が止まらない物語」としてTikTokで若者を中心に人気に火がつき、発行部数70万部突破のベストセラー小説となった同作を、中島健人主演で映画化したのがNetflix映画『桜のような僕の恋人』です。


photo by 田中舘裕介

今回、ヒロインの有明美咲を演じられた松本穂香さんにインタビュー。

深川栄洋監督独特の演出方法や役作りでの難しさ、主人公を演じた中島健人の印象について話をうかがいました。

楽しい思い出があるから、閉ざした姿が悲しく見える

──出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。

松本穂香(以下、松本):私はラブストーリーのヒロインを務めるのが初めてだったので、最初は“私でいいのかな”という不安な気持ちがありました。でもせっかくお声がけいただいたのですから、その期待に応えたいという思いにだんだんと変わっていきました。

美咲は後半になると病の影響で老いていきます。前半に思いっきり喜んだり笑ったりして、晴人くんとの思い出をたくさん残すことで、閉ざしてしまう美咲の姿もより悲しく見える。晴人くんとの時間を一瞬一瞬、どれだけ大切に過ごすかを意識して演じていました。

──体は老いていっても、その心は若いまま。そうした心と体の乖離を実際に演じられるのは難しかったのではないでしょうか。

松本:老いの“見た目”は特殊メイクで表現されています。横になってメイクをしていただき、起き上がったら90歳くらいの容姿になっていたので驚きました。早老症により体だけが老いていくのは、こういう感覚なんだろうなと美咲のつらさをリアルに感じました。

老いの“仕草”については実際のご高齢の女性の方の動きを参考にしながら、歩き方や杖のつき方を深川監督と相談して作っていきました。経験のないことだったので、正直難しいことが多かったのですが、体と心が一致しない感覚を頭に置きつつ演じました。

──一方で若い頃の美咲は、等身大で演じられたのでしょうか。

松本:監督がその都度、丁寧に演出をつけて導いてくださいました。そのおかげで「美咲はこういう人」と意識せずに演じられたかなと思います。

深川監督の「ささやき演出」が気持ちを引き出してくれた

──深川監督は役についての重要な演出を、それぞれの俳優の耳元へささやくように伝えられるとお聞きしました。

松本:深川監督独特の演出です。晴人くんの家に行った場面では帰り道の様子も撮影したのですが、そのときに「あなたは一匹狼です。自分の森に帰ると、どんどん自分を閉ざしていき、孤独になっていきます」とささやかれ、気持ちがすっかり美咲に入り込んで、わんわん泣いてしまいました。

監督によっては「ここでこう動いてほしい」と具体的に動きを伝えられる監督もいます。もちろん深川監督にも「こう動いてほしい」という構想はあるとは思いますが、その通りに俳優の体を動かすのではなく、そのときの登場人物の気持ちに俳優を連れていってくれるイメージです。私の中では、こういった演出をしてくださる監督は初めてでした。

過去の記憶を無理やり引っ張り出すのではなく、むしろ寄り添う感覚。深川監督が気持ちを純粋に引き出してくれて、それで後からちゃんと「よかった」と言ってくださるので、とてもうれしかったです。

──撮影に向けて松本さんが受け取られた台本は、ご自身が演じられた美咲が登場する場面以外は“空白”になっていたそうですね。

松本:スタッフさんが持っている台本には全ての場面が書かれているのですが、私たちの台本だけ特別仕様になっていて、私の台本には“美咲”、中島さんの台本には“晴人”と書いてありました。最初は空白だらけだと思って読んでいましたが、それはそれで面白かったです。

自分の知らないところで相手が何をし、何を考えていたのかはわからない。すごく狭い視野になってしまいましたが、やり難さは特になかったです。これはむしろリアルなんだと思いました。

「役を交換しての本読み」で気づいたこと


photo by 田中舘裕介

──ラブストーリーは初めてとのことでしたが、本作の演技の参考にされた作品などはありますか。

松本:今回、参考にした作品は特にありません。ラブストーリーは初めてでしたが、付き合っているところからではなく出会いから始まるので、徐々に関係性を作っていけたという部分はありがたかったです。

撮影に入る前の準備期間に、本読みを2回ほどやらせていただきました。そのときに中島さんとお互いの役を交換して本読みをしたのですが、それで、性格的に私は晴人の方が近く、中島さんは美咲の方が近いということがわかりました。

そんな本読みの後に、役を交換してみて思ったことや恋愛に対する姿勢を書いて、中島さんに渡したのですが、中島さんも同じものを書いて持ってきてくれたので、それをかなり参考にしました。

──ご自身のどのような部分が、晴人に近いと感じられたのでしょうか。

松本:ぱっと見が暗くて、人間的にあまり器用でないところですね。でも結構、大胆。「あんな風にしているけれど、それは言えちゃうんだ」と驚くことがある。ただ、そうした言動や行動に計算がない。無邪気で楽しい人です。

美咲はもっと、器用にいろんな人と話せるんです。そういうところが中島くんと重なる部分がありました。

レディファーストが自然な中島健人

──中島健人さんとは初めてのご共演となりましたが、どのような方だと感じられましたか。

松本:聞き上手というかコミュニケーション能力が高く、人の懐に入るのがお上手な方でした。好奇心が旺盛で、人に興味がある方なんだろうなと思いました。

初めて会ったのはビジュアル撮影のときで、桜が周りにあるところで寄り添うように撮っていたのですが、「最近は何をされているのですか?」などと積極的に話しかけてくださいました。

撮影中はキラキラを封印していたと中島さんご自身が各所で話されていますが、撮影の合間合間などはキラキラを放っていました。椅子を引いてくれたり、ドアを開けてくれたり、絶対にレディファーストなんです。

「本当に優しいね」と話したら、「えっ何が?」という風に本人はきょとんとしている。女性を大切にする行動が当たり前のように染みついているのです。すごい方だと改めて思いました。

この仕事が、誰かの人生にいい影響を与えられたら


photo by 田中舘裕介

──美咲は美容師であり、劇中では髪をカットする場面もありました。とても慣れた様子でハサミを扱っていらっしゃいましたが、かなり練習されたのでしょうか。

松本:プロの美容師の方に教えていただいて、練習用のウィッグで髪を切る練習をしました。そのウィッグをお借りして、自宅でもしました。現場では刃落としされたハサミで切るマネもしたのですが、やっぱり気を遣いました。

──美咲は劇中「美容師になったのは魔法が使えるから。私も誰かの髪に魔法をかけて、お客さんに自分ってかわいいなと思ってほしい」と語っています。松本さんは、ご自身のお仕事をどう捉えられているのでしょうか。

松本:映画やドラマは作り物の世界ではありますが、それがリアルより大きな力になることもある。私自身、映画を見ていて心を動かされることがたくさんありました。

この仕事を通じて、誰かの人生にいい影響を与えることがあったとしたら、それは魔法みたいに素晴らしいものだと思います。

一瞬一瞬を大切に生きてゆく


photo by 田中舘裕介

──できあがった映画をご覧になった際は、どのような感想を持たれましたか。

松本:撮影しているときに「この時間ってすごく素敵!」と感じていたのですが、その温度感がちゃんと画面に映っていました。感無量という感じです。

また台本で空白になっていた部分は完成した映画を観て初めて知ったので、「お兄ちゃんは晴人くんにこんなことを話していたんだ」「晴人くんが泣いてくれている」と美咲だったときに戻って、愛しい気持ちになりました。

──撮影を振り返って、現在の松本さんの思いを改めてお聞かせください。

松本:美咲を演じるにあたって、監督やメイクさんがしっかり寄り添い、味方でいてくれました。とても恵まれた環境で撮影させてもらえているんだなといつも実感していました。

監督を始めとしてスタッフの方々、キャストのみなさんには感謝しかありません。この映画は自分にとって、とても大切な作品となりました。

『桜のような僕の恋人』を撮ってから、もう1年が過ぎてしまいました。時間が過ぎるのは本当に早い。この役を演じて時間の尊さを改めて感じました。一瞬一瞬を大切に生きていかなくてはと思います。

インタビュー/ほりきみき
撮影/田中舘裕介

松本穂香プロフィール

1997年生まれ、大阪府出身。2015年、映画『風に立つライオン』で長編映画デビュー。2017年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」で一躍注目を浴びる。

2018年、テレビドラマ「この世界の片隅に」で応募者約3000人のオーディションを経て、主人公のすず役に抜擢。以降『おいしい家族』(2019)、『わたしは光をにぎっている』(2019)、『酔うと化け物になる父がつらい』(2020)、『君が世界のはじまり』(2020)、『みをつくし料理帖』(2020)と主演作が相次ぎ公開。若手実力派女優として魅力を高めている。

その他映画出演作に『ミュジコフィリア』(2021)、映画製作プロジェクト「DIVOC-12『ユメミの半生』」(2021)などがある。

Netflix映画『桜のような僕の恋人』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
宇山佳佑『桜のような僕の恋人』(集英社文庫刊)

【監督】
深川栄洋

【脚本】
吉田智子

【主題歌】
Mr.Children「永遠」(TOY’S FACTORY)

【出演】
中島健人、松本穂香、永山絢斗、桜井ユキ、柳俊太郎(柳は旧漢字が正式表記)、若月佑美、要潤、眞島秀和、及川光博

【作品概要】
原作は2017年に発行された宇山佳佑の『桜のような僕の恋人』。泣ける恋愛小説として話題となり、さらにTikTokで人気に火がつき発行部数70万部を突破したベストセラー小説です。

主人公の朝倉晴人を演じるのは原作ファンを公言しているSexy Zoneの中島健人。早老症に罹ってしまうヒロイン有明美咲はNHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017)で主人公の同僚・澄子役を演じて一躍注目を浴びた松本穂香が演じました。

ドクター・デスの遺産』(2020)などで知られる深川栄洋が監督を務めています。

Netflix映画『桜のような僕の恋人』のあらすじ

美容師の有明美咲(松本穂香)に恋をした朝倉晴人役(中島健人)は彼女に認めてもらいたい一心で、一度は諦めたカメラマンの夢を再び目指すことに。そんな晴人に美咲も惹かれ、やがて二人は恋人同士になります。

しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。美咲は、人の何十倍もの早さで年老いる難病を発症してしまったのです。

老いていく姿を晴人にだけは見せたくない。残酷な現実を前に美咲はある決断をしました。

何も知らない晴人は美咲の変化に戸惑います。




堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。

関連記事

インタビュー特集

【関口蒼インタビュー】『光る鯨』森田博之監督の祈りに突き動かされた”初主演作”となる映画との向き合い方

映画『光る鯨』は2023年12月8日(金)より池袋HUMAXシネマズにて公開! 行方不明になった大切な幼馴染の行方を追って、《異世界エレベーター》を通じてパラレルワールドへ足を踏み入れていく主人公の成 …

インタビュー特集

【出町光識インタビュー】インディーズ映画に映画配給《Cinemago》がこだわり続ける“1番の秘密”とは

映画配給会社《Cinemago》代表・出町光識さんにインタビューを敢行! 2023年6月3日(土)より下北沢トリウッド他で全国順次公開される洋画『宇宙の彼方より』。 また、配給と宣伝協力を務める6月1 …

インタビュー特集

【レイス・チェリッキ監督インタビュー】映画『湖上のリンゴ』トルコ伝統文化から描く“語り”の意味と恩師との約束

第32回東京国際映画祭・コンペティション部門上映作品『湖上のリンゴ』 1960年のトルコで実際に起きた干ばつを背景に、「アシュク」と呼ばれる伝統音楽の奏者を目指す少年の淡い恋、そして伝統文化と信仰の意 …

インタビュー特集

【瀬戸かほインタビュー】越川道夫映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』全力で挑んだ役者の新境地

映画『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』は2019年10月19日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開! 『アレノ』『海辺の生と死』『二十六夜待ち』と、男と女の不 …

インタビュー特集

【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた

映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー! 蒼井優主演の『彼女がその名を知らない鳥たち』や、役所広司主演の『孤狼の血』で知られる白石和彌監督が、俳優に …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学